「給付基礎日額」~おかしい、怪しいと思ったら・・・

 過労死、過労自死が認定された際、労災補償額のベースとなるのが、被災者の被災前の賃金額に基づき計算される「給付基礎日額」です。

 この、被災前の賃金額には未払の残業代も含まれます。 そうであるにもかかわらず、労基署は未払の残業代の存在を無視した過少な給付基礎日額認定を行いがちなことは、当ブログの松森弁護士の記事「労災が認定されたら、給付基礎日額が正しいか要確認です」においても取り上げている通りです。

 そもそも、長時間残業による過労死・過労自死を出すような使用者が、事実の通りの労働時間に基づいて、適法に残業代を支払っているケースの方が稀です。莫大な残業代を支払わなければならなくなるからです。

 残業代をごまかす手法は大きく分けて

①本当の労働時間記録を残さない

②違法な賃金体系で残業代をごまかす

の2つです。この①、②を組み合わせている場合もあります。

①本当の労働時間記録を残さない

 この方法につき、ただ単に記録をつけず、労基署の労働時間聴取に対し使用者が口だけで過少な労働時間を述べる、という古典的なパターンもあります。

 しかし、近年の労働時間規制の厳格化に伴い、使用者があらかじめ計画的に虚偽の過少な労働時間記録を用意する、事実に基づく労働時間の証明を妨げる、との悪質な事案に接する機会が増えました。

 日々の労働時間記録(タイムカード、日報など)につき、事実に反する過少な労働時間、存在しない長時間の休憩を記録するよう命じて作成させておく、労働者の監視のために労働時間記録は行なうが労働時間記録の持ち出しや謄写をしたら罰金であるとして労働者の利用を妨げる等の手法です。

②違法な賃金体系

 代表的なものは、

(1)管理監督者だから残業代払わなくてよい

(2)固定残業給だから払った給料に残業代が含まれている

(3)歩合給だから残業代はほとんど発生しない、

というものです。

 しかし、これらの賃金体系はいずれも、労基法上の通常の残業代支払方法の例外として、厳格な要件を満たさなければ許容されません。

 長時間労働による過労死や過労自死が発生するような働かせ方で、例外的な支払い方法が適法とされる場合の方が稀です。

 長時間働いていたのに、残業代の支払いがなかったり、少なすぎておかしいと感じるような実態にあった場合、労働時間のごまかしや、違法な賃金体系が隠れていることが多いです。

 労災が認定された場合でも労基署計算の給付基礎日額は鵜呑みにせず、専門家と共に検討することをお勧めします。

静岡県警事件最高裁判決について

1 はじめに

 最高裁は、令和7年3月7日に過労自殺(自死)に関する損害賠償請求訴訟において2つの重要な判決を下しました(以下「静岡県警事件最高裁判決」といいます。)(※1※2)。

 これらの最高裁判決が過労自殺(自死)の実務に大きな影響を与えることは確実です。様々な論点はあるのですが、私がもっとも大切だと考えるいくつかのポイントについてご説明したいと思います。

2  訴訟の概要

 静岡県警事件最高裁判決は、静岡県警に警部補として勤務していたAさんが過労自殺(自死)した事案について、Aさんの妻子が静岡県に対して損害賠償を請求した訴訟(以下「妻子訴訟」といいます。)と、Aさんのご両親が静岡県に対して損害賠償を請求した訴訟(以下「父母訴訟」といいます。)の2つの訴訟があります。

 広島地裁福山支部は、令和4年7月13日、妻子訴訟と父母訴訟の両方について静岡県の責任を認め、ご遺族勝訴の判決を下しました。

 これに対して、静岡県は広島高裁に控訴しました。すると、広島高裁は、令和5年2月15日、父母訴訟について静岡県の責任を否定し、ご両親敗訴の判決を言い渡しました。しかし、広島高裁は、同月17日、妻子訴訟について静岡県の責任を認め、一審である広島地裁福山支部と同じように妻子勝訴の判決を下しました。

 このように、警察官のAさんが過労自殺(自死)したという客観的な事実は同じなのに、広島高裁は全く逆の2つの判決を下しました。

 そこで、静岡県警事件最高裁判決は、妻子訴訟については広島高裁が正しいと判断し、父母訴訟については広島高裁が間違っていると判断したのです。その結果、妻子訴訟も父母訴訟もご遺族側の勝訴となりました。

