管理職の労災認定

店長や工場長など、管理職の労働者は給与明細を見ても残業代の支給を受けていないことがあります。
このような労働者が過労死した場合、遺族補償給付の算定においても残業代が加味されていないケースが少なくありません。私自身、部下が2~3名であるにもかかわらず、労基署から「管理監督者」に該当しないことを理由に遺族補償給付の金額を大幅に少なく認定されたケースを複数回経験しています。

私たちの弁護団では、労災認定された際、必ず給付基礎日額を確認するようにしています。特に長時間労働によって発病したケースについては、ノルマ等に追われて長時間労働を強いられたにもかかわらず、そのことが遺族補償給付の支給額に反映されないとすれば疑問であると考えています。実際、厚労省も、現実に既に支払われている賃金だけをもとに給付額を算定するのではなく、管理監督者に該当しない場合には、本来支払われるべきであった残業代を給付額に反映させるのが正しいという解釈を採用しています※1

裁判例によると、管理監督者は以下の3点を基準に判断されるとされています。

  1. 経営者と一体的な立場で仕事をしている(業務内容、権限、責任)
    労務管理方針の決定に参画し、あるいは労務管理上の指揮監督権を有し経営者と一体的な立場にあること(労働時間規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務と責任を有しているか)。
  2. 出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない(勤務形態)
    自己の勤務について自由裁量の余地があり、出勤・退社について一般労働者と同様の厳格な規制を加えることが適当でないような地位にあること。
  3. その地位にふさわしい待遇がなされている(給与、手当)
    その地位に対して何らかの特別給与が支払われていること。

Ⅰについては、当該労働者について、部下の人数、採用や人事評価について最終決定権限があるか、実際に担当している業務内容、経営会議など会社の経営方針を決める会議に参加しているか等を基準に判断されます。

Ⅱについては、労働者が自身の労働時間を自分でコントロールできているかが重要です。残業に次ぐ残業という状態であれば自分の労働時間を自分でコントロールできている状態とは言えないと思われます。

Ⅲについては、ケースバイケースですが、全労働者の中の上位何パーセントかといった資料をもとに判断していくことになります。

不服申立の方法としては、まずは審査請求、難しければ再審査請求、行政訴訟といった形で段階的に手続を進めていくのが基本ですが、審査請求をした日から3ヶ月を経過しても決定がない場合は、時間短縮のため再審査請求を経ずに行政訴訟を提起することも可能です。 労基署段階では、会社の言い分をうのみにして安易に管理監督者に該当すると判断されてしまうケースが少なくありません。おかしいなと思ったら、当弁護団にご相談ください。

※1 労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項について」(H22.2.25,H25.2.26,H26.2.4,H27.2.13,H30.2.22)

「手待ち時間」とは?

 労働者が自ら命を絶ってしまう背景には、過酷な長時間労働の実態があることが少なくありません。亡くなられた方が実際にどれだけの時間働かされていたのかを正確に把握することが重要です。

 そこで今回は、会社からは休憩時間と主張される、「手待ち時間」について解説します。

1 手待ち時間とは何か

 手待ち時間とは、「具体的な作業はしていないものの、即座に業務に対応できるように待機している時間」を指します。具体的には以下のようなケースです。

  • トラック運転手などの「荷待ち時間」(荷物の積み下ろしを待っている時間)
  • 昼休憩中であっても、「電話が鳴ればすぐに対応するよう」指示されている時間

 こうした時間について、会社側はしばしば「実際に作業をしていないのだから、休憩時間と同じだ」と主張します。

 しかし、手待ち時間は、「その場から自由に離れられない」「呼ばれたらすぐ作業を始めなければならない」という拘束を受けています。会社の指揮命令下に置かれている状態であるので、作業をしていなくても「労働時間」にあたるのです。

2 労働時間について

 しかし、労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。その時間に労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていない、休憩時間と評価できます。

 したがって、実作業をしていない時間であっても、労働から解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間にあたります(最高裁平成14年2月28日判決・民集56巻2号361頁参照)。

 手待ち時間は、「その場から自由に離れられない」「呼ばれたらすぐ作業を始めなければならない」という拘束を受けています。会社の指揮命令下に置かれている状態であれば、作業をしていなくても「労働時間」にあたります。

3 長時間労働の実態を把握するためのポイント

 会社が「休憩時間」として把握されていなかった待機時間を「労働時間」として再評価できるかどうかが、長時間労働の実態を把握する上での重要なポイントになります。その業種によっては、手待ち時間が労働時間として認められるか否かで、1か月の労働時間が数十時間も変わるケースがあります。

 ただし、タイムカードなどの記録上は「休憩」として処理されていることが多いため、それを労働時間であったと証明するためのハードルがあります。

 そこで重要になるのが、客観的証拠(パソコンのログやメール履歴など)や同じ職場で働いていた「同僚の証言」です。「荷待ち時間はトラックから離れられず実質的に休めなかった」というの現場の声が鍵となります。

 職場の同僚も、その時間をずっと休憩時間として扱われてきたため、「作業をしていないから休憩時間だ」と思い込んでいることが少なくありません。そのため、就労の実態として「どのような指示が来て、何をしなければならなかったのか」という客観的な事実を、具体的に明らかにしていく必要があります。

4 最後に

 手元に残っている記録や生前のLINEのやり取り、あるいはご家族がご本人から聞いていた何気ない仕事の愚痴の中に、労働実態を解明する糸口が隠されていることもあります。そのような手がかりから同僚の方に話を聞き、実際の働き方を明らかにしていける可能性もあります。

 「あの待機時間は、実は休めていなかったのではないか」。そうした疑問が少しでもありましたら、まずは私たち弁護団にご相談ください。

『労働者』ではないから、労災・過労死・過労自死ではない?

