「学校の管理下」の定義について

 こんにちは、弁護士の細川潔です。

 独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「スポーツ振興センター」といいます。)の災害共済給付について、児童生徒が亡くなった場合、死亡見舞金の支給が問題となります。

 スポーツ振興センターの業務として、学校の管理下における児童生徒等の災害について、児童生徒の保護者又は児童生徒に対し、災害共済給付を行うというものがあります(スポーツ振興センター法15条1項7号)。

 そして「学校の管理下における災害の範囲」については、「児童生徒等の死亡でその原因である事由が学校の管理下において生じたもののうち、内閣府令で定めるもの」とされています。例えば、「いじめ」が学校の管理下で起きた場合は、災害共済給付が行われることになります(スポーツ振興センター法施行令5条1項4号)。

 さらに「学校の管理下」については、同令2項で、①児童生徒等が、法令の規定により学校が編成した教育課程に基づく授業を受けている場合、②児童生徒等が学校の教育計画に基づいて行われる課外指導を受けている場合、③児童生徒等が休憩時間中に学校にある場合その他校長の指示又は承認に基づいて学校にある場合、④児童生徒等が通常の経路及び方法により通学する場合、⑤これらの場合に準ずる場合として内閣府令で定める場合、の5つが挙げられています。「これらの場合に準ずる場合として内閣府令で定める場合」は、「スポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程」に細かい規定がありますが、ここでは省略します。

 「学校の管理下」の内容について、思っていたより狭いと感じる方も多いのではないでしょうか。

 この規定に従えば、例えば、学校から帰宅して以降の事象や学校が休み中の事象については「学校の管理下」から外れることになりそうです。

 しかし、現在では、学校からタブレットなどが支給されていることも多く、そのタブレットを通じた「いじめ」が行われることもあります。

 町田市の小六女子のいじめ自死の件では、児童に配られたタブレット端末がいじめに使われていたようですが、例えば、学校支給のタブレット端末でいじめが行われた場合に、 それが学校帰宅後とか休日中に行われていたという理由で、学校の管理下にないとされたら、はたして合理的なのか疑問が残ります。

 学校の管理下の意味も、時代の流れや技術の発達とともに、変更さていかれなければならないのではないかと思った今日この頃です。

「いじめ」であることを否定された場合の遺族の対応として考えられること

1 はじめに

 学校における子どもの自死には、「いじめ」を原因とするものが多い印象があります。

 しかし、国の作成した統計上「いじめ」は必ずしも多くありません。

 実際に「令和5年中における自殺の状況」(令和6年3月29日 厚生労働省自殺対策推進室・警察庁生活安全局生活安全企画課)によると、学校問題で自死した生徒は524人のうち、「いじめ」を理由として自死した者は6名のみ(全体の1.1%)と報告されています。

 もっとも、このような国の作成した統計は実態を適切に反映したものではない可能性が高いといえます。これは、「いじめ」と「友人との不和」との区別が曖昧なことや、学校が「いじめ」による自殺を否定することにより、警察が明確に「いじめ」を原因とするものと判断できないこと等が理由であると考えられます(2023年7月17日の生越弁護士のコラム「いじめ自殺を含めた子供の自殺を減らせるか?」参照)。

 では、遺族としては、子どもの自死が「いじめ」ではないと判断された場合に、どうすることもできないのでしょうか。以下では、学校が「いじめ」であることを学校が否定した場合の遺族の対応を整理しました。

2 基本調査から詳細調査へ移行することを希望する

(1)基本調査から詳細調査へ移行すべき場合

 文部科学省「子供の自殺が起きた時の背景調査の指針(改訂版)」(以下「指針」といいます。)によると、子どもの「自殺又は自殺が疑われる死亡事案」については、全ての案件で、主に学校及び学校の設置者は子どもの自殺に至る過程等を明らかにするための基本調査を行う必要があります。

 その上で、学校の設置者は、基本調査の報告を受け、中立的な立場の心理の専門家や弁護士など外部専門家を加えた調査組織(第三者委員会)において行われる詳細調査をすべきか否かの判断を行います。

