子供の自殺が起きたときの背景調査の指針が改訂されました

1 背景調査の指針の改訂

 子どもの自死が発生した場合には、必ず「背景調査」を行わなければなりません。

「背景調査」に関しては、「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版)(以下「旧指針」といいます。)が策定されていました。

そして、令和7年12月、旧指針が改訂され、「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」(以下「新指針」といいます。)が策定されました(※1)。

2 改訂の経緯

改訂の経緯としては、子どもの自死者数が令和6年に過去最多となる一方で、調査の長期化、調査内容のばらつき、詳細調査への移行件数が僅かであること等の課題が指摘されるとともに、旧指針の策定から10年以上経過していることがありました。

詳細調査が行われていない実態は、令和6年に、当弁護団の西川弁護士も指摘しています。当弁護団にも、旧指針に即した対応がなされていない相談が多く寄せられています。

3 改訂の概要

 改訂の概要は、以下のとおりです。

⑴ 子どもの自死が起きたときの背景調査全体の流れの明確化

⑵ 背景調査に関する平常時からの備え・子どもの自死防止に係る記載の充実  

⑶ 子どもの自死が起きたときの背景調査等に係るご遺族への説明様式の作成

⑷ 基本調査の様式の作成等及びご遺族に対する基本調査結果の説明に係る記載の充実

⑸ ご遺族に対する詳細調査に係る意向確認書の作成等

⑹ 詳細調査の一部であるアンケート調査や聴き取り調査の先行実施等の明記

⑺ 体罰・不適切な指導等が背景にあると疑われる場合等の調査組織の考え方の明記

⑻ 詳細調査における標準的な調査項目及び詳細調査における調査結果の説明等の明記

⑼ 背景調査といじめの重大事態調査との関係性の整理の追記

 以下では2点述べます。

 1点目に、上記の概要の⑶に関して、新指針では、「様式1を活用し、背景調査等について説明」と記載されています。様式1には基本調査や詳細調査の説明、そしてご遺族の要望がある場合には詳細調査に移行するとされていることも記載されています。また、上記の概要の⑸に関して、新指針では、「遺族からの要望について、電話や口頭でのやり取りに終始し、学校と遺族との情報共有が十分に図られず、詳細調査への移行が遅れる可能性もあることから、意向確認書(様式3)を活用して、遺族から要望を聴取すること」と記載されています。

 旧指針のときは、詳細調査に移行すべきなのに移行していないことや、移行したとしても、ご遺族が強く求め続けた結果移行したに過ぎず、移行までに時間を要してしまうこと等がありました。そもそも基本調査や詳細調査があることや、ご遺族の要望がある場合には詳細調査に移行するとされていることすらもご遺族に十分に説明されていないことがありました。

 新指針に沿った対応において実際に様式が活用される等され、詳細調査が必要な場合に速やかに詳細調査に移行する件数が増えるよう、期待しています。

 2点目に、上記の概要の⑺に関して、新指針では、考えられる調査組織の体制が示されています。

ややこしいですが、一般に第三者調査委員会と呼ばれるのは、「調査対象となる事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)」によって構成された組織です(※2)。

他方で、「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂版)(以下「ガイドライン」といいます。)では、調査組織の体制に関して、「学校や設置者の職員のほか(必要に応じて)第三者を加える体制」と「第三者のみで構成する体制」が示されており、第三者のみで構成する体制が第三者委員会と呼び替えられていました(※3)。

新指針でも、ガイドラインと同様に、「学校や設置者の職員のほか第三者を加える体制」と「第三者のみで構成する体制」が示され、第三者のみで構成された調査組織が第三者委員会とされています(※4)。 そして、新指針では、公平性・中立性を確保する必要性が高い場合の具体例が記載されています。例えば、体罰や不適切な指導等が背景にあると疑われる場合には学校の設置者が主体となり、第三者委員会での調査の実施を検討すべきであると記載されています。ま

た、これまでの経緯から学校の対応に課題があったことが明らかであるなど学校と関係する遺族との間に不信感が生まれてしまっている場合については、第三者委員会での調査の実施を検討すべきとまでは記載されておらず、第三者を複数名加えるなどにより、調査結果の信頼性を高めることが必要であると記載されています。

