不倫に関するトラブルと自死

 裁判所まで持ち込まれず、内々に処理、解決されることの多い法律事件の類型として男女のトラブルがあります。

 このようなトラブルの類型としては、既婚者と性的関係をもち、その既婚者の配偶者からある日慰謝料請求を内容とする通知が届く、といういわゆる不貞慰謝料請求のパターンが多いといえます。

 他に、既婚の方が独身の異性を欺いて性的関係をもったり結婚の約束をしたことに対して慰謝料請求される、という場合もあります。

 公になることが少ないのは、事柄の性質上、当事者が他者に知られることを極度に恐れることが多いためです。裁判所に持ち込まれる例よりも、内々で和解、示談となる場合の方がはるかに多い類型といえます。

 ですので、この種の事件の実数、増減の把握はできません。けれども、弁護士として各所で法律相談に乗っていると、ここのところまたか、増えているのではないかな、と感じることが多くなってきました。

 請求を受けた方が、自分だけでは用意できない金額を請求されたり、仕事関係や家族関係に知られて信頼をすべて失うのではないか、と悲観し、誰にも相談できずに自死に至るとの例も散見されるところです。

 こういった場合、ご遺族は請求を受けた家族が亡くなってはじめて遺品、携帯やパソコンの連絡内容、通知の郵便物などからトラブルがあったことを断片的に知ることになります。

 ご遺族に生じうる法的問題として、請求側の請求が成り立つ場合に慰謝料の支払い義務を相続することになる、という点があります。

 しかしながら、このようなトラブルは一般的に、当初請求額はいわゆる裁判水準よりも高額であることが多いこと、双方既婚の場合(いわゆるW不倫)、請求された側の配偶者も請求した側の配偶者(不貞当事者)に不貞慰謝料を請求できる立場にあること、不貞のいきさつから請求される側に責任がない・軽い事情があることも多いところなどから、弁護士に相談すればその額を大きく減じた解決となることもあります。

 亡くなった方の財産状況によっては、相続放棄が合理的な場合もあります。

 加えて、請求者側の請求の手段方法が法的権利の実現との目的の範囲を超え、相手方の名誉を害する、不利益をことさらに強調して恫喝する、根拠なく過大な請求を行う等の悪質性を備える場合は、逆に遺族が請求者に対し損害賠償を請求することも検討すべきでしょう。

 ご遺族としては、家族を急に亡くしたうえに予期せぬトラブルに混乱してしまうところと思われますが、慌てて遺族自身が対応するよりも、法専門家に一度相談することをお勧めします。