パワーハラスメントの調査方法について

 はじめまして。大阪で弁護士をしております松村隆志(まつむらたかし)と申します。2022年から当弁護団に加入しており、今回初めてブログを書かせていただくことになりました。

 さて、私は現在、当弁護団で2件の過労自殺の案件を担当しておりますが、いずれも上司や同僚からパワーハラスメント(以下「パワハラ」と略記します。)を受けた事案です。どのような言動がパワハラに当たるのかについては、生越照幸弁護士の2024年3月12日のコラム2020年8月17日のコラムに詳しい説明がございますので、そちらをご覧いただければと思います。今回は、パワハラの調査の流れについてご説明したいと思います。

 私たち弁護士がご遺族からご相談を伺う際には、亡くなった本人がどのようなパワハラ被害を受けたのか、そして、その被害をどのように証明するのかという点に注意して伺います。ただ、被害者本人が亡くなっているため、そもそもどのような被害があったのかもよくわからないことも珍しくありません。

 私たちは、ご相談を受けた場合、まずは、遺書や本人の日記、ご遺族が自死された方から生前に聞いていたお話、加害者等とのメールのやり取り、友人や同僚とのメッセージのやり取りなどを確認し、本人の受けた被害について手掛かりとなる記載がないかを調べます。自死された方が精神科その他の病院に通院していた場合には、カルテを取り寄せて医師にパワハラの被害を説明していないかも確認することになります。また、パワハラを見聞きした同僚の方の協力を得られれば、事実の確認の観点からも証明の観点からも非常に意味があります。

 どのような事実があったのかが明らかになれば、次にその事実をどのようにして証明するかが問題となります。録音や加害者とのメールのやりとり、同僚の方の供述でパワハラ被害の証明が十分であればよいのですが、そのような事案ばかりではありません。証拠が不足する場合に、考えられる手立てとしては主に2通りあります。

 第1には、事業主に対してパワハラ被害を申し出て、調査を求める方法です。

 事業主は、パワハラによって労働者の就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる義務を負っています(労働施策総合推進法30条の2第1項)。具体的には、パワハラの相談の申出があった場合には、相談者と加害者からの事実確認を行い、必要があれば第三者からも聴取する等して、事実関係を迅速かつ正確に確認する義務があります(令和2年厚生労働省告示第5号)。

 事業主の側で、パワハラがあった事実を隠そうとするリスクはありますが、他の同僚の見ている場で苛烈なパワハラがあった場合や、他の同僚もその加害者から被害を受けているような場合などは、事業主による調査でもパワハラの事実を裏付けるような証言が得られる可能性があります。

 第2に、労働基準監督署長に労災保険給付を請求して、労基署の調査に委ねる方法です。

 労働基準監督署長には労災について必要な調査を行う権限が与えられており(労災保険法46条)、パワハラ等により精神障害を発病したとの訴えがあれば、職場の関係者から聴き取りをして、そのような事実があったか否かが調査されます。関係者からの聴取書は、手続が進めば開示を受けることができます。

 パワハラの事案は、当事者の間で密室的に行われることも多く、類型的に立証に困難を伴うものです。ただ、録音などの直接的な証拠がない場合でも、調査を通してパワハラの事実を証明できる可能性があります。あきらめず、まずは当弁護団までご相談いただければと思います。

弁護団員の弁護士会での活動

当サイトの弁護士ブログを見ていただければ分かるように、我々の弁護団には、日本各地の弁護士が所属しています。普段の業務では、全国各地、それぞれ様々な分野で活動している我々ですが、「自死遺族の方々の役に立ちたい」という一点では思いを一つに、一致して活動しています。

そんな我々ですから、弁護団の活動以外でも、自死遺族の皆様の役に立てそうな活動では、顔を合わせることも多いです。例えば、日弁連の活動です。

日弁連(日本弁護士連合会)は、日本全国全ての弁護士が加入している団体で、弁護士法が定める「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」を目的に、人権擁護に関する様々な活動を行っています。

その日弁連には、自殺対策プロジェクトチーム(以下「PT」といいます)が存在しています。PTは自殺予防や自死遺族支援を目的に活動をしていますが、このPTでも、当弁護団の複数の弁護士が各地域から参加して、研修やシンポジウムの講師や司会を務めたり、報告書をまとめたりと、日弁連としての活動にも尽力しています。もちろん、日弁連のPTには参加しているものの、当弁護団には所属していない弁護士もPTには参加しておりますので、様々な弁護士同士で意見交換を行って、当弁護団にとっても、PTにとっても、有意義な活動となっていると思います。