いじめの重大事態については、子どもが登校できている場合や不登校の場合、学校の対応に課題があったことが明らかで、学校と保護者との間に不信感が生まれてしまっている場合でも、ガイドラインの記載やその考え方を根拠として、学校やその設置者が学校主体での調査を譲らないことがあります。新指針でも考えられる調査組織の体制が示されているので、新指針の考え方は、把握しておく必要があると思われます。

4 終わりに

 旧指針から新指針への改訂に伴い、背景調査の一般的な目的に関して、旧指針で明記されていた「今後の自殺防止に活かすため」との目的は、「学校及び教職員等が事実に向き合い、学校全体で再発防止に取り組むとともに、今後の学校における自殺防止に活かすため」と加筆されています。また、旧指針では明記されていなかった「児童生徒に係る自殺対策に社会全体で取り組むための一助とするため」との目的が明記されています。

 繰り返しになりますが、当弁護団にも、旧指針に即した対応がなされていない相談が多く寄せられています。 「学校及び教職員等が事実に向き合い、学校全体で再発防止に取り組み」、「自殺対策に社会全体で取り組むための一助とするため」にも、少なくとも新指針に沿った対応がきちんとなされ、これまで以上に公正・公平な調査が行われるよう望みます。

※1 なお、「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」と、「子供」から「児童生徒」に名称が改められましたが、以下では「児童生徒」ではなく「子ども」との表記を用います。
 また、新指針に沿った対応に係る留意事項として、令和8年2月1日以降に発生した子どもの自死については新指針に沿った対応を行うこととされ、それまでに発生した子どもの自死については新指針も参考としつつ対応することとされています。

※2 今井聖「子どもの自殺問題の社会学」108頁

※3 今井聖「子どもの自殺問題の社会学」109頁

※4 なお、ガイドラインと全く同じ内容になったというわけではなく、ガイドラインでは「学校や設置者の職員のほか第三者を加える体制」について「必要に応じて、弁護士(中略)等の専門家が参画した調査組織」と記されているのに対して、新指針では「必要に応じて」という表現が記載されていません。旧指針では「調査組織の構成については、弁護士(中略)等の専門的知識及び経験を有する者であって、調査対象となる事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)について、職能団体や大学、学会からの推薦等により参加を図ることにより、当該調査の公平性・中立性を確保するよう努めることが求められる。」と記載されていたのに対して、新指針では「調査の公平性・中立性を確保することが求められる。」と記載されている(努めることではなく、確保することが求められている)ことからも、原則として第三者の参加が求められているのではないかと思われます。

限定承認という選択肢

 法律相談を受けていると「相続財産がプラスかマイナスかわからないので、相続放棄ではなく、とりあえず限定承認をしたい」とのご相談を受けることがあります。限定承認とは、プラスとなる相続財産の限度で、亡くなった方の債務などを弁済する手続きです。プラスの財産があるかもしれないから限定承認手続きをしたい、と思われるのは当然のことです。

 しかし、限定承認の手続きは、相続放棄の手続きと比べると、手間も時間もかかる制度となっています。ざっくりと説明しますと、まず「限定承認の申述書」を裁判所に提出します。裁判所が限定承認の申述を受理したら、官報公告を出したり、債権債務の調査をし、不動産や動産などの換価を行ったり、預金の解約手続きを行います。その後、集めた財産をもって、各債権者に弁済を行います。相続放棄の手続きは、(語弊があるかもしれませんが)簡易な書面を裁判所に提出すればよいだけですので、ご自身でも対応が可能ですが、限定承認の手続きとなると、なかなかご自身で対応するのは難しいように思います。

 相続放棄をするのか、限定承認をするのか、放棄の期間の伸長を行うかは、財産の有無ももちろんですが、誰が相続人となるのか、損害賠償請求をするのか/されるのか等、さまざまな考慮要素から判断が必要です。相続放棄や放棄の期間の伸長は、期間が決まっているため、どのような手続きをとれば良いか迷われる方は、弁護士にご相談頂くのがよいと思います。

>> 自死遺族が直面する法律問題「相続」はこちら

証拠保全の重要性と力強い味方

 受任した案件について、証拠保全という手続きをとることがあります。

 証拠保全手続きの概要等については、2024年8月26日の坂井田弁護士のコラムに詳細がありますのでぜひご確認ください。

 自死に関連する事件においては、当事者の方がお亡くなりになっていることもあり、証拠を取得することが困難であることから、証拠保全手続きをとることがあります。

 証拠保全手続きにおいては、相手方(会社等)が保有している証拠を確保することになるのですが、現代においてはその証拠が紙媒体ではなくPC内やサーバー内にデータという形で保存されていることも多くあります。そうすると、我々弁護士であっても、どこにどのような形で証拠が保存されているのか、証拠を見つけたとしてもそれをどのように読み解けばいいのかということが分からないことがあります。

