よくご質問されること

 過労自殺(自死)のご依頼を受けると、遺族の皆様によく聞かれるのが、「今何の手続をしているのかわからなくなってしまいました」というご質問です。(私のご説明がわかりにくいのも原因かもしれませんが、)過労自殺(自死)の事件では、たくさんの手続を順番に、または平行して進めることになるので、確かにわかりにくいかもしれません。もちろん、何度聞いていただいても良いのですが、せっかくなので、まとめておきたいと思います。

 本弁護団のHPでも、「自死遺族が直面する法律問題」の「過労自殺(自死)」の項目で記載しているように、労働者である故人が過労自殺(自死)で亡くなった場合には、大きく分けて、労災保険の請求と会社に対する損害賠償請求ができます。それぞれ、完全に独立した手続で、どちらかだけを請求することもできますし、両方同時に請求もできますし、どちらかを先行させて請求することも可能です。

 更に、これらの請求の前に、裁判所を通じて証拠保全手続を行うこともありますし、会社に対して直接証拠の任意開示を請求することもあります。

 従ってこれらを組み合わせて、例えば、「証拠保全手続」→「労災保険申請」→「損害賠償請求訴訟」の順番で手続を行う場合、それぞれ「裁判所の手続」→「行政上の手続」→「裁判所の手続」になります。労災保険申請で不支給決定が出た場合には、これらに追加して、途中、審査請求(行政上の手続)や行政訴訟(裁判所の手続)を行うことになりますので、確かに途中で、今は何の手続中?となってしまうかもしれません。

 複雑に思われるかもしれませんが、だからといって省略するとご遺族に大きな損失が出てしまうかもしれません。証拠保全は、そこで得られた結果を労災保険請求や会社に対する損害賠償請求をする場合の重要な証拠とすることでできますので、手元に証拠が少ない場合には欠くことはできませんし、労災保険請求と会社に対する損害賠償請求では、下記のように違いがあります。

 まず労基法上、使用者(会社)には、労働者が業務上亡くなった場合には、遺族補償や葬祭料を支払う義務がありますが、会社に資力(支払能力)が無い場合には、遺族は補償を受けることができません。しかし政府が所管している労災保険制度(労働者災害補償保険制度)を利用すれば、会社の資力に関係なく遺族が一定の補償を受けることができます。しかも、労災保険制度には、会社の過失が要件にならない無過失責任という大きなメリットがあります。遺族は会社の過失を証明しなくても良く、また、一般に会社に対する損害賠償請求の裁判よりは短い期間で手続が終わるため、請求のハードルが会社に対する損害賠償請求よりも低く、我々の弁護団では労災保険請求を先行させるのが通常です。

 しかしながら、労災保険制度では、慰謝料は補償の対象外であり、また、補償額も法律で規定された一定額に限られるなどのデメリットもあります。

 そこで、会社に資力があり、過失もある場合には、次に会社に対する損害賠償請求を行うことになります。会社の過失を立証しなければなりませんし、裁判手続が必要になることも多いので、簡単ではありませんが、認められれば慰謝料や労災保険制度では支払われなかった逸失利益の支払も認められるという大きなメリットがあります。

 以上のような違いから、時間はかかりますが、労災保険請求と会社に対する損害賠償請求の両方を検討することとなります。 なお、労災保険給付が認められた場合には、会社によっては、労災上積補償が行われる場合があります。会社が、労災保険給付が認められた場合には、労災保険給付の金額に上積して補償する制度を設けている場合があるのです。但し、このような上積補償制度を設けることは法律上の義務ではないため、制度を設けていない会社に対しては残念ながら請求できません。労災補償給付が認められた場合には、念の為、会社に対して、上積補償制度が設けられていないか確認してみられるのが良いと思われます。