27歳の後期研修医が長時間労働、連続勤務、配置転換、及び患者やその家族からのクレームを受けたこと等によって強い心理的負荷を受けた結果、適応障害を発病して過労自殺(自死)した事案において、労災の認定を受け、病院に対する損害賠償請求も訴訟に至ることなく和解で解決した事例

法的手続の内容

 故人の後期研修医は非常に優秀な研修医でした。難しい病状の患者に対しても決して諦めることなく病院に泊まり込んで治療を行うなど、強い情熱を持って治療を行っていました。そのような研修医であったことから、病院の先輩の医師、後輩の研修医、患者からも信頼をされていました。

 もっとも、長時間労働、連続勤務、配置転換、せん妄状態となった患者やその家族からのクレームを受けることで適応障害を発病して過労自殺(自死)に至りました。

 労働時間は病院から提出を受けた出勤簿や電子カルテのログから計算しました。労働時間における最大の論点は、研修医の自己研鑽と労働時間をどのように区別するのか、という点にありました。 通達などを踏まえ、研修医の業務の労働時間該当性は、医療機関の機能、キャリアパスや養成課程、勤務実態、診療科の特性等を踏まえ、研修の義務づけの有無や病院や上司等からの指示の有無によって判断し、主張を行いました。

 労基署は、配置転換や患者からのクレームの心理的負荷を「弱」としたものの、その前後に月100時間を超える時間外労働があると認定して、総合評価を「強」と判断し、労災請求を認めました。また、労基署は、担当患者のみならず、担当患者の治療に参考になる他の患者のカルテを閲覧している時間も自己研鑽ではなく労働時間と認定し、宿直・日直の時間も全て労働時間として認定しました。故人の研修医としての働きぶりを踏まえて、このような認定を行ったのだと思われます。  病院に対する損害賠償請求は、ご両親の意向に沿って、任意の交渉から始めました。当初、病院は金額について難色を示していたものの、交渉の結果、ご両親から納得が得られる金額で和解をすることができました。

法的手続を終えて

 最近、医学部を出た医師がそのまま美容整形の病院に就職することを「直美」というそうです。そのような道に進む最大の理由は、楽な仕事をしつつ多額の金銭を得るという目的に合致するからでしょう。
 もっとも、故人の後期研修医は、「直美」の医師とは全く逆でした。少しでも多くの患者を救うために医師となり、そのための努力を惜しみませんでした。もし過労自殺(自死)せずに一人前の医師となっていたら、どれだけ多くの患者を救えたのでしょうか。とても哀しいことですし、残念なことだと感じました。
 医師も弁護士もそうですが、9時から働いて18時に帰るような仕事をしていると、どのような仕事をするかにもよりますが、一人前になることは難しいでしょう。その一方で、長時間労働が続けば疲労や心理的負荷が蓄積しますし、些細な出来事がきっかけで精神障害を発病して過労自殺(自死)に追い込まれてしまうこともあります。ハードに働かなければならない業種であるからこそ、適切な労働時間管理、業務管理、健康管理が必要だと考えます。

自死遺族が直面する
様々な法律問題について、
下記でさらに詳しい解説をしています。