 長時間労働や職場の過重なストレスによってメンタルヘルスを害し、自死に至ったにもかかわらず、「労働者ではないから労災ではない」「過労死や過労自死には当たらない」と使用者から説明されたり、労災手続の段階でそのような判断が問題となったりするケースがあります。

 近年では、ウーバーイーツなどのプラットフォームワーカーをはじめとする新しい働き方において、労働者性が争われる場面も増えています。

 一方で、残業代の支払いや労働法に基づく労務管理を免れることを目的として、一般的な労働者としての働き方をしている人を「労働者ではない」と扱う、古典的で乱暴な手法も依然として見られます。

 その名目はさまざまです。請負、委任、外注、業務委託、フリーランスとの契約形式にしたり、役員・経営者や、研修生、弟子、有償ボランティアなどとされたりすることがあります。

 しかし、「労働者」に当たるかどうかは、契約書の文言や呼ばれ方によって決まるものではありません。実際の働き方に基づいて判断されます。

 具体的には、使用者の指揮命令の下で働いているか、労務の対価として賃金(名称が「報酬」であっても「賃金」であっても変わりません)が支払われているかなどの事情を総合的に見て判断されます。

例えば、

  • 上司や会社の指示に従わなければならず、実質的に断ることができない
  • 勤務時間が自由に決められなかったり、遅刻や欠勤にペナルティがある
  • 成果報酬ではなく、働いた時間・日数単位や月の固定報酬で支払われている
  • 社員と共に、同じ業務を行っている

などの事情が含まれていれば、契約の形式や呼称にかかわらず労働者と認められる可能性があります。

このように、本来は労働者となる働かせ方をしながら、残業代などの支払義務を免れるために非労働者扱いをしている職場では、健康被害を顧みない長時間・過重労働が強いられることも少なくありません。

 そのような働き方の結果、労災事故に遭った場合はもちろん、長時間労働や過重な心理的負荷によって精神障害を発症したり、自死に至ったりした場合でも、労働者性が認められれば労災補償の対象となる可能性があります。使用者が労災保険の加入手続を怠っていたとしても、事後の手続きで労災受給は可能です。

 家族が、会社や上司に逆らえない状況で長時間働いて、心身の健康を損ねたという事情がある場合には、「労働者ではないから労災にならない」「過労死・過労自死には当たらない」と説明されても、その説明をうのみにする必要はありません。契約の形式だけではなく、実際の働き方を踏まえ、実態として労働者にあたるのではないか、専門家と相談・検討することをお勧めします。

労災認定基準・公務災害認定基準と民事上の損害賠償請求の関係について

1  はじめに

 労働者や常勤の地方公務員が長時間労働やパワーハラスメントなどによって過労自殺(自死)した場合、ご遺族が行える法的手続は、行政手続である労災請求・公務災害認定請求と、民事手続である損害賠償請求に分けることができます。

 労災請求・公務災害認定請求と損害賠償請求はそれぞれ別個独立した手続きですが、いずれも「業務・公務によって精神障害を発病して自殺(自死)が生じた」という法的なつながり(因果関係)を要件とする点では共通しています。

 もっとも、労災請求・公務災害認定請求の因果関係と、損害賠償請求の因果関係は、同じような事実の流れを見ているようであっても、「直ちに同視することには、問題がある」(※1)とされてきました。

 では、労災請求・公務災害認定請求の因果関係と、損害賠償請求の因果関係は、一体どのような関係にたつのでしょうか?

 静岡県警事件最高裁判決とその補足意見(最高裁令和7年3月7日判決・民集79巻3号1159頁)は、この議論に一定の解決を示したとされています。

 今回はこの最高裁判決を取り上げ、労災請求や公務災害認定請求の因果関係が、損害賠償請求の因果関係に与える影響について解説します。

2  なぜ「直ちに同視することには、問題がある」?

 ではなぜ労災請求・公務災害認定請求の因果関係と、損害賠償請求の因果関係を「直ちに同視することには、問題」があるのでしょうか?

