子ども自殺対策 データ集約 省庁点在の資料 こども家庭庁が分析へ

昨年12月27日、朝日新聞朝刊に上記見出しの記事が掲載されました。

これまで、文部科学省は学校現場から「事件等報告書」「詳細調査報告書」を収集してきました。

子供の自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版) (mext.go.jp)」によれば、万が一、子供の自殺又は自殺が疑われる死亡事案が起きたときに,学校及び学校の設置者が、自殺に至る過程等を明らかにするため、「背景調査」を行う必要があり、背景調査は,「基本調査」と「詳細調査」に分かれます。

「詳細調査」は、基本調査などを踏まえ、必要な場合に心理の専門家など外部専門家を加えた調査組織が、アンケート調査・聴き取り調査等により、事実関係を確認し、自殺に至る過程を丁寧に探り,自殺に追い込まれた心理を解明し,再発防止策を立てます。

こうして作成される「詳細調査報告書」を文部科学省が収集管理し、他方、警察庁・厚生労働省は「自殺統計を、総務省・消防庁は「救急搬送データ」を管理するというように、各省庁で散らばる形で資料・データが管理されてきたため、子どもの自殺について学校などが把握する情報と一体化した分析ができていませんでした。

今回、2023年4月発足の「こども家庭庁」に省庁横断の資料・データを集約し、子どもが心理的に追いつめられていった背景、きっかけを分析し、科学的根拠に基づいて防止策を提言することにより、少しでも子どもの自殺が減少することを期待したいと思います。

労災保険審査請求と個人情報開示請求について

 労働者が過労自殺(自死)で亡くなった場合、遺族が取りうる法的手続きとして、国に対する労災の請求と、企業などに対する損害賠償の請求があることは、「遺族が自死遺族が直面する法律問題-過労自殺(自死)-」で述べているとおりです。

 労災請求の結果、労働者に生じた死亡が業務に関係ない「業務外」のものと判断(「業務上の事由によるものとは認められません」という理由で不支給決定通知)を労働基準監督署長がした場合、遺族としては、労災保険による補償を受けられません。
 仕事のストレスなど業務上の心理的負荷が原因で自死したとしか考えられないにもかかわらず、このような判断が出された場合、遺族としては当然、納得できませんので、この決定に不服があるとして、その決定を行った労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求をすることができます。
 この審査請求は、労災保険給付の決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行う必要があります。
 審査請求書は、厚労省ホームページからダウンロードできます。

労災保険審査請求制度 (mhlw.go.jp)

 審査請求と併行して、遺族は、どうして労働基準監督署長が不支給決定をおこなったのかについて確認するため、保有個人情報開示請求(各労働局ホームページから保有個人情報開示請求書をダウンロード可)を、その決定を行った労働基準監督署長を管轄する都道府労働局総務部総務課に郵送します(あて先は、「○○労働局長」とします)。

 同請求書の「開示を請求する保有個人情報」欄には、例えば

「開示請求者(※遺族)が〇〇(〇年〇月〇日生)の自殺に関して〇〇労働基準監督署長に対してなした遺族補償給付等の請求(令和〇年〇月〇日不支給決定)に関して作成された業務上外の判断にかかる調査復命書並びにその添付書類一式
所轄労働基準監督署 〇〇労働基準監督署」

 この保有個人情報請求の結果、労働局から、調査復命書(精神障害の業務起因性判断のための調査復命書)や添付書類が開示されたら、そこに記載されている調査結果、専門医の意見、聴取書などが事実と食い違わないかを分析し、次の再審査請求や企業などに対する損害賠償の請求訴訟の証拠として戦う準備をします。
 保有個人情報請求手続きにより入手した開示書類のうち、聴取書及び聴取事項記録書は、請求人(遺族)のものを除き、墨塗りの状態で開示されることになりますが、労災請求の際、故人と親しかった同僚など遺族からの聞き取りに応じてくれた方について、遺族による開示請求について同意を得られるのであれば、労働者災害補償保険審査官に対し、労働保険審査会法第16条の3第1項に基づいて、聴取書及び聴取事項記録書についての閲覧及び写しの交付等を請求できます。審査官は、第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき、その他正当な理由があるときでなければ、その閲覧又は交付を拒むことができないと法律で定められています。

>>遺族が自死遺族が直面する法律問題「過労自殺(自死)」

鉄道事故

 鉄道事故については、当弁護団HP自死遺族が直面する法律問題「鉄道事故」で解説していますが、警察から、故人が鉄道に飛び込んで亡くなったという連絡を受けたご遺族は大変なショックを受けます。