 そのため、証拠保全においては信頼するSEの方に同行していただくことが少なくありません。

 先日、当弁護団で講師を務めていただいたことも有るSEの方に証拠保全に同行して頂きました。

 そのSEの方は、保全の現場において裁判官や相手方に対して、証拠の探し方や証拠の見方の解説までしておられスムーズに証拠を確保することが出来ました。

 依頼者の方の権利を守るため、専門家のお力をお借りすることの大切さを実感した瞬間でした。  身近な方が自死によって亡くなった場合、今後どうしてよいか考えることすら出来ない状況もあるかと思います。そのような場合には、当弁護団にご相談ください。

宇都宮地裁に葬儀社を被告として提起した訴訟で勝訴

当弁護団の弁護士生越照幸、弁護士和泉貴士、弁護士松森美穂がご遺族らの代理人として宇都宮地方裁判所に提起した裁判が、先月ほぼ全面的に勝訴し、地元のニュースでも取り上げられました。

Yahooニュース「無実の罪で解雇、賠償命令 男性死亡、栃木の葬儀社」

本件は以下のような事案です。
葬儀社においてある従業員が、「葬家に返金するから」と事務員から金員を騙し取っていたという事案が発覚したところ、社長が、別の従業員のUさんも共犯に違いないと決めつけて、Uさんに対し、業務上必要であるかのように説明して、伝票に詐欺への関与を窺わせる内容を記載させて、警察に突き出しました。Uさんは犯行への関与を完全否定しましたが、社長はUさんに懲戒解雇を通知し、懲戒解雇後もUさんを犯人扱いし続けました。Uさんは、詐欺の容疑者にされたことで、再就職もできない、孫にまで迷惑がかかると思い悩み、うつ病を発症して自死しました。

判決では、Uさんが犯行に関与していなかったと認められました。
そして、Uさんが一方的に解雇されたことによって極めて強い心理的負荷を受けてうつ病を発症して自死したことが認められ、葬儀社に賠償金の支払いが命じられました。

このように大変痛ましい事件ですが、ご遺族が地元の弁護士に相談するも上手く進めてもらえないということが2回続いたそうです。
その後、ご遺族が当弁護団にご相談してくださり、葬儀社を被告として損害賠償請求訴訟を提起し、勝訴判決を得ることができました。

自死が関わる事件は専門性が高いです。たとえば自死に至るまでの精神障害の発病については医学的な議論がありますし、精神障害を発病する原因が何かという点についても、多角的な検討が必要になります。そのため、自死に関する事件を取り扱った経験のある弁護士でなければ、どのように進めてよいかわからず、右往左往するということがあると思います。

ですから、別の弁護士に既に頼んでいる方でも、セカンドオピニオンを聞く目的等で当弁護団にご連絡くださっても結構です。 まずはお気軽にお問い合わせくださればと思います。

世界の自死遺族団体について・2

こんにちは、弁護士の細川です。

2025年3月3日の弁護士ブログで「世界の自死遺族団体について」というタイトルのコラムを書きました。

その後、世界の自死遺族団体とコンタクトをとるべく諸々アクセスしてみました。

その結果、アメリカのAlliance of Hopeというグループとコンタクトがとれました。

月に一度発行されるNewsletterを送ってもらっています。

Newsletter、本当は原文で読めるとよいのですが、翻訳機能を利用して読んでいます。

(いつかは原文で読めるようになりたいものです。)。

November 2025のnewsletterに「退役軍人自殺の危機への対処」というタイトルの記事がありました。

同記事によると、アメリカでは「2001年以来、15万5,000人以上の退役軍人が自殺で命を落とし、退役軍人省(VA)のケアを受けている人のうち2,400人を含む、毎年平均約6,500人が死亡している。」とのことです。

さらに、「退役軍人省は、2024年にメンタルヘルスケアに166億ドル、自殺予防に5億5,900万ドルを割り当てるという多大な取り組みを掲げているにもかかわらず、自殺を減らす取り組みの成功は限定的である。」とも言及されていました。