 その理由はそれぞれの請求の目的が異なる点にあります。

 労災請求・公務災害認定請求は、使用者や地方自治体の落ち度(安全配慮義務違反)を要件とせずに、長時間労働やパワーハラスメントによる心理的負荷(職場に内在された危険)が現実化してうつ病や自殺(自死)が生じたならば、速やかに補償を行うという点に目的があります。仮に、使用者や地方自治体の落ち度(安全配慮義務違反)が要件になっていると、使用者や地方自治体が落ち度を否定することで紛争が長期化し、補償がなかなか行われないことになって、速やかに補償を行うという制度の目的が達成できなくなります。

 これに対して、損害賠償請求は、過労自殺(自死)という損害が発生した場合に、使用者や地方自治体に対して損害を負わせるのが公平なのか、それとも負わせないことが公平なのかという、損害の公平な分担が制度の目的になります。損害賠償請求は、使用者や地方自治体に損害を負わせることが前提となりますので、使用者や地方自治体の落ち度(安全配慮義務違反)が要件となります。

 このように、労災請求・公務災害認定請求は業務・公務に内在した危険が現実化した場合に補償することを目的とし、損害賠償請求は損害を公平に分担させることが制度の目的となっていますので、背景にある考え方が異なるのです。

 とはいえ、それぞれ「業務・公務によって精神障害を発病して自殺(自死)が生じた」という法的なつながりを問題とする以上、労災請求・公務災害認定請求の因果関係と損害賠償請求の因果関係がどのような関係に立つのか、訴訟の実務では問題とされてきたのです。

3  労災認定基準と公務災害認定基準における因果関係

 労災請求・公務災害認定請求における因果関係は、前記2のとおり、職場にあった危険が現実化したかという観点から判断されます。長時間労働やパワーハラスメントなどによる心理的負荷は職場における危険と評価されます。この危険が現実化することによって精神障害を発病して自殺した場合、「業務・公務によって精神障害を発病して自殺(自死)が生じた」という因果関係が認められることになるのです。

 そして、労災請求・公務災害認定請求における因果関係の認定基準は、前者では「心理的負荷による精神障害の認定基準」(基発0901第2号令和5年9月1日)(以下「労災認定基準」といいます。)が、後者では「精神疾患等の公務災害の認定について」(令和6年3月22日地基補第132号)(以下「公務災害認定基準」といいます。)が用いられています。

 労災認定基準と公務災害認定基準は、精神医学や心理学などの考え方をベースにしています。

 まず精神障害の発病は、その人が受けたストレスの強さと、その人個人が持つ精神的な弱さとの相関関係で決まるとされています。例えば、非常に強いストレスを受けた場合は、精神的な弱さが殆どない人でも精神障害を発病することがあります(例えばPTSDなど)。これに対して、精神的な弱さが非常に大きい人は、少しのストレスでも精神障害を発病することがあるのです。

 また、ストレスは人によって受け取り方が異なります。そこで、心理学の分野では、たくさんの人に対してアンケートをとり、職場での出来事(長時間労働やパワーハラスメントなど)のストレスの強さに点数をつけてもらうことで、ストレスの強さを客観化する研究が行われてきました。例えば、パワーハラスメントは多くの人がストレスを感じるので点数が高く、職場のOA化は少なくとも若い人達は働き始める前から日常的に使用していたのでストレスの点数が低くなります。そして、このような研究を踏まえて、これらの認定基準では、職場の出来事毎に、「この出来事についてこれくらいの事情があれば、精神障害を発病するくらいのストレス強度があるだろう。」という具体例を表にまとめています。

 実際の認定実務では、労働基準監督署や地方公務員災害補償基金が職場の働き方などについて調査を行い、その調査結果を労災認定基準と公務災害認定基準に当てはめて、「業務・公務によって精神障害を発病して自殺(自死)が生じた」という因果関係の有無を判断することになります。

4 労災認定基準と公務災害認定基準は静岡県警事件最高裁判決でどのように使われたか?

 静岡県警事件は、静岡県警で警部補の地位にあったAさんの妻子が静岡県に対して損害賠償を請求した訴訟(以下「妻子訴訟」といいます。)と、Aさんの父母が静岡県に対して損害賠償を請求した訴訟(以下「父母訴訟」といいます。)の二つの訴訟で争われました。

 そして、第一審(広島地裁福山支部)は、上記の事実を総合して、いずれの訴訟についても静岡県の責任を認めました。

 しかし、控訴審(広島高裁)は、妻子訴訟では第一審の判断を維持して静岡県の責任を肯定したものの、父母訴訟では静岡県の責任を否定しました。

 妻子訴訟では静岡県が、父母訴訟では父母が最高裁に対して上告・上告受理申立をしたのです。

 静岡県警事件最高裁判決は、判決の本文では明示していませんが、補足意見で重要なことを指摘しています。補足意見は、判決本文で示された結論に至る考え方の過程を明らかにしているので重要なのです。少し長いですが、引用します。

 「地方公務員の業務の関係で、地方公共団体が国家賠償法1条1項又は安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うか否かを判断するに当たっては、当該地方公務員が従事した業務に係る諸般の事情を総合的に考慮すべきであるが、その際には、認定基準とともに労災認定基準に示された知見をもしん酌し得るものと考えられる。もっとも、上記の各補償等は、無過失の危険責任に基づく制度であって、上記損害賠償責任とは趣旨を異にするものであり、上記の各基準も、法令が定めるものではないから、これらに示された知見をしん酌し得るといっても、形式的に当てはめるべきものではなく、あくまでも、経験則上の一つの知見としてしん酌するというべきものである。

 また、本件との関連でみると、認定基準において、『その他強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象』があったものと判断できる場合の一つとして、『発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行ったこと等により、1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合』が示されているが、同時に、これ『に準ずるような業務負荷があったと認められる場合』が示されており、これらは、単に、業務の質的な過重性や時間外勤務の時間数だけではなく、関係する諸事情を考慮して、その負荷の程度を評価すべき趣旨を含むものと解される。

