死と法律

1 死の定義

 死の定義(時期)については、医学、法学、哲学、文化学などによって様々な議論がされています。

 学説を俯瞰すれば、死は瞬間的なものではなく段階的なプロセスによって生じるものの、「身体の死」(身体機能(Body機能)の停止)か「認知機能の喪失や脳の死」(人格機能(Person機能)の停止)のいずれかを死の時期とする説に大別されるようです(シェリー・ケーガン「「死」とは何か」文響社 36頁、ナショナル・ジオグラフィック「生と死 その境界を科学する。」日経ナショナルジオグラフィック社)。

 それでは、法学的には死はどのように定義されているのでしょうか。

 実は、法律は「死」について積極的な定義をしておらず、心臓停止・呼吸停止・瞳孔反射の喪失で判断する三徴候説という学説が有力です。

 しかし、生命維持技術の発展に伴い、医学においては全脳死をもって死亡時期と考える見解が支配的になったため、現在では、法学においても、三徴候説に動揺が生じ、未だに決着を見ない論争が続いています(西田典之「刑法各論 第四版補訂版」弘文堂 9頁)。

 なお、民法においては、同一事故で複数の人が死亡した場合についての同時死亡の推定(民法32条の2)、7年以上行方不明の者について法律上死亡したものとしてみなす失踪宣告(民法30条)が規定されています。

2 死の法的効果

 民法上の死亡の効果としては、相続が発生します(882条)。

 また、明文の規定はありませんが、死亡によって、人は権利能力(法律上の権利・義務を持つことができる資格)を失うといわれています。

3 死者に対する名誉毀損

 近似、SNSの普及により、死の事実が虚実織り交ぜた形で遺族の承諾なく拡散されるような事案を目にします。

 そのような場合、死者に対する名誉毀損が成立するか否かが、遺族による同記事の削除請求等の可否との関係で問題となります。

 まず、刑法上は、虚偽の事実によって、死者の名誉を毀損した場合には、名誉毀損罪が成立します(刑法230条2項)。

 しかし、民法上は、上記のとおり、人は死亡によって権利能力を失うため、死者は名誉権という権利を持たず、死者に対する名誉毀損は成立しないといわれています(斎藤博「故人に対する名誉毀損」判評228号33頁、東京地判平成23年4月25日ウエストロー2011WLJPCA04258004)。

 そこで、死に関する事実を拡散等された遺族は、死者の名誉権ではなく、遺族自身の「敬愛追慕の情」(死者を想う気持ち)という権利に基づいて、削除請求や損害賠償請求の余地があるという解釈が編み出されました(東京地判平成23年4月25日ウエストロー2011WLJPCA04258004、東京地判平成22年12月20日ウエストロー2010WLJPCA12208003)。

 これは、死者自身の名誉権を認めるドイツ法的な解釈ではなく、死者に対する近親者の愛情を権利として認めるフランス法的な解釈です。

 死者に関する名誉毀損は、非常に難しい法律問題ですが、遺族の方が少しでも平穏な日々を送れるよう我々も日々勉強を重ねておりますので、いつでもご相談ください。

ネットいじめ問題

 はじめまして、弁護士の田中健太郎と申します。

 インターネット問題やマンション問題に取り組む中で、自死に関する案件を取り扱うようになり、自死遺族弁護団に加入することとなりました。

 文部科学省が2020年に調査した不登校等調査によれば、児童・生徒の自死や不登校の原因について、ネットいじめが1万8870件と過去最多となりました。

 世界的にもネットいじめ問題は深刻さを増しており、韓国ではアイドルがプライバシーの拡散を受けたり、誹謗中傷を受けたりすることで自死するというケースが跡を絶ちません。

 日本が行っているネットいじめ対策としては、プロバイダー責任制限法の改正に伴い発信者の特定に要する期間の短縮が図られたことや侮辱罪の刑罰に新たに1年以下の懲役・禁固又は30万円以下の罰金を加えたこと等が挙げられますが、教育現場でのネットいじめの対応はなおざりであると言わざるを得ません。

 私が執務を行う町田市でも小学6年生がネットいじめにより自死したとの報道があります。いじめに使用された端末は、文部科学省肝いりのGIGAスクール構想(児童・生徒の1人1台パソコン端末を配布して教育現場に活用する構想)で配布された学習用デジタル端末を用いたもののようで、デジタル端末の技術的な側面を偏重した教育の結果ともいえます。

 インターネットの問題が伴う自死に関して悩まれている方は、ご遠慮なく弁護団にまでご連絡下さい。