公務員の過労自殺(自死)について

 公務員が過労自殺(自死)した場合、法的手続として公務災害が考えられます。しかし、具体的にどのように手続が進んで行くのか一般的には労災の手続ほど知られていません。そこで、公務員の過労自殺(自死)における手続について簡単に解説をしたいと思います。

第1 国家公務員の場合

1 職権主義による場合

 1つ目の手続は故人が所属していた各庁や各省等が、自主的に公務災害に該当するかどうか調査をして、公務災害を認定するという流れです。このように国が自主的に公務災害を認定する手続を職権主義といいます。職権主義は、ご遺族からの災害が公務上のものである旨の申出がなくとも補償を実施することで速やかに公務災害を認定し、ご遺族を早期に救済することが本来の目的となっています。

 このような目的を踏まえると、多くのご遺族は「職権主義はすばらしいな。」と思われるかも知れません。

 しかし、残念ながら職権主義は公務災害認定の障害として機能していると言わざるを得ません。例えば、当弁護団が過去に受任した事案では、実際には不十分な証拠に基づいて職権主義で公務災害ではないと認定し、その旨をご遺族に伝えていました。

 その結果、ご遺族は「公務災害はもう無理だ。」と思い込まれていました。もし当弁護団にご相談を頂けなければ、そのまま諦めてしまわれたかも知れません。

 しかしこの事案では、当弁護団の弁護士らが証拠保全を行って証拠を収集し、公務上認定の申出を行った結果、公務上であると認定されました。

 ですので、職権主義によって故人が所属していた各庁や各省等から「公務災害ではない。」と知らされても、公務上であると認定される可能性があることを是非知って頂きたいと思います。

2 ご遺族による申出の場合

 2つ目の手続はご遺族から故人が所属していた各庁や各省等に対して公務上認定の申出を行うという流れです。

 ご遺族から申出が行われると、故人が所属していた各庁や各省等の職員の中から公務災害の調査や認定を担当する補償事務主任者が指名されます。

 通常の労働者の場合は労働基準監督署が労災になるか否かを調査して認定するのですが、国家公務員の場合はいわば身内の人間がそのような調査や認定を行うことになるのです。

 常識的に考えると身内が調査や認定をするのですから、その調査の正確性や認定の公平性などが担保されているとは言い難いでしょう。

 そのため、ご遺族は補償事務主任者の調査や認定について厳しくチェックする必要がありますし、できるだけ独自に証拠を集めて提出することが必要になります。

第2  地方公務員の場合

 地方公務員が過労自殺(自死)した場合、常時勤務の場合と非常勤の場合で手続が異なります。

1 常時勤務に服することを要する地方公務員

 常時勤務に服することを要する地方公務員の公務災害手続は、各都道府県ごとに置かれている地方公務員災害補償基金(以下「地公災」といいます。)支部長に対し、任命権者を経由して、公務災害認定請求書を提出して行います。

 過労自殺(自死)の場合、認定請求書の「災害発生状況」には、長時間労働、パワーハラスメント、住民に対するクレーム対応など、心理的負荷の原因となった事情を詳しく書くことになります。

 また、認定請求書の内容について所属部局の長の証明が必要になります。

 ここで問題となるのは所属部局の長の証明です。例えば公立学校の教員の過労自殺(自死)の事案であれば、所属部局の長は故人が所属していた校長となりますが、殆どの事例において、校長は、長時間労働、パワーハラスメント、父兄からのクレーム対応など、心理的負荷の原因となった事情を証明しないか、一部の心理的負荷が弱い事情(例えば自己申告の労働時間など)しか証明しません。つまり、校長が過労自殺(自死)の原因を事実として認めてくれないのが一般的なのです。

 地方公務員の過労自殺(自死)事案ではここが最大のポイントとなります。認定請求を受けた地公災支部長は、任命権者に対して様々な調査を指示しますが、最終的に調査を行うのは過労自殺(自死)の原因を事実として認めていない所属部局の長(先ほどの例だと校長)となるのです。常識的に考えると、このような所属部局の長が調査をするのですから、その調査の正確性が担保されているとは言い難いでしょう。