 また、労災認定基準においても、『業務による強い心理的負荷が認められること』の要件に関し、具体的出来事の心理的負荷の強度の具体例が示されており、その中には、仕事の量・質に関する具体例として本件に関連するものが含まれるが、そのような具体例も例示であるから、これらを踏まえ、関係する諸事情を考慮して、その負荷の程度を評価すべき趣旨を含むものと解される。上記の各基準に示された知見をしん酌する場合も、以上の趣旨を踏まえて行うのが相当である。」

 このように、静岡県警事件最高裁判決の補足意見は、損害賠償請求において、「業務・公務によって精神障害を発病して自殺(自死)が生じた」という因果関係の有無を検討する際、労災認定基準と公務災害認定基準において示された精神医学や心理学の知見(考え方)を経験則上の物差しの一つとして使用できると明示したのです。

 また、この補足意見は、損害賠償請求の因果関係を判断する上で、労災認定基準と公務災害認定基準に示された精神医学や心理学の知見(考え方)を踏まえることができるとしても、これらの認定基準に示された具体例に形式的に当てはめることは許されず、事件に関係する様々な事情を考慮しつつ業務による心理的負荷の強度を判断しなければならないと明示した点も意義があります。父母訴訟の控訴審は、事件に関係する様々な事情を考慮せず、公務災害認定基準に示された具体例に形式的に当てはめて静岡県の責任を否定しました。この補足意見は、そのような控訴審の認定を非難していると考えられます。

5 ご遺族の方々へ

 労働者や常勤の地方公務員が長時間労働やパワーハラスメントなどによって過労自殺(自死)した場合、労災認定や公務災害認定が出ていれば、その認定の判断で用いられた証拠や事実認定が、そのまま民事上の損害賠償請求の場でも強力な武器になり得ます。

 一方で、労災請求または公務災害認定請求をしていない場合でも、労災・公務災害の認定基準の考え方を民事上の損害賠償請求における立証に活かすことができます。また、認定基準に形式的に該当しないと思われる場合であっても、民事上の損害賠償請求の場において、業務の内容・量・時間を総合的に検討した結果、会社・地方自治体に対する損害賠償請求が認められることもあります。 

 ただし、これらの手続きは互いに複雑に絡み合っており、どのような順序でどのような証拠を集めるかによって、結果が大きく左右されます。一人で抱え込まず、ぜひ早めに弁護士にご相談ください。

>>自死遺族が直面する法律問題 -過労自殺(自死)-

>>解決までの流れ 過労自殺(自死)の場合 -労災-

>>解決までの流れ 過労自殺(自死)の場合 -損害賠償-

※1 最高裁判所判例解説民事篇平成12年度(上)358頁

静岡県警事件最高裁判決について

1 はじめに

 最高裁は、令和7年3月7日に過労自殺(自死)に関する損害賠償請求訴訟において2つの重要な判決を下しました(以下「静岡県警事件最高裁判決」といいます。)(※1※2)。

 これらの最高裁判決が過労自殺(自死)の実務に大きな影響を与えることは確実です。様々な論点はあるのですが、私がもっとも大切だと考えるいくつかのポイントについてご説明したいと思います。

2  訴訟の概要

 静岡県警事件最高裁判決は、静岡県警に警部補として勤務していたAさんが過労自殺(自死)した事案について、Aさんの妻子が静岡県に対して損害賠償を請求した訴訟(以下「妻子訴訟」といいます。)と、Aさんのご両親が静岡県に対して損害賠償を請求した訴訟(以下「父母訴訟」といいます。)の2つの訴訟があります。

 広島地裁福山支部は、令和4年7月13日、妻子訴訟と父母訴訟の両方について静岡県の責任を認め、ご遺族勝訴の判決を下しました。

 これに対して、静岡県は広島高裁に控訴しました。すると、広島高裁は、令和5年2月15日、父母訴訟について静岡県の責任を否定し、ご両親敗訴の判決を言い渡しました。しかし、広島高裁は、同月17日、妻子訴訟について静岡県の責任を認め、一審である広島地裁福山支部と同じように妻子勝訴の判決を下しました。

 このように、警察官のAさんが過労自殺(自死)したという客観的な事実は同じなのに、広島高裁は全く逆の2つの判決を下しました。

 そこで、静岡県警事件最高裁判決は、妻子訴訟については広島高裁が正しいと判断し、父母訴訟については広島高裁が間違っていると判断したのです。その結果、妻子訴訟も父母訴訟もご遺族側の勝訴となりました。

3  電通事件最高裁判決との関係

 静岡県警事件最高裁判決を正確に理解するためには、最高裁が平成12年3月24日に下した電通事件最高裁判決(※3)とのつながりを踏まえる必要があります。

 電通事件最高裁判決の最も大切なポイントは、「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。」と述べたことです。要するに、最高裁は、「働き過ぎて、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、体や心を壊す危険性があることはもう常識です!」とはじめて述べたのです。

 そして、電通事件最高裁判決は、働き過ぎて「疲労や心理的負荷等が過度に蓄積」した結果、うつ病になったり、自殺(自死)に追い込まれたりした時点で対策をとっても遅いので、会社などの使用者が対策をとって回避すべき状態は、うつ病や自殺(自死)といった「結果を生む原因となる危険な状態の発生」であり、予見可能性の対象もこのような「危険な状態の発生」であるという考え方に立っています(※4)。

