いじめへの対応と警察との連携①

 令和5年2月7日付で、各都道府県教育委員会教育長や都道府県知事等に対して、「いじめ問題への的確な対応に向けた警察との連携等の徹底について」という通知(以下「本件通知」といいます。)が出されました。本件通知は、いじめが児童生徒の教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせるものであるとの基本的理解に立ったうえで、いじめ問題への対応と警察との連携について、様々な観点から述べています。
 本件通知の全文については文部科学省のHPをご確認いただくことにして、以下では、「いじめ対応における警察との連携」という点について、特色をご紹介いたします。

1 まず、本件通知は、児童生徒の生命や安全を守ることを最優先にすべきであるとの考えから、学校に対して、警察への通報をためらうことなく、直ちに相談・通報を行い、適切な援助を求めなければならないとしています。
 この点に関し重要なのは、警察への相談・通報の対象となる「いじめ」が、犯罪行為に該当するものに限られていないということです。せっかく警察との連携を図る制度が整備されても、学校側が警察への相談・通報をためらい、警察との情報共有が円滑にいかなければ意味がありませんので、そのような事態を避けるために、本件通知では、警察への相談・通報を行ったことが、「学校として適切な対応を行っているとして評価される」ことが明記されています。
 「いじめ」が犯罪行為に寄る場合はもとより、犯罪行為によらない場合であっても、警察による注意・説諭には一定の効果が期待でき、いじめ問題に対応する教員の負担も軽減されることになりますので、今後は、警察との連携がより積極的に図られることが期待されます。

2 次に、本件通知は、重大ないじめ事案に当らない場合でも、警察は、当該児童生徒又はその保護者が犯罪行為として取り扱うことを求めるときは、その内容が明白な虚偽又は著しく合理性を欠くものである場合を除き、被害届を即時受理するものとしていることから、学校は、警察から連絡を受けた場合には、緊密に連携しつつ、捜査又は調査に協力しなければならないとしています。
 したがって、学校側の動きが鈍いときなどには、児童生徒やその保護者から、警察に被害届を出すことによって、必要な調査や対応等の警察との連携を促すことも可能になるものと考えます。これまで学校が十分な対応を取ってくれず、どうしてよいのかわからない状態にあった児童生徒又はその保護者にとっては、途が開けることになったのではないでしょうか。

 このように、本件通知は、「いじめ対応における警察との連携」に関し、「いじめ」事案に対する学校から警察への相談・通報を、適切な対応として位置付けるとともに、被害児童生徒やその保護者から警察に被害届が出された場合には、原則として即時に受理したうえで学校との連携が図られるべきことを明確にした点に意義があるものと考えます。

 今後、「いじめ対応における警察との連携」が周知されていくことで、学校と警察との連携がスムーズになり、元々業務過多である教育現場においては、「いじめ」対応の負担が軽減されることが期待されますし、これまで学校の対応に頼らざるを得なかった被害児童生徒又はその保護者にとっても、警察を介して「いじめ」対応を求めるという選択が身近になるのではないでしょうか。
 その他、本件通知においては、児童生徒への指導・支援の充実や保護者と学校が共にいじめ防止対策を共有するための普及啓発の推進などについても触れられていますが、これらについてはまた別の機会に書きたいと思います。

当事者と支援者

 自死遺族が社会に対して何を訴え、何を求めていくべきかについては、多様な意見があり難しい問題です。私自身、親が亡くなったことを契機に、社会が抱える不条理を強く感じるようになり、その想いを社会に知ってもらいたいという動機で弁護団の活動に関わるようになりました。他方で、遺族が自分の要求実現のためにデモ行進をしたりロビー活動を行うというイメージは持てませんでした。かつての私もそうでしたが、多くの遺族はそのような精神的な余裕が無いまま日々の暮らしを辛うじて乗り切るのが精一杯、というのが現実だと思います。

