生命保険問題に関する細かい議論

免責期間中の自死(自殺)に関する生命保険問題については、当弁護団のHPにも記載がありますが、ここでは少し細かい話を。

戦前の判例では、自死(自殺)について「精神病その他の原因に依り精神障碍中における動作に基因し被保険者が自己の生命を断たんとするの意思決定に出ざるを場合を包含せざるものとす」と言及されています(大審院大正5年2月12日判決。原文はカタカナ)。

免責期間中の自死(自殺)に関して、訴訟になると、諸々論点が出てきます。主張立証責任の問題もその一つです。

主張立証責任の問題とは、要するに、原告被告間で、どのような事実について、どちらが主張立証責任を負うのか(負っている方が主張立証できなければ敗訴する)という問題です。

自死に関する生命保険問題について、主張立証責任は、一般的に以下のようにいわれています。原告(保険金請求者=遺族)が被保険者(亡くなった人)の死亡の事実を、被告(保険会社等)が自死の事実を、さらに原告が被保険者が自由な意思決定能力を喪失ないし著しく減弱させた状態で自死に及んだことを、各々主張立証するというものです。

なお、遺書がない場合、自死(自殺)したかどうかについては、死亡状況等の客観的状況、自死(自殺)の動機、被保険者の死に至る経緯、保険契約に関する事情等から判断されます。

「被保険者が自由な意思決定能力を喪失ないし著しく減弱させた状態で自死に及んだこと」を原告が主張立証するとされている理由は、原告が免責事由の排除の利益を享受するから、要するに、本来ならば保険者(保険会社等)が免責されるのに例外的に免責されずに原告が利益を受けようとするのであるから原告が主張立証せよ、ということのようです。

しかし、そもそも、自死(自殺)には「精神病その他の原因に依り精神障碍中における動作に基因し被保険者が自己の生命を断たんとするの意思決定に出ざるを場合を包含せざる」のですから、その大審院判例の定義からすると、自死(自殺)の意味の中に、「精神障害中」でないということが含まれているはずです。すなわち、被告(保険会社等)が自死(自殺)であったことを主張立証するというのであれば、被告が亡くなった人について「精神障碍中」でなかったことも主張立証すべきであるとなるはずです。現に、そのようなことをいう学説も存在します。

やや細かい議論ですが、生命保険問題を担当する際には、この点も必ず意識して主張するようにしています。

>>自死遺族が直面する法律問題 -生命保険-

団体信用生命保険

住宅ローンを返済中の方は、団体信用生命保険に加入されている方も多いと思います。団体信用生命保険とは、住宅ローンの債務者が返済期間中に死亡したときなどに、その保険金で住宅ローンの残高が完済される保険です。

団体信用生命保険も生命保険ですから、契約等から3年以内の自死については保険給付を行う責任を負わないとする自殺免責特約が定められていることが一般的です。
もっとも、被保険者である故人が統合失調症などの精神疾患のため自由な意思決定に基づいて自己の生命を絶ったとはいえない場合は、自殺免責特約の適用がないと解釈されています。

>>生命保険問題についてはこちら

過去に住宅ローンの借り換えを2年程前にしてから自死された方の妻が団体信用生命保険について銀行に問い合わせると、「自殺免責期間内の自死だから無理です。」と銀行の窓口で、請求すること自体を断られてしまったという事例がありました。

その後、弁護士が代理してうつ病による自死だから自殺免責特約の適用はないと説明をし、無事保険金が支払われました。

窓口の職員の中には、自殺免責期間内でも精神疾患等により自由な意思決定に基づいて自死したわけではない場合は保険金が支払われるということを知らない人もいると思います。窓口で断られても、あきらめることなく、まずは、当弁護団にご相談ください。

生命保険問題に関連するあれこれ

こんにちは、弁護士の細川です。

現在、自死にかかる生命保険問題について、本(の一部)を書いています。 自死に係る生命保険問題そのものについては、自死遺族支援弁護団のHPにも掲載されておりますので、そちらをご覧になっていただければと思います。

>>生命保険問題についてはこちら

 今回のブログでは、そこからスピンオフした話題について書こうと思います。

 自死にかかる生命保険問題では、自死行為そのものを争うことは多くなく、ほとんどのケースでは、自由な意思に基づいて自死行為が行われたかが問題となってきます。

 しかし、自死にかかる生命保険問題の裁判例を探している際に、興味深い2つの裁判例を見つけたのでここに紹介します。それらの裁判例では、自死行為そのものが争いになっていました。1つは、仙台地裁の平成21年11月20日の判決です。被保険者がいったん縊頚行為による自死を試みたものの,これを中断した後に縊頚行為の影響で嘔吐し,吐物を吐き出せず窒息死した事案です。この裁判では、この窒息死は「自殺」には該当しないと判示されました。もう1つは、松山地裁今治支部の平成21年4月14日の判決です。これは、被保険者が熱傷を負い、闘士状姿勢(※あたかもボクサーが試合をしているような格好)で仰向けに倒れているところを発見され、最終的に全身熱傷により死亡した事案です。自死か否かが争われましたが、結局、被保険者が「自殺」したと認めるに足りる証拠はないとされました。

 実際問題、外形上自死であることに疑念がもたれるような場合は、自死行為そのものを争うという選択肢もあるのかもしれません。

 なお、保険に関しては、傷害疾病定額保険契約というものもあります。これは、保険契約のうち、ケガや病気(三大疾病や七大疾病等)によって入院・通院等をした場合に、契約時に定めた一定額が支払われるものです。

 この傷害疾病定額保険契約において、負傷し、その結果死亡した場合も、保険金が支払われます。この場合、保険金が支払われるためには、偶然性の要件が必要となってきます。偶然性を巡って、例えば、車ごと海に転落したような事案について、自死か否かが争われることがあります。偶然であることを明らかにするために、保険金請求者(多くは遺族)が自死ではないことを主張立証していくということになります(証明責任の問題も出てくるのですが、細かいのでここでは触れません。)。

・・・ややこしいですね・・・

 保険は、興味深い分野だと思うのですが、ややこしいことも多く、遺族の方々も混乱することが多いではと常々思っています。