弁護士と依頼者の関係~併走者として~

 東京の多摩地区で弁護士をしております。加藤慶二と申します。

 弁護士の仕事は,法律を駆使して,紛争を解決することだと思います。複雑な法体系の知識を持ち合わせており,それによって,依頼者さんの悩み・紛争を解決しなければなりません。そのため,弁護士として働く以上は,当然,法律を駆使する能力・法律についての知識がなくては話になりません。法律に関する知識がなければ,それは「スキルのない専門職」に他ならず,むしろ依頼者さんに迷惑をかけてしまうことでしょう。

 しかし,反面,弁護士の仕事は法律を駆使すること,法律の知識さえを持っていさえすればよいわけではありません。先のコラムにて,和泉弁護士が指摘していたように,遺族の方には様々な心理的・精神的な不安を感じておられる方が多くいると思います。

 よく遺族の方から,

 「弁護士から,『もう子どもは死んで,戻ってこないのだから,早いところ忘れなさい。いつまでもグズグズしていないで,●●の手続きをしたほうがよい』と言われた」

 「弁護士に会ったとたん,ろくに話も聞かないで,子どもが死亡したことにおける損害賠償の請求額の話に終始した」

 などという声をよく聞きます。

 弁護士は,法律を駆使する能力・法律についての知識が求められるため,法律の知識「さえ」あればよいと考えている人は少なくなく,実際に弁護士の中にもそのように考えている人がいないわけではありません。「依頼者は法律の答を知りたいのであるから,端的に答えをいえばよいのだ」ということでしょう。

 必要な情報を淡々と教えてもらえるほうが,むしろありがたいと思われる方もおりましょうし,そこは相性の問題なのかもしれませんが,少なくとも私は,弁護士は法律の知識「さえ」あればよいのだとは思ってはおりません。

 法律の知識・専門性に特化し,研鑽を積まねばならないことは重々に承知しているつもりですが,依頼者の方が多くの不安等を感じておられる中で,ただただ事務的に法知識にだけ特化していくことは,必ずしも依頼者さんと「併走」することができないと考えています。

 弁護士に頼む上では,相性ということは重要です。依頼者さんと弁護士の間には信頼関係が必要とされるので,「この弁護士であれば,何か信頼できるな」という思いを大事にされることは,とても重要だと思います。

精神面,人間関係等からみた遺族支援

 東京の八王子合同法律事務所に所属しております。弁護士 の和泉です。自死遺族支援弁護団では、関東地域の取りまと め役として活動してます。

 自殺対策と関わるようになってから7年ほど経ちます。弁護士になる以前から、自殺対策の領域で 活動していました。行政とも民間ともお付き合いさせていただき、行政、医療、社会運動、法律など様々な切り口から自殺対策を見てきまし た。過労自殺などの労働問題や社会保障領域を専門としつつ、自殺についてはあらゆる法律問題を扱っています。

 先のコラムでは主として法律面からの解説がなされていましたので、ここでは、精神面や人間関係 等の面から遺族支援について述べたいと思います。

 遺族が抱える精神面・人間関係面でのトラブルは、大別して5つほどに分類することができるで しょう。以下、それぞれ具体的に説明します。

1 体調不良

 遺族は精神的にコンディションを崩すことが少なくありません。とくに亡くなった直後は、 一日中起き上がることができない、笑うこと自体に罪悪感を感じる、ちょっとしたきっかけで涙が止まらなくなるといった状態が続く ことがあります。精神的な落ち込みが激しい場合には精神科への一時的な入院や通院が有効な場合も少なくありません。

2 親族関係

 例えば、お子さんを亡くされた家庭では、死 をどのような形で受容するかという点を巡って、家族間に亀裂が生じることがあります。また、従来からあった家族間の感情的な対立が、 死をきっかけにエスカレートすることも少なくありません。

