食品メーカーの営業マンが長時間労働と連続勤務に従事した結果、うつ病を発病して自死した事案において、多重債務が存在したものの、労災認定を得た事例

法的手続の内容

 ご遺族からの最初の相談は「多重債務はあるのですが、仕事も大変だったので労災にならないでしょうか。いろいろ弁護士に相談しましたが、どの弁護士も難しいと言うのです。」というものでした。ある弁護士会の会館でお会いしたのですが、ご遺族は名刺の束を持っていました。それらの名刺は全て依頼を断られた弁護士の名刺でした。

 ご遺族のお話をお伺いしたところ、ご自宅に持ち帰り残業の資料があるとのことでした。そこでご自宅を訪問して故人が残した資料を全てコピーして分析しました。その結果、不十分ですが労働時間、勤務日数、ノルマなどが明らかとなりました。さらに詳細な資料を得るため、次に会社に対して証拠保全を実施しましたが、有益な資料を得ることができませんでした。そのため、元同僚から仕事内容について聴き取りを行いました。

 心療内科や精神科への通院歴もなかったことから、ご遺族や元同僚から様子の変化について聴き取りを行いました。

 これらの事情を踏まえて労災請求したところ、労基署は精神障害の発病を否定するのみならず、月100時間以上の時間外労働を認定しながら過重性も否定するという判断を行い、不支給決定を下しました。

 そこで審査請求を行ったところ、審査官はご遺族が見ていた様子の変化や自死直前に失踪していたことを踏まえて何らかの精神障害を発病していると認定し、さらに過重性についても営業領域の拡大による業務量の増加と長時間労働を認定し、労災であると判断しました。

法的手続を終えて

労災の経験がない弁護士は、多重債務など業務外の心理的負荷があると労災は難しいと考えがちです。しかし、業務外の心理的負荷によって労災が否定されるためには、例えば仕事と関係なく交通事故で重体となった上に家族が死亡するなど強い心理的負荷が重なった場合などに限定されています。
弁護士に断られるのは心理的にしんどいことですし、名刺が束になるまで断られるしんどさは想像できません。労災を諦めずに当職を探してくださったご遺族の頑張りを心から尊敬せざるを得ません。

自死遺族が直面する
様々な法律問題について、
下記でさらに詳しい解説をしています。