精神医療に関する最高裁判決

 2023年1月27日、最高裁判所は、精神科病院に入院中の患者が無断離院して自死した事案につき、遺族の損害賠償請求を棄却する旨の判断を示しました。
 この事案の原審(高松高等裁判所)は、病院側に説明義務違反があったとする遺族の主張を認め、損害賠償請求を一部認容する旨の判断をしていました。
 判断が分かれたのは、この事案において「無断離院の防止策を講じている他の病院と比較した上で入院する病院を選択する機会を保障する必要性」があったか否かという点です。最高裁判所はこれを否定し、高松高等裁判所はこれを肯定しました。

 また、2019年3月12日、最高裁判所は、精神科に通院中の患者が自死した事案につき、遺族の損害賠償請求を一部認容した東京高等裁判所の判決を破棄して、遺族の損害賠償請求を全て棄却する旨の判断をしています。
 判断が分かれたのは、この事案において「本件患者が自死することについての予見可能性」があったか否かという点です。最高裁判所はこれを否定し、東京高等裁判所はこれを肯定しました。

 ところで、令和3年度の司法統計によれば、医療行為による損害賠償請求訴訟の認容率(訴訟提起後、判決に至った事案のうち患者側の請求が認められる割合)は約20.1%とのことです。これは、医療行為による損害賠償請求訴訟を含む金銭を目的とする訴え全体の認容率が約77.1%であることと比較して著しく低い数字であることは一目瞭然です。

 そのため、精神科医療に関連する事案については、これら最高裁判例で示されたような考え方も念頭に置きながら、慎重に検討する必要があると考えています。

>>遺族が直面する法律問題「医療過誤」

裁量労働制の濫用に要注意です

厚生労働省は、2022年7月15日に、「これからの労働時間制度に関する検討会」での議論をとりまとめた報告書を公表し、裁量労働制の適用対象を拡大に向けて現在、労働政策審議会において議論が続いています。

本来、労働時間は1週間40時間、1日8時間が原則であり(労働基準法32条)、例外的に一定の要件を満たすとその労働時間の枠を超えて働くことが許されますが、割増賃金(残業代)の支払が義務づけられています(労基法37条)。

これに対して、裁量労働制とは、業務遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、実際に労働した時間数ではなく、労使協定または労使委員会の決議で定めた時間数だけ労働したものとみなす労働時間の算定制度であり、割増賃金も支払われません。

①システムエンジニア、デザイナー、記者、建築士など一定の専門業務を対象とする場合は「専門業務型裁量労働制」、②「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」につき「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」を対象とする場合である「企画業務型裁量労働制」があります。

厚生労働省は、2021年6月25日に「裁量労働制実態調査結果」を公表しましたが、特に注目すべきは、過労死ラインを確実に上回るといえる労働者の割合が、裁量労働制の非適用労働者が4.6%であるのに対して、適用労働者は8.4%ということです。裁量労働制の適用労働者の約1割が過労死ラインを超える長時間労働を行っていることが分かりました。

また、裁量労働制の適用労働者に対する調査において、専門業務型の40.1%、企画業務型の27.4%の労働者がみなし労働時間が何時間に設定されているのか「分からない」と回答しています。

そして「みなし労働時間」は1日平均7時間38分でしたが、実労働時間は平均9時間であったことも分かりました。つまり、実際の労働時間よりも短い「みなし労働時間」が定められ、それを認識していない労働者が少なくない実態が明らかとされました。

労働時間規制は、労働者の生命と健康を確保するために不可欠です。

労働時間規制の例外である裁量労働制の対象業務が安易に拡大され、裁量労働制が違法に悪用・濫用されれば、労働者はますます危険にさらされてしまいます。

今後も、労働者が違法な裁量労働制のもとで働かされていないかどうかを厳しく確認していく必要があります。

学校でのネットいじめへの対応

1 学校でのネットいじめとのかかわり

 私は、インターネット上の誹謗中傷事案を取り扱っていますが、近年、学校でのネットいじめ事案の相談を受けることが多くなりました。

 学校でのネットいじめ事案においては、一般的なインターネット上の誹謗中傷事案で求められる手法(プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求等)だけでは十分な解決には至らないこともあり、特殊な領域としての対応が求められることになります。

