証拠保全の重要性と力強い味方

 受任した案件について、証拠保全という手続きをとることがあります。

 証拠保全手続きの概要等については、2024年8月26日の坂井田弁護士のコラムに詳細がありますのでぜひご確認ください。

 自死に関連する事件においては、当事者の方がお亡くなりになっていることもあり、証拠を取得することが困難であることから、証拠保全手続きをとることがあります。

 証拠保全手続きにおいては、相手方(会社等)が保有している証拠を確保することになるのですが、現代においてはその証拠が紙媒体ではなくPC内やサーバー内にデータという形で保存されていることも多くあります。そうすると、我々弁護士であっても、どこにどのような形で証拠が保存されているのか、証拠を見つけたとしてもそれをどのように読み解けばいいのかということが分からないことがあります。

 そのため、証拠保全においては信頼するSEの方に同行していただくことが少なくありません。

 先日、当弁護団で講師を務めていただいたことも有るSEの方に証拠保全に同行して頂きました。

 そのSEの方は、保全の現場において裁判官や相手方に対して、証拠の探し方や証拠の見方の解説までしておられスムーズに証拠を確保することが出来ました。

 依頼者の方の権利を守るため、専門家のお力をお借りすることの大切さを実感した瞬間でした。  身近な方が自死によって亡くなった場合、今後どうしてよいか考えることすら出来ない状況もあるかと思います。そのような場合には、当弁護団にご相談ください。

「給付基礎日額」~おかしい、怪しいと思ったら・・・

 過労死、過労自死が認定された際、労災補償額のベースとなるのが、被災者の被災前の賃金額に基づき計算される「給付基礎日額」です。

 この、被災前の賃金額には未払の残業代も含まれます。 そうであるにもかかわらず、労基署は未払の残業代の存在を無視した過少な給付基礎日額認定を行いがちなことは、当ブログの松森弁護士の記事「労災が認定されたら、給付基礎日額が正しいか要確認です」においても取り上げている通りです。

 そもそも、長時間残業による過労死・過労自死を出すような使用者が、事実の通りの労働時間に基づいて、適法に残業代を支払っているケースの方が稀です。莫大な残業代を支払わなければならなくなるからです。

 残業代をごまかす手法は大きく分けて

①本当の労働時間記録を残さない

②違法な賃金体系で残業代をごまかす

の2つです。この①、②を組み合わせている場合もあります。

①本当の労働時間記録を残さない

 この方法につき、ただ単に記録をつけず、労基署の労働時間聴取に対し使用者が口だけで過少な労働時間を述べる、という古典的なパターンもあります。

 しかし、近年の労働時間規制の厳格化に伴い、使用者があらかじめ計画的に虚偽の過少な労働時間記録を用意する、事実に基づく労働時間の証明を妨げる、との悪質な事案に接する機会が増えました。

 日々の労働時間記録(タイムカード、日報など)につき、事実に反する過少な労働時間、存在しない長時間の休憩を記録するよう命じて作成させておく、労働者の監視のために労働時間記録は行なうが労働時間記録の持ち出しや謄写をしたら罰金であるとして労働者の利用を妨げる等の手法です。

②違法な賃金体系

 代表的なものは、

(1)管理監督者だから残業代払わなくてよい

(2)固定残業給だから払った給料に残業代が含まれている

(3)歩合給だから残業代はほとんど発生しない、

というものです。

 しかし、これらの賃金体系はいずれも、労基法上の通常の残業代支払方法の例外として、厳格な要件を満たさなければ許容されません。

 長時間労働による過労死や過労自死が発生するような働かせ方で、例外的な支払い方法が適法とされる場合の方が稀です。

 長時間働いていたのに、残業代の支払いがなかったり、少なすぎておかしいと感じるような実態にあった場合、労働時間のごまかしや、違法な賃金体系が隠れていることが多いです。

 労災が認定された場合でも労基署計算の給付基礎日額は鵜呑みにせず、専門家と共に検討することをお勧めします。

手元に証拠がないときはどうすればいい?