 そして、指針には、次の3つの場合には少なくとも詳細調査に移行すべきことが定められています。

ア)学校生活に関係する要素(いじめ、体罰、学業、友人等)が背景に疑われる場合
イ)遺族の要望がある場合
ウ)その他必要な場合

(2)詳細調査が行われていない実態

 しかしながら、2023年10月の文部科学省の調査結果によると、2022年度に基本調査から詳細調査に移行したのは全体411人中19人(約4.6%)で20人に1人にも満たないことが明らかになりました。この点は、文部科学省も余りにも少ないと考えており、背景調査の取組みの姿勢について検討が必要であることを認めています(※1)。

 これは、学校側が、「いじめ」を含めて学校生活に関係するものであることを否定し、「ア)学校生活に関係する要素」ではないと判断されるからではないかと考えられます。

 しかも、同調査結果によると、背景調査の指針に沿って遺族に詳細調査の希望などの制度を適切に説明していない事例が41%に上りました。

 すなわち、遺族が詳細調査という制度を知らないままに、詳細調査を希望することができず、全容が明らかにならないまま基本調査のみで終えるケースが多く存在するということです。

(3)遺族が詳細調査を明確に希望する

 そこで、基本調査から詳細調査に移行することを希望する遺族は、指針に基づいて、詳細調査に移行することを明確に希望することが必要となります。

 最終的に詳細調査に移行するべきか否かの判断は学校の設置者に委ねられ、詳細調査に移行しないことによる指導や罰則等が設けられているわけではありません。そのため、必ずしも希望すれば全ての案件で詳細調査が実施されるわけではありませんが、遺族が明確に希望しているにもかかわらず、詳細調査に移行しないことは指針に反する対応として学校の設置者に対する批判は免れません。

3 「いじめ」ではない事案でもスポ振を利用することができる

 「いじめ」による自死と認められなかったとしても、例えば、学校行事の際に学校の友人との仲違い・けんかや人間関係のすれ違いなどを原因としてうつ病を発症し、自死に至った場合などでも、独立行政法人日本スポーツ振興センター(通称「スポ振」といいます。)の災害共済給付を請求することが可能です。

(1)スポ振の災害共済給付の要件

 スポ振において、「学校の管理下」における「心身に対する負担の累積に起因することが明らかであると認められる疾病のうち特にセンターが認めたもの」(※2)に該当する場合には、「児童生徒等の疾病」(※3)とされており、この疾病に「直接起因する死亡」(※4)と認められれば、災害共済給付の給付対象となります。

 そして、「心身に対する負担の累積に起因する疾病」とは、「精神的な負担が継続的に加わったことにより発症したと認められる心因反応などの疾患」が例として挙げられており(※5)、精神的な苦痛をもたらすような行為が継続的に行われた場合が該当します(※6)。

 したがって、災害共済給付の対象として認められるための要件としては以下のように整理することができます。

① 精神的な苦痛をもたらすような行為が継続的に行われたこと
② ①が学校の管理下で行われたこと
③ ①によって疾病を発症したこと
④ ③の疾病に直接起因する死亡であること

(2)「学友との不和」でも災害共済給付の対象となる可能性がある

 冒頭で紹介した「令和5年中における自殺の状況」において、「いじめ」を理由とする自死は6名であったのに対して、「学友との不和(いじめ以外)」による自死は78名に上ります。このことから、明確に「いじめ」と言えない場合にも、統計上「学友との不和」に分類されているケースが多いと思われます。

 したがって、学校関係者から聞き取った警察官が「いじめ」を認めず、「学友との不和」に分類するような場合であっても、精神的苦痛が継続的に加わり自死に至るケースは多くあります。

 そこで、「学校の管理下」において、精神的な苦痛をもたらすような行為が継続的に行われ、その結果、うつ病等を発症して自死した場合には、「心身に対する負担の累積に起因することが明らかであると認められる疾病」に「起因する死亡」に該当し、災害共済給付(死亡見舞金)の請求が認められる可能性があります。

 遺族としては、子どもの自死の原因が「いじめ」であることを否定された場合、子どもがなぜ自死をしたのか分からず、これ以上何もできないのではないかと思ってしまいます。しかし、子どもが、学校で、どのような精神的苦痛を継続的に受けていたのかを立証することができれば、スポ振の災害共済給付の請求が認められる可能性がありますので、あきらめずに災害共済給付の請求を行うことをおすすめします。

