知られたくない気持ち

家族が自ら命を絶ったなんて、知られたくない・・・

そう思っている遺族の方が多いのではないでしょうか。

遺族の方の中には、「交通事故で亡くなった」などと周りに話をしている方が多いようです。交通事故なら突然亡くなってもおかしくはない、一番周囲の納得を得やすいからだと思います。

自死は、弱い人がすること、不名誉なことだと思われているから、なかなか言いにくいのです。

私も、夫の死についてなかなか言えませんでした。

裁判官だった夫が自死したなんて知られたら、夫が今まで頑張ってきたことが全部失われてしまう、弱い人だったんだとか思われてしまう、子どもたちには知られたくないし・・・などが頭をよぎり、本当のことが言えませんでした。

家族の自死が周りに知られたらどうなるんだろう・・・
絶対に知られたくない・・・

その不安や気持ちはよくわかります。

家族の自死が周囲に知られることのないよう、訴訟をする場合でも名前や住所などが知られないように法的な手続きを行うなど、遺族の方の知られたくないという気持ちに十分に配慮するようにしています。

また、遺族の方の中には、「海外に仕事で行っているんですよ」など、まだどこかで生きているような話をしている方もいます。その方は、「あの子は、まだ生きていることにしたいから・・・」と言っていました。

まだ生きていることにしたい・・・

遺族の方の思いもそれぞれ、いろんな思いがあります。

当たり前のことですが、私たち弁護士が相談内容について口外することは絶対にありません。

ですので、安心してご相談ください。

自死遺族のための分かち合いの会について

「分かち合いの会」って聞いたことがありますか?

「分かち合いの会」とは、自死遺族の方が集い、お互いに思いや悩みなどを語り合うところです。

下記URLのとおり、全国各地で行われています。
http://www.izoku-center.or.jp/bereaved/wakachiai.html

こちらに掲載されていないところもありますので、お住まいの精神福祉保健センターに問い合わせてみてください。

私も、夫を亡くした自死遺族なので、分かち合いの会に参加したことがあります。

私はずっと、子どもたちに「パパは病気で死んだの」と話していたので、それが嘘をついているみたいで苦しくてつらくて・・・そのことを「分かち合いの会」で話したら、「無理に話さなくていいよ」「私も子どもには話していないよ」などと言ってもらえて、ほっとしました。

同じ自死遺族だからこそ話せること、わかることがあります。

「分かち合いの会」の中には、亡くした遺族の立場、子どもを失くした方、夫を亡くした方といったそれぞれの立場毎にグループ分けをし、語り合うところもあります。

また、同じ遺族とはいえ、何人かいる中では話しづらいという方のために、「分かち合いの会」の代表者の方が電話で個別に話を聴いてくれるところもあります。

最近では、最後の頃に、クールダウンするためのリラックスタイムが設けられるなど、できるだけみなさんの負担を軽減するような工夫がされています。

「ああ、私だけじゃないんだ・・・」「ここでは何でも話せる」など・・・

「分かち合いの会」は、そんな自死遺族のための集いです。

「分かち合いの会」で話をしたことはその場限りで、お互いにその場を離れたら口外しないことになっています。

一度、参加されてみてはいかがでしょうか・・・

「ある自死遺族の話」

(以下の事案は、特定を避けるため、若干、事実関係を変えています)

 ある日の市民法律相談会の時、「息子がギャンブルの借金を残して自死した、ついては相続放棄の方法を教えてほしい」との相談を担当しました。

 その方に息子さん借金の内容、いきさつについて聞き取り、「何とか立ち直ってほしくて、何度も大きな借金を穴埋めしてやった」「仕事も続かなくて、知り合いに頭を下げて雇ってもらったこともあったがすぐに辞めてしまった」との話のあと、「私はね、息子が死んだと聞いて、ホッとしたんですよ」とおっしゃいました。

 私は、16歳の時に父親が自死で亡くなっていますが、生前持病のために家族に負担がかかっていました。私はその男性に対して、「私は父親が自死した時に、雲が切れて青空が見えたような気持ちになりました。ああこれで大学に行けるだろう、結婚もできるかもしれないと思いました」と答えました。

 これを聞いてその方はわあっと泣き出し「おかしいな、泣いたことなどなかったのに」とおっしゃっていました。

 自死された方に生前必死に対応されてきたご家族が、自死によって解放された感じを覚えることは、決しておかしなことではないと思います。たとえ大事な家族であっても、生前必死に対応しなければならなかったなら、負担に思うのは自然です。だから、解放されたと思うのも、自然な感情だと思います。

 もし、ご家族が自死されて、あまり悲しくない自分を責めている方がいらっしゃるならば、そんな気持ちになるのは自分だけではないという事を知ってほしいと思います。そして、困っていることがあるならば、思い悩まずに当弁護団に相談に来ていただいて、解決の力にならせてほしいと思っています。

遺族の方の思いを大切に

 私は、広島で弁護士をしている佃祐世(つくださちよ)と申します。

 私は、約8年前、裁判官の夫を自死で亡くしました。夫は闘病生活からうつ病を発症し、ある日私のいる自宅で首をつり、その後夫の意識は戻らないまま、約3カ月後に亡くなりました・・・。今でも、私の発見がもう少し早ければとの後悔の思いが消えることはありません。その後悔と自責の念に苦しんでいますが、夫との約束、そして子どもたちや友人たちが支えてくれたおかげで、私は司法試験に挑むことができ、今は弁護士として活動しています。

 私は、夫を自死で亡くした経験から、自死は追い込まれた末の死であり、本人は生きたいのにどうしようもなくなって死んだのだと思っています。

 遺族の方の思いもいろいろですが、その置かれた状況によって様々な問題が発生するので、遺族の方は誰しも悩み、苦しみます。あまりの突然の出来事に戸惑い、何をどうしたらいいのか、わからなくなることさえあります。その苦しい状況の中で、遺族の方は、葬儀や公的な手続きのみならず、保険や相続関係の手続きなどもしなければなりません。それだけでも遺族の方には負担なのに、自死であるという理由で、手続きが円滑に進まないこともあります。私の場合、今思い返せば、夫の死が自死であることから、生命保険の入院保険部分がもらえなかったような気がします。あの時、弁護士に相談していればと後悔しています。

 弁護士の仕事は、交渉や訴訟だけではありません。遺族の方が置かれている状況に応じて、どのような法的な問題があり、どのように対処すべきか、アドバイスすることも大切な仕事です。遺族の方の中には、「何をどう相談していいのかわからないし、どうしたらいいのかわからないけど、先生だけが頼りなんです」と相談に訪れる方もいらっしゃいます。私は、いつも、「まずは、お話を聞かせてください」と言って、その方の抱える問題や背景事情などを伺うようにしています。相談を通して、遺族の方も何が問題で、その問題点についてはどう考えるべきか、少しずつわかってきます。そして、遺族の方の負担とならないよう、時効など差し迫った事情がない場合は、遺族の方にはゆっくり考えてもらうよう心がけていますし、できる限りのアドバイスをしています。

 私も、同じ自死遺族なので、これ以上遺族の方に悩みや苦しみを抱えてほしくないと思いながら、遺族の方の思いを大切に、相談や交渉などを行っています。

 まずは、遠慮なく、メールやお電話でご相談ください。私たち弁護団は、遺族の方に寄り添って相談を受けることをお約束します。