2 学校でのネットいじめの具体例

⑴ 使用されるアプリ

 かつてはネット掲示板(学校裏サイトなど)がネットいじめの温床とされていましたが、今日はSNSが利用される可能性が圧倒的に高くなっています。SNSの中でこどもの利用頻度が高いのはTwitter、LINE、高校生はInstagramやTicTokなどを使っていることもあります。また、オンラインゲーム(フォートナイト、荒野行動など)のボイスチャット機能などを用いていじめが行われることがあります。 

⑵ ネットいじめ行為の類型

 ネットいじめ行為の類型は、使用するアプリの機能に応じて多様に変化しています。典型的なパターンとしては、①SNSでなりすましアカウントを作られた②SNSで虚偽の情報やプライバシー情報を拡散された、③自分の写真、動画を勝手に加工され、SNSで拡散された、④LINEなどのグループトークを外された、⑤いじめられているところを動画撮影され、動画投稿サイト等に拡散された、⑥SNSで過去の交際時の画像を拡散された(リベンジポルノ)、⑦オンラインゲームで、グループから外された特定のこどもへの集中攻撃が繰り返されたなどが考えられますが、今後も新しいアプリが開発されるたびに新しいパターンのいじめ行為が現れると予想されます。

3 学校でのネットいじめの現状

⑴ 統計上も過去最多

 文部科学省は、全国のいじめ事件の統計を取っており、毎年、調査結果の公表を行っています。2021年10月13日に公表された、「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、ネットいじめの件数は1万8870件で過去最多(平成29年度1万2632件、平成30年度1万6334件、令和元年度1万7924件。)となっています。学校が把握していないネットいじめも多数あると思われ、潜在的な件数はもっと多いことが予想されます。

 また、小中学校における不登校の件数も過去最多(19万6127件。)、小中高等学校におけるこどもの自殺も過去最多(415件。なお前年度は317件。)となっています。学校現場が現在非常に危険な状態となっていることが統計上も明らかとなっています。

⑵ 近時の学校でのネットいじめの特徴

 小学生でもスマホを持ちSNSを使うことが珍しくなくなった現在では、ネットいじめの特徴も変化が見られます。SNSを利用する場合、コミュニケーションの相手はクラスや友人などであり、多くの場合、現実に存在する人間関係を補完するツールとしてSNSが用いられています。その意味で、現在のネットいじめは掲示板などで見知らぬ人から攻撃されるようなパターンよりも、現実に存在する人間関係を前提に、ネット上でいじめ行為が行われるパターンの割合が増えています。つまり、ネットいじめの存在が確認できた場合、いじめ行為はネット上にとどまらず、クラスや部活動などリアルな人間関係の中にも広がっている可能性を疑う必要があります。

4 学校でのネットいじめへの対処法

 ネットいじめの多くがリアルな人間関係を前提としている以上、2つのアプローチを併用する必要があります。具体的には、第三者委員会の設置など学校や教育委員会を通じていじめの実態解明を行うアプローチと、発信者情報開示請求等のネット上のいじめの痕跡をもとに証拠収集を行うアプローチです(なお、小学生が当事者となっている事案では、刑事責任能力との関係で刑事事件として解決することが困難なものが多いです)。

5 プロバイダ責任制限法改正

 SNSなどで匿名の者から誹謗中傷を受けた際、被害回復を図るため、加害者を特定することを「発信者情報開示」といいます。

 発信者情報開示は、プロバイダ責任制限法という法律を根拠として行われますが、同法が改正されたことに伴い、令和4年10月1日から、新たな開示手続の運用がスタートしました。

 従前、①ウェブサイトと②プロバイダ(携帯電話会社等)に対して、それぞれ別の裁判手続を行う必要がありましたが、新たな開示手続では、①と②を1つの手続でできるようになり、開示の費用や時間が短縮されることが期待されています。