※1 自殺総合対策の推進に関する有識者会議(第11回)25~27頁

※2 独立行政法人日本スポーツ振興センターに関する省令第22条第7号

※3 独立行政法人日本スポーツ振興センター法施行令第5条1項2号

※4 独立行政法人日本スポーツ振興センターに関する省令第24条第2号

※5 独立行政法人日本スポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程

※6 独立行政法人日本スポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程注44

子ども自殺対策 データ集約 省庁点在の資料 こども家庭庁が分析へ

昨年12月27日、朝日新聞朝刊に上記見出しの記事が掲載されました。

これまで、文部科学省は学校現場から「事件等報告書」「詳細調査報告書」を収集してきました。

子供の自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版) (mext.go.jp)」によれば、万が一、子供の自殺又は自殺が疑われる死亡事案が起きたときに,学校及び学校の設置者が、自殺に至る過程等を明らかにするため、「背景調査」を行う必要があり、背景調査は,「基本調査」と「詳細調査」に分かれます。

「詳細調査」は、基本調査などを踏まえ、必要な場合に心理の専門家など外部専門家を加えた調査組織が、アンケート調査・聴き取り調査等により、事実関係を確認し、自殺に至る過程を丁寧に探り,自殺に追い込まれた心理を解明し,再発防止策を立てます。

こうして作成される「詳細調査報告書」を文部科学省が収集管理し、他方、警察庁・厚生労働省は「自殺統計を、総務省・消防庁は「救急搬送データ」を管理するというように、各省庁で散らばる形で資料・データが管理されてきたため、子どもの自殺について学校などが把握する情報と一体化した分析ができていませんでした。

今回、2023年4月発足の「こども家庭庁」に省庁横断の資料・データを集約し、子どもが心理的に追いつめられていった背景、きっかけを分析し、科学的根拠に基づいて防止策を提言することにより、少しでも子どもの自殺が減少することを期待したいと思います。

いじめ自殺を含めた子供の自殺を減らせるか?

 国が作成している自殺の統計によれば、2022年に自殺した小中学生と高校生は512人となり、初めて500人を超えました。統計のある1980年以来、過去最多となったそうです。

 しかし、国が作成している自殺の統計では、「いじめ」によって自殺する児童は極めて少ないという結果になっています。例えば、令和4年版自殺対策白書によると、「いじめ」で自殺した小学校の男子は0%、女子は5%、中学生の男子は1.9%、女子は2.7%、高校生の男子は0.4%、女子は0.9%となっています(※1)。このような統計を見ると、「いじめによる自殺はすごく稀なんじゃないか?」と感じてしまいます。

 ところが、民間ですが全く反対の調査結果が存在します。日本財団いのち支える自殺対策プロジェクト『日本財団第3回自殺意識調査』報告書によると、若年層の自殺念慮・未遂に関する最多原因は学校問題における「いじめ」であり、自殺念慮・未遂の原因の約4分の1を占めているのです(※2)。

 さて、どちらが実態を反映しているのでしょうか?個人的には国の統計は「いじめ」による自殺を見過ごしている可能性があると考えています。

 その理由としては、第1に、国が作成している統計は、警察官が自殺の直後にご遺族から聞き取った自殺統計原票に基づいて作成されています。特に子供が自殺した場合、その直後のご遺族の混乱は非常に大きいものといえるでしょう。その混乱の中で警察官から原因や動機を尋ねられても、ご遺族は正確に答えられていない可能性があります。また、子供がご遺族を心配させないために、自分がいじめられていることを告げていない可能性もあるでしょう。そうすると、そもそもご遺族が警察官に対して「いじめが原因だった。」と告げられない可能性があります。

 第2に、自殺の原因動機である「学友との不和」と「いじめ」の区別が曖昧な点です。令和4年版自殺対策白書によると、「学友との不和」で自殺した小学校の男子は7.8%、女子は8.3%、中学生の男子は4.0%、女子は12.3%、高校生の男子は3.9%、女子は6.6%となっています(※1)。このように「学友との不和」は「いじめ」と比較して子供達の自殺の大きな原因動機になっています。では、「学友との不和」と「いじめ」との違いは何でしょうか?警察庁の答弁によると、「自殺した児童等が心身の苦痛を感じていた場合」は「いじめ」と判断するそうです(※3)。でも、子供達が「心身の苦痛を感じていた」か否かを、本人が既に亡くなっているのにどうして正確に判断ができるのでしょうか?このように、「学友との不和」と「いじめ」の区別は曖昧ですから、相当数の「いじめ」による自殺が「学友との不和」による自殺の中に含まれている可能性があります。

