弁護団結成から約5年が経過して思うこと

 神奈川で弁護士をしている小野と申します。

 自死遺族支援弁護団が結成されて約5年が経ちます。当初、電話相談会は年に数回のみで、それ以外にはメールでご相談をいただくという形態でした。

弁護団結成当初は、賃貸物件の中での自死(以下では「賃貸事案」といいます)についてのご相談が非常に多かったように思います。最初の数年間は、私たち弁護団では、新聞記事に意見を出したり、多くの賃貸事案に関して、弁護士が複数で連携して、賃貸人や不動産会社と交渉したり裁判を行ったりしていました。

 一方で、数多く寄せられる賃貸事案のご相談ほどではありませんでしたが、当初から、過重な労働やパワーハラスメントなどが原因で自死に追い込まれてしまった方のご遺族からのご相談(以下では「労災事案」といいます)もありました。労災事案は賃貸事案と比較すると、交渉や裁判に時間がかかる場合が多いのですが、弁護団結成から約5年が経過して、ようやく、故人の長時間労働が認められて労災認定がおりたり、会社の安全配慮義務違反が認められて裁判で勝訴を勝ち取ったり、という事案が増えてきました。

 結成から約2年後の平成24年9月、電話相談を年に数回だけの企画ではなく、常設ホットライン化することができ、全国から更に多くのご相談をいただけるようになりました。弁護団結成当初に比べると、不動産業界の理解が進んだのか、賃貸事案のご相談は減少しましたが、労災事案のご相談は序々に増加している印象です。

 厚生労働省が発表している「過労死等の労災補償状況」を見ても、脳・心臓疾患に関する事案は労災請求件数、労災認定件数ともに数年連続で減少している一方、精神障害に関する事案は、平成26年度は労災請求件数は1456件、労災認定件数は497件(うち自死は99件)で、過去最多となったと報告されています。

 ホットライン以外の、普段事務所でお受けするご相談でも、お仕事のご相談をされる方は多くの方が経済面、体力面だけでなく、精神面でも非常にお辛いんだなという印象を受けることが多いです。非正規化が進み、一度職を失ったら正社員として就職するためには非常に高いハードルがあったり、成果主義に名を借りて会社が労働者に多くの責任の押しつけたりと、労働環境は間違いなく悪化しているように思います。

 遺族の方は、故人がどのような働き方をしていたかよくはわからないから何もできないと思っていらっしゃるかもしれません。でも、もしかすると仕事が原因で自死してしまったのではないかと悩まれてはいませんか。

 仮に、労災申請や会社を訴えることができなくても、私たちは、なぜ、故人が自死に追い込まれたのか、その事情を少しは解明できるかもしれません。「もしかしたら」そんな思いがあるのであれば、ぜひ、ご相談頂ければ幸いです。