学校でのネットいじめへの対応

1 学校でのネットいじめとのかかわり

 私は、インターネット上の誹謗中傷事案を取り扱っていますが、近年、学校でのネットいじめ事案の相談を受けることが多くなりました。

 学校でのネットいじめ事案においては、一般的なインターネット上の誹謗中傷事案で求められる手法(プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求等)だけでは十分な解決には至らないこともあり、特殊な領域としての対応が求められることになります。

2 学校でのネットいじめの具体例

⑴ 使用されるアプリ

 かつてはネット掲示板(学校裏サイトなど)がネットいじめの温床とされていましたが、今日はSNSが利用される可能性が圧倒的に高くなっています。SNSの中でこどもの利用頻度が高いのはTwitter、LINE、高校生はInstagramやTicTokなどを使っていることもあります。また、オンラインゲーム(フォートナイト、荒野行動など)のボイスチャット機能などを用いていじめが行われることがあります。 

⑵ ネットいじめ行為の類型

 ネットいじめ行為の類型は、使用するアプリの機能に応じて多様に変化しています。典型的なパターンとしては、①SNSでなりすましアカウントを作られた②SNSで虚偽の情報やプライバシー情報を拡散された、③自分の写真、動画を勝手に加工され、SNSで拡散された、④LINEなどのグループトークを外された、⑤いじめられているところを動画撮影され、動画投稿サイト等に拡散された、⑥SNSで過去の交際時の画像を拡散された(リベンジポルノ)、⑦オンラインゲームで、グループから外された特定のこどもへの集中攻撃が繰り返されたなどが考えられますが、今後も新しいアプリが開発されるたびに新しいパターンのいじめ行為が現れると予想されます。

3 学校でのネットいじめの現状

⑴ 統計上も過去最多

 文部科学省は、全国のいじめ事件の統計を取っており、毎年、調査結果の公表を行っています。2021年10月13日に公表された、「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、ネットいじめの件数は1万8870件で過去最多(平成29年度1万2632件、平成30年度1万6334件、令和元年度1万7924件。)となっています。学校が把握していないネットいじめも多数あると思われ、潜在的な件数はもっと多いことが予想されます。

 また、小中学校における不登校の件数も過去最多(19万6127件。)、小中高等学校におけるこどもの自殺も過去最多(415件。なお前年度は317件。)となっています。学校現場が現在非常に危険な状態となっていることが統計上も明らかとなっています。

⑵ 近時の学校でのネットいじめの特徴

 小学生でもスマホを持ちSNSを使うことが珍しくなくなった現在では、ネットいじめの特徴も変化が見られます。SNSを利用する場合、コミュニケーションの相手はクラスや友人などであり、多くの場合、現実に存在する人間関係を補完するツールとしてSNSが用いられています。その意味で、現在のネットいじめは掲示板などで見知らぬ人から攻撃されるようなパターンよりも、現実に存在する人間関係を前提に、ネット上でいじめ行為が行われるパターンの割合が増えています。つまり、ネットいじめの存在が確認できた場合、いじめ行為はネット上にとどまらず、クラスや部活動などリアルな人間関係の中にも広がっている可能性を疑う必要があります。

4 学校でのネットいじめへの対処法

 ネットいじめの多くがリアルな人間関係を前提としている以上、2つのアプローチを併用する必要があります。具体的には、第三者委員会の設置など学校や教育委員会を通じていじめの実態解明を行うアプローチと、発信者情報開示請求等のネット上のいじめの痕跡をもとに証拠収集を行うアプローチです(なお、小学生が当事者となっている事案では、刑事責任能力との関係で刑事事件として解決することが困難なものが多いです)。

5 プロバイダ責任制限法改正

 SNSなどで匿名の者から誹謗中傷を受けた際、被害回復を図るため、加害者を特定することを「発信者情報開示」といいます。

 発信者情報開示は、プロバイダ責任制限法という法律を根拠として行われますが、同法が改正されたことに伴い、令和4年10月1日から、新たな開示手続の運用がスタートしました。

 従前、①ウェブサイトと②プロバイダ(携帯電話会社等)に対して、それぞれ別の裁判手続を行う必要がありましたが、新たな開示手続では、①と②を1つの手続でできるようになり、開示の費用や時間が短縮されることが期待されています。

 もっとも、ツイッターなどは同制度での開示手続に強い抵抗を示しており、必ずしも従前の制度に比して円滑に開示できているわけではない印象です。

 また、従前、海外法人(ツイッター、メタ、グーグル等)を相手方とする場合、海外へ裁判所類を送付したりや英訳したりするなどの手間から裁判がはじまるまで6ヶ月ほどの期間を要することがありましたが、令和4年度中に、主要なIT大手企業については、法務省と総務省の要請に従い国内での登記が完了したことから、上記手間はかからなくなりました。