かなりの数の方が亡くなっていて、対策のために巨額の予算があてられています。

以前、「帰還兵はなぜ自殺するのか」という本を読んだことがあるのですが、2015年に発行されたものでした。

アメリカの帰還兵の自死問題は、なかなか根深いものだと感じた次第です。

インターネット・SNS等におけるいじめ

1 当弁護団でご相談やご依頼を受けている事件でも、また弁護団員が弁護団外で対応している事件でも、いじめのご相談を多く受けておりますが、最近はLINEやX(旧Twitter)、InstagramなどのインターネットやSNS等においていじめが行われているケースも多いです。
 特にLINEは現代では連絡手段としてもはや必須ともいえるツールであり、スマートフォンを持っている人であれば小中学生であってもよく利用しているため、そこでのトラブルは自然と多くなっています。

2 グループLINE内でのいじめの場合は、親や教員などに見られにくい空間であるため抑止が効きにくく、また簡単に一人対複数の関係が生まれやすい状況であるため、そもそもいじめが発生しやすい環境です。
 加えて、面白おかしくしたスタンプであれば直接言葉にするよりも罪悪感なく攻撃的な内容のメッセージを送ることができ、さらにそのスタンプに便乗して他の者も同様の内容を送信するなどによりエスカレートしていきやすいという特徴を持っていることから、いじめが重大化しやすいものです。
 さらに、このようなグループLINE内での悪口等からいじめに発展した場合、上記のような特徴だけでなく、教員においても、学校外で生じた事象であるとして積極的に関与しない(あるいは関与すべきでない)と考えている場合が多々あるという問題があり、その結果、いじめの発見の遅れや対応の不十分さなどを招いてしまうことも多いです。

3 先日(令和7年11月21日)、こども家庭庁と文部科学省の共管で設置された「いじめの重大化要因等の分析・検討会議」による分析及び議論の結果が取りまとめられた「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」が公表されました。
 その中の「いじめの重大化につながり得る要素・特徴」の項目においても、「インターネット・SNSにおけるいじめ」が挙げられており(45頁)、やはりインターネットやSNSではいじめが発生しやすいだけでなく、重大化しやすいことが明記されています。
  上記留意事項集では、実際のいじめ重大事態調査の報告書から読み取れた重大化のプロセスも記載されていますが、やはりSNS上のいじめは様々な要素からエスカレートしやすいこと等の特徴や学校が適切な対応を行わなかったことなどから、いじめが重大化したケースの存在が挙げられています。

4 インターネットやSNSにおけるいじめを発見した場合などには、上記のように重大化しやすく、また教員の対応も不十分になりやすいという問題があるという意識を持った上で、「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」の記載なども踏まえていじめ解消への対応に当たる必要があります。
 そして、いじめの解消のためには、言うまでもなく教員による調査や指導が不可欠です。したがって、学校外で生じた事象であることを理由に調査や指導等の対応を行わない教員に対しては、学校外で生じた事象(グループLINE内でのからかいや暴言等)がきっかけであったとしても、その事象により児童・生徒間の関係がこじれ、クラスや学校内でも人間関係等に問題が生じているのであれば、教員としてその解消等に努める必要があり、ましてやいじめが生じているのであればいじめ防止対策推進法等に沿った対応が必要となることを教員に理解してもらう必要があります。

 当弁護団の弁護士には、いじめによりお子様などが自死された事案に対応することはもちろんのこと、普段から学校や教育委員会などと関わっている弁護士もいるため、上記のような重要な点を学校現場に周知する取組みも引き続き行ってまいります。
 このような活動の中で蓄積されたノウハウ等が弁護団内には集積していますので、いじめによる自死等の際にはお気軽にご相談ください。
 なお、「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」には、その他にも「いじめの重大化を防ぐための対応」や「いじめの重大化につながり得る要素・特徴」などがまとめられていますので、いじめ問題への対応にあたってはご参照いただければと思います。

>> 解決までの流れ「子どもの自死(自殺)の場合」はこちら

弁護団で共同受任することの意味

 弁護団事件の場合、他の事務所の弁護士と共同受任することが少なくありません。

 弁護士が複数名関わることのメリットは、役割を分担・経験を共有しながら方針を決定してより良い解決につなげることが可能になるということです。

 他方、共同受任することのデメリットは何だろう、と少し考えたのですが、特に思い当たりませんでした。
  「弁護士費用が2人分かかるのでは?」という質問も時々寄せられますが、そのようなことはありません。その意味で、相談者・依頼者の立場からみても、複数受任体制にはメリットが大きいと思います。