弁護士は、日弁連だけでなく、各地の弁護士会にも所属することが義務づけられています。各地の弁護士会でも、自殺予防や自死遺族支援のための専門の委員会を設けている場合があります。例えば、私の所属する神奈川県弁護士会にも、自殺問題対策部会が存在しますが、私も含め、神奈川で業務を行っている当弁護団所属の弁護士の多くも、自殺問題対策部会に所属して、活動を行っています。

どんな弁護士が、自死遺族支援弁護団に入っているんだろう、そのような疑問をお持ちになる方もいらっしゃると思いますが、当弁護団所属の弁護士は、日々、全国的な活動はもちろん、各地域での活動に参加し、様々な立場をもって活動しています。 弁護士会の活動だけで無く、当弁護団所属の弁護士が幅広い分野で、様々な立場で活動していることをまたご報告できればと思います。

まずはご相談ください

何をどうしたらいいのかわからない…
何を弁護士に相談したらいいのかわからない…
ちゃんと話ができるか自信がない…
電話する力もない…

自死遺族の方々は、何が起きたのかもわからないほど、困惑したり後悔したり悲しんだり…いろんな複雑なお気持ちを抱えておられることと思います。
当弁護団にメールでご連絡いただく方の中には、ご家族が自死したけど、何をどうしたらいいのかもわからないから連絡がほしいという方もいらっしゃいます。
そのような連絡で構いません。
このようなメールをいただきましたら、折り返しこちらからお電話させていただきます。
まずご相談いただければ、ご遺族の方々が抱えている問題を一緒に整理して、ご自身でできることをアドバイスしますし、弁護士が必要な法的な問題があれば継続して相談に応じます。
相談は無料ですので、ご安心ください。

そして、弁護士の介入が必要な状況になったときは、弁護士への依頼をアドバイスし、費用や手続きなどについてご説明します。
ご遺族の方が当弁護団の弁護士に依頼するかどうかは自由です。依頼まではしない、という結論になっても構いませんので、ご安心ください。

また、相続放棄手続きなど、原則として亡くなったことを知ってから3ヶ月以内にする手続きもありますし、労災申請や訴訟のために必要な証拠集めも早ければ早い方がいいと思いますので、お早めにご相談いただければと思います。

ご相談いただいたご遺族の方の中には、「もっと早くに連絡すればよかった・・・」と言われる方もおられます。

お電話でもメールでもお手紙でもFAXでも構いませんので、ご連絡をお待ちしております。

最後に、どうしてもご遺族の方から連絡をするのが難しい場合は、ご友人や支援者の方からのお電話でも構いません。

まずはご相談いただければと思います。

故人の通院歴を調べる方法

 自死された事案では、お亡くなりになる直前の故人の精神状態を詳細に知りたい、ということがしばしばあります。例えば、鉄道に飛び込んだ場合などであれば、損害賠償義務が発生するか否かの判断にあたり故人の精神状態が重要な判断要素となります。また、生命保険の免責期間内の自死について保険金が支払われるか否かの判断にあたって重要な要素となります。さらに、過労による自死の場合であれば、発病時期を特定する重要な情報となります。

 もっとも、単身赴任などの事情により、故人が遠方で一人暮らしをしていたような場合だと、故人の精神状態を十分に把握できていないことがあります。このような場合に、故人の通院歴を調査し、通院先からカルテを取得することで、故人の精神状態を詳細に把握できることがあります。

 故人の通院歴を調べる方法はいくつかありますが、もっとも効果的な方法は診療報酬明細書等の開示を求めることです。

 一般に医療費は、患者が3割を医療機関に支払い、残りの7割は医療機関が健康保険組合から支払いを受けています。診療報酬明細書等は、医療機関が健康保険組合に医療費を請求するために作成・提出する書類です。健康保険組合ではこの書類を保存していますので、その開示を求めることで、故人が通院していた病院を把握することができます。

 開示を求める先は、故人が加入していた健康保険組合です。故人の保険証が残っていれば、保険証の「保険者名称」を見れば健康保険組合を把握できます。保険証が残っていない場合は健康保険組合を直ちに特定できないこともありますが、勤務先や居住地などの情報を基に特定することは可能です。