 もっとも、ツイッターなどは同制度での開示手続に強い抵抗を示しており、必ずしも従前の制度に比して円滑に開示できているわけではない印象です。

 また、従前、海外法人(ツイッター、メタ、グーグル等)を相手方とする場合、海外へ裁判所類を送付したりや英訳したりするなどの手間から裁判がはじまるまで6ヶ月ほどの期間を要することがありましたが、令和4年度中に、主要なIT大手企業については、法務省と総務省の要請に従い国内での登記が完了したことから、上記手間はかからなくなりました。

 インターネット関係の事件は、数ヶ月で運用等が変更される非常に流動性のある分野であり、例えば、イーロン・マスクがツイッターを買収しましたが、このことが今後の開示手続でどのような影響を与えるのかも注目されています。

産後うつへの公的支援の必要性

 2015~16年に亡くなった妊産婦357人の死因について、自死が102人で、がんや他疾患を上回り、最も多かったことが国立成育医療研究センターの調査で分かりました。うち92人が出産後の自死で、35歳以上や初産の女性の割合が高かったとのことです。産後うつが原因のひとつとして考えられています。

国立成育医療研究センター
人口動態統計(死亡・出生・死産)から見る妊娠中・産後の死亡の現状

日経新聞
妊産婦死亡、自殺が1位 成育医療センター調査

 世界保健機関(WHO)などによると、産後うつは、妊産婦の約10%が経験するとされていますが、近年、この割合が増えてきているようです。たとえば、2020年10月に筑波大学の松島みどり准教授らが実施した調査では、回答が得られた出産後1年未満の母親2132人のうち、産後うつの可能性がある人はおよそ24%であったとされています。新型コロナウィルスの影響で人と触れ合う機会が減ったことや収入の落ち込みなどの経済的不安が関係しているとみられています。

NHKニュース
母親の「産後うつ」 コロナ影響で倍増のおそれ 研究者調査

 私も産後気持ちが落ち込みがちになることがありました。産後うつがあることは知っていたので、日記をつけて自分の気持ちを整理したり、楽しみな予定を入れたり、心身の状態に気を付けながら過ごしていました。

 twitterやブログでは、「しんどくて限界だ、と公的機関に電話したが、しんどいですね、家族の援助を得て頑張ってください、というだけで何の助けにもならなかった。」などという当事者の声も見られます。

 男性育休制度も未だ普及していない現状で、家庭内でできる対策には限界があると思います。

  国立成育医療研究センターは、2020年に産後の自死予防対策プログラムとして「長野モデル」の開発を発表しました。新生児訪問時に保健師が母親にアセスメントを行い、その結果に応じて保健師・精神科医・産科医・助産師・看護師・小児科医・医療ソーシャルワーカーなど、多職種のチームでフォローアップを行うということです。全国への波及も期待されています。

国立成育医療研究センター
世界初!産後の自殺予防対策プログラム「長野モデル」を開発 ~産後の母親への自殺予防効果が証明される~

 産後うつを個人や家庭の問題とせず、国、地方公共団体が充実した支援制度を整えていくことで、救われるお母さん、子ども、ご家族が増えることを願っています。


教員の就労環境の改善を

1 娘が小学校に入学してから、「学校の先生は何て長時間労働なんだ」と実感するようになりました。「学校の先生は忙しい」ということは以前から仄聞していましたが、身近で体験することで、これは尋常じゃないと感じるに至っています。

2 まず、朝が早い。娘たちは午前7時30分過ぎには学校に着くペースで登校しますので、先生方はそれより前に学校に着いてらっしゃると思います。また、気象警報が出そうな(出ている)日は午前6時50分くらいから「自宅待機で」「今日は休校です」と連絡する一斉メールが届きますので、そういった日は、全員ではないでしょうが、午前7時前から在校している先生がいることになります。

そして帰りも遅い。娘が休むと、担任の先生が電話をくださって、翌日の時間割等を教えてくれるのですが、電話は午後7時台にかかってくる訳です。夕方の時間帯にかけてくださった電話を私がとれないことが何回かあり、共働き家庭配慮で遅い時間にお電話くださるのかな申し訳ないなと思っていたのですが、欠席時の連絡が電話ではなくメール(のようなもの)になっても連絡が来る時間は遅いことが多いので、共働き家庭配慮だけが原因ではないと思われます。