 また、自死遺族支援弁護団に所属する弁護士の事務所は、いくつかの地域に点在していますから、依頼者と対面で打ち合わせをしたり、現地調査をしたりする場合は、地理的関係を踏まえて共同受任し、依頼者と距離の近いところで仕事をしている弁護士が対応することが可能です。

 ちなみに、事務所によっては、どんな事件でも、作成する文書には事務所所属の弁護士全員の名前を代理人として表示するようなところもあるようです。そのような文書を受け取った方が「こんなにたくさんの弁護士の名前が書かれていて、とても怖かった」「大変なことになった」等と、不安な気持ちを抱かれて相談にいらっしゃることもあります。
 しかし、一つの事件に対して常に全員が打ち合わせに参加するということは現実的にはあり得ず、実質的に関われるのはやはり2~3名でしょう。
 弁護士名が多く表示された文書が届いたからといって、殊更不安になる必要はないと思います。

 最後に、自死遺族支援弁護団では、過労自死の事件を代表として、複雑困難な事件については共同受任することを原則としています。相談する弁護士に迷っている場合、共同受任体制を組んでいるかどうかも一つの考慮要素とされるといいかもしれません。

子どもの自死について公正・公平な調査を進めるために

1 はじめに

 子どもの自死が発生した場合には、必ず「背景調査」を行われなければなりません(詳しくは、「子どもの自死(自殺)」)。
「背景調査」に関しては、文部科学省から「子どもの自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版)以下「指針」といいます。」(2014年7月改訂)が公表されており、この指針に基づいて実施されるべきです。

 また、いじめが背景に疑われる場合には、いじめ防止対策推進法の「重大事態」に該当するものとしていじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(2024年8月改訂)以下「ガイドライン」といいます。)に基づいた調査が実施されるべきです。
詳細調査は、学校又は学校の設置者(公立学校の場合は自治体の教育委員会、私立の場合は法人)の主導で行うことになります。

 しかし、学校や学校の設置者といえども、その責任を追及される恐れがあるため、必ずしも公平・公正に調査が行われているとは限らず、実際には、この指針やガイドラインに即した調査がなされていない相談が多く寄せられています。

 そこで、以下では、公正・公平な調査を進めるために、ご遺族に知っておいていただきたいことを解説します。

2 「基本調査」「詳細調査」の実施を要望する

 子どもの自死が発生した場合には、全件、数日以内に「基本調査」を行わなければなりません。この「基本調査」は、迅速性が要求されることから、学校が調査を実施していくことが想定されています。

 また基本調査を実施後に、学校生活に関する要素が背景に疑われる場合や遺族の要望がある場合などには「詳細調査」に移行する必要があります。

 ところが、この「基本調査」すら学校で実施されたかどうか分からない、詳細調査に移行してくれない、という相談も寄せられています。

 そこで、子どもの自死が発生した場合に、遺族としては、速やかに学校に対して基本調査が実施されたのか確認を求め、実施されていないのであれば「基本調査」を行うように要望しましょう。また、「詳細調査」も遺族の要望があれば実施する必要がありますので、「詳細調査」を希望する場合には、明確に学校や学校の設置者である教育委員会に求めましょう。

3 「第三者」による詳細調査を要望する

 「基本調査」は学校が主体となることが想定されています。
これに対して、「詳細調査」は、弁護士や、精神科医、学識経験者、心理や福祉の専門家等の専門的知識を有する者で、「当該いじめ事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)」による調査組織を構成し、調査を進めていく必要があります。

 また、指針にも「自殺が起こってしまった後、学校は様々な対応が必要となることから、特に公立学校における調査の主体は、特別の事情がない限り、学校ではなく、学校の設置者とする」ということが記載されています。

 いじめ自死事案の調査を進めるにあたって、基本的に、学校関係者は、実際にいじめを認識していたのか、学校生活において子どもに様子の変化はなかったのかなどを「調査される側」であって、「調査を行う側」ではありません。

 にもかかわらず、「詳細調査」が学校関係者のみで行われていたり、あるいは学校関係者が中心となって進められているような場合には、いじめの事実や当該児童がいじめを悩んでいた事実などの学校に都合の悪い事実を十分に調査せずに、公正な調査がされない恐れがあります。