3  電通事件最高裁判決との関係

 静岡県警事件最高裁判決を正確に理解するためには、最高裁が平成12年3月24日に下した電通事件最高裁判決(※3)とのつながりを踏まえる必要があります。

 電通事件最高裁判決の最も大切なポイントは、「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。」と述べたことです。要するに、最高裁は、「働き過ぎて、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、体や心を壊す危険性があることはもう常識です!」とはじめて述べたのです。

 そして、電通事件最高裁判決は、働き過ぎて「疲労や心理的負荷等が過度に蓄積」した結果、うつ病になったり、自殺(自死)に追い込まれたりした時点で対策をとっても遅いので、会社などの使用者が対策をとって回避すべき状態は、うつ病や自殺(自死)といった「結果を生む原因となる危険な状態の発生」であり、予見可能性の対象もこのような「危険な状態の発生」であるという考え方に立っています(※4)。

 もっとも、実際の裁判の実務では、電通事件最高裁判決が出た後も、うつ病や自殺(自死)といった「結果を生む原因となる危険な状態」とは具体的にどんな状態なのか、そのような状態となった時期はいつなのか、会社が行うべき対策をご遺族側と会社側のどちらが特定するのかといった論点が残りました。

 当弁護団が担当した事件でも、裁判官から「職場がどの時期にどんな対策をとればいいのか具体的に特定して下さい。」と指示されたことは何度もあります。もっとも、ご遺族からすると、亡くなったご家族の職場での働きぶりを実際に見ていた訳ではありませんし、職場の人事システムも知らないのですから、過労自殺(自死)を避けるため職場が行うべき対策の時期や具体的内容を特定することは不可能に近いといえます。そして、この特定に失敗して敗訴したことも何度か実際に経験しました。

 このような電通事件最高裁判決後に残されたいくつかの論点について、静岡県警事件最高裁判決は一定の判断を示しました。

4  静岡県警事件最高裁判決の重要ポイント

(1) 第1のポイントは、まず、うつ病や自殺(自死)といった結果が生じる様な危険な状態とはどのレベルの状態なのかについて論じた点にあります。

 最高裁は、Aさんの業務がAさんに「相当程度の疲労や心理的負荷等を蓄積させるもの」であり、このような業務が「精神疾患の発症をもたらし得る過重な業務」と判断しました。つまり、最高裁は、「過度」に疲労や心理的負荷等が蓄積した状態ではなく、その前段階である「相当程度」に疲労や心理的負荷等が蓄積した状態になれば、うつ病や自殺(自死)といった結果が生じる様な危険な状態が発生したと評価しているのだと考えられます。

 その結果、ご遺族側の立証のレベルは、「過度」ではなく、「相当程度」に疲労や心理的負荷等が蓄積した状態まで立証すれば足りるということになりました。過労自殺(自死)の事件の代理人を長年務めてきた弁護士としては、かなり立証のハードルが下がったと感じています。

(2)  第2のポイントは、Aさんの上司は、Aさんから勤務時間などの報告を受けていたことから、「A警部補の従事する業務の具体的な状況を把握し得なかったと解すべき事情はうかがわれない。したがって、A警部補の上司らは、A警部補が客観的にみて精神疾患の発症をもたらし得るような過重な業務に従事していることを認識することができた」と判断した点にあります。

 過労自殺(自死)の損害賠償訴訟では、会社から「そんなに働いているとは知らなかった。」という主張が必ずと言って良いほど行われます。

 しかし、最高裁は、少なくとも労働者が「精神疾患の発症をもたらし得る過重な業務」に従事していた場合は、上司が「業務の具体的な状況を把握し得なかったと解すべき事情」を具体的に立証しない限り、客観的に過重な労働に従事していたことを知り得たと認定すべきという考えに立っていると思います。

 このように、上司がどのような事情を認識または認識し得れば会社が責任を負うかという点について、「そんなに働いているとは知らなかった。」という反論は簡単には通りませんよ、と示した点は実務上大きな意味があると思います。