 もっとも、実際の裁判の実務では、電通事件最高裁判決が出た後も、うつ病や自殺(自死)といった「結果を生む原因となる危険な状態」とは具体的にどんな状態なのか、そのような状態となった時期はいつなのか、会社が行うべき対策をご遺族側と会社側のどちらが特定するのかといった論点が残りました。

 当弁護団が担当した事件でも、裁判官から「職場がどの時期にどんな対策をとればいいのか具体的に特定して下さい。」と指示されたことは何度もあります。もっとも、ご遺族からすると、亡くなったご家族の職場での働きぶりを実際に見ていた訳ではありませんし、職場の人事システムも知らないのですから、過労自殺(自死)を避けるため職場が行うべき対策の時期や具体的内容を特定することは不可能に近いといえます。そして、この特定に失敗して敗訴したことも何度か実際に経験しました。

 このような電通事件最高裁判決後に残されたいくつかの論点について、静岡県警事件最高裁判決は一定の判断を示しました。

4  静岡県警事件最高裁判決の重要ポイント

(1) 第1のポイントは、まず、うつ病や自殺(自死)といった結果が生じる様な危険な状態とはどのレベルの状態なのかについて論じた点にあります。

 最高裁は、Aさんの業務がAさんに「相当程度の疲労や心理的負荷等を蓄積させるもの」であり、このような業務が「精神疾患の発症をもたらし得る過重な業務」と判断しました。つまり、最高裁は、「過度」に疲労や心理的負荷等が蓄積した状態ではなく、その前段階である「相当程度」に疲労や心理的負荷等が蓄積した状態になれば、うつ病や自殺(自死)といった結果が生じる様な危険な状態が発生したと評価しているのだと考えられます。

 その結果、ご遺族側の立証のレベルは、「過度」ではなく、「相当程度」に疲労や心理的負荷等が蓄積した状態まで立証すれば足りるということになりました。過労自殺(自死)の事件の代理人を長年務めてきた弁護士としては、かなり立証のハードルが下がったと感じています。

(2)  第2のポイントは、Aさんの上司は、Aさんから勤務時間などの報告を受けていたことから、「A警部補の従事する業務の具体的な状況を把握し得なかったと解すべき事情はうかがわれない。したがって、A警部補の上司らは、A警部補が客観的にみて精神疾患の発症をもたらし得るような過重な業務に従事していることを認識することができた」と判断した点にあります。

 過労自殺(自死)の損害賠償訴訟では、会社から「そんなに働いているとは知らなかった。」という主張が必ずと言って良いほど行われます。

 しかし、最高裁は、少なくとも労働者が「精神疾患の発症をもたらし得る過重な業務」に従事していた場合は、上司が「業務の具体的な状況を把握し得なかったと解すべき事情」を具体的に立証しない限り、客観的に過重な労働に従事していたことを知り得たと認定すべきという考えに立っていると思います。

 このように、上司がどのような事情を認識または認識し得れば会社が責任を負うかという点について、「そんなに働いているとは知らなかった。」という反論は簡単には通りませんよ、と示した点は実務上大きな意味があると思います。

 (3)  第3のポイントは、少なくとも労働者が「精神疾患の発症をもたらし得る過重な業務」に従事していた場合であれば、遺族側に、うつ病や自殺(自死)といった「結果を生む原因となる危険な状態」が発生した時期や、会社が行うべき具体的な対策の内容などの特定を要求することなく、「A警部補の上司らは、A警部補の業務を適切に調整するなど、その負担を軽減するための措置を講じなければ、A警部補がその心身の健康を損なう事態となり、精神疾患を発症して自殺するに至る可能性があることを認識することができたというべきである。そうであるにもかかわらず、A警部補の上司らは、A警部補の負担を軽減するための具体的な措置を講じていない。」と判断して、静岡県の過失を認めた点にあります。

 特に国家公務員や地方公務員の事件では、予算に限りがありますし、簡単に人を増やすことができません。そのため、国や自治体から「予算ありませんし、人も簡単に採用できないので、業務を軽減したり、人を補充したりすることはできません。ご遺族が主張する対策を行うことは不可能です。」といった主張が行われ、実際に判決でもそのような主張が認められることがありました。しかし、最高裁は、そのような主張を明確に否定しました。そして、民間の場合は、より柔軟に業務量の調整や人員の増員が可能といえますので、当然にそのような主張は認められないでしょう。

 (4)  第4のポイントは、これはかなり専門的な議論なのですが、長時間労働によって過労自殺(自死)が生じた場合、どのような状態を労働時間と評価すべきかという論点について判断を示した点にあります。

 過労自殺(自死)が生じた場合、労働時間の考え方は単純化して大きく分けると、①使用者から仕事をしなさいと命令されたり、仕事をすることを義務づけられたりした時間を労働時間とする考え方と、②心理的負荷によって過労自殺(自死)が生じたのだから、業務によって心理的負荷を受けた時間を労働時間とする考え方の2つの考え方があります。そして、広島高裁の妻子訴訟は②の考え方で、父母訴訟は①の考え方でした。

