1 ネットいじめとのかかわり
私は、もともとは過労自死、生命保険、賃貸物件での自死など、自死に関する法律問題全般を専門的に扱っていましたが、私自身小学生の子を持つ親でもあることから、6~7年前からいじめ自死の相談を受けることが多くなりました。遺族の代理人として教育委員会と交渉を行ったり、遺族推薦の委員として第三者委員会で活動したりしている中で、2年ほど前にネットいじめ相談を受け、それ以来ネットいじめの問題に関心を持つようになりました。
2 ネットいじめの具体例
(1)使用されるアプリ
かつてはネット掲示板(学校裏サイトなど)がネットいじめの温床とされていましたが、今日はSNSが利用される可能性が圧倒的に高くなっています。SNSの中でこどもの利用頻度が高いのはTwitter、LINE、高校生はInstagramやTikTokなどを使っていることもあります。また、オンラインゲーム(フォートナイト、荒野行動など)のボイスチャット機能などを用いていじめが行われることがあります。
(2)ネットいじめ行為の類型
ネットいじめ行為の類型は、使用するアプリの機能に応じて多様に変化しています。典型的なパターンとしては、①Twitterなどでなりすましアカウントを作られ、虚偽の情報やプライバシー情報を暴露された、②自分の写真、動画を勝手に加工され拡散された、③lineなどのグループトークを外された、④いじめられているところを動画撮影され、拡散された、⑤罰ゲームとしてうその告白をされた、⑥過去の交際時の画像を拡散された(リベンジポルノ)、⑦オンラインゲームで、グループから外された特定のこどもへの集中攻撃が繰り返されたなどが考えられますが、今後も新しいアプリが開発されるたびに新しいパターンのいじめ行為が現れると予想されます。
3 ネットいじめの現状
(1)統計上も過去最多
文部科学省は、全国のいじめ事件の統計を取っており、毎年、調査結果の公表を行っています。(→文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)2021年10月13日に公表された、「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、ネットいじめの件数は1万8870件で過去最多(平成29年度1万2632件、平成30年度1万6334件、令和元年度1万7924件。)となっています。学校が把握していないネットいじめも多数あると思われ、潜在的な件数はもっと多いことが予想されます。
また、小中学校における不登校の件数も過去最多(19万6127件。)、小中高等学校におけるこどもの自殺も過去最多(415件。なお前年度は317件。)となっています。学校現場が現在非常に危険な状態となっていることが統計上も明らかとなっています。
(2)近時のネットいじめの特徴
小学生でもスマホを持ちSNSを使うことが珍しくなくなった現在では、ネットいじめの特徴も変化が見られます。SNSを利用する場合、コミュニケーションの相手はクラスや友人などであり、多くの場合、現実に存在する人間関係を補完するツールとしてSNSが用いられています。その意味で、現在のネットいじめは掲示板などで見知らぬ人から攻撃されるようなパターンよりも、現実に存在する人間関係を前提に、ネット上でいじめ行為が行われるパターンの割合が増えています。つまり、ネットいじめの存在が確認できた場合、いじめ行為はネット上にとどまらず、クラスや部活動などリアルな人間関係の中にも広がっている可能性を疑う必要があります。
3 ネットいじめへの対処法
ネットいじめの多くがリアルな人間関係を前提としている以上、2つのアプローチを併用する必要があります。具体的には、第三者委員会の設置など学校や教育委員会を通じていじめの実態解明を行うアプローチと、発信者情報開示などネット上のいじめの痕跡をもとに証拠収集を行うアプローチです。当事者適格の無い学校が発信者情報開示請求を行うのは不可能な一方で、学校におけるいじめの実態解明は生徒のアンケート等が非常に重要ですから、どちらか一方だけのアプローチでは不十分と考えます。
4「弁護士によるネットいじめ対応マニュアル」について
私は、自死問題でともに活動してきた細川潔弁護士、私と一緒の事務所でインターネット事件を得意とする田中健太郎弁護士とともに、2年前からネットいじめ研究会を開催し、月1回のペースで議論を重ねてきました。そこでの議論をもとに、2021年11月、教育関係の専門書を数多く出版しているエイデル研究所から、「弁護士によるネットいじめ対策マニュアル 学校トラブルを中心に」を出版しました。
本稿で述べている内容の多くは、この本からの引用です。本の中ではより具体的な対応策や、より高度な論点なども記載していますので、興味のある方は是非ご活用いただければと思います。