 診療報酬明細書は医療費を請求するための書類であるため、どのような治療をしたのか、どのような薬を処方したのか、といった情報は記載されていますが、なぜそのような治療を選択したのか、患者がどのような訴えをしていたのか、といった情報は記載されていません。故人の精神状態を詳細に把握するためには、故人が医師にどのような訴えをしていたかという点が重要になります。そのため、カルテを取得し、詳細な情報の収集を図っていくことになります(もっとも、カルテに詳細な情報が記載されていないケースもあるので、カルテがあれば必ず情報収集ができるとは限りません)。

 ご遺族のお手元に情報がない場合でも、様々な手段を駆使することで情報を収集できることがあります。手元に情報が無くて困ってしまったというときも、ぜひ当弁護団へご相談ください。

精神障害の労災における発病時期について

1 労災の認定基準では原則として発病前おおむね6か月の心理的負荷が評価対象になること

 職場でのパワハラや長時間労働等が原因でうつ病や適応障害等の精神障害を発病し自死された方のご遺族が労災を請求する場合、労働基準監督署は、厚生労働省が策定した心理的負荷による精神障害の認定基準(以下「認定基準」といいます。)に基づいて、労災か否かを判断します。

 認定基準では、原則として、うつ病や適応障害等の対象疾病の発病前おおむね6か月の間の、パワハラや長時間労働等の仕事による強い心理的負荷が評価対象になります(※1)。

 発病前おおむね6か月の間ですので、”発病後”や“おおむね6か月より前”にパワハラや長時間労働等があっても、それらは原則として労災か否かを判断する際の評価対象になりません。

  ですので、労災では、故人がいつ精神障害を発病したのかが実務上問題になります。

2 発病時期の特定は容易?

 ですが、故人が精神科や心療内科等に通院していた場合にはいつ発病したと考えられるかを主治医に聞くこともできますが、特に故人に通院歴がない場合、発病時期の特定は、必ずしも容易ではないと思います(※2)。

 例えば、皆様やその大切な方は、職場、学校や家庭等でひどく落ち込む出来事があって、憂うつになり、気分が暗くなったり、やる気が出なかったり、食欲がなかったり、イライラしたことはないでしょうか?

 労災の対象疾病の一つであるうつ病の症状として憂うつになり、気分が暗くなったりすること等もありますが、健康な人が日常生活においてそのような経験をすることもあります。

 うつ病は、誰しもが経験し得る正常心理としての憂うつが極端化した病気と表現されることがあります(※3)。うつ病になると、健康な人の気分からは、量的にも、質的にも違う状態になり、人間関係や社会活動等に様々な障害を引き起こすといわれています(※4)。

 量的にも質的にも違いがあるといわれていますが、症状の軽いものは、朝、いつものように新聞やテレビを見る気にならないといったことで始まるともいわれています(※5)。いつものように新聞やテレビを見る気にならないというようなことは、健康な人も経験し得ることだと思います。

 動作緩慢、話が途切れがちになる等といった、うつ病と分かりやすい状態もありますが(※6)、いつ病気になったのかの判断が難しい場合はあります。

 このように、発病時期の特定は、必ずしも容易ではないと思います。

3 出来る限り発病時期を検討したいこと

 発病時期の特定は必ずしも容易ではなく、認定基準にも、特定が困難な場合のルールも定められています。

 それでも、出来る限り、発病時期を検討したいです。

 というのも、証拠を集め、発病時期を十分に検討しないと、労災認定の手続や裁判において、故人に強い心理的負荷を与えた出来事が評価対象にならない発病時期を認定されてしまうおそれがあります。

 例えば、平成25年6月25日神戸地方裁判所判決は、平成14年4月に異動し、同年5月28日に自死した故人のご遺族が公務災害の認定を求めた事案です。

 発病時期について、ご遺族は、平成14年5月のゴールデンウィーク明けであると主張していました。それに対して、被告である地方公務員災害補償基金は、平成14年4月20日頃であると主張していました。被告の主張する時期が発病時期だとすると、その後の仕事での心理的負荷が原則として評価対象になりません。

