コンビニの店長が長時間労働やノルマなどによってうつ病を発病し、遺族や会社と音信不通になった後、誰にも告げずに転居した賃貸物件の中で自死した事案において、精神障害の発病を否定されて労災が不支給となり、行政訴訟の東京地裁において敗訴したものの東京高裁において逆転勝訴判決を受け(東京高裁平成28年9月1日判決)、賃貸人からの損害賠償請求も和解によって終了した事例

法的手続の内容

 故人には心療内科や精神科への通院歴がありませんでした。そこで、労災請求において、ご遺族が見た様子の変化、複数回退職を希望していたこと、業務日報などに店長として勤務する自信のなさを記載していたこと、会社やご遺族と音信不通になっていたこと、賃貸物件の中で何度も自死を試みたため内部の破損が大きかったことなどを踏まえ、うつ病の発病を主張しました。しかし、労基署、審査官、労働保険審査会においても、うつ病の発病は否定されて、労災は不支給となりました。労災においてうつ病の発病はICD-10という診断基準に基づいて判断されますが、1つ1つの診断基準に厳密に当てはめた場合、どうしても当てはまらない要件が出てくることがあります。労災が不支給となったのは、労基署等がICD-10の診断基準を厳密に当てはめようとしたことに起因すると思われます。

 行政訴訟においては、うつ病だけではなく適応障害という精神障害も追加して主張を展開しました。しかし、東京地裁は、業務によって適応障害を発病したことは認めたものの、発病後の事情を考慮して、業務と自殺との相当因果関係を否定しました。

 そこで、東京高裁に控訴したところ、東京高裁は、適応障害を発病した後にうつ病となったこと、故人がノルマに苦しめられていたこと、長時間労働に従事していたことなどを認定して、業務と自殺との相当因果関係を肯定し、労災と認めました。

 賃貸物件の問題は、内部の損傷が大きかった上に、賃貸人が心理的瑕疵を理由に損傷がない部分の原状回復費用を請求したため、請求額が多額になりました。そこで、原状回復費用は物理的な損傷に限定されること、現場の様子から希死念慮が強く責任無能力の可能性もあることを主張したところ、物理的な損傷部分と適正な将来賃料を支払うことで和解することができました。

法的手続を終えて

精神障害の発病をいかに立証すれば良いか悩み抜いた事件でした。当時、手に入るだけのうつ病や適応障害に関する文献を手に入れて読みました。大学の医学部の図書館に籠もったり、国立図書館から論文を取り寄せたり、知人の精神科医と何度もディスカッションをしてアドバイスをもらったりしました。この時の経験と知識は現在の当職の事件処理にとって大きな財産となっています。
その一方で、ご遺族には長期間にわたってご負担をかけました。「労災は10年かかる」という話もありますが、高裁までもつれると本当に時間がかかります。労災が出ないという判断をもらう度に、精神的にお辛くなったご遺族のお話を長時間お伺いしていたことを思い出します。また、通院歴がなかったため、何度も何度も様子の変化について聴き取りを行いました。このような聴き取りも、当時のことを思い出させてしまうという点でご負担だったと思います。

自死遺族が直面する
様々な法律問題について、
下記でさらに詳しい解説をしています。