3 近隣住民等との人間関係

 自殺は家族の恥であるという考え方がまだま だ社会の中に根強いため、死因や死亡の事実を秘密にする例が多数見受けられます。自死の事実を近隣住 民に話せない中で、ご近所付き合いが難しくなったり、買い物に出かけることができないといった声は数多く聞くことがあります。また、 実際に子育ての失敗や亡くなった方の性格など、根拠のない偏見にもとづく倫理的非難を遺族が受けることもあります。さらに、最近は少 なくなりましたが、宗教施設での不利益取り扱いなどを受けることもかつてはありました。

4 相談機関の不適切対応

 遺族が行政や専門家に相談に行っても、それら の社会的資源が遺族の抱えるトラブルについて予備知識を欠くため、十分なサービスを提供できない例が少なくありません。法律相談をし たかったのにカウンセリング等心のケアしか提供できない、または逆に、心の相談をしたいのに法律面だけのアドバイスしか受けられな かった、といった話は相談者の方から多数聞くところです。

5 絶望

 どれだけ遺族に対する精神的・法的支援が 充実しても、残念ながら失われた命が戻るわけではありません。その絶望感から、遺族は様々な問題解決について消極的になり、先送りし 続けた結果、事態がさらに悪化してしまうということがあります。近しい人を亡くした遺族にとっては大変苦しいことですが、現実問題と して、それでも生きなければならない現実があることも事実です。

 遺族が直面するこれらのトラブルが、遺族 が法律家に相談に行くこと自体に対する障壁となり、問題解決をよりいっそう困難にしているといえるでしょう。法律問題だけに光をあて るのではなく、これらのトラブルに配慮しながら、ときには民間、行政、医療など、他の相談機関と連携しつつ問題解決を図ることができ る点が、私たち弁護団の特徴です。

 法律的な観点から、遺族が負う必要のない 負担を少しでも多く取り除くことこそ、私たちの役割であると考えています。

自死遺族弁護団の成り立ちについて

自死遺族支援弁護団が結成された理由とは?

1 専門性を有する複合的な法律問題

自死遺族が複数の法的問題に直面してしまうことは珍しくありません。
 また、自死遺族が直面する法律問題の中には、労災の請求、生命保険の請求、賃貸物件における大家からの損害賠償請求、医療過誤等、高度な専門性を有する法律問題が含まれている場合も少なくありません。
 例えば、自死遺族のAさんは、弁護団員との最初の打ち合わせの際、まるでトランプのような弁護士の名刺の束を見せてくれました。そして、「どの先生に相談しても難しいと言われて・・・。」と真剣に悩んでいました。
 Aさんのお話を伺うと、Aさんの夫は職場で働き過ぎであったことに加え、消費者金融から300万円程度の借金がありました。また、賃貸物件で亡くなったことからAさんは大家から損害賠償の請求を受けていました。さらに、住宅ローンの生命保険が下りずに困っていました。
 労災の請求、借金、賃貸物件における大家からの損害賠償請求、生命保険の不払いという複数の問題を抱えてしまったAさんの事件を、多くの弁護士は、「難しい。」と返答してしまったのです。

2 体調と気持ちの問題

家族が自死で亡くなると、他の家族の方は多くの場合、心理的に様々な影響を受けます。うつ病になったり、PTSDとなったりする場合もあります。ある自死遺族の方は、「家族を亡くしてから、ずっと暗い井戸の底から座って上を見てたんです。そしたら、あっという間に数年が経ってしまって・・・。」と仰っていました。
 また、法律的な手続を行うことは、普通の人でも大変なことです。特に自死遺族の場合、相手方からの書面や尋問などで、体調を崩してしまう方もいます。ですから、自死遺族の代理人を務めるためには、手続の進行に合わせ、気持ちの変化や体調の変化に十分な配慮が必要となります。

3 平成22年12月の結成

 このような自死遺族を法的に救済することを目的として、平成22年12月に自死遺族支援弁護団が結成されました。自死遺族が抱えてしまう複数の専門性を有する法律問題について、体調と気持ちの問題にも配慮しながら適切な解決を目指すため、全国で、ホットラインやメールでの相談など、日々活動を続けています。