「手待ち時間」とは?

 労働者が自ら命を絶ってしまう背景には、過酷な長時間労働の実態があることが少なくありません。亡くなられた方が実際にどれだけの時間働かされていたのかを正確に把握することが重要です。

 そこで今回は、会社からは休憩時間と主張される、「手待ち時間」について解説します。

1 手待ち時間とは何か

 手待ち時間とは、「具体的な作業はしていないものの、即座に業務に対応できるように待機している時間」を指します。具体的には以下のようなケースです。

  • トラック運転手などの「荷待ち時間」(荷物の積み下ろしを待っている時間)
  • 昼休憩中であっても、「電話が鳴ればすぐに対応するよう」指示されている時間

 こうした時間について、会社側はしばしば「実際に作業をしていないのだから、休憩時間と同じだ」と主張します。

 しかし、手待ち時間は、「その場から自由に離れられない」「呼ばれたらすぐ作業を始めなければならない」という拘束を受けています。会社の指揮命令下に置かれている状態であるので、作業をしていなくても「労働時間」にあたるのです。

2 労働時間について

 しかし、労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。その時間に労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていない、休憩時間と評価できます。

 したがって、実作業をしていない時間であっても、労働から解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間にあたります(最高裁平成14年2月28日判決・民集56巻2号361頁参照)。

 手待ち時間は、「その場から自由に離れられない」「呼ばれたらすぐ作業を始めなければならない」という拘束を受けています。会社の指揮命令下に置かれている状態であれば、作業をしていなくても「労働時間」にあたります。

3 長時間労働の実態を把握するためのポイント

 会社が「休憩時間」として把握されていなかった待機時間を「労働時間」として再評価できるかどうかが、長時間労働の実態を把握する上での重要なポイントになります。その業種によっては、手待ち時間が労働時間として認められるか否かで、1か月の労働時間が数十時間も変わるケースがあります。

 ただし、タイムカードなどの記録上は「休憩」として処理されていることが多いため、それを労働時間であったと証明するためのハードルがあります。

 そこで重要になるのが、客観的証拠(パソコンのログやメール履歴など)や同じ職場で働いていた「同僚の証言」です。「荷待ち時間はトラックから離れられず実質的に休めなかった」というの現場の声が鍵となります。

 職場の同僚も、その時間をずっと休憩時間として扱われてきたため、「作業をしていないから休憩時間だ」と思い込んでいることが少なくありません。そのため、就労の実態として「どのような指示が来て、何をしなければならなかったのか」という客観的な事実を、具体的に明らかにしていく必要があります。

4 最後に

 手元に残っている記録や生前のLINEのやり取り、あるいはご家族がご本人から聞いていた何気ない仕事の愚痴の中に、労働実態を解明する糸口が隠されていることもあります。そのような手がかりから同僚の方に話を聞き、実際の働き方を明らかにしていける可能性もあります。

 「あの待機時間は、実は休めていなかったのではないか」。そうした疑問が少しでもありましたら、まずは私たち弁護団にご相談ください。

最初に何から考えたらいいのか

「どうしたらいいの?」という疑問に対する回答が載せられていますが、ここでは、亡くなられた直後の大まかな流れを説明いたします。

ステップ0:ご自身の心と体を守る

手続きの話の前に、ご自身の心と体の健康が何よりも一番大切なことです。

  • 一人で抱え込まないでください。
     信頼できる親族や友人、あるいは専門の支援団体に、今のお気持ちを話してください。言葉にするだけで、少し楽になるかもしれません。
  • ご自身を責めすぎないでください。
     「あの時こうしていれば」という後悔の念に苛まれるかもしれません。
  • 無理せず、休息をとってください。
    しんどくなったときは、無理に動こうとせず、少しでも心と体を休ませることを優先してください。

ステップ1:直後の手続き

警察の検視・事情聴取

 自死の場合、警察がご遺体を引き取って、検視が行われます。また、警察から自死された方の生活状況などを聞かれる場合があります辛い時間だとは思いますが、聞かれた事実にのみ、落ち着いて答えるように心がけましょう。

 警察から鉄道会社にご遺族の連絡先を伝えてよいかと確認を求められることがあります。鉄道会社から損害賠償請求を受ける可能性があり、ご遺族の情報を鉄道会社に伝えることは控えた方がよいでしょう。少なくともその場で決断せず、弁護士にご相談ください。

死体検案書(死亡診断書)の受け取り

 警察から死体検案書を受け取ります。今後のあらゆる手続きで必要になるため、5通ほどコピーを取っておきましょう。

死亡届の届け出

 死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡者の死亡地、死亡者の本籍地または届出人の住所地の市区町村役場に提出します。このとき、死体検案書が必要です。死亡届を届出することにより「火葬許可証」を受領できます。

ステップ2:プラスの財産とマイナスの財産を把握する

プラスの財産:預金通帳、不動産の権利証、有価証券、生命保険証書などを探します。

 自死された方のスマホが開けられる場合には、メールなどをチェックして、インターネット口座やデジタル資産(暗号通貨)などがないかお調べください。

 現在所有している財産だけでなく、過労や職場のパワーハラスメントにより精神疾患を発病してしまった可能性、いじめの加害者に対する損害賠償請求の可能性などこれから請求する権利についても考慮する必要があります。