 第3に、警察官が自殺統計原票を作成する際に、ご遺族のみならず学校関係者にも聴き取りを行った際、「いじめ」による自殺を否定する学校関係者の回答が影響している可能性もあります。残念なことですが学校関係者は一般的に「いじめ」によって自殺が生じたことを認めたがりません。警察官が「学校の先生はいじめがあったとは言ってませんでしたよ。」と伝えれば、ご遺族は「そうなのか。」と思い込んでしまう可能性もあるでしょう。さらに実務的にはご遺族らから聴き取りをする警察官と、自殺統計原票を作成する警察官が別の場合もあるそうです。そのような場合、ご遺族と学校関係者の話が食い違った場合、自殺の原因動機を「不明」として処理する場合もあるそうです。

 このように、国が作成している自殺の統計は子供の自殺の実態を反映していない可能性が高いのです。すると、子供の自殺を減らすための政策を行うのであれば、自殺統計原票による国の統計だけではなく、心理学的剖検を含めた子供の自殺に関する詳細な実態調査が実施されるべきだと考えます。もっとも、残念ながら政府はそのような実態調査を行わないようです(※4)。

 しかし、実態が正確に把握できていないのに、どうして有効な対策を講じることができるのでしょうか?「いじめ」による自殺も含め、今後も子供の自殺が増え続けるのではないかという強い危機感を抱かざるを得ません。

※1 厚生労働省『令和4年版自殺対策白書』83頁

※2 日本財団いのち支える自殺対策プロジェクト『日本財団第3回自殺意識調査報告書』19頁

※3  厚生労働省第10回自殺総合対策の推進に関する有識者会議(2023年3月30日開催)議事録・8頁

※4 同会議において、当職が「日本における児童・小児精神医療に関して、あまり研究が進んでいるという話は聞かないのですね。そこへちゃんと予算をつけて大規模な心理学的剖検をするなり、何か調査する予定はないのでしょうか。」と質問したところ、後日、厚生労働省から「児童生徒について心理学的剖検を行う予定はない。」との回答があった。

いじめ自死の裁判の難しさそれでも戦う

 学校でのいじめにより自死した児童・生徒の報道は枚挙にいとまがありませんが、現在の裁判は、いじめ被害者に対して厳しい判断枠組みを採用しており、「教員が当該児童・生徒が自死することを具体的に予見することが可能であった」という事情を要求する裁判例がほとんどです。

 しかし、そうではない裁判例もあります。高校3年生の生徒がいじめ自死した事案で、福岡地方裁判所令和3年1月22日判決(平成28年(ワ)第3250号)は、「特に、遅くともいじめ防止対策推進法が成立・公布された平成25年6月28日頃において、学校内における生徒間のいじめによって、被害生徒が自殺するに至る事案が存在することは、各種報道等によって世間一般に相当程度周知されていたといえるところ、現に学校教育に携わる専門家である被告及び本高校教員らとしては、同法成立以前においても、生徒間におけるいじめが自殺という重大な結果に結びつき得ることを、当然に認識していたはずである。そして、被告及び本高校教員らには、生徒の生命・身体を保護するための具体的な義務として、特定の生徒に対するいじめの兆候を発見し、又はいじめの存在を予見し得た時には、教員同士や保護者と連携しながら、関係生徒への事情聴取、観察等を行って事案の全体像を把握した上、いじめの増長を予防すべく、本生徒に対する心理的なケアや加害生徒らに対する指導等の適切な措置を取る義務があるものと解される。なお、このような義務に違反する作為ないし不作為は、在学契約に基づく付随的義務としての安全配慮義務違反として債務不履行を構成するのみならず、生徒の生命、身体に対する侵害として不法行為をも構成するというべきである。」と判示した後、教員らの義務違反を認定した上で、「被告は、本高校教員らが、本生徒に対するいじめと評価するに足りる具体的な事実関係を把握しておらず、その契機もなかったから、いじめないし本件自死の予見可能性やそれを前提とする義務違反は認め得ない旨主張するが、甲教諭及び乙教諭において、いじめの端緒を認識していたと認められることは前記とおりであるから、被告の主張は採用できない。」と判示しています。