こうして見ると、先生方は、毎日12時間近く、もしくはそれ以上、在校してらっしゃることになります。在校中に休憩時間を取得できていればと思いますが、連合総研が全国の公立の小中高校と特別支援学校の教員を対象に実施した調査で、54.6%が在校時間中の休憩時間は0分と答えたと報道されていました。娘から聞く校内での様子からすると児童がいる間は休憩時間を取得できないだろうと思いますし、児童下校後も休憩時間を取得するくらいなら早く帰りたいと考えるだろうと想像します。

3 なぜ先生方は長時間労働なのか。全く素人の想像ですが、先生がしなければならない業務が増えるばかりだからではないかと思います。娘たちが日々持ち帰るたくさんのプリント等から垣間見える先生方の業務には、いじめや体罰についてのアンケート、参観日も含めた学校行事運営などたくさんあり、私が小学生のころ(約40年前)と比べると、ものすごく増えているように見えます。一方で先生の数はあまり増えていなさそうで、パンクしてしまうと思うのです。ほぼ新卒の先生にも担任の先生としてお世話になりましたが、精神疾患による教員の休職が多いといったニュースに触れる度、あの青年は元気にしておられるだろうかと心配になります。教員を志す人が減っているという報道にも触れることが多いですが、それはそうなるだろうなと思ってしまいます。

 学校以外にも子どもの居場所がある時代になっているとはいえ、学校という存在はまだまだ大きいと思います。学校で子どもが傷つくことになる事件は全て教員の態勢により引き起こされているとは言いませんが、大きな要因の一つなのではないかと思います。先生方が心身の健康を保ちながら子どもと接していっていただけるような態勢が整えられることを、切に願います。といってもすぐには整えられないと思うので、今の自分にできることがあればしていきたいと、心から思います。

裁判所のIT化

裁判手続のIT化は、アメリカでは1990年台前半より開始され、アジアでもシンガポールが1998年から取り組み開始していました。

日本は、諸外国と比べると遅れていましたが、2017年10月に内閣官房に「裁判手続等のIT化検討会」設置され、検討が進められてきました。

裁判手続等のIT化の主な内容は、以下のとおりです。

出典:首相官邸ホームページ siryou4.pdf (kantei.go.jp) 令和4年12月5日に利用

2022年5月18日には、「民事訴訟等の一部を改正する法律」(令和4年法律第48号)が成立し、新法に基づく弁論・争点整理等の運用が始まっています。 

当弁護団は、全国の方々から依頼をいただいており、また弁護団で事件を取り組むにあたって、弁護団員が全国にいます。そのため、ウェブやテレビ方式で期日に出頭することができると、交通費等の負担が軽減され、裁判費用が軽減するというメリットがあります。

他方、口頭弁論期日がすべてウェブやテレビ方式で行われると、顔を直接見ないため、裁判官に主張や感情が伝わりにくくなる、裁判官の心証を感じ取りにくくなる等のデメリットもありますので、実際に出頭することが必要な場面は見極めていきたいと思います。

とりわけ、裁判の傍聴がなされなくなり、裁判官の常識が一般常識と離れてしまう恐れがあることは、常に気を付けなければならないと考えています。

嘘の労働時間記録をつけさせられていても

使用者には労働時間を管理して記録する義務があり、また働き方改革に伴い残業時間の上限の遵守が従前よりさらに厳しく要請されるようになっています。

けれども、そのような状況でなお過労死・過労自死が疑われる違法な働き方をさせている職場では、本当の業務時間の通りの労働時間記録を行っている職場の方が珍しい、という実態にあります。

労働時間記録を全く怠って、何の記録もしないのももちろん問題です。そして、さらに悪質なケースとして、会社や上司があらかじめ計画的に労働者に指示して、事実と異なる短い労働時間の記録だけを残させる、という場合もあります。 

