埋もれるセクハラメンタル労災

 セクハラ被害のために精神疾患を発症・悪化させる例、ひいては自死に至る例がある。

 しかしこれらが労災と認められるには、過労精神疾患・過労自死全般の労災認定の困難さに加え、さらに別種の乗り越えなければならない壁がある。そのため、申立にすら至らない暗数は多大であると考えられる。

 その壁の一つとしてセクハラ被害においてごく一般的にみられる「迎合」につき、いまだ社会の認識が追いついていない点がある。

 「迎合」すなわち、セクハラ被害者は仕事を失いたくない・被害を軽くしたいなどの思いから、加害者の機嫌を損ねないよう拒絶や嫌悪を隠して、調子を合わせたり誘いを受け入れるかのような発言や対応をとることが多い。

 もちろん、このような事情がセクハラを否定、軽視する理由にはならない。この点につき裁判例も重ねられ厚労省の精神疾患労災認定基準にも明記してある。

 しかしながら、被災者本人は精神疾患の影響で自責の念が強くストレス耐性も落ちていることが多い。もっと上手く強く対処できなかった自分が悪かったのではないか、被害を主張して他人から性的な落ち度だとあげつらわれ非難されたら耐えられない、等思い悩んで労災申請含む被害申告をためらってしまう。

 加えて、長期執拗なセクハラは通信記録が残っている場合が多いものの、これを職場の上下関係の機微を知らない遺族が見ても、一見和気あいあいと冗談を言い合って誘いを喜んでいるように見えてしまい、被害を認識できないことがある。

 社会の一人一人が、職場の力関係がある中で性的な発言をしたり個人的な誘いをかけることの加害性を認識し、被害者が迎合によって身を守らざるを得ないのは当然であることについて理解を深めて二次加害を厳に慎まなければならない。

それが、このような被害をそのものを減らすため、そして被害者が正当な権利を行使して被害を回復するために必須である。