 (3)  第3のポイントは、少なくとも労働者が「精神疾患の発症をもたらし得る過重な業務」に従事していた場合であれば、遺族側に、うつ病や自殺(自死)といった「結果を生む原因となる危険な状態」が発生した時期や、会社が行うべき具体的な対策の内容などの特定を要求することなく、「A警部補の上司らは、A警部補の業務を適切に調整するなど、その負担を軽減するための措置を講じなければ、A警部補がその心身の健康を損なう事態となり、精神疾患を発症して自殺するに至る可能性があることを認識することができたというべきである。そうであるにもかかわらず、A警部補の上司らは、A警部補の負担を軽減するための具体的な措置を講じていない。」と判断して、静岡県の過失を認めた点にあります。

 特に国家公務員や地方公務員の事件では、予算に限りがありますし、簡単に人を増やすことができません。そのため、国や自治体から「予算ありませんし、人も簡単に採用できないので、業務を軽減したり、人を補充したりすることはできません。ご遺族が主張する対策を行うことは不可能です。」といった主張が行われ、実際に判決でもそのような主張が認められることがありました。しかし、最高裁は、そのような主張を明確に否定しました。そして、民間の場合は、より柔軟に業務量の調整や人員の増員が可能といえますので、当然にそのような主張は認められないでしょう。

 (4)  第4のポイントは、これはかなり専門的な議論なのですが、長時間労働によって過労自殺(自死)が生じた場合、どのような状態を労働時間と評価すべきかという論点について判断を示した点にあります。

 過労自殺(自死)が生じた場合、労働時間の考え方は単純化して大きく分けると、①使用者から仕事をしなさいと命令されたり、仕事をすることを義務づけられたりした時間を労働時間とする考え方と、②心理的負荷によって過労自殺(自死)が生じたのだから、業務によって心理的負荷を受けた時間を労働時間とする考え方の2つの考え方があります。そして、広島高裁の妻子訴訟は②の考え方で、父母訴訟は①の考え方でした。

 ①と②の考え方で大きく判断が分かれる場面は、持ち帰り残業や出張の移動が就業時間の前後に行われた場合です。ここも様々な議論がありますが、単純化すると、①の考え方では、持ち帰り残業は労働者が勝手に持ち帰っているので労働時間ではありませんし、就業時間の前後に行われた出張の移動時間は通常の通勤と同じなので労働時間と評価しません。一方、②の考え方では、持ち帰り残業も就業時間の前後に行われた出張の移動も業務によって心理的負荷を受けるので労働時間として評価します。

 このような対立があったのですが、妻子訴訟の最高裁は、「業務起因性判断の前提となる労働時間(勤務時間)とは、上記労働基準法上の労働時間に限られるものではなく、労働者が、業務のために必要な活動に従事していることが客観的に明らかであるといえるときは、使用者による明示的な時間外勤務命令に基づいているか否かや、使用者の指揮命令下に置かれているか否かといった点を問わず、これを業務起因性判断の前提となる労働時間(勤務時間)として考慮することができる場合があると解すべきである。」とした広島高裁の認定を、「原審の適法に確定した事実関係等」と判断し、海外研修の準備や事前会合の移動時間も労働時間として評価しました。

 このように、専門家の間では争いはあるものの、最高裁は少なくとも②の立場を否定するものではないことを明示した点に大きな意義があると考えます。

 (5)  第5のポイントは、最高裁が父母訴訟の広島高裁の形式的な事実認定を否定した点にあります。個人的な見解ですが、残念ながら、裁判官は能力的にも知性的にも感情的にも急速に劣化していると感じます。もちろん、優秀な裁判官も数多くいますが、頭でっかちで、社会を知らず、自分の地位を守ることだけに関心があるような、ヒラメ裁判官が大量に増殖しているのが現実です(もう個人的にはヒラメ裁判官はChatGPTと交代した方がまともな判断が出るのでは無いかと感じるくらいです。)。 

 過労自殺(自死)事件のヒラメ裁判官の事実認定はワンパターンで単純です。事実をバラバラに分解し、分解したバラバラの事実の心理的負荷は弱いと判断し、弱いバラバラの事実を最後に総合的に判断しても、やっぱり心理的負荷は弱いと判断するのです。

 実は広島高裁の父母訴訟は、このようなヒラメ裁判官の事実認定が行われた結果、ご両親が敗訴しました。

 しかし、最高裁は、そのような形式的な事実認定を否定し、Aさんの立場にたって事実を認定しました。従来の交番長としての業務に新人の指導業務が加わったこと、労働時間がおよそ2倍以上に増加して1か月当たり100時間を超えたこと、14日の連続勤務を2回行ったことなどを認定した上で、「A警部補が自殺直前の時期に行っていた業務は、A警部補に相当程度の疲労や心理的負荷等を蓄積させるものであったということができる。」と認定したのです。

