過労自死で労災認定されると、ご遺族は遺族補償給付等の給付を受けることになり、その遺族補償給付等の金額は給付基礎日額によって定まります。給付基礎日額は実際に被災労働者に支払われた賃金だけでなく、未払いの時間外労働手当も考慮して計算しなければなりませんが、労基署は往々にして未払いの時間外労働手当の算定をさぼります(2022年8月1日ブログ「労災が認定されたら、給付基礎日額が正しいか要確認です」ご参照)。
労災申請時から弁護士がついていれば、労災認定された後、給付基礎日額が適正かどうかチェックし、額が低ければ、審査請求期間(3か月)以内に審査請求し、審査請求もだめなら取消訴訟(6カ月以内)を提起しますが、ご遺族自身が労災申請して労災認定を受けた後に、給付基礎日額が適正かどうかチェックすることは困難です。
実際、ご遺族自身が労災申請をして労災認定を受けたため、弁護士のチェックが介在しなかった結果、審査請求期間も取消訴訟出訴期間もとうに過ぎた時期に関連事件で弁護士に相談をした時、初めて、遺族補償給付の給付基礎日額が不当に低いことが判明した事案があります。
その処分をなしたのは栃木県の鹿沼労基署長でした。給付基礎日額の算定が明らかに誤っているので、弁護団が通知書で誤りを指摘すれば、さすがに是正すると思い、まずは通知書を送りましたが、鹿沼労基署長は「取消訴訟の出訴期間を過ぎておりますので」等と述べて、明らかに誤っている給付基礎日額を是正しませんでした。
だったら訴訟するしかありませんが、行政のなした処分を審査請求期間や取消訴訟の出訴期間を経過した後に訴訟で争うには、処分の無効確認の訴えを提起するしかありませんが、無効確認の訴えは、重大かつ明白な違法性があって、はじめて認容判決が得られる訴訟類型で、非常に難しく、国民・市民側の勝訴判決事例はほとんど存在しません。
しかし我々弁護団(生越照幸弁護士、和泉貴士弁護士、私)は諦めずに無効確認の訴えを提起しました。そして約1年半の審理を経て、令和6年6月27日に判決日が指定されました。
弁護団は判決日を楽しみに待ちましたが、判決日を待っている間に、なんと鹿沼労基署長は未払いの時間外労働手当を計算して、令和6年6月6日付で、給付基礎日額の増額処分をしてきました。
行政側がほとんど負けることのない無効確認の訴えで、敗訴判決を下されてしまうことをおそれてなした苦肉の増額処分でした。(鹿沼労基署が給付基礎日額を増額すると、無効確認の訴えは、「訴えの利益なし」として却下判決になります)
そんなことなら、弁護団が通知書で指摘した時点で、誤りを是正すればよかったものをと思いますし、そもそも、最初の給付基礎日額の計算時点でさぼらずに、適正に時間外労働手当を算定しなさいよ、と思います。 無効確認の訴えは難しいとされていますが、上記の事例のように、明らかな誤りがあれば、行政との交渉や無効確認の訴えで是正させることも可能ですから、取消訴訟の出訴期間を経過している古い処分でも、これはおかしい!というものがありましたら、当弁護団にご相談を。