 誰が何をできるのか、この問いは、社会運動そのもののあり方に関わる、根本的で難しい問題です。私も昔からいろいろ調べてはいるのですが、この論点は、国境を越えて、自死という領域に限らず論じられてきた論点のように思います。

 私が注目してきたのは、障碍者運動の領域でした。障碍者の領域は、重度の身体障がいや精神障碍を有する当事者が運動の先頭に立つことが可能なのか、他方で支援者や前面に出る運動のあり方が果たして妥当なのか、つまり、当事者と支援者との関係について精緻な議論がなされてきた歴史を持っています。自死も、自死した当事者は亡くなっているため当事者になれず、遺族も精神的に大きなダメージを負っており、どうしても支援者が前面に出がちな傾向がある点で、障碍者の領域に近いと考えています。

 韓国の障碍者運動の歴史を調べると、いくつか有益な視点を得ることができます。「韓国 障害運動の過去と現在 障害─民衆主義と障害─当事者主義を中心に」(※1)という記事を読むと、韓国でも「民衆主義」(市民運動への参加を支援者、行政、医療など様々な範囲に拡大すべきという主張)と、「当事者主義」(市民運動の主体はあくまで当事者であることを強調する主張)という2つの主張が対立していたことが分かります。「民衆主義」のように運動のウィングを広げていけば、いろいろな立場の人が運動に参加できる一方、多様な意見を集約するために主張は抽象化され曖昧(ときには極端に無害化され無内容。)になります。「当事者主義」のように運動への参加を当事者に絞ると、獲得目標が具体的で地に足のついた活動になる一方、運動は社会全体と足並みを揃えることができず孤立化・先鋭化するリスクを孕むように思います。

 障碍学の創設に貢献した研究者・活動家として世界的に有名なマイク・オリバー教授は、障碍者団体をいくつかの段階に分けて説明しています。大雑把に説明すると、初期は慈善団体や福祉施設関係者による待遇改善の運動から始まり、それが当事者のニーズに寄り添いきれない面が出てくると当事者の自助組織が生まれます。そして、その次には、当事者の待遇改善の要求だけでは個別の困窮者の支援・救済にとどまってしまうことに疑問を持ち、これを社会構造の問題と関連付けて当事者の「権利」として解釈しなおす組織が現れる。さらに、いずれはこれらの様々な動きが障碍者の権利実現のために連携し協力しあうようになると説明されています。日本の自死遺族支援にかかわる様々な活動が、現在どの段階に当てはまるか、ときには立ち止まって考えてみるのも必要なことのように思います。

※1
立命館大学 生存学研究所 生存学研究センター報告書 [20]
「第二部 韓国 障害運動の過去と現在  ──障害─民衆主義と障害─当事者主義を中心に」

いじめ自死の裁判の難しさそれでも戦う

 学校でのいじめにより自死した児童・生徒の報道は枚挙にいとまがありませんが、現在の裁判は、いじめ被害者に対して厳しい判断枠組みを採用しており、「教員が当該児童・生徒が自死することを具体的に予見することが可能であった」という事情を要求する裁判例がほとんどです。

 しかし、そうではない裁判例もあります。高校3年生の生徒がいじめ自死した事案で、福岡地方裁判所令和3年1月22日判決(平成28年(ワ)第3250号)は、「特に、遅くともいじめ防止対策推進法が成立・公布された平成25年6月28日頃において、学校内における生徒間のいじめによって、被害生徒が自殺するに至る事案が存在することは、各種報道等によって世間一般に相当程度周知されていたといえるところ、現に学校教育に携わる専門家である被告及び本高校教員らとしては、同法成立以前においても、生徒間におけるいじめが自殺という重大な結果に結びつき得ることを、当然に認識していたはずである。そして、被告及び本高校教員らには、生徒の生命・身体を保護するための具体的な義務として、特定の生徒に対するいじめの兆候を発見し、又はいじめの存在を予見し得た時には、教員同士や保護者と連携しながら、関係生徒への事情聴取、観察等を行って事案の全体像を把握した上、いじめの増長を予防すべく、本生徒に対する心理的なケアや加害生徒らに対する指導等の適切な措置を取る義務があるものと解される。なお、このような義務に違反する作為ないし不作為は、在学契約に基づく付随的義務としての安全配慮義務違反として債務不履行を構成するのみならず、生徒の生命、身体に対する侵害として不法行為をも構成するというべきである。」と判示した後、教員らの義務違反を認定した上で、「被告は、本高校教員らが、本生徒に対するいじめと評価するに足りる具体的な事実関係を把握しておらず、その契機もなかったから、いじめないし本件自死の予見可能性やそれを前提とする義務違反は認め得ない旨主張するが、甲教諭及び乙教諭において、いじめの端緒を認識していたと認められることは前記とおりであるから、被告の主張は採用できない。」と判示しています。

