証拠保全の重要性と力強い味方

 受任した案件について、証拠保全という手続きをとることがあります。

 証拠保全手続きの概要等については、2024年8月26日の坂井田弁護士のコラムに詳細がありますのでぜひご確認ください。

 自死に関連する事件においては、当事者の方がお亡くなりになっていることもあり、証拠を取得することが困難であることから、証拠保全手続きをとることがあります。

 証拠保全手続きにおいては、相手方(会社等)が保有している証拠を確保することになるのですが、現代においてはその証拠が紙媒体ではなくPC内やサーバー内にデータという形で保存されていることも多くあります。そうすると、我々弁護士であっても、どこにどのような形で証拠が保存されているのか、証拠を見つけたとしてもそれをどのように読み解けばいいのかということが分からないことがあります。

 そのため、証拠保全においては信頼するSEの方に同行していただくことが少なくありません。

 先日、当弁護団で講師を務めていただいたことも有るSEの方に証拠保全に同行して頂きました。

 そのSEの方は、保全の現場において裁判官や相手方に対して、証拠の探し方や証拠の見方の解説までしておられスムーズに証拠を確保することが出来ました。

 依頼者の方の権利を守るため、専門家のお力をお借りすることの大切さを実感した瞬間でした。  身近な方が自死によって亡くなった場合、今後どうしてよいか考えることすら出来ない状況もあるかと思います。そのような場合には、当弁護団にご相談ください。

宇都宮地裁に葬儀社を被告として提起した訴訟で勝訴

当弁護団の弁護士生越照幸、弁護士和泉貴士、弁護士松森美穂がご遺族らの代理人として宇都宮地方裁判所に提起した裁判が、先月ほぼ全面的に勝訴し、地元のニュースでも取り上げられました。

Yahooニュース「無実の罪で解雇、賠償命令 男性死亡、栃木の葬儀社」

本件は以下のような事案です。
葬儀社においてある従業員が、「葬家に返金するから」と事務員から金員を騙し取っていたという事案が発覚したところ、社長が、別の従業員のUさんも共犯に違いないと決めつけて、Uさんに対し、業務上必要であるかのように説明して、伝票に詐欺への関与を窺わせる内容を記載させて、警察に突き出しました。Uさんは犯行への関与を完全否定しましたが、社長はUさんに懲戒解雇を通知し、懲戒解雇後もUさんを犯人扱いし続けました。Uさんは、詐欺の容疑者にされたことで、再就職もできない、孫にまで迷惑がかかると思い悩み、うつ病を発症して自死しました。

判決では、Uさんが犯行に関与していなかったと認められました。
そして、Uさんが一方的に解雇されたことによって極めて強い心理的負荷を受けてうつ病を発症して自死したことが認められ、葬儀社に賠償金の支払いが命じられました。

このように大変痛ましい事件ですが、ご遺族が地元の弁護士に相談するも上手く進めてもらえないということが2回続いたそうです。
その後、ご遺族が当弁護団にご相談してくださり、葬儀社を被告として損害賠償請求訴訟を提起し、勝訴判決を得ることができました。

自死が関わる事件は専門性が高いです。たとえば自死に至るまでの精神障害の発病については医学的な議論がありますし、精神障害を発病する原因が何かという点についても、多角的な検討が必要になります。そのため、自死に関する事件を取り扱った経験のある弁護士でなければ、どのように進めてよいかわからず、右往左往するということがあると思います。

ですから、別の弁護士に既に頼んでいる方でも、セカンドオピニオンを聞く目的等で当弁護団にご連絡くださっても結構です。 まずはお気軽にお問い合わせくださればと思います。

世界の自死遺族団体について・2

こんにちは、弁護士の細川です。

2025年3月3日の弁護士ブログで「世界の自死遺族団体について」というタイトルのコラムを書きました。

その後、世界の自死遺族団体とコンタクトをとるべく諸々アクセスしてみました。

その結果、アメリカのAlliance of Hopeというグループとコンタクトがとれました。

月に一度発行されるNewsletterを送ってもらっています。

Newsletter、本当は原文で読めるとよいのですが、翻訳機能を利用して読んでいます。

(いつかは原文で読めるようになりたいものです。)。

November 2025のnewsletterに「退役軍人自殺の危機への対処」というタイトルの記事がありました。

同記事によると、アメリカでは「2001年以来、15万5,000人以上の退役軍人が自殺で命を落とし、退役軍人省(VA)のケアを受けている人のうち2,400人を含む、毎年平均約6,500人が死亡している。」とのことです。

