自死率の視点から見た外国人問題

 東京都町田市で活動している弁護士の和泉です。

 最近、ネットやテレビのニュース番組を見ていると、外国人への社会保障制度の適用の是非や、外国人増加に伴う治安の悪化を懸念する言説を目にすることが増えているように思います。NHKが2025年6月に実施した調査では、「日本社会では外国人が必要以上に優遇されている」という質問に、「強くそう思う」か「どちらかと言えばそう思う」と答えた人は64%にも及ぶという結果が出ているそうです。選挙においても外国人問題を重点政策として取り上げる政党が目立ちます。

 私自身は、家族ぐるみで付き合いのある外国人の友人がいます。また、私は音楽が好きで1990年代からHipHopというジャンルを聞き続けていますが、このジャンルを支え続けてきたのは外国人労働者や日本で育ったその子どもたちでした。加えて、高齢化が進み人手不足が慢性化している日本社会が、外国人労働者抜きに円滑な経済活動を続けることは困難と考えます。ですので、外国人を過度に敵対視する言説には正直疑問を感じてしまいますが、個人的感情は抜きにして、客観的なデータとして外国人の自死率について調べてみたいと考えました。文献を調査したところ、在日外国人の自死率について言及した論文が複数見つかったので、紹介したいと思います。

 「日本在住外国人の死亡率:示唆されたヘルシーマイグラウンド効果」(小堀栄子ほか2名・第64巻公衆衛生誌第12号・2017年)では、厚労省が作成した人口動態統計から算出した死亡総数の年齢調整死亡率(人口10万対)について、日本人と外国人を比較すると、在日外国人の中年層では外因死(不慮の事故,自殺)による死亡率が高く、中でも自死による死亡率は高いことが指摘されています。他方で、若い年齢階層での自死率は日本人よりも低いとのことです。このようなデータをもとに、自死率の低い地域の出身者であったとしても、日本社会に長期間在住することでストレスにより長期間さらされ、そのことと自死率の上昇とが関連している可能性があるとの考察が行われています。

 また、「外国人の死因―日本人・本国人との比較」(林玲子・人口問題研究76-2・2020年)では、人口動態調査のデータをもとに在日外国人の国籍別に自死率をみた場合、朝鮮・韓国籍外国人の自死率が高いと述べられています。韓国はOECD諸国の中で最も自死率が高いことで知られていますが、在日韓国・朝鮮人の自死率は、日本の日本人だけでなく、韓国の韓国人よりもさらに高いことが指摘されています。

 さらに、「COVID-19 パンデミック中の日本在住外国人と日本人の自死率の異なる傾向」(谷口雄太ほか10名・International journal for equity in health. 2024 Jul 31)では、人口動態調査のデータを分析すると、COVID-19パンデミック中、初期には日本人では自死率の低下が観察されたが外国人では見られず、また外国人男性の自死率は2021年末まで高止まりしていたと述べられています。論文では、これらのデータをもとに、パンデミックのような状況においては、社会経済的に脆弱な集団に対して適切なメンタルヘルスサポートが必要なことを示唆していると総括し、また、パンデミック中に外国人男性、特に、失業率が高かったと報告されている韓国・朝鮮籍の男性において自死率が特に上昇していたことを指摘し、「適切な雇用機会の確保も重要」と指摘しています。

 これらの論文で掲載されたデータからすれば、外国人が日本で生活する中で感じるストレスは日本人と比較してもそれなりに高く、自死率から見る限り外国人が日本人以上に優遇されていると評価することは困難と考えます。