 この福岡地裁の判断は、従来の自死の具体的予見可能性が必要とする裁判例とは見解を異にする判断枠組みです。いじめを認識したのであれば、対応すべき義務があり、自死の具体的な予見可能性まで要求しないという内容です。 このように、心ある裁判官が従来からの被害児童・生徒への厳しすぎる判断枠組みに異を唱えて画期的な判決理由を記載してくれることがありますから、我々は諦めずに何度も戦いを挑んで、現状の裁判所のおかしな考えを改めてもらいたいと思っています。

>>遺族が直面する法律問題 -学校でのいじめ-

「不適切指導」について

令和4年12月に生徒指導提要が改訂されました。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1404008_00001.htm

生徒指導提要とは、小学校段階から高等学校段階までの生徒指導の理論・考え方や実際の指導方法等について、時代の変化に即して網羅的にまとめ、生徒指導の実践に際し教職員間や学校間で共通理解を図り、組織的・体系的な取組を進めることができるよう、生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書として作成されたものです(文科省のHPより)。

改訂された生徒指導提要では、いじめや「自殺」について各々1章割かれていることも気になるのですが、私が一番気になっているのは、第3章「チーム学校による生徒指導体制」の中の3.6.2「懲戒と体罰、不適切な指導」です。

懲戒や体罰の内容は以前から比較的明らかでしたが、この改訂された生徒指導提要では、部活動における不適切な指導について論じられています。そして、不適切指導の例として、

  • 大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で指導する。
  • 児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。
  • 組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。
  • 殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。
  • 児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。
  • 他の児童生徒に連帯責任を負わせることで、本人に必要以上の負担感や罪悪感を与える指導を行う。
  • 指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。

が挙げられています。

この不適切指導に関しては、生徒指導提要の中で「教職員による不適切な指導等が不登校や自殺のきっかけになる場合もあることから、体罰や不適切な言動等が、部活動を含めた学校生活全体において、いかなる児童生徒に対しても決して許されないことに留意する必要があります」とあります。

実際に私が担当した事案でも、部活に関するものではありませんが、教職員による不適切な指導等が自死のきっかけと思われるものもありました。不適切指導は、学校生活全体で配慮されるべきものでしょう。

ところで、高校生以上の自死の場合、生徒・学生が、いじめ、体罰その他の生徒・学生の責めに帰することができない事由により生じた強い心理的な負担により死亡したときは、スポーツ振興センターから死亡見舞金が給付されることになっています(スポーツ振興センター法施行令3条7号)。

そして、生徒・学生の責めに帰することができない事由の内容については、スポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程で、教員による暴言等「不適切な指導」又はハラスメント行為等教育上必要な配慮を欠いた行為を含むものとされています。

生徒指導提要の「不適切指導」とスポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程の「不適切指導」。両者の関係がどのようになるのか、なんらかの形で判断が出されることが望まれます。

