自死遺族が直面する法律問題

-生命保険-

自死を理由に生命保険金が支払われない場合とは

保険法51条1号は、「被保険者が自殺」したとき、保険会社が保険金を支払う責任を負わないと定めています。

上記規定を受けて、生命保険約款には、責任開始の日(一般的には①契約の申込書への署名・捺印、②医師による検査又は告知、③第1回目の保険料支払いの全てが完了した日)から3年以内の自死については保険給付を行う責任を負わないとする自殺免責特約が定められていることが一般的です。

このように、多くの保険契約は、免責期間内に自死が行われた場合、保険金の支払いを免責する契約となっているのです。

免責

免責期間内の自死であっても保険金の支払いが認められる場合

では、免責期間内の自死について保険会社は常に保険金を支払わなくてよいのでしょうか。

まず、自死に関して保険会社が免責される趣旨は、そもそも保険契約は偶然発生する事故に備えて締結されるものであり、被保険者が故意に事故を発生させた場合には上記契約の目的に反するからであるとされています。

そのため、被保険者である故人が統合失調症などの精神疾患のため自由な意思決定に基づいて自己の生命を絶ったとはいえない場合は、自殺免責特約の適用がないと解釈されています。

したがって、自殺免責特約期間中の自死であっても、自由な意思決定能力を失っていたか、著しく減退していたと評価できるのであれば、自殺免責特約は適用されず、保険金の支払いが認められると解されています(大分地裁平成17年9月8日判決・判例時報1935号158頁奈良地裁平成22年8月27日判決・判例タイムズ1341号210頁甲府地裁平成27年7月14日判決・判例タイムズ2280号131頁、東京地裁令和2年7月20日判決)。

意思決定能力の喪失を立証するためのポイント

自死した故人の意思決定能力を判断するためには、自死に至る経緯、精神科を受診しているのであればカルテなどの医学的資料、周りの人たちの証言、自死に至る経緯や状況、労災認定がなされている場合は労働基準監督署が作成した資料など、必要な資料を早期に集める必要があります。

また、通院歴がある場合は、主治医に故人の様々な情報(自宅や職場での様子、遺書、亡くなった手段など)を伝えて、主治医の見解を確認することも重要です。

自死の直前の状況を知るために、「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」に基づき、警察に対して自死に関する調査結果(関係者に対する質問等)の説明を求めることが有用な場合もあります。

免責期間経過後の自死は原則として保険金が支払われます

自殺免責特約に定められた期間を経過した後に自死が発生した場合、遺族は無条件に保険給付を受けることができるのでしょうか。

免責期間経過後の自死は、生命保険契約とは無関係な動機、目的による自死であり、専ら又は主として保険金の取得を目的としたものとはいえないと推定されると解されています。

そのため、自殺免責特約の免責期間を過ぎた自死は、犯罪行為等が介在し、当該自死による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合でなければ、自死の動機、目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても、免責の対象とはならないと解されています(最高裁平成16年3月25日判決・判例時報1856号150頁)

保険契約時に精神疾患を告知していなかったら・・・

生命保険の見直しを行い、新たに保険契約を締結し直すことは通常よくあることですが、その際に故人の精神疾患について告知していなかったことを理由に、保険会社から契約を解除され、生命保険金の支払いを拒否されることがあります。

実際に支払を拒否された場合には、保険会社側が精神疾患等の事情を、誰がどの時点で認識していたかが重要です。保険会社が認識した後も契約が解除されずに一定期間が経過した場合には、保険会社が生命保険金の支払いを拒否することが許されない場合も考えられます。