 そのため、ご遺族は公務災害認定請求書を提出する前に、所属部局の長が過労自殺(自死)の原因を事実として認めてくれないことを前提に、できるだけ証拠を集める必要があるのです。

2 地方公務員(非常勤)の公務災害の手続

 非常勤の地方公務員の公務災害手続は、地公災ではなく、故人が勤務していた地方自治体に対して行います。具体的な手続は各地方自治体の条例によって定められていますが、法律によって、常時勤務に服することを要する地方公務員の場合や、一般の労働者の場合と比べて均衡を失したものであってはならないとされています。

 ところで、非常勤の地方公務員の場合、従前は多くの地方自治体において、ご遺族は公務災害の認定を求めることすらできず、公務災害ではないと判断されてもその理由も知ることができませんでした。

 しかし、当弁護団で受任したある事件をきっかけとして、「議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例施行規則(案)」(総行安第27号平成30年7月20日)という通達が出され、ご遺族からの公務災害の申出が認められると共に、公務災害でないと判断された場合はその理由などを記載した通知を受けることができるようになりました。

 非常勤の地方公務員の過労自殺(自死)事案の救済が少しでも広がることを願っています。

第3 おわりに

 このように、国家公務員の過労自殺(自死)や地方公務員の過労自殺(自死)の事案は、調査や認定の主体が第三者ではなく身内によって行われるため、早期に証拠を収集した上で、申出や認定請求を行う必要があるといえます。

産後うつへの公的支援の必要性

 2015~16年に亡くなった妊産婦357人の死因について、自死が102人で、がんや他疾患を上回り、最も多かったことが国立成育医療研究センターの調査で分かりました。うち92人が出産後の自死で、35歳以上や初産の女性の割合が高かったとのことです。産後うつが原因のひとつとして考えられています。

国立成育医療研究センター
人口動態統計(死亡・出生・死産)から見る妊娠中・産後の死亡の現状

日経新聞
妊産婦死亡、自殺が1位 成育医療センター調査

 世界保健機関(WHO)などによると、産後うつは、妊産婦の約10%が経験するとされていますが、近年、この割合が増えてきているようです。たとえば、2020年10月に筑波大学の松島みどり准教授らが実施した調査では、回答が得られた出産後1年未満の母親2132人のうち、産後うつの可能性がある人はおよそ24%であったとされています。新型コロナウィルスの影響で人と触れ合う機会が減ったことや収入の落ち込みなどの経済的不安が関係しているとみられています。

NHKニュース
母親の「産後うつ」 コロナ影響で倍増のおそれ 研究者調査

 私も産後気持ちが落ち込みがちになることがありました。産後うつがあることは知っていたので、日記をつけて自分の気持ちを整理したり、楽しみな予定を入れたり、心身の状態に気を付けながら過ごしていました。

 twitterやブログでは、「しんどくて限界だ、と公的機関に電話したが、しんどいですね、家族の援助を得て頑張ってください、というだけで何の助けにもならなかった。」などという当事者の声も見られます。

 男性育休制度も未だ普及していない現状で、家庭内でできる対策には限界があると思います。

  国立成育医療研究センターは、2020年に産後の自死予防対策プログラムとして「長野モデル」の開発を発表しました。新生児訪問時に保健師が母親にアセスメントを行い、その結果に応じて保健師・精神科医・産科医・助産師・看護師・小児科医・医療ソーシャルワーカーなど、多職種のチームでフォローアップを行うということです。全国への波及も期待されています。

国立成育医療研究センター
世界初!産後の自殺予防対策プログラム「長野モデル」を開発 ~産後の母親への自殺予防効果が証明される~

 産後うつを個人や家庭の問題とせず、国、地方公共団体が充実した支援制度を整えていくことで、救われるお母さん、子ども、ご家族が増えることを願っています。


教員の就労環境の改善を

1 娘が小学校に入学してから、「学校の先生は何て長時間労働なんだ」と実感するようになりました。「学校の先生は忙しい」ということは以前から仄聞していましたが、身近で体験することで、これは尋常じゃないと感じるに至っています。