 故人が早朝に自宅を出て仕事へ行き、深夜に帰ってくるという生活を長期間続けていたような場合、長時間労働が疑われます。しかし、自宅には仕事関係のパソコンや資料がなく、故人のスマートフォンのロックを解除できないようなときは、長時間労働を裏付けられるような客観的な証拠が何もない、ということになります。

 また、パワーハラスメントが疑われるような場合で、パワーハラスメントを裏付ける会社内部でのメール等のやり取りや、死後行われた従業員らに対する聴き取りの内容も、ご遺族自身が入手することは難しいといえます。

 このようなときにはどうすれば良いのでしょうか。

 このような場合に活用できる方法の1つとして、証拠保全があります。証拠保全とは、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があるときに、その証拠を確保する手続きです(民事訴訟法第234条)。先の例で言えば、勤務先が保管している業務状況に関する記録を証拠保全手続きにより確保することが考えられます。

 証拠保全手続きの概要についてご説明します。

 民事訴訟法の立て付けでは、基本的に証拠調べは訴訟の手続きの中で行うこととされています。しかし、訴訟を提起してから証拠調べに入るまでには一定の期間を要するため、証拠となる資料が廃棄されたり改ざんされたりしてしまうリスクがあります。このようなリスクが認められるときは、訴訟手続き外で事前に証拠調べを行い、それを将来の訴訟で活用することができるようになっているのです。

 では、将来的に訴訟を提起するかどうか分からない状況では、証拠保全手続きを行うことはできないのでしょうか。そうではありません。証拠保全手続きで確保できた証拠を基に労災申請のみを行い、訴訟まではしない、というケースもよく見られます。

 証拠保全手続きで最も重要なのは、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」があると言えることです。この事情が認められなければ、証拠保全手続きは実施されません。

 「証拠を使用することが困難となる事情」としては、抽象的に改ざんや廃棄のおそれを指摘するだけでは足りず、具体的な事情を摘示する必要があります。

 もっとも、その事情が存在することについての証明までは必要とされず、疎明で足りるとされています。言い換えますと、この事情が一応存在するようだ、という推測ができれば良いとされています。

 証拠保全の手続きは、手元に証拠となるような資料が何もないときに活用できる有効な手段です。手元に証拠がなにもないというときも諦めずにまずは当弁護団までご相談ください。

Googleのタイムラインからわかる労働時間

2月26日の岡村弁護士のコラムで、Google社の提供するGoogleマップ内のタイムラインという機能について紹介がされています。今回はその続編とさせていただきます。

1 タイムラインの「元データ表示」

 タイムラインを見ると、時刻、滞在場所、滞在場所までの移動距離、移動手段(車、自転車、徒歩等)が出てきます。移動経路は線でつながれます。このタイムラインの表示は、GPSで個人のその時刻にいた場所を特定した上で、AIが、点をつなぎ合わせ、滞在場所と思われる付近の場所を滞在場所と推測して表示し、移動については移動速度を元に車、自転車、徒歩かを推測して表示しているようです。

 ところで、タイムラインのツールアイコンをクリックすると、「元データを表示」という項目が出てきます。この項目をクリックすると、その時刻にまさにいた場所が赤丸の点で細かく表示されます。赤点は膨大な量に上るため、問題のある個所のみ、調べることが現実的ではありますが、この表示に切り換えると、GoogleのAIが滞在場所と推測して表示した場所名と赤丸の場所がずれていることがあります。たとえば、赤丸の場所がコンビニエンスストアの前の道路にしかなくても、タイムライン上の滞在場所はコンビニエンスストアと表示されることがあります。

2 労働時間の証拠としての使い方

 タイムラインは、労災の被災者の労働時間の一証拠として使うことができます。

 タイムラインの場所、時間帯、仕事内容、所定就業時刻等を考慮して、始業時刻、終業時刻の認定に使うことができます。

 しかし、たとえば営業などで外回りをする等仕事で移動することが多い被災者の場合は、単純にいかないことがあります。AIの推測によるタイムライン上の滞在場所が一見仕事と関係なさそうな場合、会社から、その間は労働していないでサボっていた、と主張されることもあります。その場合は、タイムラインの表示を「元データを表示」に切り換え、滞在時刻と滞在場所の点をより細かく表示させ、被災者のその他の事情等も併せて人の頭で考え、推測します。