 この福岡地裁の判断は、従来の自死の具体的予見可能性が必要とする裁判例とは見解を異にする判断枠組みです。いじめを認識したのであれば、対応すべき義務があり、自死の具体的な予見可能性まで要求しないという内容です。 このように、心ある裁判官が従来からの被害児童・生徒への厳しすぎる判断枠組みに異を唱えて画期的な判決理由を記載してくれることがありますから、我々は諦めずに何度も戦いを挑んで、現状の裁判所のおかしな考えを改めてもらいたいと思っています。

>>遺族が直面する法律問題 -学校でのいじめ-

「不適切指導」について

令和4年12月に生徒指導提要が改訂されました。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1404008_00001.htm

生徒指導提要とは、小学校段階から高等学校段階までの生徒指導の理論・考え方や実際の指導方法等について、時代の変化に即して網羅的にまとめ、生徒指導の実践に際し教職員間や学校間で共通理解を図り、組織的・体系的な取組を進めることができるよう、生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書として作成されたものです(文科省のHPより)。

改訂された生徒指導提要では、いじめや「自殺」について各々1章割かれていることも気になるのですが、私が一番気になっているのは、第3章「チーム学校による生徒指導体制」の中の3.6.2「懲戒と体罰、不適切な指導」です。

懲戒や体罰の内容は以前から比較的明らかでしたが、この改訂された生徒指導提要では、部活動における不適切な指導について論じられています。そして、不適切指導の例として、

  • 大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で指導する。
  • 児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。
  • 組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。
  • 殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。
  • 児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。
  • 他の児童生徒に連帯責任を負わせることで、本人に必要以上の負担感や罪悪感を与える指導を行う。
  • 指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。

が挙げられています。

この不適切指導に関しては、生徒指導提要の中で「教職員による不適切な指導等が不登校や自殺のきっかけになる場合もあることから、体罰や不適切な言動等が、部活動を含めた学校生活全体において、いかなる児童生徒に対しても決して許されないことに留意する必要があります」とあります。

実際に私が担当した事案でも、部活に関するものではありませんが、教職員による不適切な指導等が自死のきっかけと思われるものもありました。不適切指導は、学校生活全体で配慮されるべきものでしょう。

ところで、高校生以上の自死の場合、生徒・学生が、いじめ、体罰その他の生徒・学生の責めに帰することができない事由により生じた強い心理的な負担により死亡したときは、スポーツ振興センターから死亡見舞金が給付されることになっています(スポーツ振興センター法施行令3条7号)。

そして、生徒・学生の責めに帰することができない事由の内容については、スポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程で、教員による暴言等「不適切な指導」又はハラスメント行為等教育上必要な配慮を欠いた行為を含むものとされています。

生徒指導提要の「不適切指導」とスポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程の「不適切指導」。両者の関係がどのようになるのか、なんらかの形で判断が出されることが望まれます。

子どもの自死の実情と課題

 近年のコロナ禍は、子どもの心身に大きく影響を与えています。2020年の小中高生の自死は、過去最多の499人、2021年も473人と過去2番目に多くなっています。児童生徒の自殺予防に関する文部科学省の有識者会議は、自死した児童生徒が増加した背景について、コロナ禍による家庭・子どもの環境変化が影響した可能性があると報告しています。

 弁護団で活動をしていると、子どもを亡くされたご遺族からのご相談をお聞きすることが少なからずあります。その際に課題に感じるのが、自死の原因の特定です。

 子どもは、大人から見ると、何の前触れもなく、突然衝動的に自殺してしまうという例があります。年齢が低いほど、その傾向は強いようです。もちろん、子どもの自死にも動機はあるものですが、感情が高まりやすいこと、理性が十分に発達していないことから、大人には理解できない小さなきっかけで自殺してしまうことがあるように思います。大人にとっては小さなことでも子どもにとっては深刻なことなのです。