 極めて常識的ですし、一般人の感覚からして素直に受け入れることができる事実認定だと思います。

5  最後に

 静岡県警事件最高裁判決が出た後、当弁護団で受任している過労自殺(自死)の損害賠償請求訴訟でも、最高裁判決を踏まえた主張立証を行いました。

 その結果、比較的短時間で和解したケースも複数見られます。是非当弁護団にご相談下さい。

※1 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/869/093869_hanrei.pdf

※2 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/868/093868_hanrei.pdf

※3 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/222/052222_hanrei.pdf

※4 八木一洋「電通事件/最高裁判例解説」法曹時報52巻9号・362~363頁

2024(令和6)年度の精神障害の労災補償の状況について

 毎年度、厚生労働省から「過労死等の労災補償状況」についての取りまとめが公表されており、令和6年度の統計についても、令和7年6月25日に公表されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59039.html

 かかる取りまとめによれば、精神障害での労災認定の件数が、統計を始めた1983年以来初めて1000件を超えたことが明らかとなっています(支給決定件数1055件、内自殺は88件)。

 件数が増加した要因の一つとして、パワハラ、カスハラの認定件数が増えたことが挙げられます。

 まず、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」いわゆるパワハラですが、令和5年度は157件の認定件数であったものが、令和6年は224件に激増しているということが分かります(ただし、自殺に関しては、令和5年、令和6年どちらも認定件数は10件)。

 次に、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラですがが、令和5年が52件であるのに対して、令和6年は108件と倍増(ただし、自殺に関しては、令和5年、6年とも認定は1件)していることが分かります。

 このように、パワハラ・カスハラに起因する精神障害の労災認定が増加している背景としては、令和5年度に認定基準の改正によりパワハラに関する基準が類型化されたことや、カスハラに関する基準が追加されたことが影響していると考えられます。

 パワハラ・カスハラの相談が増加しているのは、日頃から労働相談を受けていている身としても実感します。

 かつては、パワハラ・カスハラの立証が困難という側面がありましたが、最近では、スマートフォンやICレコーダーなどで録音することが比較的容易になりました。最近は、相談者から、「実はこんな音声がありまして…」と録音をお示しいただくことも増えています。実際に録音を聞いてみると、文字起こしを読んでいるだけでは伝わりにくい威圧的な雰囲気が記録されていることもあります。みんなの前ではニコニコ優しく振る舞っている良い上司が、特定の人にだけ恐ろしいハラスメントをしている、そんな録音を聞いたこともあります。

 このように、ハラスメントの実態を把握しやすくなったということが、パワハラ・カスハラを要因とする労災認定が増えた要因と言えるかもしれません。

 上記でも触れたとおり、自殺に至ったケースに限ると、統計上、令和5年、6年の比較ではパワハラ・カスハラを要因とする労災認定件数が増加しているわけではありません。自殺の場合、当人からの証言が得られず、録音等もあるかないかも分からない、という難しさがあることも影響しているでしょう。

 しかし、相談者であるご遺族からは、故人がハラスメントに遭っていたようだ、とのエピソードが出てくることはしょっちゅうあります。自殺案件においても、ハラスメントの事実が適切に認定されるように、録音等の痕跡がどこかに残っていないか、証拠の収集の進め方を含め、今後とも研鑽を積んで参りたいと思います。

9/13(土)12時間無料法律相談会を行います。

 自死遺族支援弁護団では、昨年度に引き続き、2025(令和7)年9月13日(土)昼12時から夜24時までの12時間にわたり、自死遺族の方々を対象に、電話とLINEによる無料法律相談を実施します。

 自死遺族の方々は、取り巻く環境や心理的な問題などにより、なかなか相談できないという状況の中にいます。
 そこで、自死遺族支援弁護団では、12時間いつでも相談に応じることで、自死遺族の方々に「安心して」「昼でも夜でも」「12時間相談したくなったら電話でもLINEでも相談できる」と考えております。
今回の無料法律相談においては、自死遺族支援弁護団に所属する弁護士約10名が12時間電話とLINEで相談に応じることになっております。

