自死遺族が直面する法律問題

-不動産売買-

自死の事実を告げずに不動産を売ったらどうなる?

不動産の中で自死が行われた場合、残念ながら今の日本社会においては、「抵抗がある。」、「気になる。」と感じる人が少なくありません。

そして、普通の人から見て、住み心地の良さを欠き、居住の用に適さないと感ずることに合理性があると判断される場合、心理的な瑕疵(かし)(契約に適合しない)がある物件と評価されます。

このように、心理的な瑕疵(かし)(契約に適合しない)と判断されると、売買契約の解除、代金の返金、代金の減額、買主が不動産を購入するにあたって支出した費用の負担(登記の費用や引っ越し代など)などの法的責任を負う可能性があります。

したがって、遺族が自死の事実を告げずに不動産を売却することは慎重になる必要があります。

いつになれば自死の事実を告げる必要がなくなるのか?

いつになれば自死の事実を告げる必要がなくなるのかということについて、残念ながら明確な基準はありません。自死から売却までの期間、自死の場所(建物の内部か外部か)、建物の現状(取り壊しの有無など)、地域性ないし周辺住民の噂、自死の方法、売却に至る経緯などを考慮して判断せざるを得ません。但し、裁判では以下の様な判決が下されていますので参考にしてください。

自死が7年前の出来事であること、自死があった建物は取り壊されていること、自死の事情を知る近隣者の中にも数名の買受希望者がいたこと、当時適正価格であったことを理由に、「住み心地のよさ」を欠くと感ずることに合理性を認め得る程度ではなかったことを理由に、心理的瑕疵の存在を否定した。

大阪高裁昭和37年6月21日判決(判時309号15頁)

自死が購入の2年前に行われたとしても、購入目的は居住目的では無く転売目的であったこと、自死があった建物は既に取り壊されていること、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は具体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定できない一空間内におけるものに変容していることなどを理由に、心理的瑕疵の存在を否定した。

大阪地裁平成11年2月18日判決(判タ1003号218頁)

自死が購入の1年11か月前に行われたとしても、縊死ではなく睡眠薬の服用によるものであることや、病院に搬送された後に約2週間程度生存していたことなどから、心理的瑕疵の存在を肯定したものの、その程度は極めて軽微であるとした。

東京地裁平成21年6月26日判決(判例集未掲載)