過労死した家族から生前、そのような嘘の短い労働時間記録をつけさせられていた内情を伝られていたご遺族の中には、長時間残業の証明などできないと思って、最初から過労死の労災認定や会社の責任追求など無理だと諦めてしまわれる方もいらっしゃいます。 

けれども、本当の残業時間を証明する方法は会社の労働時間記録だけではありません。通勤に関連するもの、業務内容に関連するもの、本人の日記や手帳、SNS投稿、家族や友達への連絡など様々な方法で証明することができます。

このような資料による残業時間の証明は労基署にも裁判所にも認められています。

会社の労働時間記録が全くなくても、残業の少ない嘘の労働時間記録をつけさせられていても、別の証拠で長時間労働が証明され、労災も会社の責任も認められた例はたくさんあります。

会社が労働時間記録をしてくれていない場合や、嘘の短い労働時間記録しかないような場合でも、諦めずにご相談いただきたいと思います。

>>過労自殺(自死)について 「早期の証拠の収集が大切

裁判官について

皆さんは裁判官についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。

 瀬木比呂志元裁判官は、「絶望の裁判所」(瀬木比呂志著/講談社現代新書)において、裁判官について以下の様に述べています。

「弁護士とともに苦労して判決をもらってみても、その内容は、木で鼻をくくったようなのっぺりした官僚の作文で、あなたが一番判断してほしかった重要な点については形式的でおざなりな記述しか行われていないということも、よくあるだろう。
 もちろん、裁判には原告と被告がいるのだから、あなたが勝つとは限らない。しかし、あなたとしては、たとえ敗訴する場合であっても、それなりに血の通った理屈や理由付けが判決の中に述べられているのなら、まだしも納得がいくのではないだろうか。しかし、そのような訴訟当事者(以下、本書では、この意味で、「当事者」という言葉を用いる)の気持ち、心情を汲んだ判決はあまり多くない。必要以上に長くて読みにくいが、訴訟の肝心な争点についてはそっけない形式論理だけで事務的に片付けてしまっているものが非常に多い。」

引用元「絶望の裁判所」(瀬木比呂志著/講談社現代新書)

 私は、自死問題に関して、長時間労働などの過労やパワハラ、学校のいじめ、賃貸借問題、生命保険、医療過誤など数多くの訴訟を行ってきましたが、残念ながら瀬木裁判官の意見は的確だと感じます。

 自死遺族が必死の思いで訴訟を行ってきたにもかかわらず、最近では単に自死遺族側を敗訴させるだけではなく、後ろ足で砂をかけるような判決を書く裁判官まで出てくる始末です。「一体あなたは何のために裁判官をやっているのですか?」と言いたくなることが日常的になってきました。

 私が弁護士登録を行ったのは2005年ですが、当時は裁判官も魅力的で人間臭い人が多かったと思います。また非常に優秀な裁判官が数多く居ました。

 現在でも魅力的で優秀な裁判官は数多く存在すると思います。しかし、残念ですが総体的に見れば、劣化した裁判官が急速に増えていると個人的には感じています。生活保護の訴訟で、福岡地裁、京都地裁、金沢地裁の各判決が誤字まで同じだったため、コピー&ペーストをしたのではないかとニュースになっていましたが、社会的な耳目を集める事件でさえこの体たらくです。

 そもそも、裁判官は国や企業を敗訴させることを嫌がる傾向があると個人的には感じています。すると、自死遺族側を負けさせるという結論をまず決めて、後はそのための理屈や証拠はどのような些細なものでも総動員するという判決をいくつも見てきました。

 ある職場の過労自死の事案では、職場の先輩後輩が何人も「あの経験ではあの仕事は無理だ。」という陳述書を作成してくれたのに、結論は敗訴でした。当然ながら、判決文では「あの経験ではあの仕事は無理だ。」とは一言も書いておらず、会社側の主張を丸呑みして、いかに仕事が楽だったかということが書かれていました。その判決文を見て、私は「この裁判官は文字が読めないのでは?」と思ったくらいです。