 できるだけ多くの自死遺族の方々にご利用いただき、自死遺族の方々が背負っている問題を整理し解決していきたいと考えております。どうぞお気軽にご相談くださいませ。

日時
2025年9月13日(土)昼12:00~夜24:00

<ラインID
@540ifphl

QRコード

詳細

行政や支援者の方へ

行政のHPやLINEへのチラシの掲載についてご協力をお願いたします。

ご遺族からの相談を聞くに当たって

1 「こんなにしっかりと話を聞いてもらえたのは初めてです。」といった類いの言葉を法律相談の場で聞く度に複雑な気持ちになります。「ここに来るまでに○人断られました。」という話も同様です。

 確かに、相談の中には法律ではどうしようもない事案もあり、「対応出来ない」とはっきり伝えることが大切な場合もあります。しかし、上記のように仰って頂ける事案の中には、相談を聞いた弁護士が、可能な限り話を理解しようと努め、かつ、確かな知識を有している場合であれば、何らかの方針を示すことができた事案も少なくありません。また、相談を聞いたその場では馴染みのない法律関係に関する話であったとしても、話を整理する過程でとっかかりとなる法令や判例を調べてみることで、お伝え出来ることが出てくる場合も少なくありません。

 つまりは、法律相談に来られた方の抱えている問題の解決に向けて、対応した弁護士がどれだけ広い視野を持って「本気で」考えたかによって、その対応に大きな違いがあるということだと思います。

2 この点、自死に関するご遺族からの相談においては、できるだけ多角的に事案を検討する必要があることから、原則として、ご遺族の主訴にとらわれることなく、あらゆる可能性を考えて聴き取りに当たることが必要となります。

 例えば、賃貸マンションにおける自死のケースで、家主からの賠償請求の有無や金額を教えて欲しいといったご遺族の相談を想定した場合、その点だけを答えて終わってしまうと、後々取り返しのつかない場面が出てくる場合があり得ます。具体的には、自死者自身の預貯金もそれほど多くなく、ご遺族にも経済的な余裕がない場合に、家主からの損害賠償請求額が数百万円になることが見込まれるという理由だけで安易に相続放棄を勧めて終わってしまうような場合です。このとき、ご遺族自身も相談時に思い至っていなかった事情として、実は、働き過ぎや職場でのパワーハラスメントなどが原因で精神障害を発病し、結果として自死してしまったという事情が隠されていたらどうなるでしょうか。その可能性を考慮せずに安易に相続放棄を勧めて法律相談を終えてしまうと、後に勤務先に対して数千万円の損害賠償請求が可能となる事案であったとしても、早々に相続放棄をしたことにより、気付いた時にはその権利を失っていてどうにもならない、ということになります。

3 別の例として、自死者の遺品から、一見すると交際相手とうまくいかなくなったことが自死の原因であるかのように考えられ、ご遺族の主訴も、交際相手に何か請求出来ないか、というものであったというケースを想定してみます。このとき、遺品から伺える交際相手とのやり取りが、男女間の日常的ないさかいの域を出ない程度のやり取りであったと考えられる場合には、「交際相手への請求は法的には難しいですね。」などと助言して終わってしまう場合もありうるところです。しかし、生前の自死者の人柄や、自死前の様子の変化などに聞き取りの範囲を広げていくことで、実は、交際相手とうまくいかなくなっていたのは、仕事のストレスで本人も気付かないうちに精神障害を発病していたからであって、本当の原因は職場にあったという場合もあるかもしれないのです。

4  上記2つの例において、ご遺族の主訴だけにとらわれて相談を終えてしまうと、亡くなられた方が何に苦しんでいたのかという真実にたどり着くことは困難となりますし、ご遺族の重要な法的権利を失わせることにもなりかねません。しかし、対応する弁護士があらゆる可能性を視野に入れて事情を聴き取ることで、それを防ぐことができる場合もあるでしょう。

 他方で、ご遺族の中には、様々な事情から、多くのことを話したがらない方もおられます。そのため、常に詳細を聞き取ることができる訳ではありませんが、だからといって、相談に臨む弁護士が、詳細を聞き取らなくても良いということにはなりません。

5 自死遺族支援弁護団では、可能な限り広い視野にに立った上で様々な法的問題に対応出来るよう、所属する弁護士間での情報共有や勉強会などを通じて日々研鑽を重ねています。