労災認定と民事上の損害賠償

私が当弁護団で担当している自死事件について、先日無事労災認定がなされました。

もっとも、我々弁護団の仕事は労災認定により終了するわけではありません。

多くの方々は、労災認定がなされるとそれにより遺族補償給付等として十分な補償が得られたものと考えてしまいます。

しかし、2022年8月1日付の当弁護団ブログ(作成者:松森美穂弁護士)にも記載のあるとおり、本来、遺族補償給付等の金額は、現実に既に支払われている賃金だけではなく実際に支払われていない未払いの残業代金等を含めた給付基礎日額より算出すべきであるところ、実際には、現実に既に支払われている賃金しか考慮されずに給付基礎日額が決定されていることも少なくありません。

また、労災は、あくまでも国の基準に基づき支払われる保険給付であり、いわば最低限の補償にすぎないため、しっかりと損害を賠償してもらう場合には、会社に対して民事上の損害賠償請求を行う必要があります。

遺族補償給付等と民事上の損害賠償のもっとも大きな違いは、死亡慰謝料が支払われるか否かという点にあります。

遺族補償給付等の場合、死亡慰謝料は含まれておりません。もっとも、民事上の損害賠償請求を行った場合、死亡慰謝料が支払われることが通常であり、その金額の相場は、一家の支柱の方であれば2800万円、それ以外の方々であっても2000万円〜2500万円にものぼります(但し、過失相殺等がなされる可能性もありますので、必ず当該金額が支払われるというわけではありません。)。

民事上の損害賠償請求をご自身で行うことは難しいと思います。

民事上の損害賠償請求をしたいがどうしたら良いか分からない等お困りの方がいらっしゃれば、お気軽に当弁護団にご相談ください。

>>自死遺族が直面する法律問題 -過労自殺(自死)-
>>解決までの流れ 過労自殺(自死)の場合 -損害賠償-

精神医療に関する最高裁判決

 2023年1月27日、最高裁判所は、精神科病院に入院中の患者が無断離院して自死した事案につき、遺族の損害賠償請求を棄却する旨の判断を示しました。
 この事案の原審(高松高等裁判所)は、病院側に説明義務違反があったとする遺族の主張を認め、損害賠償請求を一部認容する旨の判断をしていました。
 判断が分かれたのは、この事案において「無断離院の防止策を講じている他の病院と比較した上で入院する病院を選択する機会を保障する必要性」があったか否かという点です。最高裁判所はこれを否定し、高松高等裁判所はこれを肯定しました。

 また、2019年3月12日、最高裁判所は、精神科に通院中の患者が自死した事案につき、遺族の損害賠償請求を一部認容した東京高等裁判所の判決を破棄して、遺族の損害賠償請求を全て棄却する旨の判断をしています。
 判断が分かれたのは、この事案において「本件患者が自死することについての予見可能性」があったか否かという点です。最高裁判所はこれを否定し、東京高等裁判所はこれを肯定しました。

 ところで、令和3年度の司法統計によれば、医療行為による損害賠償請求訴訟の認容率(訴訟提起後、判決に至った事案のうち患者側の請求が認められる割合)は約20.1%とのことです。これは、医療行為による損害賠償請求訴訟を含む金銭を目的とする訴え全体の認容率が約77.1%であることと比較して著しく低い数字であることは一目瞭然です。

 そのため、精神科医療に関連する事案については、これら最高裁判例で示されたような考え方も念頭に置きながら、慎重に検討する必要があると考えています。

>>遺族が直面する法律問題「医療過誤」

裁量労働制の濫用に要注意です

厚生労働省は、2022年7月15日に、「これからの労働時間制度に関する検討会」での議論をとりまとめた報告書を公表し、裁量労働制の適用対象を拡大に向けて現在、労働政策審議会において議論が続いています。

本来、労働時間は1週間40時間、1日8時間が原則であり(労働基準法32条)、例外的に一定の要件を満たすとその労働時間の枠を超えて働くことが許されますが、割増賃金(残業代)の支払が義務づけられています(労基法37条)。

これに対して、裁量労働制とは、業務遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、実際に労働した時間数ではなく、労使協定または労使委員会の決議で定めた時間数だけ労働したものとみなす労働時間の算定制度であり、割増賃金も支払われません。

