最初に何から考えたらいいのか

「どうしたらいいの?」という疑問に対する回答が載せられていますが、ここでは、亡くなられた直後の大まかな流れを説明いたします。

ステップ0:ご自身の心と体を守る

手続きの話の前に、ご自身の心と体の健康が何よりも一番大切なことです。

  • 一人で抱え込まないでください。
     信頼できる親族や友人、あるいは専門の支援団体に、今のお気持ちを話してください。言葉にするだけで、少し楽になるかもしれません。
  • ご自身を責めすぎないでください。
     「あの時こうしていれば」という後悔の念に苛まれるかもしれません。
  • 無理せず、休息をとってください。
    しんどくなったときは、無理に動こうとせず、少しでも心と体を休ませることを優先してください。

ステップ1:直後の手続き

警察の検視・事情聴取

 自死の場合、警察がご遺体を引き取って、検視が行われます。また、警察から自死された方の生活状況などを聞かれる場合があります辛い時間だとは思いますが、聞かれた事実にのみ、落ち着いて答えるように心がけましょう。

 警察から鉄道会社にご遺族の連絡先を伝えてよいかと確認を求められることがあります。鉄道会社から損害賠償請求を受ける可能性があり、ご遺族の情報を鉄道会社に伝えることは控えた方がよいでしょう。少なくともその場で決断せず、弁護士にご相談ください。

死体検案書(死亡診断書)の受け取り

 警察から死体検案書を受け取ります。今後のあらゆる手続きで必要になるため、5通ほどコピーを取っておきましょう。

死亡届の届け出

 死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡者の死亡地、死亡者の本籍地または届出人の住所地の市区町村役場に提出します。このとき、死体検案書が必要です。死亡届を届出することにより「火葬許可証」を受領できます。

ステップ2:プラスの財産とマイナスの財産を把握する

プラスの財産:預金通帳、不動産の権利証、有価証券、生命保険証書などを探します。

 自死された方のスマホが開けられる場合には、メールなどをチェックして、インターネット口座やデジタル資産(暗号通貨)などがないかお調べください。

 現在所有している財産だけでなく、過労や職場のパワーハラスメントにより精神疾患を発病してしまった可能性、いじめの加害者に対する損害賠償請求の可能性などこれから請求する権利についても考慮する必要があります。

マイナスの財産:消費者金融のカードや契約書、住宅ローン残高の通知書、そして「損害賠償請求される可能性」がないかを調べます。

 自宅に届いている請求書などから債務がわかることがあります。信用情報機関であるCICやJICCに自死された方の信用情報の開示を求めることで消費者金融での借り入れやクレジットカードの滞納などが判明する場合もあります。

 住宅ローンについては、団体信用生命保険(団信)に加入していれば、返済が免除される可能性がありますので確認しましょう。

損害賠償請求を受ける可能性について

  • 鉄道自死の場合
    鉄道会社から、損害賠償を請求される可能性があります。請求内容は、振替輸送費、人件費、車両の修理費などであり、高額になる場合もあります。自死された方が精神的な理由で責任能力がなかったと判断され、損害賠償義務を負わない場合やご遺族の状況なども考慮された結果、減額できる場合もあります。そのため、請求書が届いても、すぐに支払いに応じず、弁護士に相談してください。
  • 賃貸物件で亡くなられた場合
    大家さんや管理会社から、原状回復の費用と「次の借り手が見つからない期間の家賃(逸失利益)を請求される可能性があります。その内容によっては、ご遺族が負担すべきでない費用も含まれている可能性があります。大家さん側の請求があってもすぐに支払いに応じず、弁護士に相談してください。

ステップ3:プラスとマイナス、どちらが多いか

①:(損害賠償請求できる可能性を考慮しても)明らかにマイナスの財産が多い場合

 相続放棄を検討します。相続放棄をすれば、プラスの財産もマイナスの財産も相続しません。被相続人の死亡(相続開始)を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。

