運送会社に勤務していた若年労働者が上司から些細なミスに関して「クビだ!」「帰れ!」などと大声で怒鳴る、長い定規で机を叩く、殴る蹴る、襟首をつかんで体を引きずり回すなどの執拗なパワハラを受けてうつ病を発病した後、転勤によって症状が少し落ち着いたものの、問題となる上司の話になると症状が出るなど不安定な状態が続く中で、会社がパワハラの調査を実施した際に被害者の話を加害者である上司に伝えたという出来事をきっかけに急激に悪化して休職に至った事案において、行政訴訟において勝訴判決を得た事例(大阪地裁平成30年10月24日判決)

法的手続の内容

 パワハラの事案は、長時間労働が問題となる事案と異なり、立証の方法が非常に限定されます。具体的には、パワハラを直接見ていた従業員らがパワハラの様子を証言してくれるか、パワハラの言動が録音されているか、パワハラがメールや文書の形で行われていてそれらが残っているなどです。

 本件は、会社がある程度パワハラの調査を行っていました。その結果、パワハラを直接見ていた従業員らや加害者に対して聴き取りを行い、定規で小突いたこと、大きな声を出したこと、襟首を掴んだこと、及び胸ぐらをつかんだことまでは事実が確定していました。

 しかし、配置転換によってパワハラ上司から離れた後、急激に症状が悪化して心療内科に通院し、休職するまで6か月以上空いていたため、発病時期が問題となりました。

 労基署、審査官、審査会は、いずれも発病時期を急激に悪化して心療内科に通院した時期と考え、発病前6か月の間にはパワハラが存在しないため、業務外と判断しました。

 行政訴訟においては、パワハラを受けていた時期にうつ病等を発病した旨の医学意見書を提出すると共に、元同僚を証人尋問してパワハラの苛烈さや体調の変化を立証しました。

 判決では、パワハラを受けていた時期に精神障害を発病し、その後、配置転換によって一旦安定したように見えるものの、問題となる上司の話になると症状が出るなど不安定な状態が続いていたことから寛解しておらず、最終的に悪化して休職につながったとして業務起因性を肯定し、逆転勝訴判決を下しました。

法的手続を終えて

パワハラの事案のご相談をお伺いする度に立証の困難性を痛感します。本件はある程度会社が調査していたことや、元同僚が証言してくれたことによってパワハラの立証に成功しましたが、これほど上手く行く事例は多くはありません。
また、上司からパワハラを受けたことによってうつ病を発病した後、同じ上司の些細な言動で再燃することは一般的に見られる現象だと思われます。この判決は、そのような現象について、最初の発病が継続していると判断して勝訴判決を下しました。パワハラの停止後さらに時間が経過することで最初の発病が継続していないと判断される場合、どのような法律構成で裁判所を説得するかはこれからの課題であるといえます。

自死遺族が直面する
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