①システムエンジニア、デザイナー、記者、建築士など一定の専門業務を対象とする場合は「専門業務型裁量労働制」、②「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」につき「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」を対象とする場合である「企画業務型裁量労働制」があります。

厚生労働省は、2021年6月25日に「裁量労働制実態調査結果」を公表しましたが、特に注目すべきは、過労死ラインを確実に上回るといえる労働者の割合が、裁量労働制の非適用労働者が4.6%であるのに対して、適用労働者は8.4%ということです。裁量労働制の適用労働者の約1割が過労死ラインを超える長時間労働を行っていることが分かりました。

また、裁量労働制の適用労働者に対する調査において、専門業務型の40.1%、企画業務型の27.4%の労働者がみなし労働時間が何時間に設定されているのか「分からない」と回答しています。

そして「みなし労働時間」は1日平均7時間38分でしたが、実労働時間は平均9時間であったことも分かりました。つまり、実際の労働時間よりも短い「みなし労働時間」が定められ、それを認識していない労働者が少なくない実態が明らかとされました。

労働時間規制は、労働者の生命と健康を確保するために不可欠です。

労働時間規制の例外である裁量労働制の対象業務が安易に拡大され、裁量労働制が違法に悪用・濫用されれば、労働者はますます危険にさらされてしまいます。

今後も、労働者が違法な裁量労働制のもとで働かされていないかどうかを厳しく確認していく必要があります。

学校でのネットいじめへの対応

1 学校でのネットいじめとのかかわり

 私は、インターネット上の誹謗中傷事案を取り扱っていますが、近年、学校でのネットいじめ事案の相談を受けることが多くなりました。

 学校でのネットいじめ事案においては、一般的なインターネット上の誹謗中傷事案で求められる手法(プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求等)だけでは十分な解決には至らないこともあり、特殊な領域としての対応が求められることになります。

2 学校でのネットいじめの具体例

⑴ 使用されるアプリ

 かつてはネット掲示板(学校裏サイトなど)がネットいじめの温床とされていましたが、今日はSNSが利用される可能性が圧倒的に高くなっています。SNSの中でこどもの利用頻度が高いのはTwitter、LINE、高校生はInstagramやTicTokなどを使っていることもあります。また、オンラインゲーム(フォートナイト、荒野行動など)のボイスチャット機能などを用いていじめが行われることがあります。 

⑵ ネットいじめ行為の類型

 ネットいじめ行為の類型は、使用するアプリの機能に応じて多様に変化しています。典型的なパターンとしては、①SNSでなりすましアカウントを作られた②SNSで虚偽の情報やプライバシー情報を拡散された、③自分の写真、動画を勝手に加工され、SNSで拡散された、④LINEなどのグループトークを外された、⑤いじめられているところを動画撮影され、動画投稿サイト等に拡散された、⑥SNSで過去の交際時の画像を拡散された(リベンジポルノ)、⑦オンラインゲームで、グループから外された特定のこどもへの集中攻撃が繰り返されたなどが考えられますが、今後も新しいアプリが開発されるたびに新しいパターンのいじめ行為が現れると予想されます。

3 学校でのネットいじめの現状

⑴ 統計上も過去最多

 文部科学省は、全国のいじめ事件の統計を取っており、毎年、調査結果の公表を行っています。2021年10月13日に公表された、「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、ネットいじめの件数は1万8870件で過去最多(平成29年度1万2632件、平成30年度1万6334件、令和元年度1万7924件。)となっています。学校が把握していないネットいじめも多数あると思われ、潜在的な件数はもっと多いことが予想されます。

 また、小中学校における不登校の件数も過去最多(19万6127件。)、小中高等学校におけるこどもの自殺も過去最多(415件。なお前年度は317件。)となっています。学校現場が現在非常に危険な状態となっていることが統計上も明らかとなっています。

