自死遺族が直面する法律問題

-学校でのいじめ-

子どもの自死

子どもの自死は、子どもたちが日々の大半を過ごす学校での生活に、何らかの原因があることも少なくありません。

具体的には、同級生等からのいじめにあっていたり、教師からの「体罰」を受けていたりしたことが、子どもの自死につながっていることがあるといえます。

特に、子どもたちが学校でいじめにあっているにもかかわらず、学校や教師がいじめ防止対策推進法に基づいた措置を適切に行わなかった結果、事態の深刻化を招き、自死に至ることも少なくありません。

法的責任の所在

子どもが学校でいじめにあい、そのことが原因となって自死に至った場合には、加害児童やその親権者に対して損害賠償請求をすることが可能です。

また、学校についても、公立学校であれば国家賠償請求をすることが可能ですし、私立学校であれば当該学校を運営する学校法人に対して損害賠償請求をすることが可能です。

損害賠償請求をする上で法的な論点は複数ありますが、中でも大きな問題となるのは、教師や加害児童らが、いじめを受けた子どもの自死を予見できたか否かです。

学校の責任を追求した過去の裁判例においては、自死の予見が困難であったとして学校の責任を否定するものもあります。

しかし、いじめ防止対策推進法、通達、いじめに関する報道等を踏まえると、子どもが、学校において、いじめにより強い心理的負荷を受け続けると自死に至る危険があることは、社会的には周知の事実になっているといえます。

とすれば、教師は、子どもがいじめにより強い心理的負荷を継続して受け続ける状態にあったことについての認識あるいは認識可能性があれば、自死に至ることについて予見することができ、また、このような状態を回避すれば、自死も回避できたといえるというべきです。 

そして、仮に自死に対する予見が否定された場合、自死そのものについての法的責任は問えなくなります。しかし、教師がいじめの事実を認識しているような場合は、いじめによって子どもが受けた精神的苦痛について法的責任を問うことができます。

証拠の収集について

いじめの事件では、いじめに関する証拠の収集が困難であることが少なくありません。遺族が、同級生などから聞き取りをすることも考えられますが、どうしても限界があります。

そこで、いじめ防止対策推進法に基づく第三者委員会を活用することが考えられます。この第三者委員会は、学校での自死という重大事態が発生した場合、中立な立場で事実関係を調査し、予防のための提言を行います。そして、第三者委員会が事実関係の調査を行う際、自死であることを明らかにした上で、可能な限り早い段階で、生徒を対象としたアンケート調査を実施させ、その上で、いじめを目撃した生徒から聞き取りを行うように働きかけましょう。

また、いじめは、加害生徒が刑事未成年(14歳未満)でなければ、刑法上、暴行罪、傷害罪、侮辱罪、強要罪などに該当する可能性があります。そこで、加害生徒を特定できる場合は、刑事告訴を行うことも考えられます。刑事告訴を行うと、警察や検察官が詳細な聴取書を作成するため、事実関係の解明に役立ちます。

裁判を行うことの意義

裁判を行うことには、金銭的な賠償を求めること以外にも、事実の解明を図るという目的があるといえます。

裁判においては、文書提出命令等の制度を用いて、学校が作成したいじめ等に関する調査の資料等を提出させたり、証人尋問等によって加害児童や教師から事実を聞き出したりすることで、子どもが自死を選択せざるを得なかった事情を明らかにすることに役立つ場合があります。

また、裁判上の和解において、金銭賠償は認めなかったものの、子どもの命日に学校への遺族の立ち入りを認めたり、子どもの名前をつけた文庫の設置や樹木の植樹などを認めたりした例もあります。