1 背景調査の指針の改訂
子どもの自死が発生した場合には、必ず「背景調査」を行わなければなりません。
「背景調査」に関しては、「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版)(以下「旧指針」といいます。)が策定されていました。
そして、令和7年12月、旧指針が改訂され、「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」(以下「新指針」といいます。)が策定されました(※1)。
2 改訂の経緯
改訂の経緯としては、子どもの自死者数が令和6年に過去最多となる一方で、調査の長期化、調査内容のばらつき、詳細調査への移行件数が僅かであること等の課題が指摘されるとともに、旧指針の策定から10年以上経過していることがありました。
詳細調査が行われていない実態は、令和6年に、当弁護団の西川弁護士も指摘しています。当弁護団にも、旧指針に即した対応がなされていない相談が多く寄せられています。
3 改訂の概要
改訂の概要は、以下のとおりです。
⑴ 子どもの自死が起きたときの背景調査全体の流れの明確化
⑵ 背景調査に関する平常時からの備え・子どもの自死防止に係る記載の充実
⑶ 子どもの自死が起きたときの背景調査等に係るご遺族への説明様式の作成
⑷ 基本調査の様式の作成等及びご遺族に対する基本調査結果の説明に係る記載の充実
⑸ ご遺族に対する詳細調査に係る意向確認書の作成等
⑹ 詳細調査の一部であるアンケート調査や聴き取り調査の先行実施等の明記
⑺ 体罰・不適切な指導等が背景にあると疑われる場合等の調査組織の考え方の明記
⑻ 詳細調査における標準的な調査項目及び詳細調査における調査結果の説明等の明記
⑼ 背景調査といじめの重大事態調査との関係性の整理の追記
以下では2点述べます。
1点目に、上記の概要の⑶に関して、新指針では、「様式1を活用し、背景調査等について説明」と記載されています。様式1には基本調査や詳細調査の説明、そしてご遺族の要望がある場合には詳細調査に移行するとされていることも記載されています。また、上記の概要の⑸に関して、新指針では、「遺族からの要望について、電話や口頭でのやり取りに終始し、学校と遺族との情報共有が十分に図られず、詳細調査への移行が遅れる可能性もあることから、意向確認書(様式3)を活用して、遺族から要望を聴取すること」と記載されています。
旧指針のときは、詳細調査に移行すべきなのに移行していないことや、移行したとしても、ご遺族が強く求め続けた結果移行したに過ぎず、移行までに時間を要してしまうこと等がありました。そもそも基本調査や詳細調査があることや、ご遺族の要望がある場合には詳細調査に移行するとされていることすらもご遺族に十分に説明されていないことがありました。
新指針に沿った対応において実際に様式が活用される等され、詳細調査が必要な場合に速やかに詳細調査に移行する件数が増えるよう、期待しています。
2点目に、上記の概要の⑺に関して、新指針では、考えられる調査組織の体制が示されています。
ややこしいですが、一般に第三者調査委員会と呼ばれるのは、「調査対象となる事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)」によって構成された組織です(※2)。
他方で、「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(令和6年8月改訂版)(以下「ガイドライン」といいます。)では、調査組織の体制に関して、「学校や設置者の職員のほか(必要に応じて)第三者を加える体制」と「第三者のみで構成する体制」が示されており、第三者のみで構成する体制が第三者委員会と呼び替えられていました(※3)。
新指針でも、ガイドラインと同様に、「学校や設置者の職員のほか第三者を加える体制」と「第三者のみで構成する体制」が示され、第三者のみで構成された調査組織が第三者委員会とされています(※4)。 そして、新指針では、公平性・中立性を確保する必要性が高い場合の具体例が記載されています。例えば、体罰や不適切な指導等が背景にあると疑われる場合には学校の設置者が主体となり、第三者委員会での調査の実施を検討すべきであると記載されています。ま
た、これまでの経緯から学校の対応に課題があったことが明らかであるなど学校と関係する遺族との間に不信感が生まれてしまっている場合については、第三者委員会での調査の実施を検討すべきとまでは記載されておらず、第三者を複数名加えるなどにより、調査結果の信頼性を高めることが必要であると記載されています。
いじめの重大事態については、子どもが登校できている場合や不登校の場合、学校の対応に課題があったことが明らかで、学校と保護者との間に不信感が生まれてしまっている場合でも、ガイドラインの記載やその考え方を根拠として、学校やその設置者が学校主体での調査を譲らないことがあります。新指針でも考えられる調査組織の体制が示されているので、新指針の考え方は、把握しておく必要があると思われます。
4 終わりに
旧指針から新指針への改訂に伴い、背景調査の一般的な目的に関して、旧指針で明記されていた「今後の自殺防止に活かすため」との目的は、「学校及び教職員等が事実に向き合い、学校全体で再発防止に取り組むとともに、今後の学校における自殺防止に活かすため」と加筆されています。また、旧指針では明記されていなかった「児童生徒に係る自殺対策に社会全体で取り組むための一助とするため」との目的が明記されています。
繰り返しになりますが、当弁護団にも、旧指針に即した対応がなされていない相談が多く寄せられています。 「学校及び教職員等が事実に向き合い、学校全体で再発防止に取り組み」、「自殺対策に社会全体で取り組むための一助とするため」にも、少なくとも新指針に沿った対応がきちんとなされ、これまで以上に公正・公平な調査が行われるよう望みます。
※1 なお、「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」と、「子供」から「児童生徒」に名称が改められましたが、以下では「児童生徒」ではなく「子ども」との表記を用います。
また、新指針に沿った対応に係る留意事項として、令和8年2月1日以降に発生した子どもの自死については新指針に沿った対応を行うこととされ、それまでに発生した子どもの自死については新指針も参考としつつ対応することとされています。
※2 今井聖「子どもの自殺問題の社会学」108頁
※3 今井聖「子どもの自殺問題の社会学」109頁
※4 なお、ガイドラインと全く同じ内容になったというわけではなく、ガイドラインでは「学校や設置者の職員のほか第三者を加える体制」について「必要に応じて、弁護士(中略)等の専門家が参画した調査組織」と記されているのに対して、新指針では「必要に応じて」という表現が記載されていません。旧指針では「調査組織の構成については、弁護士(中略)等の専門的知識及び経験を有する者であって、調査対象となる事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)について、職能団体や大学、学会からの推薦等により参加を図ることにより、当該調査の公平性・中立性を確保するよう努めることが求められる。」と記載されていたのに対して、新指針では「調査の公平性・中立性を確保することが求められる。」と記載されている(努めることではなく、確保することが求められている)ことからも、原則として第三者の参加が求められているのではないかと思われます。