 ここで注意すべき点は、自死された方の財産を一切処分しないことです。相続放棄ができなくなる可能性のある行為(例)故人の預貯金を引き出して使う。故人の借金や損害賠償金を、故人の財産から支払う。故人の車や家などを売却したり、自分の名義に変更したりする。ただし、葬儀費用として使った場合には単純承認にはならず、相続放棄できますので領収書は必ず取っておきましょう。

 これらの行為をしてしまったけれども、相続放棄したいという場合にも、ご事情を弁護士に相談してください。

②:3ヶ月で判断できない場合

 ご遺族が死亡した事実を知ってから3ヶ月で相続放棄の判断ができないことは少なくありません。そのような場合には、「相続の熟慮期間の伸長」という手続きがあります。これは、3ヶ月の期限が来る前に家庭裁判所に申立てをすることで、相続をどうするか考える期間を延ばしてもらう制度です。

 財産状況を整理してから、相続するか放棄するかを判断しましょう。

③:(損害賠償請求される可能性を考慮しても)明らかにプラスの財産が多い場合

 単純承認を検討します。何か特別な手続きは必要なく、遺産分割協議など相続手続き行います。

まとめ

 上記の判断をご遺族だけで行うのは、難しいと思います。特に損害賠償請求の妥当性の判断や、相続放棄すべきか、あるいは期間伸長の申立てをするべきかの決断は、法的知識でのアドバイスが必要です。

 あなた一人ですべてを背負う必要はありません。迷われたらぜひご相談ください。

ご遺族からの相談を聞くに当たって

1 「こんなにしっかりと話を聞いてもらえたのは初めてです。」といった類いの言葉を法律相談の場で聞く度に複雑な気持ちになります。「ここに来るまでに○人断られました。」という話も同様です。

 確かに、相談の中には法律ではどうしようもない事案もあり、「対応出来ない」とはっきり伝えることが大切な場合もあります。しかし、上記のように仰って頂ける事案の中には、相談を聞いた弁護士が、可能な限り話を理解しようと努め、かつ、確かな知識を有している場合であれば、何らかの方針を示すことができた事案も少なくありません。また、相談を聞いたその場では馴染みのない法律関係に関する話であったとしても、話を整理する過程でとっかかりとなる法令や判例を調べてみることで、お伝え出来ることが出てくる場合も少なくありません。

 つまりは、法律相談に来られた方の抱えている問題の解決に向けて、対応した弁護士がどれだけ広い視野を持って「本気で」考えたかによって、その対応に大きな違いがあるということだと思います。

2 この点、自死に関するご遺族からの相談においては、できるだけ多角的に事案を検討する必要があることから、原則として、ご遺族の主訴にとらわれることなく、あらゆる可能性を考えて聴き取りに当たることが必要となります。

 例えば、賃貸マンションにおける自死のケースで、家主からの賠償請求の有無や金額を教えて欲しいといったご遺族の相談を想定した場合、その点だけを答えて終わってしまうと、後々取り返しのつかない場面が出てくる場合があり得ます。具体的には、自死者自身の預貯金もそれほど多くなく、ご遺族にも経済的な余裕がない場合に、家主からの損害賠償請求額が数百万円になることが見込まれるという理由だけで安易に相続放棄を勧めて終わってしまうような場合です。このとき、ご遺族自身も相談時に思い至っていなかった事情として、実は、働き過ぎや職場でのパワーハラスメントなどが原因で精神障害を発病し、結果として自死してしまったという事情が隠されていたらどうなるでしょうか。その可能性を考慮せずに安易に相続放棄を勧めて法律相談を終えてしまうと、後に勤務先に対して数千万円の損害賠償請求が可能となる事案であったとしても、早々に相続放棄をしたことにより、気付いた時にはその権利を失っていてどうにもならない、ということになります。