 親族が亡くなっただけでも辛いのに、警察から「鉄道会社に遺族の連絡先を伝えていいですか」とか問い合わせがあり、案件によっては「本人確認のためDNA鑑定をおこなう必要があり、時間がかかる」と言われ、通夜や葬儀がいつできるかわからないという場合もあります。

 故人が1人暮らしをされていたような場合、故人の遺産、預金、借金があるかもよくわからず、また、鉄道会社がいくら損害賠償を請求するかわからないということで、相続したらよいのか、相続放棄したらよいのか決められません。

 相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にする必要がありますが、鉄道会社が3か月以内に賠償請求額を明らかにしてくれるかどうかもわかりません。そのため、まずは故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てをして、鉄道会社から請求が来るまで待つことをお勧めします。伸長の申立書は、家庭裁判所のホームページに書式や記載例、必要書類などの手続きが掲載されていますし、また、最寄りの家庭裁判所の手続き案内窓口に直接相談されるのも良いと思います。

 鉄道会社から損害賠償の請求が来た場合、弁護団にご相談いただければ、詳しい事情をお聞きした上で、妥当な範囲の請求かどうか弁護団で検討させていただきます。メールや電話での相談は無料ですのでご安心ください。

 最終的に相続放棄する場合、誰が法定相続人となるかについて確認しておかれると良いです。

 法定相続人になる人は、被相続人の配偶者と被相続人の血族です。血族相続人には相続順位が定められており、相続順位は下記のように定められています。

第1順位:子ども、代襲相続人(直系卑属)
第2順位:親、祖父母(直系尊属)
第3順位:兄弟姉妹、代襲相続人(傍系血族)

 故人に配偶者や子どもがいない場合、両親が法定相続人となり、両親が相続放棄をすると、両祖父母(ご存命の場合)が次の相続人となりますので、両祖父母も相続放棄が必要となります。両祖父母が相続放棄をすると、故人の兄弟姉妹や代襲相続人が次の相続人となりますので、それらの方も相続放棄が必要となります。

 最後に、告知です。

 この弁護団では、毎年3月に24時間相談会を、9月に12時間相談会を実施しています。

 2022年9月10日(土)昼12時から深夜0時までの12時間、自死遺族の方を対象に無料法律電話&LINE相談会を実施予定です。何かお困りごとがあれば、お気軽にご相談頂ければと思います。

2022年9月10日(土)12時間無料法相談会についての詳細はこちら

相続人について

 ご兄弟の方から、兄弟が自死されたとの相談を受けることも度々あります。

 亡くなられた方に奥さんやお子さんがいらっしゃる場合もあれば、以前、結婚していたがその後、離婚され、配偶者の方がお子さんを引き取って育てておられ、離婚以後、親戚つきあいなど全くないという場合もあります。

 そうした場合、亡くなられた方の事情を一番知っておられるご兄弟が葬儀や親戚への連絡などおこなわれることになり、鉄道事故の場合は鉄道会社と、マンションでの自死の場合は家主や不動産業者、警察などとの応対もされることになります。

 亡くなられた方の預金や保険といったプラスの財産や、ローン、携帯本体の分割金などマイナスの会社も、郵便物や通帳の入出金履歴から手がかりを探し、マイナスの方が多ければ相続放棄を、調査に時間がかかりそうという場合には相続の承認又は放棄の期間の伸長申し立てを、故人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てる必要があります。

 金融機関の負債の調査には、KSC(一般社団法人全国銀行協会(JBA)の全国銀行個人信用情報センター)JICC(株式会社日本信用情報機構)CIC(株式会社シー・アイ・シー)に照会することもできます。

 亡くなられた方に奥さんやお子さんがいらっしゃれば、奥さんやお子さんが相続人となりますし、奥さんと離婚されてお子さんを引き取っておられる場合は、お子さんが相続人となります。

 第一順位の法定相続人がいる場合、ご兄弟の方は相続人ではありませんので、この段階でご兄弟の方は相続することも相続放棄をすることもできません。

 こうした場合、まずは第一順位の法定相続人に連絡をとって、相続するのか、相続放棄するのか、あるいは相続の承認又は放棄の期間の伸長申し立てをするのかを第一順位の法定相続人に検討いただく必要があります。

 何年も連絡をとっていないため、第一順位の法定相続人に連絡先がわからないという場合は、弁護士がご兄弟から相続手続きの委任を受け、相続人調査をおこなうこともできますので、こうした場合は、遠慮なく弁護団までご相談ください。