 インターネット関係の事件は、数ヶ月で運用等が変更される非常に流動性のある分野であり、例えば、イーロン・マスクがツイッターを買収しましたが、このことが今後の開示手続でどのような影響を与えるのかも注目されています。

死と法律

1 死の定義

 死の定義(時期)については、医学、法学、哲学、文化学などによって様々な議論がされています。

 学説を俯瞰すれば、死は瞬間的なものではなく段階的なプロセスによって生じるものの、「身体の死」(身体機能(Body機能)の停止)か「認知機能の喪失や脳の死」(人格機能(Person機能)の停止)のいずれかを死の時期とする説に大別されるようです(シェリー・ケーガン「「死」とは何か」文響社 36頁、ナショナル・ジオグラフィック「生と死 その境界を科学する。」日経ナショナルジオグラフィック社)。

 それでは、法学的には死はどのように定義されているのでしょうか。

 実は、法律は「死」について積極的な定義をしておらず、心臓停止・呼吸停止・瞳孔反射の喪失で判断する三徴候説という学説が有力です。

 しかし、生命維持技術の発展に伴い、医学においては全脳死をもって死亡時期と考える見解が支配的になったため、現在では、法学においても、三徴候説に動揺が生じ、未だに決着を見ない論争が続いています(西田典之「刑法各論 第四版補訂版」弘文堂 9頁)。

 なお、民法においては、同一事故で複数の人が死亡した場合についての同時死亡の推定(民法32条の2)、7年以上行方不明の者について法律上死亡したものとしてみなす失踪宣告(民法30条)が規定されています。

2 死の法的効果

 民法上の死亡の効果としては、相続が発生します(882条)。

 また、明文の規定はありませんが、死亡によって、人は権利能力(法律上の権利・義務を持つことができる資格)を失うといわれています。

3 死者に対する名誉毀損

 近似、SNSの普及により、死の事実が虚実織り交ぜた形で遺族の承諾なく拡散されるような事案を目にします。

 そのような場合、死者に対する名誉毀損が成立するか否かが、遺族による同記事の削除請求等の可否との関係で問題となります。

 まず、刑法上は、虚偽の事実によって、死者の名誉を毀損した場合には、名誉毀損罪が成立します(刑法230条2項)。

 しかし、民法上は、上記のとおり、人は死亡によって権利能力を失うため、死者は名誉権という権利を持たず、死者に対する名誉毀損は成立しないといわれています(斎藤博「故人に対する名誉毀損」判評228号33頁、東京地判平成23年4月25日ウエストロー2011WLJPCA04258004)。

 そこで、死に関する事実を拡散等された遺族は、死者の名誉権ではなく、遺族自身の「敬愛追慕の情」(死者を想う気持ち)という権利に基づいて、削除請求や損害賠償請求の余地があるという解釈が編み出されました(東京地判平成23年4月25日ウエストロー2011WLJPCA04258004、東京地判平成22年12月20日ウエストロー2010WLJPCA12208003)。

 これは、死者自身の名誉権を認めるドイツ法的な解釈ではなく、死者に対する近親者の愛情を権利として認めるフランス法的な解釈です。

 死者に関する名誉毀損は、非常に難しい法律問題ですが、遺族の方が少しでも平穏な日々を送れるよう我々も日々勉強を重ねておりますので、いつでもご相談ください。

ネットいじめ問題

 はじめまして、弁護士の田中健太郎と申します。

 インターネット問題やマンション問題に取り組む中で、自死に関する案件を取り扱うようになり、自死遺族弁護団に加入することとなりました。

 文部科学省が2020年に調査した不登校等調査によれば、児童・生徒の自死や不登校の原因について、ネットいじめが1万8870件と過去最多となりました。

 世界的にもネットいじめ問題は深刻さを増しており、韓国ではアイドルがプライバシーの拡散を受けたり、誹謗中傷を受けたりすることで自死するというケースが跡を絶ちません。

 日本が行っているネットいじめ対策としては、プロバイダー責任制限法の改正に伴い発信者の特定に要する期間の短縮が図られたことや侮辱罪の刑罰に新たに1年以下の懲役・禁固又は30万円以下の罰金を加えたこと等が挙げられますが、教育現場でのネットいじめの対応はなおざりであると言わざるを得ません。

 私が執務を行う町田市でも小学6年生がネットいじめにより自死したとの報道があります。いじめに使用された端末は、文部科学省肝いりのGIGAスクール構想(児童・生徒の1人1台パソコン端末を配布して教育現場に活用する構想)で配布された学習用デジタル端末を用いたもののようで、デジタル端末の技術的な側面を偏重した教育の結果ともいえます。

 インターネットの問題が伴う自死に関して悩まれている方は、ご遠慮なく弁護団にまでご連絡下さい。