産後うつへの公的支援の必要性

 2015~16年に亡くなった妊産婦357人の死因について、自死が102人で、がんや他疾患を上回り、最も多かったことが国立成育医療研究センターの調査で分かりました。うち92人が出産後の自死で、35歳以上や初産の女性の割合が高かったとのことです。産後うつが原因のひとつとして考えられています。

国立成育医療研究センター
人口動態統計(死亡・出生・死産)から見る妊娠中・産後の死亡の現状

日経新聞
妊産婦死亡、自殺が1位 成育医療センター調査

 世界保健機関(WHO)などによると、産後うつは、妊産婦の約10%が経験するとされていますが、近年、この割合が増えてきているようです。たとえば、2020年10月に筑波大学の松島みどり准教授らが実施した調査では、回答が得られた出産後1年未満の母親2132人のうち、産後うつの可能性がある人はおよそ24%であったとされています。新型コロナウィルスの影響で人と触れ合う機会が減ったことや収入の落ち込みなどの経済的不安が関係しているとみられています。

NHKニュース
母親の「産後うつ」 コロナ影響で倍増のおそれ 研究者調査

 私も産後気持ちが落ち込みがちになることがありました。産後うつがあることは知っていたので、日記をつけて自分の気持ちを整理したり、楽しみな予定を入れたり、心身の状態に気を付けながら過ごしていました。

 twitterやブログでは、「しんどくて限界だ、と公的機関に電話したが、しんどいですね、家族の援助を得て頑張ってください、というだけで何の助けにもならなかった。」などという当事者の声も見られます。

 男性育休制度も未だ普及していない現状で、家庭内でできる対策には限界があると思います。

  国立成育医療研究センターは、2020年に産後の自死予防対策プログラムとして「長野モデル」の開発を発表しました。新生児訪問時に保健師が母親にアセスメントを行い、その結果に応じて保健師・精神科医・産科医・助産師・看護師・小児科医・医療ソーシャルワーカーなど、多職種のチームでフォローアップを行うということです。全国への波及も期待されています。

国立成育医療研究センター
世界初!産後の自殺予防対策プログラム「長野モデル」を開発 ~産後の母親への自殺予防効果が証明される~

 産後うつを個人や家庭の問題とせず、国、地方公共団体が充実した支援制度を整えていくことで、救われるお母さん、子ども、ご家族が増えることを願っています。


教員の過酷な労働環境改善が急務

 文科省が、教員不足に関する調査結果を公表しました。同調査によると、予定どおりの教員配置ができなかった公立の小中高と特別支援学校は、2021年5月1日時点で全体の約5%にあたる1591校あり、計2065人の欠員があったとのことです。各教育委員会は、採用試験の年齢制限撤廃や人材バンクの活用などの対策を行っていますが、教員確保には、教員の労働環境を改善し、教員を魅力ある仕事にすることが不可欠であるとされています。
⇒2022年2月4日朝日新聞
 同じく文科省の調査では、2020年度に精神疾患にり患して休職した教職員が、5180人に上ることも明らかになっています。

 私の母も教員でした。子供のころ、母は、勤務先から帰宅後大急ぎで子どもたちに夕食を作り、自分は食べる時間もなく家庭訪問に出かけて行っていました。母が、朝4時頃に起きてプリントを作成して授業の予習をしていたこと、土日祝日にも部活動のためよく学校に出かけていたこと、母が家にいない間、祖母に面倒を見てもらっていたこともよく覚えています。
 また、教員になった友人からは、働く以外のことは何もできない、時間も気力もなくて家事も遊びもできない、という話を聞きます。

 当弁護団にも自死された教員の方のご遺族から多くの相談があります。
 夢や希望をもって教員になった方が、その熱意、まじめさで職務に真摯に取り組み、精神疾患にり患してしまう、というケースが多すぎると感じます。まさに、「やりがい搾取」な現状で、許されるものではありません。また、教員に時間的、精神的余力がないと、生徒に十分向き合うことができず、適切な教育ができない環境を導くおそれがあります。教員の過酷な労働環境は、生徒、その保護者の立場からしても、喫緊に解決すべき課題です。