 せめて、自分の頭で考え、証拠をちゃんと読んで評価し、自分の手を動かして判決を書き、そして自死遺族側を敗訴させるにしても一定の配慮がある判決を書いてもらいたいものです。

カルテを取り寄せる目的について

労災を疑っておられる自死遺族からご相談いただいく際、亡くなられた方(本人)に通院歴があることも多く、そのような場合には本人のカルテの取り寄せをお願いすることがあります。

また、相談いただいた時点ですでに遺族がカルテを取り寄せている、というケースもしばしばあります。

しかし、カルテを取り寄せる目的が必ずしも周知されていないように思われます。

相談を聞く弁護士がカルテの取り寄せをお願いする第一の目的は、自死された方にいつ精神的な不調が始まり(発病時期)、その不調がどのような傷病名に該当するのかを確認するためです。

労災認定の要件として、労災の認定基準の対象となる精神障害を発病していること( 国際疾病分類IC D-10第5章「精神および行動の 障害」に分類される精神障害で あって、認知症や頭部外傷などに よる障害(F0)およびアルコール や薬物による障害(F1)は除く)というものがあり、かかる要件を満たしているかを確認するのです。

医師によっては、カルテに診断名、症状、処方薬の簡単な記載しかしない方もおられます。また、本人が、メンタルの不調に陥っている原因を医師に告げられていなかったり、原因を分かってないこともありうるでしょう。ですから、カルテの中にお仕事についての悩み事の記載がない場合もあります。

もっとも、先に述べたような視点から弁護士はカルテを見ますから、カルテの中にお仕事の悩みが触れられていないとしても、労災の要件を満たすことはあり得るわけです。

ご遺族においてカルテを取り寄せたものの、役に立つ記載がないと早合点して労災の申請を諦めてしまう、そのようなことがないようにしてもらいたいです。労災の申請には他にも検討すべき要件はありますので、まずは当弁護団にご連絡頂ければと思います。

>>解決までの流れ「過労自殺(自死)の場合 -労災-」

>>過労自殺(自死)について

遠方のご遺族からの相談について

 自死遺族支援弁護団は、大切な人を自死で亡くされたご遺族の置かれた状況に配慮しながら、ご遺族が直面する様々な法律問題を総合的に解決することを目的に結成された弁護団です。

 自死が絡む法律問題については、どのように対応するのが良いのかわからない弁護士も多いようで、当弁護団への問い合わせには、近くの法律事務所に相談したが対応を断られたというご遺族からのものも少なくありません。実際に話を聞いた中には、複数の法律問題が絡み合う事案で、そのうちの一部だけを対応し、その他の問題については適切な対応がなされないまま放置されているというケースもありました。

 当弁護団では、上記のような問題を回避し、少しでも多くのご遺族が適切な法的支援を受けられるようにするために、所属弁護士同士が毎月情報を交換し、事案によっては議論を重ねながら、お互いの経験を共有し合うことで、複雑な問題にも適切に対応できるよう研鑽しています。

 そのうえで、一定の研修を経た所属弁護士が、無料法律相談を週替わりで担当しています。担当制ですので、中には、北海道のご遺族の相談対応を、大阪の弁護士が行うということもございます。このような場合に、ご遺族の中には最寄りの弁護士の紹介を希望される方もおられますが、所属弁護士が最寄りの地域にいないということも少なくありません。

 ただ、現在では、ウェブ会議システムなどを利用することで、遠方でも顔を見ながら打合せをすることが容易ですので、弁護士が最寄りの地域にいないということは、それほど大きな障害ではなくなりつつあるといえます。

 また、当弁護団では、電話やウェブ会議システムでの相談や打ち合わせを重ねる中で、現地に直接足を運ぶ必要があると考える場合には、初回に限り、ご遺族に旅費の負担をいただくことなく所属弁護士が面談に伺う対応も行っています。

 そのため、遠方にお住まいで、最寄りの地域に所属弁護士がいないというご遺族の方であっても、まずはお気軽にご相談頂きたいと思います。必要があれば、国内どこにでも会いに行きます。