2 まず、朝が早い。娘たちは午前7時30分過ぎには学校に着くペースで登校しますので、先生方はそれより前に学校に着いてらっしゃると思います。また、気象警報が出そうな(出ている)日は午前6時50分くらいから「自宅待機で」「今日は休校です」と連絡する一斉メールが届きますので、そういった日は、全員ではないでしょうが、午前7時前から在校している先生がいることになります。

そして帰りも遅い。娘が休むと、担任の先生が電話をくださって、翌日の時間割等を教えてくれるのですが、電話は午後7時台にかかってくる訳です。夕方の時間帯にかけてくださった電話を私がとれないことが何回かあり、共働き家庭配慮で遅い時間にお電話くださるのかな申し訳ないなと思っていたのですが、欠席時の連絡が電話ではなくメール(のようなもの)になっても連絡が来る時間は遅いことが多いので、共働き家庭配慮だけが原因ではないと思われます。

こうして見ると、先生方は、毎日12時間近く、もしくはそれ以上、在校してらっしゃることになります。在校中に休憩時間を取得できていればと思いますが、連合総研が全国の公立の小中高校と特別支援学校の教員を対象に実施した調査で、54.6%が在校時間中の休憩時間は0分と答えたと報道されていました。娘から聞く校内での様子からすると児童がいる間は休憩時間を取得できないだろうと思いますし、児童下校後も休憩時間を取得するくらいなら早く帰りたいと考えるだろうと想像します。

3 なぜ先生方は長時間労働なのか。全く素人の想像ですが、先生がしなければならない業務が増えるばかりだからではないかと思います。娘たちが日々持ち帰るたくさんのプリント等から垣間見える先生方の業務には、いじめや体罰についてのアンケート、参観日も含めた学校行事運営などたくさんあり、私が小学生のころ(約40年前)と比べると、ものすごく増えているように見えます。一方で先生の数はあまり増えていなさそうで、パンクしてしまうと思うのです。ほぼ新卒の先生にも担任の先生としてお世話になりましたが、精神疾患による教員の休職が多いといったニュースに触れる度、あの青年は元気にしておられるだろうかと心配になります。教員を志す人が減っているという報道にも触れることが多いですが、それはそうなるだろうなと思ってしまいます。

 学校以外にも子どもの居場所がある時代になっているとはいえ、学校という存在はまだまだ大きいと思います。学校で子どもが傷つくことになる事件は全て教員の態勢により引き起こされているとは言いませんが、大きな要因の一つなのではないかと思います。先生方が心身の健康を保ちながら子どもと接していっていただけるような態勢が整えられることを、切に願います。といってもすぐには整えられないと思うので、今の自分にできることがあればしていきたいと、心から思います。

裁判所のIT化

裁判手続のIT化は、アメリカでは1990年台前半より開始され、アジアでもシンガポールが1998年から取り組み開始していました。

日本は、諸外国と比べると遅れていましたが、2017年10月に内閣官房に「裁判手続等のIT化検討会」設置され、検討が進められてきました。

裁判手続等のIT化の主な内容は、以下のとおりです。

出典:首相官邸ホームページ siryou4.pdf (kantei.go.jp) 令和4年12月5日に利用

2022年5月18日には、「民事訴訟等の一部を改正する法律」(令和4年法律第48号)が成立し、新法に基づく弁論・争点整理等の運用が始まっています。 

当弁護団は、全国の方々から依頼をいただいており、また弁護団で事件を取り組むにあたって、弁護団員が全国にいます。そのため、ウェブやテレビ方式で期日に出頭することができると、交通費等の負担が軽減され、裁判費用が軽減するというメリットがあります。