 近年、教員の過酷な労働環境が問題視され、報道されるようになってきました。教員の働き方改革のため、下呂市の中学校では、部活動の終了時刻を切り上げ、生徒の最終下校時間を午後4時半に統一したとのことです。 
 ⇒2022年2月2日中日新聞
 教員が追い詰められず、心に余裕をもって勤務できるようになるためにも、生徒たちが充実した質の高い教育を受けられるようになるためにも、教員の労働環境改善が早急に実現されることを望みます。

いじめへの抗議の声

同級生、障がいのある方へのいじめ行為を雑誌で発言していたことが問題視され、オリンピック・パラリンピック開会式の楽曲を制作する予定だったミュージシャンが辞任することになりました。組織委は、7月16日には続投の意向を示していましたが、世論の反発が強まり、一転、7月19日に辞任が発表されました。

報道されたいじめの内容は、あまりに苛烈でひどいものでした。私は、このようなことをする人がいるのかと人間の残酷さを感じて、しばらく重苦しい気持ちを引きずっていました。いじめやパワハラの事件でも、人間に対する不信感が生まれ、しんどく感じることがあります。

今回の件では、知的障がいのある方やその家族等でつくる「一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会」が声明を出すなど、多くの抗議の声が上がり、世論の反発も強まって、彼は辞任する運びとなりました。私は、この報道に接し、世の中には残酷ないじめをする人もいるが、それをおかしい、許さない、と考える人も多いのだ、と少し救われた、安心した気持ちになりました。

また、近年、心の平穏をどのように保つか、いかに生き抜くかなどを伝える本が数多く出版されています。現代社会では、生き難さを感じたり、自分自身や家族がいつしんどい立場に立たされるか分からないと不安を感じたりしている人が多いからでしょう。いじめやパワハラの報道に、我が事のような痛みを感じている方もいらっしゃると思います。

いじめやパワハラの認知件数は年々増加傾向にあり、なくなることはありません。被害に遭われた方やそのご家族のなかには、他の人がみな声の大きい人の支配下に入り、自分と距離をとっているような気がしている方もいらっしゃると思います。

ですが、その現状を許せないと憤りを感じ、何かできることはないかと考えている人も少なくないはずです。私もその一人であり、弁護団の活動を通じて、自分にできることを考えていきたいと思っております。

息苦しさを感じる時代

 仕事が原因で精神障害に罹患し、その結果自死される方は本当にたくさんいらっしゃいます。令和元年に自死された方2万169人のうち勤務問題が原因・動機のひとつと考えられる方は1,949人だったそうです(厚生労働省『令和2年版過労死等防止対策白書』より)。

 私が自死の問題を心に留めるようになったのは、身近な方が自死されたことがきっかけです。その方は、明るく、趣味も楽しんでおられ、まったく悩んでいる様子は見えませんでした。亡くなられた状況からは、仕事が原因ではないか、と思われましたが、なぜなのか、なぜこのようなことが起こるのだろうか、と衝撃を受け、納得できない気持ちでいっぱいになりました。

 仕事が原因で心身の健康を失ってしまうのは弁護士も例外ではありません。弁護士仲間から、「仕事が心配で寝られない日が続いている。」、「仕事の悩みから精神科に通院し、服薬しながらなんとか働いている。」、「仕事量が多く休みなく働いており、仕事をしようとすると涙が止まらなくなる。」という悩みを聞くことも珍しくありません。

 SNSで、「コロナ禍で多くの人が苦しんでいるのに申し訳ないが、自分の夫は、いつも仕事に追われ続けていた。コロナ対策で在宅勤務となったことで、はじめて家族の時間を持ち、人間らしく暮らすことができた。」との書き込みを目にしました。人間らしく生きる、ということが非常に困難な時代に息苦しさを感じます。

 自死された方のなかには、日記やSNSなどにお気持ちを残されている方もおられ、それを読むと、周りの環境に追い詰められる様子に心が痛くなると同時に、これは、誰にでも起こりうる出来事なのだと感じます。自死された方やご遺族に原因があるのではなく、異常な周りの環境に原因があり、自死された方は、とても良心的な、ごく普通の感性をお持ちの方が多いように思います。もちろん、私が知っている限りあるケースについてではありますが…。

 私にできることは少なく、世の中が変わるのには時間がかかるかもしれませんが、微力ながらご遺族の方のお力になれるように、また仕事のせいで精神の健康を崩し自死されるというケースがなくなるように、活動していきたいと考えております。