⑵ 近時の学校でのネットいじめの特徴

 小学生でもスマホを持ちSNSを使うことが珍しくなくなった現在では、ネットいじめの特徴も変化が見られます。SNSを利用する場合、コミュニケーションの相手はクラスや友人などであり、多くの場合、現実に存在する人間関係を補完するツールとしてSNSが用いられています。その意味で、現在のネットいじめは掲示板などで見知らぬ人から攻撃されるようなパターンよりも、現実に存在する人間関係を前提に、ネット上でいじめ行為が行われるパターンの割合が増えています。つまり、ネットいじめの存在が確認できた場合、いじめ行為はネット上にとどまらず、クラスや部活動などリアルな人間関係の中にも広がっている可能性を疑う必要があります。

4 学校でのネットいじめへの対処法

 ネットいじめの多くがリアルな人間関係を前提としている以上、2つのアプローチを併用する必要があります。具体的には、第三者委員会の設置など学校や教育委員会を通じていじめの実態解明を行うアプローチと、発信者情報開示請求等のネット上のいじめの痕跡をもとに証拠収集を行うアプローチです(なお、小学生が当事者となっている事案では、刑事責任能力との関係で刑事事件として解決することが困難なものが多いです)。

5 プロバイダ責任制限法改正

 SNSなどで匿名の者から誹謗中傷を受けた際、被害回復を図るため、加害者を特定することを「発信者情報開示」といいます。

 発信者情報開示は、プロバイダ責任制限法という法律を根拠として行われますが、同法が改正されたことに伴い、令和4年10月1日から、新たな開示手続の運用がスタートしました。

 従前、①ウェブサイトと②プロバイダ(携帯電話会社等)に対して、それぞれ別の裁判手続を行う必要がありましたが、新たな開示手続では、①と②を1つの手続でできるようになり、開示の費用や時間が短縮されることが期待されています。

 もっとも、ツイッターなどは同制度での開示手続に強い抵抗を示しており、必ずしも従前の制度に比して円滑に開示できているわけではない印象です。

 また、従前、海外法人(ツイッター、メタ、グーグル等)を相手方とする場合、海外へ裁判所類を送付したりや英訳したりするなどの手間から裁判がはじまるまで6ヶ月ほどの期間を要することがありましたが、令和4年度中に、主要なIT大手企業については、法務省と総務省の要請に従い国内での登記が完了したことから、上記手間はかからなくなりました。

 インターネット関係の事件は、数ヶ月で運用等が変更される非常に流動性のある分野であり、例えば、イーロン・マスクがツイッターを買収しましたが、このことが今後の開示手続でどのような影響を与えるのかも注目されています。

産後うつへの公的支援の必要性

 2015~16年に亡くなった妊産婦357人の死因について、自死が102人で、がんや他疾患を上回り、最も多かったことが国立成育医療研究センターの調査で分かりました。うち92人が出産後の自死で、35歳以上や初産の女性の割合が高かったとのことです。産後うつが原因のひとつとして考えられています。

国立成育医療研究センター
人口動態統計(死亡・出生・死産)から見る妊娠中・産後の死亡の現状

日経新聞
妊産婦死亡、自殺が1位 成育医療センター調査

 世界保健機関(WHO)などによると、産後うつは、妊産婦の約10%が経験するとされていますが、近年、この割合が増えてきているようです。たとえば、2020年10月に筑波大学の松島みどり准教授らが実施した調査では、回答が得られた出産後1年未満の母親2132人のうち、産後うつの可能性がある人はおよそ24%であったとされています。新型コロナウィルスの影響で人と触れ合う機会が減ったことや収入の落ち込みなどの経済的不安が関係しているとみられています。

NHKニュース
母親の「産後うつ」 コロナ影響で倍増のおそれ 研究者調査

 私も産後気持ちが落ち込みがちになることがありました。産後うつがあることは知っていたので、日記をつけて自分の気持ちを整理したり、楽しみな予定を入れたり、心身の状態に気を付けながら過ごしていました。

 twitterやブログでは、「しんどくて限界だ、と公的機関に電話したが、しんどいですね、家族の援助を得て頑張ってください、というだけで何の助けにもならなかった。」などという当事者の声も見られます。