他方、口頭弁論期日がすべてウェブやテレビ方式で行われると、顔を直接見ないため、裁判官に主張や感情が伝わりにくくなる、裁判官の心証を感じ取りにくくなる等のデメリットもありますので、実際に出頭することが必要な場面は見極めていきたいと思います。

とりわけ、裁判の傍聴がなされなくなり、裁判官の常識が一般常識と離れてしまう恐れがあることは、常に気を付けなければならないと考えています。

嘘の労働時間記録をつけさせられていても

使用者には労働時間を管理して記録する義務があり、また働き方改革に伴い残業時間の上限の遵守が従前よりさらに厳しく要請されるようになっています。

けれども、そのような状況でなお過労死・過労自死が疑われる違法な働き方をさせている職場では、本当の業務時間の通りの労働時間記録を行っている職場の方が珍しい、という実態にあります。

労働時間記録を全く怠って、何の記録もしないのももちろん問題です。そして、さらに悪質なケースとして、会社や上司があらかじめ計画的に労働者に指示して、事実と異なる短い労働時間の記録だけを残させる、という場合もあります。 

過労死した家族から生前、そのような嘘の短い労働時間記録をつけさせられていた内情を伝られていたご遺族の中には、長時間残業の証明などできないと思って、最初から過労死の労災認定や会社の責任追求など無理だと諦めてしまわれる方もいらっしゃいます。 

けれども、本当の残業時間を証明する方法は会社の労働時間記録だけではありません。通勤に関連するもの、業務内容に関連するもの、本人の日記や手帳、SNS投稿、家族や友達への連絡など様々な方法で証明することができます。

このような資料による残業時間の証明は労基署にも裁判所にも認められています。

会社の労働時間記録が全くなくても、残業の少ない嘘の労働時間記録をつけさせられていても、別の証拠で長時間労働が証明され、労災も会社の責任も認められた例はたくさんあります。

会社が労働時間記録をしてくれていない場合や、嘘の短い労働時間記録しかないような場合でも、諦めずにご相談いただきたいと思います。

>>過労自殺(自死)について 「早期の証拠の収集が大切

裁判官について

皆さんは裁判官についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。

 瀬木比呂志元裁判官は、「絶望の裁判所」(瀬木比呂志著/講談社現代新書)において、裁判官について以下の様に述べています。

「弁護士とともに苦労して判決をもらってみても、その内容は、木で鼻をくくったようなのっぺりした官僚の作文で、あなたが一番判断してほしかった重要な点については形式的でおざなりな記述しか行われていないということも、よくあるだろう。
 もちろん、裁判には原告と被告がいるのだから、あなたが勝つとは限らない。しかし、あなたとしては、たとえ敗訴する場合であっても、それなりに血の通った理屈や理由付けが判決の中に述べられているのなら、まだしも納得がいくのではないだろうか。しかし、そのような訴訟当事者(以下、本書では、この意味で、「当事者」という言葉を用いる)の気持ち、心情を汲んだ判決はあまり多くない。必要以上に長くて読みにくいが、訴訟の肝心な争点についてはそっけない形式論理だけで事務的に片付けてしまっているものが非常に多い。」

引用元「絶望の裁判所」(瀬木比呂志著/講談社現代新書)

 私は、自死問題に関して、長時間労働などの過労やパワハラ、学校のいじめ、賃貸借問題、生命保険、医療過誤など数多くの訴訟を行ってきましたが、残念ながら瀬木裁判官の意見は的確だと感じます。

 自死遺族が必死の思いで訴訟を行ってきたにもかかわらず、最近では単に自死遺族側を敗訴させるだけではなく、後ろ足で砂をかけるような判決を書く裁判官まで出てくる始末です。「一体あなたは何のために裁判官をやっているのですか?」と言いたくなることが日常的になってきました。