 それに加えて、近年の子どもたちを取り巻く環境は、ひと昔より一層複雑に変化しています。SNSの情報や芸能人の自殺報道に影響されたり、死を現実的なものとは考えられず美化してしまったりすることもあるようです。

 文部科学省は、新型コロナウィルス感染症に対応した小中高校等の教育活動の再開後の児童生徒に対する生徒指導上の留意点について通知を発しています。同通知では、学校における早期発見に向けた取り組み、保護者に対する家庭における見守りの促進、ネットパトロールの強化を中心として、自殺予防に向けた取り組みの積極的な実施を促しています。

 子どもの自死が深刻な状況であることを社会全体として自覚し、自殺対策とコロナ対策を一体的に取り組むことが求められています。

ネットいじめ問題

 はじめまして、弁護士の田中健太郎と申します。

 インターネット問題やマンション問題に取り組む中で、自死に関する案件を取り扱うようになり、自死遺族弁護団に加入することとなりました。

 文部科学省が2020年に調査した不登校等調査によれば、児童・生徒の自死や不登校の原因について、ネットいじめが1万8870件と過去最多となりました。

 世界的にもネットいじめ問題は深刻さを増しており、韓国ではアイドルがプライバシーの拡散を受けたり、誹謗中傷を受けたりすることで自死するというケースが跡を絶ちません。

 日本が行っているネットいじめ対策としては、プロバイダー責任制限法の改正に伴い発信者の特定に要する期間の短縮が図られたことや侮辱罪の刑罰に新たに1年以下の懲役・禁固又は30万円以下の罰金を加えたこと等が挙げられますが、教育現場でのネットいじめの対応はなおざりであると言わざるを得ません。

 私が執務を行う町田市でも小学6年生がネットいじめにより自死したとの報道があります。いじめに使用された端末は、文部科学省肝いりのGIGAスクール構想(児童・生徒の1人1台パソコン端末を配布して教育現場に活用する構想)で配布された学習用デジタル端末を用いたもののようで、デジタル端末の技術的な側面を偏重した教育の結果ともいえます。

 インターネットの問題が伴う自死に関して悩まれている方は、ご遠慮なく弁護団にまでご連絡下さい。

児童・思春期の自死と精神障害について

弁護士の井上です。

最近、相談数の増加とも相まって、児童・思春期の子どもの自死と精神障害の関係について考えることが多くなりました。

例えば、子どもの自死が起こった場合、学校でいじめがあったのではないか、など分かり易い事象にフォーカスして調査が行われ、その結果、いじめはなかった、あるいは、いじめはあったが軽微なものであったという場合に、自死との因果関係は認められない、という調査報告と共に、自死の真相はわからないままとなってしまうことも少なくないと思います。また、その際、自死との間に精神障害が介在している可能性についてしっかりと検討されることは少ないのではないでしょうか。

しかしながら、今日では、医学的知見の蓄積により、自死には精神障害の影響が深くかかわっていること、子どもも大人と同じように精神障害を発症する場合があること[※1]、については広く知られていますので、私は、自死の原因の一つとしていじめが想定されるケースであろうとなかろうと、子どもの自死事件については、精神障害の発症が介在している可能性を否定すべきではないと考えています。すなわち、子どもの自死が生じた場合、常に「精神的負荷の蓄積→精神障害の発症→精神障害の影響による死にたいという願望→自死」という因果の流れを念頭において調査・検討が行われるべきであるということです。

そのようなアプローチで調査・検討がなされる機会が多くなれば、「精神障害の影響による死」、すなわち「病死」であったという「真実」に辿り着けるご遺族も増えるのではないでしょうか。もちろん、精神障害の原因は多岐にわたりますので、原因の調査にもおのずと限界はあります。それでも、「我が子の自死の原因が全く分からない」という状況から解放されるご遺族が増えることを願ってやみません。

また、「精神障害の発症→精神障害の影響による死にたいという願望→自死」という因果の流れを考えることは、亡くなった子供が苛烈ないじめに遭っていたというケースにおいても重要であることは言うまでもありません。精神障害の発症が介在した自死と認定されることが増えれば、自死は「基本的には行為者が自らの意思で選択した行為である」とする非科学的な判決[※2]によって傷付けられるご遺族は少なくなると思います。

