AIと自死の問題

 2025年1月6日に「SNSの影響と自死」という記事を書きました。それに関連し、今回の記事では、生成AIの活用と自死について法的観点から考察してみたいと思います。

 近年、AI(人工知能)は、私たちの生活に深く入り込んでいます。チャットボットや生成AI、SNS上の自動応答サービスなどを通じて、悩みや孤独を抱えた人がAIに相談することも増えてきました。

 実際、「気軽に相談できる相手」として「対話型AI」と答えた人が87%に上り、親友(約50%)や母親(約45%)を大きく上回ったという調査結果もあります(株式会社Awarefy「対話型生成AIの使用に関するアンケート調査」参照)。

 一方で、「AIとのやり取りが自死につながったのではないか」ということが、海外では現実の問題として提起されています。

1 米国での動き

 2025年8月、米カリフォルニア州で16歳の少年が自死した事件をめぐり、両親がOpenAIを提訴しました。訴状では、ChatGPTが自殺方法の助言や遺書作成を支援し、死を肯定するような応答をしたと主張されています(2025年8月26日付 Reuters報道参照)。

 また、フロリダ州で14歳の少年が自死した事件については、母親が対話型AI「Character.AI」の運営企業を提訴しました。報道によれば、少年は特定のAIキャラクターとのやり取りに強く依存し、現実との境界が曖昧になり、自死の決断を後押しされたと原告は主張しています。原告は、運営企業が未成年者の利用リスクを軽視し、安全設計や注意義務を怠ったと訴えています(2025年2月7日付 AP News報道参照)。

 こうした事例を受け、米国ではAI規制の動きがあります。カリフォルニア州では、AIが自らをAIであると明示することを義務づける法案が可決されたという報道がありました(The Verge,2024年10月報道参照)。

 また、未成年者による利用に関しては、自殺リスクを検知し専門機関につなぐ仕組みが必要との議論が進んでおり、企業側もペアレンタルコントロールや危機応答機能の導入を発表しています(Washington Post,2025年9月2日報道)。

 さらに、全米44州の検事総長が連名で「AIが子どもに害を与えた場合には法的責任を問う」とAI企業に警告しました(New York Post,2025年8月報道)。

2 日本への示唆

 日本でも、生成AIが急速に普及する中で、若年者がAIを相談相手としたり、強く依存したりする事例が増える可能性があります。しかし現時点では、AIの応答内容に関する安全基準や責任の所在は明確ではなく、万一、AIとの対話が自死など人の生命身体にかかわる重大な結果に結びついた可能性があるケースの場合、法的観点からは、企業側の注意義務違反の内容や、サービスと結果との間の因果関係など様々な課題があります。

 日本でも子どもの自死が深刻化している現状を踏まえると、未成年者が安心して生成AIを利用できるよう、危険検知機能や自殺予防機能といった事前の対策に関する議論が求められます。他方で、ご遺族支援における法的観点からは、これまでと同様に、自死の背景にあった人間関係、労働問題、金銭問題といった事実関係を深く調査、検討することが求められることに変わりないものと考えています。

自死率の視点から見た外国人問題

 東京都町田市で活動している弁護士の和泉です。

 最近、ネットやテレビのニュース番組を見ていると、外国人への社会保障制度の適用の是非や、外国人増加に伴う治安の悪化を懸念する言説を目にすることが増えているように思います。NHKが2025年6月に実施した調査では、「日本社会では外国人が必要以上に優遇されている」という質問に、「強くそう思う」か「どちらかと言えばそう思う」と答えた人は64%にも及ぶという結果が出ているそうです。選挙においても外国人問題を重点政策として取り上げる政党が目立ちます。

 私自身は、家族ぐるみで付き合いのある外国人の友人がいます。また、私は音楽が好きで1990年代からHipHopというジャンルを聞き続けていますが、このジャンルを支え続けてきたのは外国人労働者や日本で育ったその子どもたちでした。加えて、高齢化が進み人手不足が慢性化している日本社会が、外国人労働者抜きに円滑な経済活動を続けることは困難と考えます。ですので、外国人を過度に敵対視する言説には正直疑問を感じてしまいますが、個人的感情は抜きにして、客観的なデータとして外国人の自死率について調べてみたいと考えました。文献を調査したところ、在日外国人の自死率について言及した論文が複数見つかったので、紹介したいと思います。