 私が弁護士登録を行ったのは2005年ですが、当時は裁判官も魅力的で人間臭い人が多かったと思います。また非常に優秀な裁判官が数多く居ました。

 現在でも魅力的で優秀な裁判官は数多く存在すると思います。しかし、残念ですが総体的に見れば、劣化した裁判官が急速に増えていると個人的には感じています。生活保護の訴訟で、福岡地裁、京都地裁、金沢地裁の各判決が誤字まで同じだったため、コピー&ペーストをしたのではないかとニュースになっていましたが、社会的な耳目を集める事件でさえこの体たらくです。

 そもそも、裁判官は国や企業を敗訴させることを嫌がる傾向があると個人的には感じています。すると、自死遺族側を負けさせるという結論をまず決めて、後はそのための理屈や証拠はどのような些細なものでも総動員するという判決をいくつも見てきました。

 ある職場の過労自死の事案では、職場の先輩後輩が何人も「あの経験ではあの仕事は無理だ。」という陳述書を作成してくれたのに、結論は敗訴でした。当然ながら、判決文では「あの経験ではあの仕事は無理だ。」とは一言も書いておらず、会社側の主張を丸呑みして、いかに仕事が楽だったかということが書かれていました。その判決文を見て、私は「この裁判官は文字が読めないのでは?」と思ったくらいです。

 せめて、自分の頭で考え、証拠をちゃんと読んで評価し、自分の手を動かして判決を書き、そして自死遺族側を敗訴させるにしても一定の配慮がある判決を書いてもらいたいものです。

当弁護団の生越照幸弁護士、和泉貴士、松森美穂が担当する事件が朝日新聞に掲載されました。

当弁護団の弁護士生越照幸、和泉貴士、松森美穂が担当する事件が朝日新聞に掲載されました。
朝日新聞デジタルにも記事が掲載されました。

2022年10月22日「労災はハードル高い」労基署で難色示され申請断念 3カ月後に自殺

2022年10月22日 録音に残った労基署職員の言葉 絶望して命を絶った夫へ、妻は誓った
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カルテを取り寄せる目的について

労災を疑っておられる自死遺族からご相談いただいく際、亡くなられた方(本人)に通院歴があることも多く、そのような場合には本人のカルテの取り寄せをお願いすることがあります。

また、相談いただいた時点ですでに遺族がカルテを取り寄せている、というケースもしばしばあります。

しかし、カルテを取り寄せる目的が必ずしも周知されていないように思われます。

相談を聞く弁護士がカルテの取り寄せをお願いする第一の目的は、自死された方にいつ精神的な不調が始まり(発病時期)、その不調がどのような傷病名に該当するのかを確認するためです。

労災認定の要件として、労災の認定基準の対象となる精神障害を発病していること( 国際疾病分類IC D-10第5章「精神および行動の 障害」に分類される精神障害で あって、認知症や頭部外傷などに よる障害(F0)およびアルコール や薬物による障害(F1)は除く)というものがあり、かかる要件を満たしているかを確認するのです。

医師によっては、カルテに診断名、症状、処方薬の簡単な記載しかしない方もおられます。また、本人が、メンタルの不調に陥っている原因を医師に告げられていなかったり、原因を分かってないこともありうるでしょう。ですから、カルテの中にお仕事についての悩み事の記載がない場合もあります。

もっとも、先に述べたような視点から弁護士はカルテを見ますから、カルテの中にお仕事の悩みが触れられていないとしても、労災の要件を満たすことはあり得るわけです。

ご遺族においてカルテを取り寄せたものの、役に立つ記載がないと早合点して労災の申請を諦めてしまう、そのようなことがないようにしてもらいたいです。労災の申請には他にも検討すべき要件はありますので、まずは当弁護団にご連絡頂ければと思います。

>>解決までの流れ「過労自殺(自死)の場合 -労災-」

>>過労自殺(自死)について

遠方のご遺族からの相談について

 自死遺族支援弁護団は、大切な人を自死で亡くされたご遺族の置かれた状況に配慮しながら、ご遺族が直面する様々な法律問題を総合的に解決することを目的に結成された弁護団です。