 このような調査が進められている場合には、当弁護団までご相談をお寄せください。

4 調査してもらいたい内容を要望する

 第三者の調査委員が選任されれば、本格的に調査が開始されます。しかし、第三者の調査委員は、亡くなった子どものことも当該事案のことも知らない状態で調査を開始することになります。調査委員の中で、必要な情報の収集を進めていきますが、遺族しか知らない情報もあるため、そのような情報は積極的に提供していくことが必要です。

 また、遺族から調査してもらいたい内容、聴き取りをしてもらいたい生徒、先生がいる場合には積極的に申し出ていくことが必要となります。

5 調査計画や調査の進捗を確認する

 当弁護団には、調査委員会が立ち上がり、調査が開始されたものの、その後長期間、報告もなく、どうなっているのか分からない、といった相談も寄せられています。

 「詳細調査」は、多くの情報を整理し、多くの関係者に聴き取りを行うため、調査報告書が完成するまで、非常に時間がかかります。

 しかし、子どもの同級生が卒業を間近に控えていたり、受験生となり聴き取りが難しくなるなどの事情がある場合には、調査の優先順位を検討し、計画的に子どもに対して聴き取りを実施していくことが重要となっていきます。

 仮に同級生が卒業してしまうと、時間の経過とともに記憶が薄れていくだけでなく、聞き取り調査のために連絡を取ることも困難となります。また、あくまで聴き取り調査は任意なので、新しい生活環境になってトラブルに巻き込まれたくないという思いから調査に協力してもらうことが困難ということも少なくありません。

 したがって、可能な限り迅速に計画的に調査を進めていくことが重要となります。

 また、調査委員会が定期的に開催されているため、調査委員会で何が行われたのか、どのようなことが検討されているのか、という進捗確認を行っていくことも重要です。指針にも「調査期間が長期に及ぶ場合には、・・保護者にも中間報告が必要である」ということが記載されていますので、進捗が気になる場合には報告を求めるようにしましょう。

6 終わりに

 子どもを突然失ったご遺族は、大きなショック、悲しみ、動揺などのために、どうすればよいのか分からず、全てを学校や教育委員会に委ねてしまうことも少なくありません。

 しかし、残念ながら、現状では必ずしも背景調査は、指針やガイドラインに基づいて実施されていないものもあります。

 ここでの調査は、その後の災害共済給付の請求手続きや損害賠償請求の際にも重要な資料となりますので、適切な調査を進めていくことが必要となります。

 子どもの自死が発生してどうしたらよいか分からない、調査がきちんと進んでいるのか確認したいなど少しでも気になることがあれば、当弁護団にお気軽にご相談をお寄せください。

>> 解決までの流れ「子どもの自死(自殺)の場合」はこちら

AIと自死の問題

 2025年1月6日に「SNSの影響と自死」という記事を書きました。それに関連し、今回の記事では、生成AIの活用と自死について法的観点から考察してみたいと思います。

 近年、AI(人工知能)は、私たちの生活に深く入り込んでいます。チャットボットや生成AI、SNS上の自動応答サービスなどを通じて、悩みや孤独を抱えた人がAIに相談することも増えてきました。

 実際、「気軽に相談できる相手」として「対話型AI」と答えた人が87%に上り、親友(約50%)や母親(約45%)を大きく上回ったという調査結果もあります(株式会社Awarefy「対話型生成AIの使用に関するアンケート調査」参照)。

 一方で、「AIとのやり取りが自死につながったのではないか」ということが、海外では現実の問題として提起されています。

1 米国での動き

 2025年8月、米カリフォルニア州で16歳の少年が自死した事件をめぐり、両親がOpenAIを提訴しました。訴状では、ChatGPTが自殺方法の助言や遺書作成を支援し、死を肯定するような応答をしたと主張されています(2025年8月26日付 Reuters報道参照)。

 また、フロリダ州で14歳の少年が自死した事件については、母親が対話型AI「Character.AI」の運営企業を提訴しました。報道によれば、少年は特定のAIキャラクターとのやり取りに強く依存し、現実との境界が曖昧になり、自死の決断を後押しされたと原告は主張しています。原告は、運営企業が未成年者の利用リスクを軽視し、安全設計や注意義務を怠ったと訴えています(2025年2月7日付 AP News報道参照)。