 裁判所は、以下のとおり、故人のご様子から、発病時期を丁寧に検討しました。

 すなわち、裁判所は、故人が同年4月中旬頃から徐々に眠れなくなったこと等について、異動により労働時間が増大したことや、乳児である長男との同居による生活リズムの変化によって従前より生活に余裕がなくなり、睡眠時間が不規則ないし不十分になったことによる可能性が高く、うつ病の症状とは認められないとしました。

 また、同年4月下旬から5月上旬に体重の減少や、これまでよく見ていたテレビ番組を見なくなったこと等については、うつ病エピソードの典型症状の一つである興味と喜びの喪失が認められるが、他の典型症状が認められないことから、この時点でのうつ病の発病も認定が困難であるとしています。 そして、同年5月中旬になると、仕事が終わらないこと等に対する不安や仕事の勉強と段取りを組まなければならないことへの精神的重圧を感じていることをうかがわせる言動が見られたことや、食事以外はほとんど横になっており、よくため息をつき、会話をしていてもぼんやりとする等、明らかな活動性の低下が見られ、休日には、長男が泣き出しているのに、横になって寝ているのみであったこと等から、同月19日頃にうつ病を発病したものとして公務起因性を検討するのが相当であると判断しています(※7)。

 ですが、ご遺族やその代理人が発病時期の検討や主張を十分に行わなければ、裁判所が以上のように判断せずに、被告の主張のとおり判断された可能性は、否定できないと思います。

4 さいごに

 発病時期が正しく理解されないことで、故人に大きな心理的負荷を与えたと考えられる出来事が評価対象にならず、故人の苦しみが十分に理解されないことは、あってはならないと思います。

 当弁護団は、故人が受けた強い心理的負荷を与える出来事はもちろん、発病の有無や時期について、事実を大事にして、証拠収集からご協力しています(※8)。当弁護団にご相談いただければ、ご遺族や故人の想いが伝わるよう、尽力いたします。

 よろしければ、ご相談ください。

※1 労災の要件や手続等については、当弁護団の解説をご覧ください。

※2 通院歴がない場合の発病時期の立証については、西川翔大弁護士「通院歴がない場合の発病の立証」をご覧ください。

※3 鹿島晴雄他編「改訂第2版よくわかるうつ病のすべて‐早期発見から治療まで‐」3頁

※4 松下正明編「臨床精神医学講座第4巻気分障害」199頁

※5 上島国利他編「気分障害」38頁

※6 神庭重信他編「「うつ」の構造」48頁

※7 控訴審判決である平成26年3月11日大阪高等裁判所判決も、発病時期を5月19日頃としています。

※8 晴柀雄太弁護士「事実に始まり、事実に終わる」吉留慧弁護士「故人の足跡を探す」もご覧ください。

高齢者の自死の理由を知りたい

 遠方に住んでいる高齢の親が亡くなった、なぜ亡くなったのか自死の理由を知りたい、というご相談を受けることがあります。

 高齢の方は、すでにご退職をされていて、学校や会社といった組織に属していないことがほとんどのため、自死の理由を特定するのはなかなか難しい場合も多いです。しかし、ご遺族としては、病院のカルテを取得するほか、故人が要介護認定や要支援認定を受けていた場合には、介護保険の認定情報の開示を受けるという選択肢もあります。これは、要介護の認定に際して作成された資料で、介護保険の認定調査票、主治医意見書、審査会議事録、介護認定審査会会議録などを取得することができます。

 資料作成の目的は、要介護の認定のためであり、自死の理由が必ず判明するとはいえませんが、身体機能や精神・行動障害の有無などが記載されており、生前の様子を知る手掛かりになります。

 情報開示の申請は、弁護士に依頼せずとも、ご遺族にて手続きができます。具体的な開示方法は、故人が住んでいた自治体のホームページを参照いただくか、自治体に直接お問い合わせいただければと思います。

啓発授業

 先日、大阪府内の高校において、過労自殺(自死)に関する啓発授業の講師を担当させていただきました。

 授業では、私の方から過労自殺とは何かということや、過労自殺の発生件数・労災認定件数などの実態、過労死や働き方に関連する法律についての解説をさせていただき、遺族の方からは、実際にご家族を過労自殺によって失った経験を語っていただき、生徒に対するメッセージをお伝えいただきました。

 授業開始当初は、仕事や過労自殺について身近な問題として捉えることが難しかったからか、その実態や法律に関する講義については、関心が薄いように感じることもありましたが、遺族の方のお話があってからは、明らかに生徒の顔が変わりました。