 皆様から安心してご相談頂ける様、私自身も努力し続ける所存です。

自死率の視点から見た外国人問題

 東京都町田市で活動している弁護士の和泉です。

 最近、ネットやテレビのニュース番組を見ていると、外国人への社会保障制度の適用の是非や、外国人増加に伴う治安の悪化を懸念する言説を目にすることが増えているように思います。NHKが2025年6月に実施した調査では、「日本社会では外国人が必要以上に優遇されている」という質問に、「強くそう思う」か「どちらかと言えばそう思う」と答えた人は64%にも及ぶという結果が出ているそうです。選挙においても外国人問題を重点政策として取り上げる政党が目立ちます。

 私自身は、家族ぐるみで付き合いのある外国人の友人がいます。また、私は音楽が好きで1990年代からHipHopというジャンルを聞き続けていますが、このジャンルを支え続けてきたのは外国人労働者や日本で育ったその子どもたちでした。加えて、高齢化が進み人手不足が慢性化している日本社会が、外国人労働者抜きに円滑な経済活動を続けることは困難と考えます。ですので、外国人を過度に敵対視する言説には正直疑問を感じてしまいますが、個人的感情は抜きにして、客観的なデータとして外国人の自死率について調べてみたいと考えました。文献を調査したところ、在日外国人の自死率について言及した論文が複数見つかったので、紹介したいと思います。

 「日本在住外国人の死亡率:示唆されたヘルシーマイグラウンド効果」(小堀栄子ほか2名・第64巻公衆衛生誌第12号・2017年)では、厚労省が作成した人口動態統計から算出した死亡総数の年齢調整死亡率(人口10万対)について、日本人と外国人を比較すると、在日外国人の中年層では外因死(不慮の事故,自殺)による死亡率が高く、中でも自死による死亡率は高いことが指摘されています。他方で、若い年齢階層での自死率は日本人よりも低いとのことです。このようなデータをもとに、自死率の低い地域の出身者であったとしても、日本社会に長期間在住することでストレスにより長期間さらされ、そのことと自死率の上昇とが関連している可能性があるとの考察が行われています。

 また、「外国人の死因―日本人・本国人との比較」(林玲子・人口問題研究76-2・2020年)では、人口動態調査のデータをもとに在日外国人の国籍別に自死率をみた場合、朝鮮・韓国籍外国人の自死率が高いと述べられています。韓国はOECD諸国の中で最も自死率が高いことで知られていますが、在日韓国・朝鮮人の自死率は、日本の日本人だけでなく、韓国の韓国人よりもさらに高いことが指摘されています。

 さらに、「COVID-19 パンデミック中の日本在住外国人と日本人の自死率の異なる傾向」(谷口雄太ほか10名・International journal for equity in health. 2024 Jul 31)では、人口動態調査のデータを分析すると、COVID-19パンデミック中、初期には日本人では自死率の低下が観察されたが外国人では見られず、また外国人男性の自死率は2021年末まで高止まりしていたと述べられています。論文では、これらのデータをもとに、パンデミックのような状況においては、社会経済的に脆弱な集団に対して適切なメンタルヘルスサポートが必要なことを示唆していると総括し、また、パンデミック中に外国人男性、特に、失業率が高かったと報告されている韓国・朝鮮籍の男性において自死率が特に上昇していたことを指摘し、「適切な雇用機会の確保も重要」と指摘しています。

 これらの論文で掲載されたデータからすれば、外国人が日本で生活する中で感じるストレスは日本人と比較してもそれなりに高く、自死率から見る限り外国人が日本人以上に優遇されていると評価することは困難と考えます。

パワーハラスメントの調査方法について

 はじめまして。大阪で弁護士をしております松村隆志(まつむらたかし)と申します。2022年から当弁護団に加入しており、今回初めてブログを書かせていただくことになりました。

 さて、私は現在、当弁護団で2件の過労自殺の案件を担当しておりますが、いずれも上司や同僚からパワーハラスメント(以下「パワハラ」と略記します。)を受けた事案です。どのような言動がパワハラに当たるのかについては、生越照幸弁護士の2024年3月12日のコラム2020年8月17日のコラムに詳しい説明がございますので、そちらをご覧いただければと思います。今回は、パワハラの調査の流れについてご説明したいと思います。

 私たち弁護士がご遺族からご相談を伺う際には、亡くなった本人がどのようなパワハラ被害を受けたのか、そして、その被害をどのように証明するのかという点に注意して伺います。ただ、被害者本人が亡くなっているため、そもそもどのような被害があったのかもよくわからないことも珍しくありません。