マイナスの財産:消費者金融のカードや契約書、住宅ローン残高の通知書、そして「損害賠償請求される可能性」がないかを調べます。

 自宅に届いている請求書などから債務がわかることがあります。信用情報機関であるCICやJICCに自死された方の信用情報の開示を求めることで消費者金融での借り入れやクレジットカードの滞納などが判明する場合もあります。

 住宅ローンについては、団体信用生命保険(団信)に加入していれば、返済が免除される可能性がありますので確認しましょう。

損害賠償請求を受ける可能性について

  • 鉄道自死の場合
    鉄道会社から、損害賠償を請求される可能性があります。請求内容は、振替輸送費、人件費、車両の修理費などであり、高額になる場合もあります。自死された方が精神的な理由で責任能力がなかったと判断され、損害賠償義務を負わない場合やご遺族の状況なども考慮された結果、減額できる場合もあります。そのため、請求書が届いても、すぐに支払いに応じず、弁護士に相談してください。
  • 賃貸物件で亡くなられた場合
    大家さんや管理会社から、原状回復の費用と「次の借り手が見つからない期間の家賃(逸失利益)を請求される可能性があります。その内容によっては、ご遺族が負担すべきでない費用も含まれている可能性があります。大家さん側の請求があってもすぐに支払いに応じず、弁護士に相談してください。

ステップ3:プラスとマイナス、どちらが多いか

①:(損害賠償請求できる可能性を考慮しても)明らかにマイナスの財産が多い場合

 相続放棄を検討します。相続放棄をすれば、プラスの財産もマイナスの財産も相続しません。被相続人の死亡(相続開始)を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。

 ここで注意すべき点は、自死された方の財産を一切処分しないことです。相続放棄ができなくなる可能性のある行為(例)故人の預貯金を引き出して使う。故人の借金や損害賠償金を、故人の財産から支払う。故人の車や家などを売却したり、自分の名義に変更したりする。ただし、葬儀費用として使った場合には単純承認にはならず、相続放棄できますので領収書は必ず取っておきましょう。

 これらの行為をしてしまったけれども、相続放棄したいという場合にも、ご事情を弁護士に相談してください。

②:3ヶ月で判断できない場合

 ご遺族が死亡した事実を知ってから3ヶ月で相続放棄の判断ができないことは少なくありません。そのような場合には、「相続の熟慮期間の伸長」という手続きがあります。これは、3ヶ月の期限が来る前に家庭裁判所に申立てをすることで、相続をどうするか考える期間を延ばしてもらう制度です。

 財産状況を整理してから、相続するか放棄するかを判断しましょう。

③:(損害賠償請求される可能性を考慮しても)明らかにプラスの財産が多い場合

 単純承認を検討します。何か特別な手続きは必要なく、遺産分割協議など相続手続き行います。

まとめ

 上記の判断をご遺族だけで行うのは、難しいと思います。特に損害賠償請求の妥当性の判断や、相続放棄すべきか、あるいは期間伸長の申立てをするべきかの決断は、法的知識でのアドバイスが必要です。

 あなた一人ですべてを背負う必要はありません。迷われたらぜひご相談ください。

団体信用生命保険のおおまかな説明

当弁護団において、生命保険の問題については、HPに記載がありますが、団体信用生命保険について特化して説明いたします。

1 団信とは

団体信用生命保険(以下「団信」といいます。)とは、生命保険の一種で、住宅ローンの契約者が死亡または所定の高度障害状態になった場合に、保険金によってローンの残りの債務が返済されるものです。

団信は、住宅ローンの融資の条件にされている場合が多く、住宅ローンを借り入れる際に、一緒に契約することが多いです。

団信の保険料は、住宅ローンの金融機関が負担しますが、その保険料相当額を含む形で金利を設定している場合が多いです。

2 団信の免責期間

団信は、規約に保障の開始日から1年以内に自死された場合には、残債が弁済されないと定められている契約が存在します。

(例)

住宅金融支援機構の団信

フラット35の団信

生命保険は、保障の開始日から3年以内に自死された場合には、保険給付を行わないとする自殺免責特約が定められていることが多いです。

団信も生命保険であるにもかかわらず、自殺免責特約の免責期間が短く設定されている契約があるのは、生命保険に比べて、団信の場合には、自分の抱えた債務を相殺する目的で団信に加入する行動はとられにくいことが理由かと考えられます。

ですので、団信の場合には、免責期間が1年と定められている場合がありますので、団信の規約をご確認ください。

3 告知義務

団信においても、一般的な生命保険と同様、持病や既往歴など健康状態に関する告知を行う義務があります。もし、告知した内容と事実が異なる場合には、団信の契約が解除され、残りの債務が返済されない場合がございます。

告知義務違反による解除権は、保険会社等が告知義務違反を知った時から1ヶ月又は保険契約を締結した時から5年を経過したときには、消滅します(保険法55条4項)。

住宅ローンの契約者が告知した内容と事実が異なる場合にも、上記期間が経過した場合には、団信によって残りの債務が返済されることもあります。

4 免責期間内の自死

団信の契約をして1年も経たず自死された場合には、免責期間内の自死であるため、団信がおりないと思われるかと思います。

しかし、免責期間内の自死であっても、自由な意思決定能力を喪失ないし著しく減弱させた状態で自死に及んだ場合には、保険会社等は免責されず、団信などの生命保険に基づく保険給付がなされます。

 以上のように、自死遺族の方で、団信で残債が支払われないかもしれないとお悩みの方は、当弁護団にご相談ください。