息苦しさを感じる時代

 仕事が原因で精神障害に罹患し、その結果自死される方は本当にたくさんいらっしゃいます。令和元年に自死された方2万169人のうち勤務問題が原因・動機のひとつと考えられる方は1,949人だったそうです(厚生労働省『令和2年版過労死等防止対策白書』より)。

 私が自死の問題を心に留めるようになったのは、身近な方が自死されたことがきっかけです。その方は、明るく、趣味も楽しんでおられ、まったく悩んでいる様子は見えませんでした。亡くなられた状況からは、仕事が原因ではないか、と思われましたが、なぜなのか、なぜこのようなことが起こるのだろうか、と衝撃を受け、納得できない気持ちでいっぱいになりました。

 仕事が原因で心身の健康を失ってしまうのは弁護士も例外ではありません。弁護士仲間から、「仕事が心配で寝られない日が続いている。」、「仕事の悩みから精神科に通院し、服薬しながらなんとか働いている。」、「仕事量が多く休みなく働いており、仕事をしようとすると涙が止まらなくなる。」という悩みを聞くことも珍しくありません。

 SNSで、「コロナ禍で多くの人が苦しんでいるのに申し訳ないが、自分の夫は、いつも仕事に追われ続けていた。コロナ対策で在宅勤務となったことで、はじめて家族の時間を持ち、人間らしく暮らすことができた。」との書き込みを目にしました。人間らしく生きる、ということが非常に困難な時代に息苦しさを感じます。

 自死された方のなかには、日記やSNSなどにお気持ちを残されている方もおられ、それを読むと、周りの環境に追い詰められる様子に心が痛くなると同時に、これは、誰にでも起こりうる出来事なのだと感じます。自死された方やご遺族に原因があるのではなく、異常な周りの環境に原因があり、自死された方は、とても良心的な、ごく普通の感性をお持ちの方が多いように思います。もちろん、私が知っている限りあるケースについてではありますが…。

 私にできることは少なく、世の中が変わるのには時間がかかるかもしれませんが、微力ながらご遺族の方のお力になれるように、また仕事のせいで精神の健康を崩し自死されるというケースがなくなるように、活動していきたいと考えております。