 「日本在住外国人の死亡率:示唆されたヘルシーマイグラウンド効果」(小堀栄子ほか2名・第64巻公衆衛生誌第12号・2017年)では、厚労省が作成した人口動態統計から算出した死亡総数の年齢調整死亡率(人口10万対)について、日本人と外国人を比較すると、在日外国人の中年層では外因死(不慮の事故,自殺)による死亡率が高く、中でも自死による死亡率は高いことが指摘されています。他方で、若い年齢階層での自死率は日本人よりも低いとのことです。このようなデータをもとに、自死率の低い地域の出身者であったとしても、日本社会に長期間在住することでストレスにより長期間さらされ、そのことと自死率の上昇とが関連している可能性があるとの考察が行われています。

 また、「外国人の死因―日本人・本国人との比較」(林玲子・人口問題研究76-2・2020年)では、人口動態調査のデータをもとに在日外国人の国籍別に自死率をみた場合、朝鮮・韓国籍外国人の自死率が高いと述べられています。韓国はOECD諸国の中で最も自死率が高いことで知られていますが、在日韓国・朝鮮人の自死率は、日本の日本人だけでなく、韓国の韓国人よりもさらに高いことが指摘されています。

 さらに、「COVID-19 パンデミック中の日本在住外国人と日本人の自死率の異なる傾向」(谷口雄太ほか10名・International journal for equity in health. 2024 Jul 31)では、人口動態調査のデータを分析すると、COVID-19パンデミック中、初期には日本人では自死率の低下が観察されたが外国人では見られず、また外国人男性の自死率は2021年末まで高止まりしていたと述べられています。論文では、これらのデータをもとに、パンデミックのような状況においては、社会経済的に脆弱な集団に対して適切なメンタルヘルスサポートが必要なことを示唆していると総括し、また、パンデミック中に外国人男性、特に、失業率が高かったと報告されている韓国・朝鮮籍の男性において自死率が特に上昇していたことを指摘し、「適切な雇用機会の確保も重要」と指摘しています。

 これらの論文で掲載されたデータからすれば、外国人が日本で生活する中で感じるストレスは日本人と比較してもそれなりに高く、自死率から見る限り外国人が日本人以上に優遇されていると評価することは困難と考えます。

『虎に翼』考 ~「雨垂れ石を穿つ」~ 

 法曹界でも話題を席捲した朝の連続テレビ小説「虎に翼」が9月に最終回を迎え、2ケ月が経ちました。

 「日本史上初めて法曹の世界に飛び込んだ、一人の女性の実話に基づくオリジナルストーリー。困難な時代に立ち向かい、道なき道を切り開いてきた法曹たちの情熱あふれる姿を描く」(NHK公式より)というものです。

 先輩や自身と重ね合わせ、半年間、毎朝夢中になって怒り、泣き、登場した古い判例を読み返し、と、ここまでドラマにハマったのは初めてでした。

 最終回以降もロスを引きずり、シナリオ集などを読み返す日々です(なので、以下の話はドラマ版の正確なセリフではなく主にシナリオによっています)。

「虎に翼」の中で、重要な場面と最終回のキーワードになるのが「雨垂れ石を穿つ」という言葉です。

 道なき道を切り開く中で、社会の偏見の大岩に阻まれ、大勢の仲間が志半ばで去り、主人公もその瀬戸際に立たされました。その時、恩師から「雨垂れ石を穿つだよ、犠牲は決して無駄にならない」と撤退を勧められ、主人公は「私は今私の話をしているんです!」と激怒します。