 男性育休制度も未だ普及していない現状で、家庭内でできる対策には限界があると思います。

  国立成育医療研究センターは、2020年に産後の自死予防対策プログラムとして「長野モデル」の開発を発表しました。新生児訪問時に保健師が母親にアセスメントを行い、その結果に応じて保健師・精神科医・産科医・助産師・看護師・小児科医・医療ソーシャルワーカーなど、多職種のチームでフォローアップを行うということです。全国への波及も期待されています。

国立成育医療研究センター
世界初!産後の自殺予防対策プログラム「長野モデル」を開発 ~産後の母親への自殺予防効果が証明される~

 産後うつを個人や家庭の問題とせず、国、地方公共団体が充実した支援制度を整えていくことで、救われるお母さん、子ども、ご家族が増えることを願っています。


教員の就労環境の改善を

1 娘が小学校に入学してから、「学校の先生は何て長時間労働なんだ」と実感するようになりました。「学校の先生は忙しい」ということは以前から仄聞していましたが、身近で体験することで、これは尋常じゃないと感じるに至っています。

2 まず、朝が早い。娘たちは午前7時30分過ぎには学校に着くペースで登校しますので、先生方はそれより前に学校に着いてらっしゃると思います。また、気象警報が出そうな(出ている)日は午前6時50分くらいから「自宅待機で」「今日は休校です」と連絡する一斉メールが届きますので、そういった日は、全員ではないでしょうが、午前7時前から在校している先生がいることになります。

そして帰りも遅い。娘が休むと、担任の先生が電話をくださって、翌日の時間割等を教えてくれるのですが、電話は午後7時台にかかってくる訳です。夕方の時間帯にかけてくださった電話を私がとれないことが何回かあり、共働き家庭配慮で遅い時間にお電話くださるのかな申し訳ないなと思っていたのですが、欠席時の連絡が電話ではなくメール(のようなもの)になっても連絡が来る時間は遅いことが多いので、共働き家庭配慮だけが原因ではないと思われます。

こうして見ると、先生方は、毎日12時間近く、もしくはそれ以上、在校してらっしゃることになります。在校中に休憩時間を取得できていればと思いますが、連合総研が全国の公立の小中高校と特別支援学校の教員を対象に実施した調査で、54.6%が在校時間中の休憩時間は0分と答えたと報道されていました。娘から聞く校内での様子からすると児童がいる間は休憩時間を取得できないだろうと思いますし、児童下校後も休憩時間を取得するくらいなら早く帰りたいと考えるだろうと想像します。

3 なぜ先生方は長時間労働なのか。全く素人の想像ですが、先生がしなければならない業務が増えるばかりだからではないかと思います。娘たちが日々持ち帰るたくさんのプリント等から垣間見える先生方の業務には、いじめや体罰についてのアンケート、参観日も含めた学校行事運営などたくさんあり、私が小学生のころ(約40年前)と比べると、ものすごく増えているように見えます。一方で先生の数はあまり増えていなさそうで、パンクしてしまうと思うのです。ほぼ新卒の先生にも担任の先生としてお世話になりましたが、精神疾患による教員の休職が多いといったニュースに触れる度、あの青年は元気にしておられるだろうかと心配になります。教員を志す人が減っているという報道にも触れることが多いですが、それはそうなるだろうなと思ってしまいます。

 学校以外にも子どもの居場所がある時代になっているとはいえ、学校という存在はまだまだ大きいと思います。学校で子どもが傷つくことになる事件は全て教員の態勢により引き起こされているとは言いませんが、大きな要因の一つなのではないかと思います。先生方が心身の健康を保ちながら子どもと接していっていただけるような態勢が整えられることを、切に願います。といってもすぐには整えられないと思うので、今の自分にできることがあればしていきたいと、心から思います。