 ①と②の考え方で大きく判断が分かれる場面は、持ち帰り残業や出張の移動が就業時間の前後に行われた場合です。ここも様々な議論がありますが、単純化すると、①の考え方では、持ち帰り残業は労働者が勝手に持ち帰っているので労働時間ではありませんし、就業時間の前後に行われた出張の移動時間は通常の通勤と同じなので労働時間と評価しません。一方、②の考え方では、持ち帰り残業も就業時間の前後に行われた出張の移動も業務によって心理的負荷を受けるので労働時間として評価します。

 このような対立があったのですが、妻子訴訟の最高裁は、「業務起因性判断の前提となる労働時間(勤務時間)とは、上記労働基準法上の労働時間に限られるものではなく、労働者が、業務のために必要な活動に従事していることが客観的に明らかであるといえるときは、使用者による明示的な時間外勤務命令に基づいているか否かや、使用者の指揮命令下に置かれているか否かといった点を問わず、これを業務起因性判断の前提となる労働時間(勤務時間)として考慮することができる場合があると解すべきである。」とした広島高裁の認定を、「原審の適法に確定した事実関係等」と判断し、海外研修の準備や事前会合の移動時間も労働時間として評価しました。

 このように、専門家の間では争いはあるものの、最高裁は少なくとも②の立場を否定するものではないことを明示した点に大きな意義があると考えます。

 (5)  第5のポイントは、最高裁が父母訴訟の広島高裁の形式的な事実認定を否定した点にあります。個人的な見解ですが、残念ながら、裁判官は能力的にも知性的にも感情的にも急速に劣化していると感じます。もちろん、優秀な裁判官も数多くいますが、頭でっかちで、社会を知らず、自分の地位を守ることだけに関心があるような、ヒラメ裁判官が大量に増殖しているのが現実です(もう個人的にはヒラメ裁判官はChatGPTと交代した方がまともな判断が出るのでは無いかと感じるくらいです。)。 

 過労自殺(自死)事件のヒラメ裁判官の事実認定はワンパターンで単純です。事実をバラバラに分解し、分解したバラバラの事実の心理的負荷は弱いと判断し、弱いバラバラの事実を最後に総合的に判断しても、やっぱり心理的負荷は弱いと判断するのです。

 実は広島高裁の父母訴訟は、このようなヒラメ裁判官の事実認定が行われた結果、ご両親が敗訴しました。

 しかし、最高裁は、そのような形式的な事実認定を否定し、Aさんの立場にたって事実を認定しました。従来の交番長としての業務に新人の指導業務が加わったこと、労働時間がおよそ2倍以上に増加して1か月当たり100時間を超えたこと、14日の連続勤務を2回行ったことなどを認定した上で、「A警部補が自殺直前の時期に行っていた業務は、A警部補に相当程度の疲労や心理的負荷等を蓄積させるものであったということができる。」と認定したのです。

 極めて常識的ですし、一般人の感覚からして素直に受け入れることができる事実認定だと思います。

5  最後に

 静岡県警事件最高裁判決が出た後、当弁護団で受任している過労自殺(自死)の損害賠償請求訴訟でも、最高裁判決を踏まえた主張立証を行いました。

 その結果、比較的短時間で和解したケースも複数見られます。是非当弁護団にご相談下さい。

※1 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/869/093869_hanrei.pdf

※2 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/868/093868_hanrei.pdf

※3 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/222/052222_hanrei.pdf

※4 八木一洋「電通事件/最高裁判例解説」法曹時報52巻9号・362~363頁

労働時間規制の適用除外を拡大する動きについて

1 労働基準法制研究会の労働時間規制に関する検討

 厚生労働省は、テレワークや副業・兼業といった多様な働き方が広がる中、労働基準法等の見直しに向けて、2024年1月から、「労働基準法制研究会」を立ち上げ、現行の労働基準法の課題と対応について議論してきました。

 そして、2025年1月8日に、労働基準法制研究会は、「労働基準法制研究会報告書」(以下「報告書」といいます。)を公表しました。

 報告書では、労働時間規制に関して、企業による労働時間の情報開示や連続勤務の禁止、「つながらない権利」等に言及している点で、労働者の長時間労働を防止し、生命・健康の確保に寄与する部分も一定程度ありますが、具体的な検討はまだこれからです。 

 他方で、①テレワーク時にみなし労働時間制を導入することや、②副業・兼業を割増賃金に関して通算しない取扱いにすることについて、労働基準法による労働時間規制の適用を除外する方向で検討が進んでいる点には注意しなければなりません。

2 テレワークにみなし労働時間制を導入することの問題点

 報告書では、テレワークは一時的な家事や育児への対応等の中抜け時間が存在し、実労働時間の把握が困難であることを理由に、テレワークにみなし労働時間制(実際に働いた時間にかかわらず事前に定めた労働時間働いたとみなす制度)を導入することが提示されています。

 しかし、テレワークは一般的にパソコン等を利用する業務がほとんどであり、パソコンのログなどの客観的な記録により実労働時間を把握することは可能です。

 また、テレワークに関する調査(2020年6月30日 連合)によると、テレワークの場合「通常の勤務よりも長時間労働になることがあった」という回答が51.5%、「深夜の時間帯(午後10時~午前5時)に仕事をすることがあった」という回答が32.4%あり、テレワークの場合に長時間労働になる傾向があることも示されています。