3 別の例として、自死者の遺品から、一見すると交際相手とうまくいかなくなったことが自死の原因であるかのように考えられ、ご遺族の主訴も、交際相手に何か請求出来ないか、というものであったというケースを想定してみます。このとき、遺品から伺える交際相手とのやり取りが、男女間の日常的ないさかいの域を出ない程度のやり取りであったと考えられる場合には、「交際相手への請求は法的には難しいですね。」などと助言して終わってしまう場合もありうるところです。しかし、生前の自死者の人柄や、自死前の様子の変化などに聞き取りの範囲を広げていくことで、実は、交際相手とうまくいかなくなっていたのは、仕事のストレスで本人も気付かないうちに精神障害を発病していたからであって、本当の原因は職場にあったという場合もあるかもしれないのです。

4  上記2つの例において、ご遺族の主訴だけにとらわれて相談を終えてしまうと、亡くなられた方が何に苦しんでいたのかという真実にたどり着くことは困難となりますし、ご遺族の重要な法的権利を失わせることにもなりかねません。しかし、対応する弁護士があらゆる可能性を視野に入れて事情を聴き取ることで、それを防ぐことができる場合もあるでしょう。

 他方で、ご遺族の中には、様々な事情から、多くのことを話したがらない方もおられます。そのため、常に詳細を聞き取ることができる訳ではありませんが、だからといって、相談に臨む弁護士が、詳細を聞き取らなくても良いということにはなりません。

5 自死遺族支援弁護団では、可能な限り広い視野にに立った上で様々な法的問題に対応出来るよう、所属する弁護士間での情報共有や勉強会などを通じて日々研鑽を重ねています。

 皆様から安心してご相談頂ける様、私自身も努力し続ける所存です。

相続放棄をする際に他の相続人や次順位の相続人に伝えるべきか

 自死により亡くなられた故人が、資産よりも負債が上回っているような場合には、相続人としては相続放棄を検討することとなります。

 相談をお伺いしているなかで、被相続人が亡くなったことを知らない関係性の薄い他の同順位の相続人や次順位の相続人に対して、相談者が相続放棄をした事実を伝える必要がありますか、という質問をしばしば受けます。

 特に自死遺族の場合には、話の流れ次第で故人が自死で亡くなったことに話が及ぶ可能性があることから、関係性の薄い同順位の相続人や次順位の相続人にその旨伝えることに心理的な抵抗感を覚えることは無理からぬことです。

 自身が相続放棄を行うことを同順位の他の相続人や、次順位の相続人に伝えなければならないというような決まりはありません。ですから、様々な事情で心理的な抵抗感がある場合に無理をして告げる必要はないと思います。

 他方で、困ったことになるケースもあります。相続放棄は同順位の者(子、父母、祖父母など)が全員行わなければ、次順位の者が相続人となることはありません。

 ですので、相続人の内ひとりが、被相続人が死亡した事実を知らないまま時間が経過すると、被相続人の債務の問題や損害賠償の問題などが未解決のまま法律関係が安定しない可能性があります(債権者が迅速に相続関係を調べて現在の相続人に請求してくれるとは限りません)。

 たとえば、子が亡くなった場合に、離婚した両親の一方が、子が亡くなった事実を知らない元配偶者にその旨を知らせないと、同じ両親の下に兄弟姉妹がいるような場合には、兄弟姉妹としては先順位の相続人が相続放棄するのか、自分がいつ相続の順番が回ってくるのか想定できず、法的に不安定な状況が継続することになりかねません。

 このような場合が典型例ですが、他の同順位の相続人や次順位の相続人に対して、被相続人が亡くなったことおよび自身が相続放棄をすることを伝え、そして伝えた相手が相続放棄を行う場合には知らせてほしいとお願いしておくほうがよいケースもあります。当弁護団にご相談いただけましたら、ご遺族の置かれた状況を踏まえて一緒に考えてアドバイスをさせて頂きます。お気軽にご相談して頂ければと思います。