 自死が絡む法律問題については、どのように対応するのが良いのかわからない弁護士も多いようで、当弁護団への問い合わせには、近くの法律事務所に相談したが対応を断られたというご遺族からのものも少なくありません。実際に話を聞いた中には、複数の法律問題が絡み合う事案で、そのうちの一部だけを対応し、その他の問題については適切な対応がなされないまま放置されているというケースもありました。

 当弁護団では、上記のような問題を回避し、少しでも多くのご遺族が適切な法的支援を受けられるようにするために、所属弁護士同士が毎月情報を交換し、事案によっては議論を重ねながら、お互いの経験を共有し合うことで、複雑な問題にも適切に対応できるよう研鑽しています。

 そのうえで、一定の研修を経た所属弁護士が、無料法律相談を週替わりで担当しています。担当制ですので、中には、北海道のご遺族の相談対応を、大阪の弁護士が行うということもございます。このような場合に、ご遺族の中には最寄りの弁護士の紹介を希望される方もおられますが、所属弁護士が最寄りの地域にいないということも少なくありません。

 ただ、現在では、ウェブ会議システムなどを利用することで、遠方でも顔を見ながら打合せをすることが容易ですので、弁護士が最寄りの地域にいないということは、それほど大きな障害ではなくなりつつあるといえます。

 また、当弁護団では、電話やウェブ会議システムでの相談や打ち合わせを重ねる中で、現地に直接足を運ぶ必要があると考える場合には、初回に限り、ご遺族に旅費の負担をいただくことなく所属弁護士が面談に伺う対応も行っています。

 そのため、遠方にお住まいで、最寄りの地域に所属弁護士がいないというご遺族の方であっても、まずはお気軽にご相談頂きたいと思います。必要があれば、国内どこにでも会いに行きます。

遺族支援とは何か ⑤ネットワーク型アプローチの重要性 ―弁護士はカウンセラーになれるか?―

前回の投稿(「遺族支援とは何か④総合支援の誕生」)では、心理、医療、法律、宗教などさまざま分野が連携しながら総合支援を行うことの重要性について述べました。

では、そのような総合支援の担い手として、弁護士は何をするべきでしょうか。周りの弁護士を見ていると、大別して2つのアプローチが考えられるように思います。

1つ目は、自己完結型アプローチ。心理学や精神医療を学び、弁護士自身が法的サービス以外のサービスも提供できることを目指します。いわば、弁護士が単独で総合支援を行うアプローチです。

2つ目は、ネットワーク型アプローチ。弁護士はあくまで法的サービスの提供者であるというスタンスを維持しつつ、必要があればカウンセラーや医療関係者につなぐことを目指します。いわば、弁護士が他の社会的資源とタッグを組んで、総合支援を行うアプローチです。

個人的には、以下の理由から2つ目のネットワーク型アプローチの方が正しいと考えています。

まず、弁護士の可処分時間には限界があること。

法廷に出たり日常の業務をこなしながらカウンセラーや医療の役割を果たすだけの時間的余裕が作れない弁護士が大多数だと思います。依頼者からカウンセラー的な役割を求められることも時にはありますが、中途半端な知識で弁護士がカウンセラーや医師の役割を果たそうとするのはむしろ危険ですし、本職の方に失礼だと、個人的には考えています。

加えて、私たちの究極的な目的はネットワークを作りにあること。

日本社会は統計的に見ても自死の多い社会です。遺族支援では、自死のリスクを社会全体で吸収し、個人に過度な負担を負わせない仕組みを作ることが求められています。

社会全体で総合支援を実効的に機能させるには、膨大な数の支援の担い手が必要です。弁護士個人の努力だけでカバーできる範囲には限界があり、他の社会的資源と協力し、ネットワークを構築しなければ、総合支援の実現は到底不可能でしょう。

もっとも、2つ目のネットワーク型アプローチを採用するとして、これをどう実現するか、実践面こそが非常に大切です。単に他の社会的資源の連絡先を知っている程度では、繋いだ先で適切な支援が行われないことが多いように思います。社会的資源相互の信頼関係が重要です。 これについては、次回以降に詳しく述べます。