 私たちは、ご相談を受けた場合、まずは、遺書や本人の日記、ご遺族が自死された方から生前に聞いていたお話、加害者等とのメールのやり取り、友人や同僚とのメッセージのやり取りなどを確認し、本人の受けた被害について手掛かりとなる記載がないかを調べます。自死された方が精神科その他の病院に通院していた場合には、カルテを取り寄せて医師にパワハラの被害を説明していないかも確認することになります。また、パワハラを見聞きした同僚の方の協力を得られれば、事実の確認の観点からも証明の観点からも非常に意味があります。

 どのような事実があったのかが明らかになれば、次にその事実をどのようにして証明するかが問題となります。録音や加害者とのメールのやりとり、同僚の方の供述でパワハラ被害の証明が十分であればよいのですが、そのような事案ばかりではありません。証拠が不足する場合に、考えられる手立てとしては主に2通りあります。

 第1には、事業主に対してパワハラ被害を申し出て、調査を求める方法です。

 事業主は、パワハラによって労働者の就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる義務を負っています(労働施策総合推進法30条の2第1項)。具体的には、パワハラの相談の申出があった場合には、相談者と加害者からの事実確認を行い、必要があれば第三者からも聴取する等して、事実関係を迅速かつ正確に確認する義務があります(令和2年厚生労働省告示第5号)。

 事業主の側で、パワハラがあった事実を隠そうとするリスクはありますが、他の同僚の見ている場で苛烈なパワハラがあった場合や、他の同僚もその加害者から被害を受けているような場合などは、事業主による調査でもパワハラの事実を裏付けるような証言が得られる可能性があります。

 第2に、労働基準監督署長に労災保険給付を請求して、労基署の調査に委ねる方法です。

 労働基準監督署長には労災について必要な調査を行う権限が与えられており(労災保険法46条)、パワハラ等により精神障害を発病したとの訴えがあれば、職場の関係者から聴き取りをして、そのような事実があったか否かが調査されます。関係者からの聴取書は、手続が進めば開示を受けることができます。

 パワハラの事案は、当事者の間で密室的に行われることも多く、類型的に立証に困難を伴うものです。ただ、録音などの直接的な証拠がない場合でも、調査を通してパワハラの事実を証明できる可能性があります。あきらめず、まずは当弁護団までご相談いただければと思います。

弁護団員の弁護士会での活動

当サイトの弁護士ブログを見ていただければ分かるように、我々の弁護団には、日本各地の弁護士が所属しています。普段の業務では、全国各地、それぞれ様々な分野で活動している我々ですが、「自死遺族の方々の役に立ちたい」という一点では思いを一つに、一致して活動しています。

そんな我々ですから、弁護団の活動以外でも、自死遺族の皆様の役に立てそうな活動では、顔を合わせることも多いです。例えば、日弁連の活動です。

日弁連(日本弁護士連合会)は、日本全国全ての弁護士が加入している団体で、弁護士法が定める「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」を目的に、人権擁護に関する様々な活動を行っています。

その日弁連には、自殺対策プロジェクトチーム(以下「PT」といいます)が存在しています。PTは自殺予防や自死遺族支援を目的に活動をしていますが、このPTでも、当弁護団の複数の弁護士が各地域から参加して、研修やシンポジウムの講師や司会を務めたり、報告書をまとめたりと、日弁連としての活動にも尽力しています。もちろん、日弁連のPTには参加しているものの、当弁護団には所属していない弁護士もPTには参加しておりますので、様々な弁護士同士で意見交換を行って、当弁護団にとっても、PTにとっても、有意義な活動となっていると思います。

弁護士は、日弁連だけでなく、各地の弁護士会にも所属することが義務づけられています。各地の弁護士会でも、自殺予防や自死遺族支援のための専門の委員会を設けている場合があります。例えば、私の所属する神奈川県弁護士会にも、自殺問題対策部会が存在しますが、私も含め、神奈川で業務を行っている当弁護団所属の弁護士の多くも、自殺問題対策部会に所属して、活動を行っています。