 テレワークにみなし労働時間制を導入することで、ますます長時間労働に歯止めがきかなくなる危険性が高まります。

3 副業・兼業の労働時間を通算しないことの問題点

 また報告書では、副業・兼業に関して、割増賃金の負担や煩雑な手続きによって企業側が副業・兼業の導入に消極的になっていることを指摘し、副業・兼業の割増賃金に関して労働時間を通算しない取扱いに制度改正を進めるべきであると提示されています。

 しかしながら、労働基準法制研究会に先立つアンケート調査で企業が副業・兼業を認めない理由として、「本業での労務提供に支障が生ずる懸念があるから」が79.6%、「情報漏洩の懸念があるから」が25.0%であり、副業・兼業の導入が進まない理由としては割増賃金の負担や労働時間の計算等の煩雑さ等が主たる要因ではありませんでした。

 そもそも、労働基準法38条で異なる職場でも労働時間を通算することとされている趣旨は、複数の職場で働く労働者の長時間労働を防止する点にあります。また、割増賃金も法定労働時間を遵守させ、長時間労働を防止する目的があります。しかし、そのような制度趣旨に反して、副業・兼業の拡大を進めるために労働時間の通算しない取扱いを制度化しようとしており、報告書においても労働時間を通算しない場合の副業・兼業の労働者の健康確保措置について具体的な検討は記載されていません。

 このように、副業・兼業の労働者について労働時間を通算しない取扱いが法制化されてしまうと、副業・兼業の労働者の長時間労働による被害が広がることが予想されます。

4 おわりに

 経団連は、「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」(令和6年1月16日付)において、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度が複雑な手続きや厳格な要件があるために導入されていない実態があるため、労使のコミュニケーションをもとに労働基準法の労働時間規制の適用除外(いわゆる「デロゲーション」)の範囲を拡大することを提唱しています。

 このテレワーク時のみなし労働時間規制の導入や副業・兼業の労働時間を通算しない取扱いは、この経団連の提唱する労働時間規制の適用除外(デロゲーション)の範囲拡大に対応する動きとみることができます。

 しかしながら、このような動きは、労働基準法等による労働時間規制によって、労働者の生命及び健康を確保することの重要性を軽視していると言わざるを得ません。

 労働時間規制の適用除外が安易に拡大されないように今後も労働基準法改正の動きを注視していかなければなりません。

Googleのタイムラインからわかる労働時間

2月26日の岡村弁護士のコラムで、Google社の提供するGoogleマップ内のタイムラインという機能について紹介がされています。今回はその続編とさせていただきます。

1 タイムラインの「元データ表示」

 タイムラインを見ると、時刻、滞在場所、滞在場所までの移動距離、移動手段(車、自転車、徒歩等)が出てきます。移動経路は線でつながれます。このタイムラインの表示は、GPSで個人のその時刻にいた場所を特定した上で、AIが、点をつなぎ合わせ、滞在場所と思われる付近の場所を滞在場所と推測して表示し、移動については移動速度を元に車、自転車、徒歩かを推測して表示しているようです。

 ところで、タイムラインのツールアイコンをクリックすると、「元データを表示」という項目が出てきます。この項目をクリックすると、その時刻にまさにいた場所が赤丸の点で細かく表示されます。赤点は膨大な量に上るため、問題のある個所のみ、調べることが現実的ではありますが、この表示に切り換えると、GoogleのAIが滞在場所と推測して表示した場所名と赤丸の場所がずれていることがあります。たとえば、赤丸の場所がコンビニエンスストアの前の道路にしかなくても、タイムライン上の滞在場所はコンビニエンスストアと表示されることがあります。

2 労働時間の証拠としての使い方

 タイムラインは、労災の被災者の労働時間の一証拠として使うことができます。

 タイムラインの場所、時間帯、仕事内容、所定就業時刻等を考慮して、始業時刻、終業時刻の認定に使うことができます。

 しかし、たとえば営業などで外回りをする等仕事で移動することが多い被災者の場合は、単純にいかないことがあります。AIの推測によるタイムライン上の滞在場所が一見仕事と関係なさそうな場合、会社から、その間は労働していないでサボっていた、と主張されることもあります。その場合は、タイムラインの表示を「元データを表示」に切り換え、滞在時刻と滞在場所の点をより細かく表示させ、被災者のその他の事情等も併せて人の頭で考え、推測します。

 たとえば被災者がよく行く建物の中に飲食店があり、タイムライン上は頻繁に飲食店で滞在しているかのように表示されても、「元データを表示」に切り換えた後の赤点の位置や滞在時間、飲食店の営業時間、被災者の職場の取引先が同じ建物に入っていることからすれば、被災者の場合は、飲食店ではなく職場の取引先に仕事で必要があって行っていたと説明することができることがあります。非常に細かい作業になりますが、うまく説明をすることができた時はうれしいものです。

Googleのタイムライン機能について

スマートフォンで地図アプリを利用されている方は多いでしょう。私自身も、初めて行く目的地を見つける際などにとても重宝しています。

地図アプリのなかでGoogle社が提供しているGoogleマップには、タイムラインという機能があるのをご存知でしょうか。この機能は、GPS機能によって何時から何時まで、スマホ(スマホの所持者)が、どこに所在したかという位置情報がスマホ内に記録されるという機能です。アプリ上で、カレンダーのように毎日のおおむねの行動履歴を振り返ることができるという、便利なような、恐ろしいような機能です(ただし、この機能がオンになっている必要があります)。

