自死遺族が直面する法律問題

-子どもの自死(自殺)-

子ども(児童・生徒)の自死

児童・生徒の自死は、児童・生徒たちが日々の大半を過ごす学校での生活に、何らかの原因があることも少なくありません。

具体的には、同級生等からのいじめにあっていたり、教師からの体罰を受けていたりしたことが、児童・生徒の自死につながっていることもあります。

特に、児童・生徒たちが学校でいじめにあっているにもかかわらず、教師がいじめ防止対策推進法に基づいた措置を適切に行わなかった結果、事態の深刻化を招き、自死に至ることも少なくありません。

遺族が行える法的手続等は何がありますか?

いじめ等よって児童・生徒が自死した場合、遺族は主に以下の法的手続等を行うことができます。

市町村や学校などによる事実関係や自死に至る過程についての調査の要求

1.背景調査の流れ

児童・生徒の自死が生じた場合、市町村や学校などは、「児童・生徒の自殺が起きた時の背景調査の指針」に基づいて背景調査を行います。

背景調査は、基本調査と詳細調査の2種類があり、いじめが背景として疑われる場合は、いじめ防止対策推進法28条の重大事態の調査として行われます。

2.基本調査について

基本調査は、自死または自死が疑われる場合、自死に関する情報を整理するため、自死後速やかに実施される調査です。

基本調査では、主に以下の調査が行われます。

  • 遺族との関係性の構築と関係機関(例えば、警察や医療機関など)との情報の共有
  • 指導記録、連絡帳、生活ノート、学級日誌、部活動等のノートの確認
  • 全教職員からの聴き取り
  • 亡くなった児童・生徒と関係の深かった児童・生徒への聞き取り調査

遺族からは、様子の変化や生前の言動などをできるだけ詳しく伝えるようにしてください。

3.詳細調査について

詳細調査は、基本調査を踏まえて、事実関係の確認のみならず、自死に至る過程や自死に追い込まれた心理を明らかにして、それによって再発防止策を打ち立てることを目的としています。弁護士や心理の専門家など外部専門家を加えた調査組織(いわゆる「第三者委員会」)によって実施されます。

(1)詳細調査への移行

詳細調査は全ての事案について行われることが望ましいとされていますが、少なくとも以下の場合は詳細調査に移行します。そのため遺族が詳細調査を要望する場合、市町村や学校などに対してその要望を明確に伝えることが重要となります。

  • 学校生活に関する要素(いじめ、教職員からの体罰や指導、教職員との関係の悩み、学業不振、進路問題、不登校、転校、異性問題、指導困難学級等)が背景に疑われる場合
  • 遺族の要望がある場合
  • その他必要な場合

詳細調査への移行の要望を明確に伝えたにもかかわらず移行しない場合は、弁護士へご相談ください。

(2)詳細調査の内容

詳細調査では、主に以下の調査が行われます。

  • 基本調査の確認
  • 学校以外の関係機関への聴き取り
  • 状況に応じ、児童・生徒に自死の事実を伝えてアンケート調査や聞き取り調査を実施
  • 遺族からの聴き取りを実施

 自死の背景にいじめが疑われる場合は、児童・生徒に対するアンケートや聞き取り調査が重要になります。アンケートの内容や聞き取り事項について、遺族から積極的に意見を伝えるようにしてください。

(3)詳細調査の期間

調査期間は事案によって異なりますが、1~2年程度かかる場合もあります。調査の対象となる児童・生徒の人数が多い場合や、年齢が低く、長時間の聴き取りが難しい等の事情があれば、調査期間は長くなる傾向にあります。
調査期間が長くなる場合には、後述する「災害共済給付金(死亡見舞金)」の請求期間(災害発生から2年で時効)に注意する必要があります。

(4)報告書の作成

調査が終了すると、第三者委員会は、遺族の意見を踏まえつつ、自死に至る過程、自死に追い込まれた心理、再発防止策などを記載した調査報告書を作成します。
調査報告書の完成前に、遺族に内容を確認する機会を与えてくれる場合あります。そのような場合は、遺族としての意見を積極的に伝えてください。
また、調査復命書の公開についても、公開する否かに加えて、公開する場合であってもどの部分をマスキングするのかについて、遺族の意見を積極的に伝えてください。

(5)再調査

一度調査が行われた場合でも、市町村長が必要と認めた場合には、再調査を行うこともできます。
遺族に再調査を求める権利があるわけではありませんが、遺族の訴えにより再調査の実現に繋がった例もありますので、1度目の調査結果に納得できない場合には、再調査を希望する方法もあります。

加害児童・生徒の刑事告発

いじめは、刑法上、暴行罪、傷害罪、侮辱罪、強要罪などに該当する可能性があります。
そこで、加害児童・生徒を特定でき、刑事未成年(14歳未満)でなければ、刑事告発や被害届の提出を行うことも考えられます。
捜査が開始されると、警察や検察官は、同級生、教師、加害生徒から聞き取りを行い、詳細な聴取書を作成します。
家庭裁判所において少年審判が開始された場合、遺族が家庭裁判所に申出を行えば、家庭裁判所に送られてきた捜査段階の記録(生徒らの聴取書等)や審判期日調書などについて、加害児童・生徒や関係者のプライバシーに深く関わるものなどを除き、原則として閲覧やコピーができることになっています。

災害共済給付(死亡見舞金)の請求

1.災害共済給付(死亡見舞金)について

学校の管理下で自死が生じた場合、災害共済給付金(死亡見舞金)の支払いを受けることができる場合があります。
なお、自宅など学校外で自死した場合であっても、学校でのいじめなどが原因であることが明らかな場合は、学校の管理下にあったと評価されます。

