賃貸物件内での自殺と心理的瑕疵の変遷について

 賃貸物件内で自殺が行われたとき、遺族が、賃貸人から、損害賠償請求を受けることがあります。

 この損害賠償請求は、物件内部での自殺が、心理的な嫌悪感を生じさせる行為であるとして、賃借人の契約違反であるとか不法行為であるという理由でなされるものです。

 一昔前までは、大家さんからかなり高額な請求を受けるというケースがよくありました。たとえば、自殺が行われた部屋のあるアパート全体の価格が下がったとして、アパートまるごとの減価分の損害賠償を請求するなどです。高額な請求になりますので、ご遺族にとっては、相当な心理的なストレスになっていました。

 賃貸物件内での自殺については裁判例が積み重なり、実務的な取り扱いの方向性も固まってきています。大家が当該部屋を1年間は賃貸できず、その後2年は賃料の半額でしか賃貸できないものとして、賃料相当額の2年程度の損害賠償を認めるというものです。物件の価値自体が下がったという損害は特別な事情がない限り損害として認められません。
大家からむちゃくちゃな請求がきたという相談も減少傾向にあると感じます。

 むちゃくちゃな請求がされているという相談が減少していること自体は良いことだと思いますが、実務的な取り扱いに疑問もないわけではありません。

 色々ありますが本稿では一点、賃貸物件内での自殺が心理的瑕疵を生じさせるということが本当に不動の事実なのか、という根本的な疑問です。

 この点、国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」において触れられていますが、心理的瑕疵に該当するかどうかは「時代や社会の変化に伴い変遷する可能性もある」という大前提は大事だと思います。

 今のところ当たり前のように語られている自殺の心理的瑕疵ですが、諸外国では決して当たり前ではありません。欧米では、賃貸物件内で過去に自殺があったか否かを気にしない傾向が強く、告知義務すらないようなことも珍しくないようです。
これに対して、韓国、中国など東アジア圏では、日本と同様に物件内部での自殺を心理的瑕疵と捉える傾向が強いようです。心理的瑕疵というのが、決して固定的な概念ではなく、国や文化によってずいぶんと捉え方に差があるということが分かります。

 日本において、自殺というものに対する偏見、忌避感は、一昔前に比べると減少傾向であるようにも感じるのですが、いかがでしょうか。個人的には、少子高齢化・多死社会の到来によって、賃貸物件内で死というものが珍しくない事態になっていることが影響しているように感じます。この傾向は今後ますます強くなることでしょう。 

 賃貸物件での自殺に関する相談自体が減少傾向であるものの、なくなっているわけではありません。時代や社会の変化に伴って「心理的瑕疵」の概念が変容することを頭に入れて、ご遺族の立場から言えることをこれからも考えていきたいと思います。

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