>>相続についてはこちら

ヤングケアラーについて

 借金のご相談にこられた20代の女性。よくお話を聞いてみると、最近、報道でよく見かけるようになったヤングケアラーでした。夫婦関係の不和が元で、お母さんが全身に痛みが現れる難病にかかり、しかもそれが難病指定されていない難病ということで、彼女が中学生の頃からお母さんの全身をマッサージするほか、料理、洗濯、掃除など家事全般を担わなければならなかったそうです。

 その上、お母さんやお兄さんから、「できそこない。ポンコツ。」などの暴言や暴力を受け、精神的に疲れ、不登校になったそうです。

 お母さんが服毒自死未遂を起こしたり、彼女がお母さんから暴力を受けて大けがを負うなどし、家を出たいと思い続けてきたそうです。

 それでも、コンビニエンスストアやホームセンターでレジ業務のアルバイトに就くなど頑張ってきましたが、家族の暴言がひどくなり、彼女の体調は悪化し、携帯電話も利用料滞納で電話ができなくなり、コンビニエンスストアの駐車場で、コンビニのWIFIを使って携帯電話で「もうだめだ。もう無理だ。」と検索したところ、よりそいホットラインの電話番号の案内サイトにたどりつき、そこから地元の緊急一時宿泊所を案内され、安心できるシェルターで保護されました。現在は、生活保護を受けながらアパートで生活しておられ、少し落ち着いたので借金について相談されることになりました。

 生活保護申請に際し、福祉事務所のケースワーカーが家族への扶養照会を言ってきたので、支援団体が虐待加害者への扶養照会などとんでもないと強く抗議し、照会はされないことになりました。

 長い間、とても精神的にストレスフルな環境で生活してこられたので、借金整理の手続きについても、これまでの思いなどについてゆっくり時間をかけてお聞きしています。弁護士というよりカウンセリングみたいな感じです。支援者にちゃんとつながって本当に良かったと思います。この原稿を書きながら試しに「もうだめだ。もう無理だ。」と検索してみたところ、彼女が話していたとおり、よりそいほっとラインの電話番号の案内サイトにたどりつきました。この自死遺族対策弁護団のブログも、突然の出来事にどうしてよいかわからない遺族の方等に少しでも寄り添えればという思いでリレートークしています。

鬼滅の刃を読んで~言葉の暴力の怖さ

鬼滅の刃を読んでいて、はっとしました。

鬼の妻が、鬼の夫から暴力をふるわれ、「悪かったわ…謝るからもう許してよ 何に怒ったの?何が気にくわなかったの?」と涙ながらに鬼の夫に尋ね、かえってきた言葉は…「何に怒ったのかわからないのが悪いんだよ。」

この作者がDVの加害者の心理をよく知っていることに驚くとともに、小学校低学年の子どもまで広くこの漫画が読まれていることに少し怖さを感じました。家族や他人と思いやる優しい心の主人公から学ぶことが多い漫画ですが、敵の鬼のこうした面が描かれたりしているのです。

殴られる、蹴られるといった肉体的暴力だけでなく、暴力をほのめかしたり、自尊心を著しく傷つける言葉など精神的暴力により傷ついた方々のお話を聞くことが多いです。

家庭や職場など狭い空間では、腕力や声の大きい方が強く、たとえ間違っていても反論できません。反論すれば何倍にもなって自分に返ってきます。そのため、怒られないよう、暴力や暴言を受けないよう、相手の顔色をうかがってピリピリした空気の中で生活せざるをえません。

一方的に責められ続けるうち、自分の方がおかしいんじゃないか、悪いんじゃないかと思うようになったと目に涙を浮かべて話される場合も多いです。誰にも相談できず、自分を責め続けてきた方々に、あなたは悪くない、間違っていないと繰り返しお伝えしています。

精神的に追い詰められ、亡くなってしまわれた場合、ご遺族はどうしてこんなことになったの、誰が本人をここまで追い詰めたの?とわからないことだらけです。遺された書類、パソコン、スマホなどの記録の調査や関係者への聞き取りなどを通して、本人を追い詰めた具体的事実が少しづつわかってきたとき、ご遺族も「そりぁあ大変だったね。辛かったね。相手がひどい、悪かったよ、あなたは悪くない、間違っていない。」と、本人と対話ができるようになられる、ほんの少しだけ心が楽になられる、そんな気がします。