2.災害共済給付(死亡見舞金)が認められる2つの構成

(1)いじめや体罰によって自死した場合

いじめや体罰によって自死した場合、災害共済給付(死亡見舞金)が認められます。

(2)いじめや体罰などの継続的なストレスによって精神障害を発病し、その病気によって自死した場合

いじめや体罰の継続的なストレスによって精神障害を発病し、その病気によって自死した場合であっても、災害共済給付(死亡見舞金)が認められます。

(3)災害共済給付(死亡見舞金)の請求期限

災害共済給付(死亡見舞金)の請求期限(時効)は、自死から2年間とされていますので、調査の長期化により請求の機会を失わないように気を付けなければなりません。

(4)災害共済給付(死亡見舞金)の請求方法

災害共済給付(死亡見舞金)の請求は、原則として、学校を通じて、学校の設置者(市町村等)が日本スポーツ振興センターに対して行うことになります(下図A)。
ただし、学校が積極的に対応してくれない場合などもありますので、保護者が学校の設置者を通じて請求することも認められています(下図B)。

学校が対応してくれない場合や、時効が迫っている場合などには、弁護士にご相談下さい。

(5)災害共済給付(死亡見舞金)を請求したが不支給となった場合

災害共済給付(死亡見舞金)の請求をしたにもかかわらず不支給となった場合は、不支給決定があったことを「知った日の翌日から起算して、3か月以内」に不服申立て(不服審査請求)を行うことになります。

具体的には、日本スポーツ振興センターの理事長あての不服審査請求書を、同センターの各地域の担当課に提出することになります。

しかし、審査請求によっても不支給決定が覆えらない場合には、その旨の「回答」が届いた日の翌日から6か月以内に、民事訴訟により災害共済給付金の請求を行わなければ、時効により給付金の請求権自体を失うことになります。
そのため、請求が認められず「回答」が届いた場合には、できるだけ早いタイミングで弁護士にご相談ください。

(6)訴訟による災害共済給付(死亡見舞金)の請求

審査請求をしても不支給決定が覆らない場合は、日本スポーツ振興センターから、その旨の「回答」が書面で届きます。
この「回答」に対して不服を申立る制度はありませんので、不支給決定を覆すためには、災害共済給付を求める訴訟を起こす必要があります。
訴訟により死亡見舞金を請求する場合は、この回答が届いた日の翌日から起算して6か月以内に訴訟を提起する必要があります。

市町村や学校などに対する損害賠償請求

1.訴訟の相手方

国や市町村が設置した学校の場合は、国や市町村を相手方として損害賠償請求を行います。なお、国や市町村が設置した学校の場合、最高裁判例によって、公務員である教員個人を訴えることが認められていないことには注意が必要です。

私立学校の場合は、その学校を運営する学校法人や教師個人を相手方として損害賠償請求を行います。

加害児童・生徒に対して損害賠償を請求することも可能です。加害児童・生徒が未成年の場合であっても、自分の行為が法律上非難されるものであることを理解できる知能があると判断される場合(概ね12歳前後)には、いじめ等の加害行為について責任を負うことになります。

2.自死に対する予見可能性

(1)教師の予見可能性

国や市町村は、通常、「教師は児童・生徒が亡くなるとは思っていなかった。」という主張を行います。教師が児童・生徒の自死を予見できたか否かが重要な争点となるのです。

学校の責任を追求した過去の裁判例においては、教師が自死を予見できなかったとして、学校の責任を否定するものもあります。

しかし、いじめ防止対策推進法、通達、いじめに関する報道等を踏まえると、児童・生徒が、学校において、いじめや教師の支援不足により強いストレスを受け続けると自死に至る危険があることは、社会的には当たり前の事実になっているといえます。

とすれば、教師は、児童・生徒がいじめや教師の支援不足により強いストレスを受け続けていたことを認識していたか、認識していなくても少し注意すれば認識できた場合であれば、自死に至ることについて予見することができ、また、このような状態を回避すれば、自死も回避できたといえるというべきです。

そして、仮に自死に対する予見が否定された場合、自死そのものについての法的責任は問えなくなります。しかし、教師がいじめの事実を認識しているような場合は、いじめや教師の支援不足によって児童・生徒が受けた精神的苦痛について法的責任を問うことができます。

(2)加害児童・生徒の予見可能性

加害児童・生徒に対して自死の責任を負わせる場合であっても、自死を予見できたか否かが重要な争点となります。

そのため、加害児童・生徒に対して自死の責任を負わせるためには、自死を予見していたことを立証しなければなりません。例えば、いじめの強度が強い場合や、他の児童・生徒のいじめによって体調が悪くなっているのを知りながら敢えていじめた場合などは、自死を予見していたと評価できる可能性があります。

裁判を行うことの意義

裁判を行うことには、金銭的な賠償を求めること以外にも、事実の解明を図るという目的があるといえます。

裁判においては、文書提出命令等の制度を用いて、学校が作成したいじめ等に関する調査の資料等を提出させたり、証人尋問等によって加害児童や教師から事実を聞き出したりすることで、子どもが自死を選択せざるを得なかった事情を明らかにすることに役立つ場合があります。

また、裁判上の和解において、金銭賠償は認めなかったものの、子どもの命日に学校への遺族の立ち入りを認めたり、子どもの名前をつけた文庫の設置や樹木の植樹などを認めたりした例もあります。