さらに、「退役軍人省は、2024年にメンタルヘルスケアに166億ドル、自殺予防に5億5,900万ドルを割り当てるという多大な取り組みを掲げているにもかかわらず、自殺を減らす取り組みの成功は限定的である。」とも言及されていました。

かなりの数の方が亡くなっていて、対策のために巨額の予算があてられています。

以前、「帰還兵はなぜ自殺するのか」という本を読んだことがあるのですが、2015年に発行されたものでした。

アメリカの帰還兵の自死問題は、なかなか根深いものだと感じた次第です。

インターネット・SNS等におけるいじめ

1 当弁護団でご相談やご依頼を受けている事件でも、また弁護団員が弁護団外で対応している事件でも、いじめのご相談を多く受けておりますが、最近はLINEやX(旧Twitter)、InstagramなどのインターネットやSNS等においていじめが行われているケースも多いです。
 特にLINEは現代では連絡手段としてもはや必須ともいえるツールであり、スマートフォンを持っている人であれば小中学生であってもよく利用しているため、そこでのトラブルは自然と多くなっています。

2 グループLINE内でのいじめの場合は、親や教員などに見られにくい空間であるため抑止が効きにくく、また簡単に一人対複数の関係が生まれやすい状況であるため、そもそもいじめが発生しやすい環境です。
 加えて、面白おかしくしたスタンプであれば直接言葉にするよりも罪悪感なく攻撃的な内容のメッセージを送ることができ、さらにそのスタンプに便乗して他の者も同様の内容を送信するなどによりエスカレートしていきやすいという特徴を持っていることから、いじめが重大化しやすいものです。
 さらに、このようなグループLINE内での悪口等からいじめに発展した場合、上記のような特徴だけでなく、教員においても、学校外で生じた事象であるとして積極的に関与しない(あるいは関与すべきでない)と考えている場合が多々あるという問題があり、その結果、いじめの発見の遅れや対応の不十分さなどを招いてしまうことも多いです。

3 先日(令和7年11月21日)、こども家庭庁と文部科学省の共管で設置された「いじめの重大化要因等の分析・検討会議」による分析及び議論の結果が取りまとめられた「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」が公表されました。
 その中の「いじめの重大化につながり得る要素・特徴」の項目においても、「インターネット・SNSにおけるいじめ」が挙げられており(45頁)、やはりインターネットやSNSではいじめが発生しやすいだけでなく、重大化しやすいことが明記されています。
  上記留意事項集では、実際のいじめ重大事態調査の報告書から読み取れた重大化のプロセスも記載されていますが、やはりSNS上のいじめは様々な要素からエスカレートしやすいこと等の特徴や学校が適切な対応を行わなかったことなどから、いじめが重大化したケースの存在が挙げられています。

4 インターネットやSNSにおけるいじめを発見した場合などには、上記のように重大化しやすく、また教員の対応も不十分になりやすいという問題があるという意識を持った上で、「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」の記載なども踏まえていじめ解消への対応に当たる必要があります。
 そして、いじめの解消のためには、言うまでもなく教員による調査や指導が不可欠です。したがって、学校外で生じた事象であることを理由に調査や指導等の対応を行わない教員に対しては、学校外で生じた事象(グループLINE内でのからかいや暴言等)がきっかけであったとしても、その事象により児童・生徒間の関係がこじれ、クラスや学校内でも人間関係等に問題が生じているのであれば、教員としてその解消等に努める必要があり、ましてやいじめが生じているのであればいじめ防止対策推進法等に沿った対応が必要となることを教員に理解してもらう必要があります。

 当弁護団の弁護士には、いじめによりお子様などが自死された事案に対応することはもちろんのこと、普段から学校や教育委員会などと関わっている弁護士もいるため、上記のような重要な点を学校現場に周知する取組みも引き続き行ってまいります。
 このような活動の中で蓄積されたノウハウ等が弁護団内には集積していますので、いじめによる自死等の際にはお気軽にご相談ください。
 なお、「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」には、その他にも「いじめの重大化を防ぐための対応」や「いじめの重大化につながり得る要素・特徴」などがまとめられていますので、いじめ問題への対応にあたってはご参照いただければと思います。