 特に、ご家族が自殺するに至ったいきさつや、その後のご家族の心境のお話をお話されている際には涙を流す生徒もいるなど、過労自殺が当事者だけでなく家族にもどのような影響を与えるか、ということを実感してもらえたのではないかと感じています。生徒の一人からは、いのちより大事な仕事などないこと、自分だけでなく周りの友達を守るためにも働き方に関するルールを学んでいきたいという感想をもらえました。

 過労自殺をなくすためには、過労自殺を防止するための法整備や、企業・会社への取り組みだけでなく、これから社会に出ていく学生一人ひとりが、過労自殺・働き方についての正しい知識を持ち、自分や周りの方々を守ることができるようにしていくことが必要不可欠であり、今回の啓発授業はその一助になるのではないかと思いました。

 今後も、このような活動を通して、過労自殺をなくすために微力を尽くしていきたいと思っています。

いじめ自死等を疑うご遺族は「第三者委員会の詳細調査」を求めて下さい

 児童・生徒が、自死した場合又は自死したと疑われる場合、自死に関する情報を整理するため、速やかに基本調査が実施されます。

 その後、詳細調査に移行します。詳細調査は、弁護士や心理の専門家など外部専門家を加えた調査組織(いわゆる「第三者委員会」)によって実施されます。

 詳細調査へ移行するか否かは、学校の設置者が判断をします。

 「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」は、以下の場合、詳細調査に移行させなければならないとしています。

ア)学校生活に関係する要素(いじめ,体罰,学業,友人等)が背景に疑われる場合
イ)遺族の要望がある場合
ウ)その他必要な場合

自死遺族が直面する法律問題-子どもの自死(自殺)-参照

 しかし、これまで当弁護団でたくさんのご相談をお伺いしてきた感触としては、学校側は、詳細調査に移行させることに消極的で、「基本調査の結果からいじめは疑われなかった」等と不合理な理由を付けて、詳細調査に移行させずに生徒・児童の不可解な死をうやむやにしてしまおうとすることが多いようです。

 また、ご遺族に「第三者委員会による詳細調査を求めますか?」と尋ねてくれることもしないようです。

 ですから、是非とも、ご遺族は、「第三者委員会による詳細調査をしてほしい」と学校側に要望してください。そうすれば、上記イ)に該当するため学校側も詳細調査を断れないはずです。

 第三者委員会の詳細調査によって、新たな事実が発覚することもありますから、詳細調査は有益ですし、いじめ自死等の再発防止に資するものです。

 よって、本来、学校側は、第三者委員会の詳細調査に消極的になるべきではないはずです。

世界の自死遺族団体について

こんにちは、弁護士の細川潔です。

International Association for Suicide Prevention (IASP)という団体のメーリングリストのメンバーになっています。日本語に訳すと国際自殺予防協会。

全文英語なので正確に訳せているか微妙なのですが、HPによると、IASPは、①自死のない思いやりのある世界をビジョンとし、②自死や自死行動を予防し、その影響を軽減し、学者、メンタルヘルスの専門家、危機管理労働者、ボランティア、および生きた経験のためのフォーラムを提供することを使命とし、③(慈悲)(ダイバーシティ&インクルーシビティ)(承認)(コラボレーション)(予防とサポート)(透明性)(原則と人権)という6つの主要な価値観を中核とし、これをグローバルメンバーシップに反映させている団体であるとのことです。

基本的には自死予防に関する団体なのですが、IASPにはスペシャル・インタレスト・グループというものがあり(いわゆる部会?)、この中に「自死の死別と死後」というグループあます。このグループは、その目的を「自死曝露と死別・死後サービスの分野での研究と実践における協力と証拠を促進すること」としています。

興味深いのは、このグループのページで世界のNational Suicide Survivor Organisations(翻訳機能を使うと「全国自死生存者組織」との訳でしたが、自死遺族や自死未遂者の団体・組織ということでよいかと)が紹介されています。

オーストラリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、ドイツ、香港、イタリア、ケニア、ノルウェー、英国、シンガポール、スウェーデン、米国の全国自死生存者組織のリンクが張られています(not foundになってしまっているところもありますが・・・)。世界中に「全国自死生存者組織」があることを知りました。

興味深かったので、リンク先に飛んでコンタクトをとろうと試みたのですが、HPが当該国の言葉で書かれているので(当たり前か・・・・)、翻訳機能を使ってもなかなかコンタクトすることが難しく・・・

