東京の八王子合同法律事務所に所属しております。弁護士 の和泉です。自死遺族支援弁護団では、関東地域の取りまと め役として活動してます。
自殺対策と関わるようになってから7年ほど経ちます。弁護士になる以前から、自殺対策の領域で 活動していました。行政とも民間ともお付き合いさせていただき、行政、医療、社会運動、法律など様々な切り口から自殺対策を見てきまし た。過労自殺などの労働問題や社会保障領域を専門としつつ、自殺についてはあらゆる法律問題を扱っています。
先のコラムでは主として法律面からの解説がなされていましたので、ここでは、精神面や人間関係 等の面から遺族支援について述べたいと思います。
遺族が抱える精神面・人間関係面でのトラブルは、大別して5つほどに分類することができるで しょう。以下、それぞれ具体的に説明します。
1 体調不良
遺族は精神的にコンディションを崩すことが少なくありません。とくに亡くなった直後は、 一日中起き上がることができない、笑うこと自体に罪悪感を感じる、ちょっとしたきっかけで涙が止まらなくなるといった状態が続く ことがあります。精神的な落ち込みが激しい場合には精神科への一時的な入院や通院が有効な場合も少なくありません。
2 親族関係
例えば、お子さんを亡くされた家庭では、死 をどのような形で受容するかという点を巡って、家族間に亀裂が生じることがあります。また、従来からあった家族間の感情的な対立が、 死をきっかけにエスカレートすることも少なくありません。
3 近隣住民等との人間関係
自殺は家族の恥であるという考え方がまだま だ社会の中に根強いため、死因や死亡の事実を秘密にする例が多数見受けられます。自死の事実を近隣住 民に話せない中で、ご近所付き合いが難しくなったり、買い物に出かけることができないといった声は数多く聞くことがあります。また、 実際に子育ての失敗や亡くなった方の性格など、根拠のない偏見にもとづく倫理的非難を遺族が受けることもあります。さらに、最近は少 なくなりましたが、宗教施設での不利益取り扱いなどを受けることもかつてはありました。
4 相談機関の不適切対応
遺族が行政や専門家に相談に行っても、それら の社会的資源が遺族の抱えるトラブルについて予備知識を欠くため、十分なサービスを提供できない例が少なくありません。法律相談をし たかったのにカウンセリング等心のケアしか提供できない、または逆に、心の相談をしたいのに法律面だけのアドバイスしか受けられな かった、といった話は相談者の方から多数聞くところです。
5 絶望
どれだけ遺族に対する精神的・法的支援が 充実しても、残念ながら失われた命が戻るわけではありません。その絶望感から、遺族は様々な問題解決について消極的になり、先送りし 続けた結果、事態がさらに悪化してしまうということがあります。近しい人を亡くした遺族にとっては大変苦しいことですが、現実問題と して、それでも生きなければならない現実があることも事実です。
遺族が直面するこれらのトラブルが、遺族 が法律家に相談に行くこと自体に対する障壁となり、問題解決をよりいっそう困難にしているといえるでしょう。法律問題だけに光をあて るのではなく、これらのトラブルに配慮しながら、ときには民間、行政、医療など、他の相談機関と連携しつつ問題解決を図ることができ る点が、私たち弁護団の特徴です。
法律的な観点から、遺族が負う必要のない 負担を少しでも多く取り除くことこそ、私たちの役割であると考えています。