>> 解決までの流れ「子どもの自死(自殺)の場合」はこちら

弁護団で共同受任することの意味

 弁護団事件の場合、他の事務所の弁護士と共同受任することが少なくありません。

 弁護士が複数名関わることのメリットは、役割を分担・経験を共有しながら方針を決定してより良い解決につなげることが可能になるということです。

 他方、共同受任することのデメリットは何だろう、と少し考えたのですが、特に思い当たりませんでした。
  「弁護士費用が2人分かかるのでは?」という質問も時々寄せられますが、そのようなことはありません。その意味で、相談者・依頼者の立場からみても、複数受任体制にはメリットが大きいと思います。

 また、自死遺族支援弁護団に所属する弁護士の事務所は、いくつかの地域に点在していますから、依頼者と対面で打ち合わせをしたり、現地調査をしたりする場合は、地理的関係を踏まえて共同受任し、依頼者と距離の近いところで仕事をしている弁護士が対応することが可能です。

 ちなみに、事務所によっては、どんな事件でも、作成する文書には事務所所属の弁護士全員の名前を代理人として表示するようなところもあるようです。そのような文書を受け取った方が「こんなにたくさんの弁護士の名前が書かれていて、とても怖かった」「大変なことになった」等と、不安な気持ちを抱かれて相談にいらっしゃることもあります。
 しかし、一つの事件に対して常に全員が打ち合わせに参加するということは現実的にはあり得ず、実質的に関われるのはやはり2~3名でしょう。
 弁護士名が多く表示された文書が届いたからといって、殊更不安になる必要はないと思います。

 最後に、自死遺族支援弁護団では、過労自死の事件を代表として、複雑困難な事件については共同受任することを原則としています。相談する弁護士に迷っている場合、共同受任体制を組んでいるかどうかも一つの考慮要素とされるといいかもしれません。

子どもの自死について公正・公平な調査を進めるために

1 はじめに

 子どもの自死が発生した場合には、必ず「背景調査」を行われなければなりません(詳しくは、「子どもの自死(自殺)」)。
「背景調査」に関しては、文部科学省から「子どもの自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版)以下「指針」といいます。」(2014年7月改訂)が公表されており、この指針に基づいて実施されるべきです。

 また、いじめが背景に疑われる場合には、いじめ防止対策推進法の「重大事態」に該当するものとしていじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(2024年8月改訂)以下「ガイドライン」といいます。)に基づいた調査が実施されるべきです。
詳細調査は、学校又は学校の設置者(公立学校の場合は自治体の教育委員会、私立の場合は法人)の主導で行うことになります。

 しかし、学校や学校の設置者といえども、その責任を追及される恐れがあるため、必ずしも公平・公正に調査が行われているとは限らず、実際には、この指針やガイドラインに即した調査がなされていない相談が多く寄せられています。

 そこで、以下では、公正・公平な調査を進めるために、ご遺族に知っておいていただきたいことを解説します。

2 「基本調査」「詳細調査」の実施を要望する

 子どもの自死が発生した場合には、全件、数日以内に「基本調査」を行わなければなりません。この「基本調査」は、迅速性が要求されることから、学校が調査を実施していくことが想定されています。

 また基本調査を実施後に、学校生活に関する要素が背景に疑われる場合や遺族の要望がある場合などには「詳細調査」に移行する必要があります。

 ところが、この「基本調査」すら学校で実施されたかどうか分からない、詳細調査に移行してくれない、という相談も寄せられています。

 そこで、子どもの自死が発生した場合に、遺族としては、速やかに学校に対して基本調査が実施されたのか確認を求め、実施されていないのであれば「基本調査」を行うように要望しましょう。また、「詳細調査」も遺族の要望があれば実施する必要がありますので、「詳細調査」を希望する場合には、明確に学校や学校の設置者である教育委員会に求めましょう。