どんな弁護士が、自死遺族支援弁護団に入っているんだろう、そのような疑問をお持ちになる方もいらっしゃると思いますが、当弁護団所属の弁護士は、日々、全国的な活動はもちろん、各地域での活動に参加し、様々な立場をもって活動しています。 弁護士会の活動だけで無く、当弁護団所属の弁護士が幅広い分野で、様々な立場で活動していることをまたご報告できればと思います。

まずはご相談ください

何をどうしたらいいのかわからない…
何を弁護士に相談したらいいのかわからない…
ちゃんと話ができるか自信がない…
電話する力もない…

自死遺族の方々は、何が起きたのかもわからないほど、困惑したり後悔したり悲しんだり…いろんな複雑なお気持ちを抱えておられることと思います。
当弁護団にメールでご連絡いただく方の中には、ご家族が自死したけど、何をどうしたらいいのかもわからないから連絡がほしいという方もいらっしゃいます。
そのような連絡で構いません。
このようなメールをいただきましたら、折り返しこちらからお電話させていただきます。
まずご相談いただければ、ご遺族の方々が抱えている問題を一緒に整理して、ご自身でできることをアドバイスしますし、弁護士が必要な法的な問題があれば継続して相談に応じます。
相談は無料ですので、ご安心ください。

そして、弁護士の介入が必要な状況になったときは、弁護士への依頼をアドバイスし、費用や手続きなどについてご説明します。
ご遺族の方が当弁護団の弁護士に依頼するかどうかは自由です。依頼まではしない、という結論になっても構いませんので、ご安心ください。

また、相続放棄手続きなど、原則として亡くなったことを知ってから3ヶ月以内にする手続きもありますし、労災申請や訴訟のために必要な証拠集めも早ければ早い方がいいと思いますので、お早めにご相談いただければと思います。

ご相談いただいたご遺族の方の中には、「もっと早くに連絡すればよかった・・・」と言われる方もおられます。

お電話でもメールでもお手紙でもFAXでも構いませんので、ご連絡をお待ちしております。

最後に、どうしてもご遺族の方から連絡をするのが難しい場合は、ご友人や支援者の方からのお電話でも構いません。

まずはご相談いただければと思います。

故人の通院歴を調べる方法

 自死された事案では、お亡くなりになる直前の故人の精神状態を詳細に知りたい、ということがしばしばあります。例えば、鉄道に飛び込んだ場合などであれば、損害賠償義務が発生するか否かの判断にあたり故人の精神状態が重要な判断要素となります。また、生命保険の免責期間内の自死について保険金が支払われるか否かの判断にあたって重要な要素となります。さらに、過労による自死の場合であれば、発病時期を特定する重要な情報となります。

 もっとも、単身赴任などの事情により、故人が遠方で一人暮らしをしていたような場合だと、故人の精神状態を十分に把握できていないことがあります。このような場合に、故人の通院歴を調査し、通院先からカルテを取得することで、故人の精神状態を詳細に把握できることがあります。

 故人の通院歴を調べる方法はいくつかありますが、もっとも効果的な方法は診療報酬明細書等の開示を求めることです。

 一般に医療費は、患者が3割を医療機関に支払い、残りの7割は医療機関が健康保険組合から支払いを受けています。診療報酬明細書等は、医療機関が健康保険組合に医療費を請求するために作成・提出する書類です。健康保険組合ではこの書類を保存していますので、その開示を求めることで、故人が通院していた病院を把握することができます。

 開示を求める先は、故人が加入していた健康保険組合です。故人の保険証が残っていれば、保険証の「保険者名称」を見れば健康保険組合を把握できます。保険証が残っていない場合は健康保険組合を直ちに特定できないこともありますが、勤務先や居住地などの情報を基に特定することは可能です。

 診療報酬明細書は医療費を請求するための書類であるため、どのような治療をしたのか、どのような薬を処方したのか、といった情報は記載されていますが、なぜそのような治療を選択したのか、患者がどのような訴えをしていたのか、といった情報は記載されていません。故人の精神状態を詳細に把握するためには、故人が医師にどのような訴えをしていたかという点が重要になります。そのため、カルテを取得し、詳細な情報の収集を図っていくことになります(もっとも、カルテに詳細な情報が記載されていないケースもあるので、カルテがあれば必ず情報収集ができるとは限りません)。

 ご遺族のお手元に情報がない場合でも、様々な手段を駆使することで情報を収集できることがあります。手元に情報が無くて困ってしまったというときも、ぜひ当弁護団へご相談ください。