パパの育休取得とハラスメント

 出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにすることを目指して、2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年から段階的に施行されています。改正内容の一つとして、2022年10月1日から、産後パパ育休(出生時育児休業)が創設されました。

 産後パパ育休制度とは、現行の育児休業制度とは別に、子の出生後8週間以内に4週間まで取得が可能となる制度です。育児休業では、原則として1か月前までに労働者が申し出を行う必要がありますが、今回新設された産後パパ育休では、一部例外を除き、2週間前までの申し出が認められます。また、産後パパ育休は、2回に分割して取得することができます。さらに、産後パパ育休では、労使協定を締結しており、労働者側から育児休業期間にも就労する旨の申し出が事業主側に対してなされた場合に限って、労働者と事業主の合意した範囲内で、事前に調整した上で休業中に就業することが可能となります。

 今回の育児介護休業法改正の背景には、男性の育児休暇取得率の低さがありました。

 厚生労働省の報告によると、女性の育児休暇取得率は、過去10年以上8割台で推移しているのに対し、男性の育児休暇取得率は、上昇傾向にあるものの1割前後にとどまっていました。

 また、過去5年間に勤務先で育児に関わる制度を利用しようとした男性労働者の中で、企業における育児休業等に関するハラスメントを受けたと回答した者の割合は26.2%に上りました。

 このように、主に男性労働者が、育児のために育児休業、時短勤務などの制度利用を希望したこと、これらの制度を利用したことを理由として、同僚や上司等から嫌がらせなどを受け就業環境を害されることは、「パタニティハラスメント」ないし「パタハラ」という用語で社会的に注目されています。パタニティハラスメントは、女性に対するマタニティハラスメントと並んで、職場における育児介護休業等に関するハラスメントとされており、育児休業の取得を希望して解雇その他の不利益な取り扱いを示唆されたり、制度の利用を阻害されたり、制度を利用したことによる嫌がらせを受けるような場合には、これに該当し得るものといえます。

そして、決して無視することができないのが、パタニティハラスメントの心身への影響です。厚生労働省の報告によると、男性労働者がパタニティハラスメントを受けて心身にどのような影響があったかという問いに対し、「怒りや不満、不安などを感じた」が65.6%と最も多く、次いで「仕事に対する意欲が減退した」が53.4%と高かったのに加えて、「職場でのコミュニケーションが減った」(34.4%)、「会社を休むことが増えた」(16.0%)、「眠れなくなった」(15.3%)、「通院したり服薬をした」(6.9%)といったメンタルヘルスの不調も見逃すことができないものとなっています。

 産後パパ育休制度の創設もあって、パパの育児休暇取得に対する理解は深まりつつあるといえますが、子を持つママだけでなく、パパの仕事と育児にまつわるメンタルヘルスにも十分の配慮していく必要があるといえます。

産後うつへの公的支援の必要性

 2015~16年に亡くなった妊産婦357人の死因について、自死が102人で、がんや他疾患を上回り、最も多かったことが国立成育医療研究センターの調査で分かりました。うち92人が出産後の自死で、35歳以上や初産の女性の割合が高かったとのことです。産後うつが原因のひとつとして考えられています。

国立成育医療研究センター
人口動態統計(死亡・出生・死産)から見る妊娠中・産後の死亡の現状

日経新聞
妊産婦死亡、自殺が1位 成育医療センター調査

 世界保健機関(WHO)などによると、産後うつは、妊産婦の約10%が経験するとされていますが、近年、この割合が増えてきているようです。たとえば、2020年10月に筑波大学の松島みどり准教授らが実施した調査では、回答が得られた出産後1年未満の母親2132人のうち、産後うつの可能性がある人はおよそ24%であったとされています。新型コロナウィルスの影響で人と触れ合う機会が減ったことや収入の落ち込みなどの経済的不安が関係しているとみられています。

NHKニュース
母親の「産後うつ」 コロナ影響で倍増のおそれ 研究者調査

 私も産後気持ちが落ち込みがちになることがありました。産後うつがあることは知っていたので、日記をつけて自分の気持ちを整理したり、楽しみな予定を入れたり、心身の状態に気を付けながら過ごしていました。

 twitterやブログでは、「しんどくて限界だ、と公的機関に電話したが、しんどいですね、家族の援助を得て頑張ってください、というだけで何の助けにもならなかった。」などという当事者の声も見られます。

 男性育休制度も未だ普及していない現状で、家庭内でできる対策には限界があると思います。

  国立成育医療研究センターは、2020年に産後の自死予防対策プログラムとして「長野モデル」の開発を発表しました。新生児訪問時に保健師が母親にアセスメントを行い、その結果に応じて保健師・精神科医・産科医・助産師・看護師・小児科医・医療ソーシャルワーカーなど、多職種のチームでフォローアップを行うということです。全国への波及も期待されています。

国立成育医療研究センター
世界初!産後の自殺予防対策プログラム「長野モデル」を開発 ~産後の母親への自殺予防効果が証明される~

 産後うつを個人や家庭の問題とせず、国、地方公共団体が充実した支援制度を整えていくことで、救われるお母さん、子ども、ご家族が増えることを願っています。