 たとえば被災者がよく行く建物の中に飲食店があり、タイムライン上は頻繁に飲食店で滞在しているかのように表示されても、「元データを表示」に切り換えた後の赤点の位置や滞在時間、飲食店の営業時間、被災者の職場の取引先が同じ建物に入っていることからすれば、被災者の場合は、飲食店ではなく職場の取引先に仕事で必要があって行っていたと説明することができることがあります。非常に細かい作業になりますが、うまく説明をすることができた時はうれしいものです。

Googleのタイムライン機能について

スマートフォンで地図アプリを利用されている方は多いでしょう。私自身も、初めて行く目的地を見つける際などにとても重宝しています。

地図アプリのなかでGoogle社が提供しているGoogleマップには、タイムラインという機能があるのをご存知でしょうか。この機能は、GPS機能によって何時から何時まで、スマホ(スマホの所持者)が、どこに所在したかという位置情報がスマホ内に記録されるという機能です。アプリ上で、カレンダーのように毎日のおおむねの行動履歴を振り返ることができるという、便利なような、恐ろしいような機能です(ただし、この機能がオンになっている必要があります)。

自死遺族に関する事件の中でも、例えば亡くなられた原因が働きすぎにあるような場合で、タイムカードなどの客観的資料が乏しいときや、タイムカードがあったとしても打刻時間が信頼できないような場合に、自死された方のスマホのタイムライン機能がオンになっていれば、会社内に所在していた時間が分かり、真実の労働時間を把握するための重要な手掛かりになることがあります。

かかるタイムラインの履歴は初期設定で無期限に保存されるものではないということに注意が必要です。Googleの仕様については確たる情報を把握しにくいのですが、一部ネットの情報によれば、タイムラインの自動削除機能のデフォルトの期間が、これまで18か月であったものが今年以後3か月になる(ただし、アップデート時にはユーザーに通知される)、とのことです。

そのため、自死の原因解明に位置情報が役立つかもしれないような案件では、これまでに比べて速やかにタイムラインを確認することが必要になると思います。なお、タイムラインは、パソコン上から見る場合、Googleマップにサインイン後、サイドバーから「タイムライン」をクリックすると確認することができます。

嘘の労働時間記録をつけさせられていても

使用者には労働時間を管理して記録する義務があり、また働き方改革に伴い残業時間の上限の遵守が従前よりさらに厳しく要請されるようになっています。

けれども、そのような状況でなお過労死・過労自死が疑われる違法な働き方をさせている職場では、本当の業務時間の通りの労働時間記録を行っている職場の方が珍しい、という実態にあります。

労働時間記録を全く怠って、何の記録もしないのももちろん問題です。そして、さらに悪質なケースとして、会社や上司があらかじめ計画的に労働者に指示して、事実と異なる短い労働時間の記録だけを残させる、という場合もあります。 

過労死した家族から生前、そのような嘘の短い労働時間記録をつけさせられていた内情を伝られていたご遺族の中には、長時間残業の証明などできないと思って、最初から過労死の労災認定や会社の責任追求など無理だと諦めてしまわれる方もいらっしゃいます。 

けれども、本当の残業時間を証明する方法は会社の労働時間記録だけではありません。通勤に関連するもの、業務内容に関連するもの、本人の日記や手帳、SNS投稿、家族や友達への連絡など様々な方法で証明することができます。

このような資料による残業時間の証明は労基署にも裁判所にも認められています。

会社の労働時間記録が全くなくても、残業の少ない嘘の労働時間記録をつけさせられていても、別の証拠で長時間労働が証明され、労災も会社の責任も認められた例はたくさんあります。

会社が労働時間記録をしてくれていない場合や、嘘の短い労働時間記録しかないような場合でも、諦めずにご相談いただきたいと思います。

>>過労自殺(自死)について 「早期の証拠の収集が大切