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遺族が直面する法律問題

賃貸借問題

遺族が損害賠償義務を負う根拠

 そもそも、なぜ、遺族は、家族の自死によって、賃貸人に対して損害賠償義務を負うのでしょうか。

  賃借人は、賃貸借契約に基づいて、物件の引渡しを受けてからこれを返還するまでの間、善良な管理者の注意をもって使用収益すべき義務を負うと解釈されています。

 そして、家族の自死は、賃貸物件の価値を下げるので、この義務に違反したと解釈されているのです。

 しかし、このような解釈は、自死を他の死を区別していること、社会的な偏見を背景としていることなどの問題点をはらむものといえます。

家族が責任無能力の場合

 家族が自死の際に責任無能力であったことを立証できるならば、遺族も法的責任を負わないと考えられています。

 そして、責任能力とは、自己の行為によって発生した結果が違法なものとして法律上非難されるものであることを理解し、認識する精神能力であると解されています。

 もっとも、責任無能力の立証には医師の診断書など、ある程度客観性のある証拠が必要となります。

 また、家族が責任無能力者であった場合でも、例えば、そのことを遺族が認識しつつ、家族に一人暮らしをさせていたような場合は、別途、遺族が損害賠償義務を負うことも考えられます。

賃貸人から請求が来たら

賃貸人からの請求に対する対処法は、遺族の法的地位によって異なります。

◇遺族自身が賃借人で、家族が同居又は一人暮らしのケース

 遺族が賃借人の場合、自死した家族は遺族と同居又は一人暮らしをしている場合が多いようです。

 例えば、遺族が賃借人として賃貸借契約を締結して、自死した家族が通学などのために一人暮らしをしているようなケースです。

 この場合、自死した家族は、賃借人である遺族の利用補助者(又は転借人)と解釈されています。

 その結果、家族の自死による責任は、賃借人である遺族の責任と同視され、遺族は賃貸人に対して法的責任を負います。

◇遺族が連帯保証人(保証人)のケース

 遺族が連帯保証人(保証人)の場合、遺族は、保証契約に基づき賃貸人に対して直接法的責任を負います。

◇遺族が賃借人でも連帯保証人(保証人)でもなく、かつ、法定相続人である場合

 遺族が賃借人でも連帯保証人(保証人)でもなく、かつ、法定相続人である場合、自死した家族にプラスの財産が無ければ、相続放棄を行うことで、損害賠償義務を免れることができます。

 自死した家族にプラスの財産がある場合や、過労自死など第三者に対して損害賠償請求権を有している可能性がある場合は、難しい法的判断が必要になる場合もあります。

 出来るだけ早く、熟慮期間中に家庭裁判所に対して熟慮期間の伸長の手続きを行うか、弁護士に相談して下さい。

直ぐには支払わない

 賃貸人からの請求が来た場合、直ぐにお金を支払わず、必ず、賃貸人から請求の中身と根拠資料を書面で提出させて下さい。

 賃貸人が請求できる損害賠償の中身は、以下のようなものが考えられます。

◇自死によって破損した箇所の修理代などの原状回復費用

 修理代として支払わなければならない金銭は、自死によって破損した部分に原則として限定されます。

 悪質な場合は、自死によって破損した部分がないのに、フローリング、壁紙、バスタブなど、関係のない部分も改装し、その費用を遺族に請求する場合もあります。

 しかし、このように、自死によって生じた破損と無関係な修理代は支払いの必要性がありません。

◇将来賃料

 将来賃料に関しては、裁判においても明確な基準があるとはいえません。

 賃貸人は、一般的に数年分の将来賃料を請求する場合が多いようですが、なぜ数年分の将来賃料を請求するのか、その具体的な根拠を示すよう求めて下さい。

 物件の築年数、賃料、空室率、自死の状況などを考慮して、賃貸人の示す根拠が真に妥当なものと言えるのか検討する必要があります。

 また、将来の賃料については、新たな賃借人を見つける時期が早ければ早いほど、損害額が減少します。

 賃貸人が、長期間に物件を空室のまま放置したり、低額な賃料で新たな賃借人と契約した場合は、将来賃料の減額を求めるべきです。

告知義務について

 家族が自死したことを賃貸人に対して知られていない場合に、自死の事実を賃貸人に対して告知する必要はあるのでしょうか。

 このような遺族の告知義務は、法律上明文化されている訳ではありません。

 しかし、後に自死の事実が判明した場合、賃貸人は、遺族に対し、損害賠償請求を行ってくる可能性があります。

 また、賃貸人は、新しい賃借人に対して瑕疵担保責任を負いますので、新しい賃借人が契約を解除すると、それに伴った損害の賠償を請求される可能性があります。

 したがって、自死の事実を安易に隠ぺいすることについては慎重であるべきです。