なお、児童・思春期の精神障害については、2019年5月に発表された「国際疾病分類第11版」(ICD-11)において、これまで成人期における臨床的特徴が周知されている障害が児童思春期に生じた場合にはどのような臨床的特徴を呈するか、という観点に配慮した記載がなされることとなりました。例えば、大人の場合の「抑うつ気分」が、児童思春期の場合は、身体愁訴、分離不安の高まり、イライラなどとして表れることが明記されることとなり[※3]、従来よりも児童思春期における精神障害の診断がしやすくなることが期待されます。


※1神庭重信編(2020)。「講座精神疾患の臨床1 気分症群」中山書店。

※2一例として、大阪高判令和2年2月27日。

※3「精神医学」(2019)第61巻第3号

子供の自死とスポーツ振興センターの災害共済給付制度について思うこと

こんにちは、弁護士の細川です。

2021年2月15日、文部科学省の子どもの自殺に関するウェブ会議で、以下のような報告がありました。2020年の児童生徒の自殺者数は479人で、小中高校生のいずれも2019年より増え、特に女子高校生は138人と倍増したとのことです。

小中高生の自死者数の分析も重要ですが、自死の背景についても分析を行い、その上で必要な対策を講じていくべきでしょう。

私も子どもの自死事件を担当することがあります。

子どもの自死に関する法的問題は多々ありますが、ここではスポーツ振興センターに関する問題について、少し述べたいと思います。

スポーツ振興センターは、その正式名称を独立行政法人日本スポーツ振興センターといいます。

子供の自死事件において、スポーツ振興センターは、災害共済給付金(死亡見舞金)の支給ということで関与してきます、

児童生徒が学校の管理下で起きた事故により死亡した場合、保護者に対して死亡見舞金が支給される可能性が高いです。自死の事案では、例えば、学校の管理下でいじめがあった場合は、いじめによって自死があったとされれば、亡くなった場所がどこであろうとも、死亡見舞金が給付される仕組みになっています。

スポーツ振興センターの災害共済給付金の1つ目の問題点は、時効が2年である点です。この2年というのは、給付事由が生じた日、すなわち、自死があった日からカウントされることになります。しかし、2年というのはあまりに短いと思われます。例えば、保護者(遺族)が学校の設置者と第三者委員会の設置を巡って交渉していたような場合、1年くらいはすぐに過ぎてしまいます。また、学校や設置者が、保護者に対して、積極的に災害共済給付金制度について教示することは多くないです。かかる状況の下、2年が過ぎてしまったため、結局泣き寝入りという保護者がいるかもしれません。

2つ目の問題点は、児童・生徒の自死の場合、災害共済給付金の支給について、小学生・中学生と高校生では要件が異なる点です。小中学生では、学校の管理下という要件さえ満たせば支給されますが、高校生の場合は、いじめ、体罰その他の当該生徒又は学生の責めに帰することができない事由により生じた強い心理的な負担により死亡した場合に支給されると規定されており、小中学生より支給されにくくなっています(これでも、以前よりは支給されやすくなりました。)。自死は「追い詰められた上での死」なのですから、小中学生と高校生で差をつけるのは、理不尽だとしかいいようがありません。

他にも、保護者が災害共済給付金支給の手続きを行う際は学校の設置者を経なければならないとされていところ、学校の設置者を経るとすることで請求しにくくなるのではないかとか、登下校中の死亡の場合は半額が死亡見舞金の半額が支給されるところ、登下校中に自死が行われた場合は半額をまず支給すべきではないか等、他にも諸々問題がありますが、ここら辺でやめておきます。

自死問題は、お金の問題ではありません。特に子どもの自死の場合はそうです。しかし、自死未遂で重大な障害が残ったケースや、死亡したこと自体に出費がかかる場合もあるでしょう。さらに、きちんと災害共済給付の申請を行うことで、スポーツ振興センター対して、適切な学校安全にかかる調査・研究を促すという効果もありえます。

スポーツ振興センターに対しては、上記のような諸々の問題点の改善を望みつつ、保護者側でも、積極的な災害共済給付金の申請を行っていくべきだと筆者は考えます。