労災認定と民事上の損害賠償

私が当弁護団で担当している自死事件について、先日無事労災認定がなされました。

もっとも、我々弁護団の仕事は労災認定により終了するわけではありません。

多くの方々は、労災認定がなされるとそれにより遺族補償給付等として十分な補償が得られたものと考えてしまいます。

しかし、2022年8月1日付の当弁護団ブログ(作成者:松森美穂弁護士)にも記載のあるとおり、本来、遺族補償給付等の金額は、現実に既に支払われている賃金だけではなく実際に支払われていない未払いの残業代金等を含めた給付基礎日額より算出すべきであるところ、実際には、現実に既に支払われている賃金しか考慮されずに給付基礎日額が決定されていることも少なくありません。

また、労災は、あくまでも国の基準に基づき支払われる保険給付であり、いわば最低限の補償にすぎないため、しっかりと損害を賠償してもらう場合には、会社に対して民事上の損害賠償請求を行う必要があります。

遺族補償給付等と民事上の損害賠償のもっとも大きな違いは、死亡慰謝料が支払われるか否かという点にあります。

遺族補償給付等の場合、死亡慰謝料は含まれておりません。もっとも、民事上の損害賠償請求を行った場合、死亡慰謝料が支払われることが通常であり、その金額の相場は、一家の支柱の方であれば2800万円、それ以外の方々であっても2000万円〜2500万円にものぼります(但し、過失相殺等がなされる可能性もありますので、必ず当該金額が支払われるというわけではありません。)。

民事上の損害賠償請求をご自身で行うことは難しいと思います。

民事上の損害賠償請求をしたいがどうしたら良いか分からない等お困りの方がいらっしゃれば、お気軽に当弁護団にご相談ください。

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>>解決までの流れ 過労自殺(自死)の場合 -損害賠償-

精神医療に関する最高裁判決

 2023年1月27日、最高裁判所は、精神科病院に入院中の患者が無断離院して自死した事案につき、遺族の損害賠償請求を棄却する旨の判断を示しました。
 この事案の原審(高松高等裁判所)は、病院側に説明義務違反があったとする遺族の主張を認め、損害賠償請求を一部認容する旨の判断をしていました。
 判断が分かれたのは、この事案において「無断離院の防止策を講じている他の病院と比較した上で入院する病院を選択する機会を保障する必要性」があったか否かという点です。最高裁判所はこれを否定し、高松高等裁判所はこれを肯定しました。

 また、2019年3月12日、最高裁判所は、精神科に通院中の患者が自死した事案につき、遺族の損害賠償請求を一部認容した東京高等裁判所の判決を破棄して、遺族の損害賠償請求を全て棄却する旨の判断をしています。
 判断が分かれたのは、この事案において「本件患者が自死することについての予見可能性」があったか否かという点です。最高裁判所はこれを否定し、東京高等裁判所はこれを肯定しました。

 ところで、令和3年度の司法統計によれば、医療行為による損害賠償請求訴訟の認容率(訴訟提起後、判決に至った事案のうち患者側の請求が認められる割合)は約20.1%とのことです。これは、医療行為による損害賠償請求訴訟を含む金銭を目的とする訴え全体の認容率が約77.1%であることと比較して著しく低い数字であることは一目瞭然です。

 そのため、精神科医療に関連する事案については、これら最高裁判例で示されたような考え方も念頭に置きながら、慎重に検討する必要があると考えています。

>>遺族が直面する法律問題「医療過誤」

差押・仮差押の手続

 労災等で亡くなられた方のご遺族が、会社に対して損害賠償請求の裁判を起こし、裁判所が判決で損害賠償請求権を認めた場合であっても、会社が、判決で認められた金額を支払わないことがあります。とても悪質で、会社が、例えば土地・建物や銀行の預金口座等の財産があるにもかかわらず支払わない場合、会社の土地・建物の所在や銀行の預金口座を知っていれば、裁判所を通して「差押」という手続きをして、強制的に回収することができます。しかし、もし会社が財産はないと主張し、実際に会社の財産を発見することもできなかった場合は、判決で損害賠償請求権が認められたとしても、残念ながら回収をすることはできません。

 会社に対して裁判を起こした後、判決が出るまでの間は、時間が数年単位でかかることも少なくありません。中には、損害賠償を支払いたくない会社が、裁判所が判決を出すまでの間に、会社の財産を隠してしまうこともあります。そのような場合に備えて、有効な方法が「仮差押」という手続です。判決が出るまでの間に財産を隠してしまわないよう、裁判所を通して仮に会社の財産を差し押さえておく手続です。会社の財産を仮に差し押さえておくと、仮差押後、会社が土地・建物を第三者に売却をしたとしても、将来勝訴判決を得たら、仮差押をした部分から強制的に回収することができますし、銀行の預金口座は仮差押えが入った金額は払い戻しをすることができなくなります。この「仮差押」手続きは、裁判所に対して、「仮」に差し押さえる必要性を説明する必要がありますし、判決が出た後に行う場合と異なり、「仮」の手続のため、相当額の担保金を裁判所に納める必要があります。

 会社に対して起こした裁判の中で、会社への請求自体は認められる方向で進んでいたとしても、会社が、経営状態の悪さを理由に、高額な金額は支払えないと言い、低い金額での和解を提案することがあります。このような場合は、事前に仮差押を入れておくと、仮差押が入った部分の財産は少なくとも会社にあることが分かるため、和解する場合の金額を上げる手段としても有効です。

 このような手続も活用して、しっかり会社から支払いを受けるよう、工夫をしています。

>>損害賠償請求の解決までの流れはこちら