「いじめ」であることを否定された場合の遺族の対応として考えられること

1 はじめに

 学校における子どもの自死には、「いじめ」を原因とするものが多い印象があります。

 しかし、国の作成した統計上「いじめ」は必ずしも多くありません。

 実際に「令和5年中における自殺の状況」(令和6年3月29日 厚生労働省自殺対策推進室・警察庁生活安全局生活安全企画課)によると、学校問題で自死した生徒は524人のうち、「いじめ」を理由として自死した者は6名のみ(全体の1.1%)と報告されています。

 もっとも、このような国の作成した統計は実態を適切に反映したものではない可能性が高いといえます。これは、「いじめ」と「友人との不和」との区別が曖昧なことや、学校が「いじめ」による自殺を否定することにより、警察が明確に「いじめ」を原因とするものと判断できないこと等が理由であると考えられます(2023年7月17日の生越弁護士のコラム「いじめ自殺を含めた子供の自殺を減らせるか?」参照)。

 では、遺族としては、子どもの自死が「いじめ」ではないと判断された場合に、どうすることもできないのでしょうか。以下では、学校が「いじめ」であることを学校が否定した場合の遺族の対応を整理しました。

2 基本調査から詳細調査へ移行することを希望する

(1)基本調査から詳細調査へ移行すべき場合

 文部科学省「子供の自殺が起きた時の背景調査の指針(改訂版)」(以下「指針」といいます。)によると、子どもの「自殺又は自殺が疑われる死亡事案」については、全ての案件で、主に学校及び学校の設置者は子どもの自殺に至る過程等を明らかにするための基本調査を行う必要があります。

 その上で、学校の設置者は、基本調査の報告を受け、中立的な立場の心理の専門家や弁護士など外部専門家を加えた調査組織(第三者委員会)において行われる詳細調査をすべきか否かの判断を行います。

 そして、指針には、次の3つの場合には少なくとも詳細調査に移行すべきことが定められています。

ア)学校生活に関係する要素(いじめ、体罰、学業、友人等)が背景に疑われる場合
イ)遺族の要望がある場合
ウ)その他必要な場合

(2)詳細調査が行われていない実態

 しかしながら、2023年10月の文部科学省の調査結果によると、2022年度に基本調査から詳細調査に移行したのは全体411人中19人(約4.6%)で20人に1人にも満たないことが明らかになりました。この点は、文部科学省も余りにも少ないと考えており、背景調査の取組みの姿勢について検討が必要であることを認めています(※1)。

 これは、学校側が、「いじめ」を含めて学校生活に関係するものであることを否定し、「ア)学校生活に関係する要素」ではないと判断されるからではないかと考えられます。

 しかも、同調査結果によると、背景調査の指針に沿って遺族に詳細調査の希望などの制度を適切に説明していない事例が41%に上りました。

 すなわち、遺族が詳細調査という制度を知らないままに、詳細調査を希望することができず、全容が明らかにならないまま基本調査のみで終えるケースが多く存在するということです。

(3)遺族が詳細調査を明確に希望する

 そこで、基本調査から詳細調査に移行することを希望する遺族は、指針に基づいて、詳細調査に移行することを明確に希望することが必要となります。

 最終的に詳細調査に移行するべきか否かの判断は学校の設置者に委ねられ、詳細調査に移行しないことによる指導や罰則等が設けられているわけではありません。そのため、必ずしも希望すれば全ての案件で詳細調査が実施されるわけではありませんが、遺族が明確に希望しているにもかかわらず、詳細調査に移行しないことは指針に反する対応として学校の設置者に対する批判は免れません。

3 「いじめ」ではない事案でもスポ振を利用することができる

 「いじめ」による自死と認められなかったとしても、例えば、学校行事の際に学校の友人との仲違い・けんかや人間関係のすれ違いなどを原因としてうつ病を発症し、自死に至った場合などでも、独立行政法人日本スポーツ振興センター(通称「スポ振」といいます。)の災害共済給付を請求することが可能です。

(1)スポ振の災害共済給付の要件

 スポ振において、「学校の管理下」における「心身に対する負担の累積に起因することが明らかであると認められる疾病のうち特にセンターが認めたもの」(※2)に該当する場合には、「児童生徒等の疾病」(※3)とされており、この疾病に「直接起因する死亡」(※4)と認められれば、災害共済給付の給付対象となります。

 そして、「心身に対する負担の累積に起因する疾病」とは、「精神的な負担が継続的に加わったことにより発症したと認められる心因反応などの疾患」が例として挙げられており(※5)、精神的な苦痛をもたらすような行為が継続的に行われた場合が該当します(※6)。

 したがって、災害共済給付の対象として認められるための要件としては以下のように整理することができます。

① 精神的な苦痛をもたらすような行為が継続的に行われたこと
② ①が学校の管理下で行われたこと
③ ①によって疾病を発症したこと
④ ③の疾病に直接起因する死亡であること

(2)「学友との不和」でも災害共済給付の対象となる可能性がある

 冒頭で紹介した「令和5年中における自殺の状況」において、「いじめ」を理由とする自死は6名であったのに対して、「学友との不和(いじめ以外)」による自死は78名に上ります。このことから、明確に「いじめ」と言えない場合にも、統計上「学友との不和」に分類されているケースが多いと思われます。

 したがって、学校関係者から聞き取った警察官が「いじめ」を認めず、「学友との不和」に分類するような場合であっても、精神的苦痛が継続的に加わり自死に至るケースは多くあります。

 そこで、「学校の管理下」において、精神的な苦痛をもたらすような行為が継続的に行われ、その結果、うつ病等を発症して自死した場合には、「心身に対する負担の累積に起因することが明らかであると認められる疾病」に「起因する死亡」に該当し、災害共済給付(死亡見舞金)の請求が認められる可能性があります。

 遺族としては、子どもの自死の原因が「いじめ」であることを否定された場合、子どもがなぜ自死をしたのか分からず、これ以上何もできないのではないかと思ってしまいます。しかし、子どもが、学校で、どのような精神的苦痛を継続的に受けていたのかを立証することができれば、スポ振の災害共済給付の請求が認められる可能性がありますので、あきらめずに災害共済給付の請求を行うことをおすすめします。

※1 自殺総合対策の推進に関する有識者会議(第11回)25~27頁

※2 独立行政法人日本スポーツ振興センターに関する省令第22条第7号

※3 独立行政法人日本スポーツ振興センター法施行令第5条1項2号

※4 独立行政法人日本スポーツ振興センターに関する省令第24条第2号

※5 独立行政法人日本スポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程

※6 独立行政法人日本スポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程注44