会社の総務部長の地位にあった故人が長時間労働により脳内出血を発症したため後遺症が残ったところ、会社はリハビリ中の故人に対して降格と退職勧奨を行ったためうつ病を発病して自死した事案において、労災認定を受け、損害賠償請求訴訟において横浜地裁で勝訴判決を受けた事例(横浜地裁平成26年9月25日判決)

法的手続の内容

 本件は過労による脳内出血と過労自殺が重なった事案でした。労災となるためにはまず過労死の要件を満たす必要がありましたので、証拠保全を実施して職場にあるタイムカードやパソコンのログを入手しました。もっとも、故人は総務部長として社外での接待やセミナーなどに参加していました。そこで、2回目の証拠保全を実施して、経費関係の領収書などを入手し、社外でどのような仕事をしていたのか明らかにしました。

 労災は、脳内出血の業務起因性を肯定した上で、退職勧奨の心理的負荷も考慮して、自死が労災であると認定しました。

 民事訴訟は会社だけではなく取締役も被告としました。民事訴訟の中でもまず労働時間が主な争点となりました。社外での活動だけではなく、この会社では朝の掃除の時間があったため掃除の時間が労働時間に該当するかも争点となりました。判決では、掃除の時間の一部、社外活動のうち選挙応援の時間やセミナーの時間を労働時間と認定し、業務と脳内出血との相当因果関係を肯定した上で、降格や退職勧奨の心理的負荷も考慮して、自死との相当因果関係も肯定し、会社と取締役に対する責任を肯定しました。

 また、ご自宅で亡くなったため、ご自宅を取り壊して更地にした上で、買主に告知した上で売却しました。

法的手続を終えて

病気や怪我をすると今までどおりに働けなくなることがあります。そして、このような病気やケガが業務によって発生した場合、解雇や自然退職は認められませんし、給料を支払ってもらうことができます。もし、会社にこのような基本的な法的知識があれば、故人は追い詰められなかったでしょうし、障害に応じた働き方ができていたかも知れません。
昨今、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が提唱されていますが、どのような障害を負っても、障害に応じた働き方ができる社会になって欲しいと願うばかりです。

自死遺族が直面する
様々な法律問題について、
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