せめて英語を勉強し直して、再びコンタクトをとろうかと模索している今日この頃です。 あと、全国自死生存者組織、日本のものがないのが少し気になりましたね・・・

いじめの重大事態の調査に関するガイドラインが改訂されました

1 ガイドライン改訂の経緯

 子どもの自死の場合、その背景にはいじめがあることが多々あると思います。いじめの調査については、平成29年3月にいじめの重大事態の調査に関するガイドライン(以下「ガイドライン」という)が策定されていました。

 しかし、その後もいじめ重大事態の発生件数は増加傾向にあり、いじめ防止対策推進法、いじめ防止等のための基本的な方針及びガイドライン等に沿った対応ができておらず、児童生徒に深刻な被害を与える事態が発生している状況にありました。

 そういった状況に加え、いじめ防止対策推進法の施行から10年が経過し、調査の実施に係る様々な課題も明らかになっていることから、令和6年8月にガイドラインの改訂が行われました。

2 改訂の概要

改訂の概要は以下のとおりです。

(1)重大事態の発生を防ぐための未然防止・平時からの備え

 全ての学校に設置されている学校いじめ対策組織が校内のいじめ対応にあたって、平時から実行的な役割を果たし、重大事態が発生した際も、学校と設置者が連携して、対応をとるよう必要な取組を実施すること等を記載。

(2)学校等のいじめにおける基本的姿勢

 重大事態調査の目的は、民事・刑事・行政上の責任追及やその他の争訟への対応を直接の目的とするものではなく、当該重大事態への対処及び再発防止策を講ずることであることから、重大事態調査を実施する際は、詳細な事実関係の確認、実効性のある再発防止策の提言等の視点が重要であることを明記。また、犯罪行為として取り扱われるべきいじめ等であることが明らかであり、学校だけでは対応しきれない場合は直ちに警察への援助を求め、連携して対応することが必要であること等を明記。

(3)児童生徒・保護者からの申立てがあった際の学校の対応について

 児童生徒・保護者からの申立てがあった時は、重大事態が発生したものとして、報告・調査等にあたる。なお、学校がいじめの事実等を確認できていない場合は、早期支援を行うため、必要に応じて事実関係の確認を行うことを記載。また、申立てに係るいじめが起こりえない状況であることが明確であるなど、法の要件に照らして、重大事態に当たらないことが明らかである場合を除き、重大事態調査を実施することを記載。

(4)第三者が調査すべきケースを具体化し、第三者と言える者を例示

 自殺事案や被害者と加害者の主張が異なる事案、保護者の不信感が強い事案等、調査組織の中立性・公平性を確保する必要性が高いケースを具体化するとともに、第三者の考え方を整理して詳細に記載。

(5)加害児童生徒を含む、児童生徒等への事前説明の手順、説明事項を詳細に説明

 調査目的や調査の進め方について予め保護者と共通理解を図りながら進めることができるよう、事前説明の手順、説明事項を詳細に記載。

(6)重大事態調査で調査すべき調査項目を明確化

 標準的な調査項目や報告書の記載内容例を示すとともに、調査に当たっての留意事項(聴き取り等の実施方法、児童生徒へのフォロー等)を記載。調査報告書作成に係る共通事項(事実経過や再発防止策等)を明記。

3 今後について

 今回の改訂版ガイドラインは、以前までのガイドラインと比較して、重大事態の判断や申立てを受けた場合の対応などが詳細に記載されるようになりました。

 しかし、現実にいじめを防止するためには、ガイドラインを定めるだけでは不十分で、やはり現場の教員らがガイドライン等を理解し、それに沿った対応をすることが必要です。

 私は、学校の教員に対していじめ対応についての研修を行うことも多いですが、そこでのディスカッション等を見ていると、いじめの定義に沿って事案を把握できていなかったり、法的に求められるいじめの対応を理解できていなかったりする教員の方がまだまだ一定数いることも感じます。

 今回のガイドライン改訂も、それがきちんと周知され、現場の教員全員が理解し、実践できるようにする必要があるため、今後も当弁護団での活動や教員への研修などを通して、教員の方々がいじめ対応についてきちんと理解し、実践できるように、ガイドラインの内容やそれに沿った適切な対応の周知に努めていきたいと思います。