 こうした事例を受け、米国ではAI規制の動きがあります。カリフォルニア州では、AIが自らをAIであると明示することを義務づける法案が可決されたという報道がありました(The Verge,2024年10月報道参照)。

 また、未成年者による利用に関しては、自殺リスクを検知し専門機関につなぐ仕組みが必要との議論が進んでおり、企業側もペアレンタルコントロールや危機応答機能の導入を発表しています(Washington Post,2025年9月2日報道)。

 さらに、全米44州の検事総長が連名で「AIが子どもに害を与えた場合には法的責任を問う」とAI企業に警告しました(New York Post,2025年8月報道)。

2 日本への示唆

 日本でも、生成AIが急速に普及する中で、若年者がAIを相談相手としたり、強く依存したりする事例が増える可能性があります。しかし現時点では、AIの応答内容に関する安全基準や責任の所在は明確ではなく、万一、AIとの対話が自死など人の生命身体にかかわる重大な結果に結びついた可能性があるケースの場合、法的観点からは、企業側の注意義務違反の内容や、サービスと結果との間の因果関係など様々な課題があります。

 日本でも子どもの自死が深刻化している現状を踏まえると、未成年者が安心して生成AIを利用できるよう、危険検知機能や自殺予防機能といった事前の対策に関する議論が求められます。他方で、ご遺族支援における法的観点からは、これまでと同様に、自死の背景にあった人間関係、労働問題、金銭問題といった事実関係を深く調査、検討することが求められることに変わりないものと考えています。

相続人が行方不明の場合の遺産の分割

 相続人の一人が行方不明で困っている、とご相談を受けることがあります。警察庁によると、令和6年の行方不明者数(警察に行方不明者届がだされた者の延べ人数)は、8万2563人もいます。

 ご親族が亡くなり、法律で決められた相続人が複数いて遺言がなかった場合、遺産分割をしますが、遺産分割は、法定相続人の全員の話し合いによって行います。法定相続人の内のどなたかが行方不明の場合、どうしたらいいでしょうか。

1 まずは、戸籍の附票をたどって、行方不明の方の今の住所を調べます。戸籍の附票は、新しく戸籍を作った時以降の住民票の移り変わりを記録したもので、本籍地の市区町村で取ることができます。

住民票上の住所に住んでいればよいのですが、住民票上の住所にいなくて行方不明のことがあります。住民票上の住所に実際に住んでいないと、市区町村長によって、住民票が職権で消除されることもあります。

2 次に、不在者財産管理人(民法25条1項)を選任するという方法があります。裁判所に申立をして選任してもらうと、不在者財産管理人が、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の許可をもらった上で、不在者に代わって遺産分割をすることができます。

 ただ、不在者に十分な財産がない場合は、家庭裁判所から申立時に予納金を納めるよう求められ、数十万円かかります。また、申立資料の準備、選任には時間がかかります。

3 行方不明の方の最後の住所を住所地とした上で、家庭裁判所に遺産分割審判の申し立てをし、公示送達をしてもらう、という方法もあります。

 公示送達とは、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に提示する方法で行われます(民事訴訟法111条1項本文)。裁判所に行くと、裁判所の入口付近にガラス張りの掲示ケースがありますが、その中の掲示板に掲示されています。

 提示を始めた日から2週間が経過すると、相手に対して送達したものとみなす公示送達の効力が生じます(民事訴訟法112条1項本文)。

 公示送達で送達した場合の審判は、行方不明の相続人の法定相続分は、行方不明の相続人に遺す審判結果となります。

4 行方不明の相続人について、失踪宣告(民法30条)を家庭裁判所に申し立てるという手段も考えられます。震災など、死亡原因となりえる危難に遭った人は、危難が去ってから1年間経過しても生死が明らかでない場合(2項)、特別失踪として危難が去った時(民法31条)、生死不明が7年間明らかでない場合(1項)は、7年間経過した時(民法31条)、死亡したものとみなされます。行方不明の相続人は死亡したものとみなされるので、法定相続分を遺しておく必要はありません。

 ただ、実際上失踪宣告が認められるのは、亡くなったことをある程度証拠で示す必要があるようです。

 このように、法定相続人の内のどなたかが行方不明の場合も遺産分割をする方法はあります。迷ったらご相談ください。