子どもの自死について公正・公平な調査を進めるために

1 はじめに

 子どもの自死が発生した場合には、必ず「背景調査」を行われなければなりません(詳しくは、「子どもの自死(自殺)」)。
「背景調査」に関しては、文部科学省から「子どもの自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版)以下「指針」といいます。」(2014年7月改訂)が公表されており、この指針に基づいて実施されるべきです。

 また、いじめが背景に疑われる場合には、いじめ防止対策推進法の「重大事態」に該当するものとしていじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(2024年8月改訂)以下「ガイドライン」といいます。)に基づいた調査が実施されるべきです。
詳細調査は、学校又は学校の設置者(公立学校の場合は自治体の教育委員会、私立の場合は法人)の主導で行うことになります。

 しかし、学校や学校の設置者といえども、その責任を追及される恐れがあるため、必ずしも公平・公正に調査が行われているとは限らず、実際には、この指針やガイドラインに即した調査がなされていない相談が多く寄せられています。

 そこで、以下では、公正・公平な調査を進めるために、ご遺族に知っておいていただきたいことを解説します。

2 「基本調査」「詳細調査」の実施を要望する

 子どもの自死が発生した場合には、全件、数日以内に「基本調査」を行わなければなりません。この「基本調査」は、迅速性が要求されることから、学校が調査を実施していくことが想定されています。

 また基本調査を実施後に、学校生活に関する要素が背景に疑われる場合や遺族の要望がある場合などには「詳細調査」に移行する必要があります。

 ところが、この「基本調査」すら学校で実施されたかどうか分からない、詳細調査に移行してくれない、という相談も寄せられています。

 そこで、子どもの自死が発生した場合に、遺族としては、速やかに学校に対して基本調査が実施されたのか確認を求め、実施されていないのであれば「基本調査」を行うように要望しましょう。また、「詳細調査」も遺族の要望があれば実施する必要がありますので、「詳細調査」を希望する場合には、明確に学校や学校の設置者である教育委員会に求めましょう。

3 「第三者」による詳細調査を要望する

 「基本調査」は学校が主体となることが想定されています。
これに対して、「詳細調査」は、弁護士や、精神科医、学識経験者、心理や福祉の専門家等の専門的知識を有する者で、「当該いじめ事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)」による調査組織を構成し、調査を進めていく必要があります。

 また、指針にも「自殺が起こってしまった後、学校は様々な対応が必要となることから、特に公立学校における調査の主体は、特別の事情がない限り、学校ではなく、学校の設置者とする」ということが記載されています。

 いじめ自死事案の調査を進めるにあたって、基本的に、学校関係者は、実際にいじめを認識していたのか、学校生活において子どもに様子の変化はなかったのかなどを「調査される側」であって、「調査を行う側」ではありません。

 にもかかわらず、「詳細調査」が学校関係者のみで行われていたり、あるいは学校関係者が中心となって進められているような場合には、いじめの事実や当該児童がいじめを悩んでいた事実などの学校に都合の悪い事実を十分に調査せずに、公正な調査がされない恐れがあります。

 このような調査が進められている場合には、当弁護団までご相談をお寄せください。

4 調査してもらいたい内容を要望する

 第三者の調査委員が選任されれば、本格的に調査が開始されます。しかし、第三者の調査委員は、亡くなった子どものことも当該事案のことも知らない状態で調査を開始することになります。調査委員の中で、必要な情報の収集を進めていきますが、遺族しか知らない情報もあるため、そのような情報は積極的に提供していくことが必要です。

 また、遺族から調査してもらいたい内容、聴き取りをしてもらいたい生徒、先生がいる場合には積極的に申し出ていくことが必要となります。

5 調査計画や調査の進捗を確認する

 当弁護団には、調査委員会が立ち上がり、調査が開始されたものの、その後長期間、報告もなく、どうなっているのか分からない、といった相談も寄せられています。

 「詳細調査」は、多くの情報を整理し、多くの関係者に聴き取りを行うため、調査報告書が完成するまで、非常に時間がかかります。

 しかし、子どもの同級生が卒業を間近に控えていたり、受験生となり聴き取りが難しくなるなどの事情がある場合には、調査の優先順位を検討し、計画的に子どもに対して聴き取りを実施していくことが重要となっていきます。

 仮に同級生が卒業してしまうと、時間の経過とともに記憶が薄れていくだけでなく、聞き取り調査のために連絡を取ることも困難となります。また、あくまで聴き取り調査は任意なので、新しい生活環境になってトラブルに巻き込まれたくないという思いから調査に協力してもらうことが困難ということも少なくありません。

 したがって、可能な限り迅速に計画的に調査を進めていくことが重要となります。

 また、調査委員会が定期的に開催されているため、調査委員会で何が行われたのか、どのようなことが検討されているのか、という進捗確認を行っていくことも重要です。指針にも「調査期間が長期に及ぶ場合には、・・保護者にも中間報告が必要である」ということが記載されていますので、進捗が気になる場合には報告を求めるようにしましょう。

6 終わりに

 子どもを突然失ったご遺族は、大きなショック、悲しみ、動揺などのために、どうすればよいのか分からず、全てを学校や教育委員会に委ねてしまうことも少なくありません。

 しかし、残念ながら、現状では必ずしも背景調査は、指針やガイドラインに基づいて実施されていないものもあります。

 ここでの調査は、その後の災害共済給付の請求手続きや損害賠償請求の際にも重要な資料となりますので、適切な調査を進めていくことが必要となります。

 子どもの自死が発生してどうしたらよいか分からない、調査がきちんと進んでいるのか確認したいなど少しでも気になることがあれば、当弁護団にお気軽にご相談をお寄せください。

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