相続人が行方不明の場合の遺産の分割

 相続人の一人が行方不明で困っている、とご相談を受けることがあります。警察庁によると、令和6年の行方不明者数(警察に行方不明者届がだされた者の延べ人数)は、8万2563人もいます。

 ご親族が亡くなり、法律で決められた相続人が複数いて遺言がなかった場合、遺産分割をしますが、遺産分割は、法定相続人の全員の話し合いによって行います。法定相続人の内のどなたかが行方不明の場合、どうしたらいいでしょうか。

1 まずは、戸籍の附票をたどって、行方不明の方の今の住所を調べます。戸籍の附票は、新しく戸籍を作った時以降の住民票の移り変わりを記録したもので、本籍地の市区町村で取ることができます。

住民票上の住所に住んでいればよいのですが、住民票上の住所にいなくて行方不明のことがあります。住民票上の住所に実際に住んでいないと、市区町村長によって、住民票が職権で消除されることもあります。

2 次に、不在者財産管理人(民法25条1項)を選任するという方法があります。裁判所に申立をして選任してもらうと、不在者財産管理人が、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の許可をもらった上で、不在者に代わって遺産分割をすることができます。

 ただ、不在者に十分な財産がない場合は、家庭裁判所から申立時に予納金を納めるよう求められ、数十万円かかります。また、申立資料の準備、選任には時間がかかります。

3 行方不明の方の最後の住所を住所地とした上で、家庭裁判所に遺産分割審判の申し立てをし、公示送達をしてもらう、という方法もあります。

 公示送達とは、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に提示する方法で行われます(民事訴訟法111条1項本文)。裁判所に行くと、裁判所の入口付近にガラス張りの掲示ケースがありますが、その中の掲示板に掲示されています。

 提示を始めた日から2週間が経過すると、相手に対して送達したものとみなす公示送達の効力が生じます(民事訴訟法112条1項本文)。

 公示送達で送達した場合の審判は、行方不明の相続人の法定相続分は、行方不明の相続人に遺す審判結果となります。

4 行方不明の相続人について、失踪宣告(民法30条)を家庭裁判所に申し立てるという手段も考えられます。震災など、死亡原因となりえる危難に遭った人は、危難が去ってから1年間経過しても生死が明らかでない場合(2項)、特別失踪として危難が去った時(民法31条)、生死不明が7年間明らかでない場合(1項)は、7年間経過した時(民法31条)、死亡したものとみなされます。行方不明の相続人は死亡したものとみなされるので、法定相続分を遺しておく必要はありません。

 ただ、実際上失踪宣告が認められるのは、亡くなったことをある程度証拠で示す必要があるようです。

 このように、法定相続人の内のどなたかが行方不明の場合も遺産分割をする方法はあります。迷ったらご相談ください。