自死遺族に関する事件の中でも、例えば亡くなられた原因が働きすぎにあるような場合で、タイムカードなどの客観的資料が乏しいときや、タイムカードがあったとしても打刻時間が信頼できないような場合に、自死された方のスマホのタイムライン機能がオンになっていれば、会社内に所在していた時間が分かり、真実の労働時間を把握するための重要な手掛かりになることがあります。

かかるタイムラインの履歴は初期設定で無期限に保存されるものではないということに注意が必要です。Googleの仕様については確たる情報を把握しにくいのですが、一部ネットの情報によれば、タイムラインの自動削除機能のデフォルトの期間が、これまで18か月であったものが今年以後3か月になる(ただし、アップデート時にはユーザーに通知される)、とのことです。

そのため、自死の原因解明に位置情報が役立つかもしれないような案件では、これまでに比べて速やかにタイムラインを確認することが必要になると思います。なお、タイムラインは、パソコン上から見る場合、Googleマップにサインイン後、サイドバーから「タイムライン」をクリックすると確認することができます。

時間外労働規制の上限について

 働き方改革関連法では時間外労働の上限(臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間以内、月100時間未満、2~6か月平均で80時間以内)が法定され、2019年4月から適用されてきました。

 しかし、建設業界・医師業界・運輸業界については、人材不足等の影響により長時間労働が常態化していたことから、労働時間の上限規制の適用が5年間猶予されましたが、2024年4月からは上限規制が適用されることとなります。

時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 この上限規制には様々な例外が設けられており、その実効性については大きな疑義があります。この点については今後も検証していかなければなりません。

 少し話は変わりますが、私が住んでいる大阪では、2025年に大阪万博の開催が予定されております。

 報道によれば、大阪・関西万博を主催する2025年日本国際博覧会協会(万博協会)が、パビリオンの建設が遅れ2025年の開催が間に合わないことを危惧し、政府に、建設業界の時間外労働の上限規制を万博に適用しないよう要望し、10月10日に開かれた大阪・関西万博推進本部においては、出席議員らから「人繰りが非常に厳しくなる。超法規的な取り扱いが出来ないのか。工期が短縮できる可能性もある」「災害だと思えばいい」といった意見が出たという報道もありました。

 どのように解釈すれば建築納期に間に合わないことを「災害」と同様に考えられるのか全く理解できません。2023年7月31日のコラムで甲斐田沙織先生がご指摘されたとおり、東京オリンピック・パラリンピックの主会場である新国立競技場の建設現場で働いていた男性が、「身も心も限界な私はこのような結果しか思い浮かびませんでした」とメモに遺して自死した痛ましい事件がありました。

 今回の大阪万博は「いのち輝く未来をデザインする」ということをテーマに掲げています。

 労働者のいのちを守るため、今後も自分にできることをやっていきたいと思います。

裁量労働制の濫用に要注意です

厚生労働省は、2022年7月15日に、「これからの労働時間制度に関する検討会」での議論をとりまとめた報告書を公表し、裁量労働制の適用対象を拡大に向けて現在、労働政策審議会において議論が続いています。

本来、労働時間は1週間40時間、1日8時間が原則であり(労働基準法32条)、例外的に一定の要件を満たすとその労働時間の枠を超えて働くことが許されますが、割増賃金(残業代)の支払が義務づけられています(労基法37条)。

これに対して、裁量労働制とは、業務遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、実際に労働した時間数ではなく、労使協定または労使委員会の決議で定めた時間数だけ労働したものとみなす労働時間の算定制度であり、割増賃金も支払われません。

①システムエンジニア、デザイナー、記者、建築士など一定の専門業務を対象とする場合は「専門業務型裁量労働制」、②「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」につき「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」を対象とする場合である「企画業務型裁量労働制」があります。

厚生労働省は、2021年6月25日に「裁量労働制実態調査結果」を公表しましたが、特に注目すべきは、過労死ラインを確実に上回るといえる労働者の割合が、裁量労働制の非適用労働者が4.6%であるのに対して、適用労働者は8.4%ということです。裁量労働制の適用労働者の約1割が過労死ラインを超える長時間労働を行っていることが分かりました。

また、裁量労働制の適用労働者に対する調査において、専門業務型の40.1%、企画業務型の27.4%の労働者がみなし労働時間が何時間に設定されているのか「分からない」と回答しています。

そして「みなし労働時間」は1日平均7時間38分でしたが、実労働時間は平均9時間であったことも分かりました。つまり、実際の労働時間よりも短い「みなし労働時間」が定められ、それを認識していない労働者が少なくない実態が明らかとされました。

労働時間規制は、労働者の生命と健康を確保するために不可欠です。

労働時間規制の例外である裁量労働制の対象業務が安易に拡大され、裁量労働制が違法に悪用・濫用されれば、労働者はますます危険にさらされてしまいます。

今後も、労働者が違法な裁量労働制のもとで働かされていないかどうかを厳しく確認していく必要があります。