 その後、主人公が法律の世界に戻った後も、その恩師に対し、報われなくとも一滴の雨垂れでいろと強いたことを決して許さないと言い放ちます。

 けれども最終回、主人公は、簡単には変わらない不平等でいびつな社会の中でも声を上げることに意味はある、人に雨垂れを強いられるのは絶対嫌だが、自ら未来の人たちのために雨垂れを選ぶことは至極光栄だ、といいます。

 弁護士として法律問題に取り組む中、先人達が多くの犠牲を伴いながら穿ってくれた道筋に日々導かれ、助けられています。

 自死遺族をめぐる法律問題への取り組みも、旧弊からのいわれなき偏見を一つ一つ克服していく道の途中です。

 今なお残る、あってはならない偏見の石に躓き、「絶対におかしい」という怒りが「どうせ伝わらない」との諦めに圧し潰されそうになる時もあります。

 困難の渦中にある当事者に、すぐに報われる保証もないのにさらなる苦しみを負うことだけは確実な戦いで矢面に立て、などと勧めることは決してできません。

 それでも当事者が戦って前に進みたい、自らの受けた苦しみとその克服をこの社会、そして未来の人たちにとって意味のあるものとしたいと望むときに、伴走者として選んでもらえる弁護士でありたいとの思いをなお一層強くしました。

時間外労働規制の上限について

 働き方改革関連法では時間外労働の上限(臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間以内、月100時間未満、2~6か月平均で80時間以内)が法定され、2019年4月から適用されてきました。

 しかし、建設業界・医師業界・運輸業界については、人材不足等の影響により長時間労働が常態化していたことから、労働時間の上限規制の適用が5年間猶予されましたが、2024年4月からは上限規制が適用されることとなります。

時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 この上限規制には様々な例外が設けられており、その実効性については大きな疑義があります。この点については今後も検証していかなければなりません。

 少し話は変わりますが、私が住んでいる大阪では、2025年に大阪万博の開催が予定されております。

 報道によれば、大阪・関西万博を主催する2025年日本国際博覧会協会(万博協会)が、パビリオンの建設が遅れ2025年の開催が間に合わないことを危惧し、政府に、建設業界の時間外労働の上限規制を万博に適用しないよう要望し、10月10日に開かれた大阪・関西万博推進本部においては、出席議員らから「人繰りが非常に厳しくなる。超法規的な取り扱いが出来ないのか。工期が短縮できる可能性もある」「災害だと思えばいい」といった意見が出たという報道もありました。

 どのように解釈すれば建築納期に間に合わないことを「災害」と同様に考えられるのか全く理解できません。2023年7月31日のコラムで甲斐田沙織先生がご指摘されたとおり、東京オリンピック・パラリンピックの主会場である新国立競技場の建設現場で働いていた男性が、「身も心も限界な私はこのような結果しか思い浮かびませんでした」とメモに遺して自死した痛ましい事件がありました。

 今回の大阪万博は「いのち輝く未来をデザインする」ということをテーマに掲げています。

 労働者のいのちを守るため、今後も自分にできることをやっていきたいと思います。

イベント納期を理由とする人命軽視は許されない

 2023年7月下旬、2025年開催予定の国際万国博覧会(大阪万博)の準備のため、主催者側が政府に対して、建設業の時間外労働の罰則付き上限規制を適用しないよう要請した、との報道がされています。

 けれども、このようなイベントの納期を口実とした残業規制逃れは、直接に人の命を軽視することにほかならず、決して許されないものと考えます。

 ごく最近、2020東京五輪においても、メイン競技場の建設準備に従事していた若者が過労自死に追い込まれています(京都新聞2020年1月9日「『身も心も限界』23歳男性が過労自殺 新国立競技場の急ピッチ建設で『残業190時間』」)。

 日程の決まったイベントのため納期がある、との理由は、大きな職場から小さな職場まで、多くの現場労働者に違法危険な長時間残業を強いることを正当化する口実とされがちです。近年においてもその犠牲で人命が奪われ続けています。  このような現状の中、範を示すべき立場にある官民の巨大イベントにおいて人命軽視の脱法が模索されていることは非常に残念で、許されないことだと思います。