3 「第三者」による詳細調査を要望する

 「基本調査」は学校が主体となることが想定されています。
これに対して、「詳細調査」は、弁護士や、精神科医、学識経験者、心理や福祉の専門家等の専門的知識を有する者で、「当該いじめ事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)」による調査組織を構成し、調査を進めていく必要があります。

 また、指針にも「自殺が起こってしまった後、学校は様々な対応が必要となることから、特に公立学校における調査の主体は、特別の事情がない限り、学校ではなく、学校の設置者とする」ということが記載されています。

 いじめ自死事案の調査を進めるにあたって、基本的に、学校関係者は、実際にいじめを認識していたのか、学校生活において子どもに様子の変化はなかったのかなどを「調査される側」であって、「調査を行う側」ではありません。

 にもかかわらず、「詳細調査」が学校関係者のみで行われていたり、あるいは学校関係者が中心となって進められているような場合には、いじめの事実や当該児童がいじめを悩んでいた事実などの学校に都合の悪い事実を十分に調査せずに、公正な調査がされない恐れがあります。

 このような調査が進められている場合には、当弁護団までご相談をお寄せください。

4 調査してもらいたい内容を要望する

 第三者の調査委員が選任されれば、本格的に調査が開始されます。しかし、第三者の調査委員は、亡くなった子どものことも当該事案のことも知らない状態で調査を開始することになります。調査委員の中で、必要な情報の収集を進めていきますが、遺族しか知らない情報もあるため、そのような情報は積極的に提供していくことが必要です。

 また、遺族から調査してもらいたい内容、聴き取りをしてもらいたい生徒、先生がいる場合には積極的に申し出ていくことが必要となります。

5 調査計画や調査の進捗を確認する

 当弁護団には、調査委員会が立ち上がり、調査が開始されたものの、その後長期間、報告もなく、どうなっているのか分からない、といった相談も寄せられています。

 「詳細調査」は、多くの情報を整理し、多くの関係者に聴き取りを行うため、調査報告書が完成するまで、非常に時間がかかります。

 しかし、子どもの同級生が卒業を間近に控えていたり、受験生となり聴き取りが難しくなるなどの事情がある場合には、調査の優先順位を検討し、計画的に子どもに対して聴き取りを実施していくことが重要となっていきます。

 仮に同級生が卒業してしまうと、時間の経過とともに記憶が薄れていくだけでなく、聞き取り調査のために連絡を取ることも困難となります。また、あくまで聴き取り調査は任意なので、新しい生活環境になってトラブルに巻き込まれたくないという思いから調査に協力してもらうことが困難ということも少なくありません。

 したがって、可能な限り迅速に計画的に調査を進めていくことが重要となります。

 また、調査委員会が定期的に開催されているため、調査委員会で何が行われたのか、どのようなことが検討されているのか、という進捗確認を行っていくことも重要です。指針にも「調査期間が長期に及ぶ場合には、・・保護者にも中間報告が必要である」ということが記載されていますので、進捗が気になる場合には報告を求めるようにしましょう。

6 終わりに

 子どもを突然失ったご遺族は、大きなショック、悲しみ、動揺などのために、どうすればよいのか分からず、全てを学校や教育委員会に委ねてしまうことも少なくありません。

 しかし、残念ながら、現状では必ずしも背景調査は、指針やガイドラインに基づいて実施されていないものもあります。

 ここでの調査は、その後の災害共済給付の請求手続きや損害賠償請求の際にも重要な資料となりますので、適切な調査を進めていくことが必要となります。

 子どもの自死が発生してどうしたらよいか分からない、調査がきちんと進んでいるのか確認したいなど少しでも気になることがあれば、当弁護団にお気軽にご相談をお寄せください。

>> 解決までの流れ「子どもの自死(自殺)の場合」はこちら

AIと自死の問題

 2025年1月6日に「SNSの影響と自死」という記事を書きました。それに関連し、今回の記事では、生成AIの活用と自死について法的観点から考察してみたいと思います。

 近年、AI(人工知能)は、私たちの生活に深く入り込んでいます。チャットボットや生成AI、SNS上の自動応答サービスなどを通じて、悩みや孤独を抱えた人がAIに相談することも増えてきました。

 実際、「気軽に相談できる相手」として「対話型AI」と答えた人が87%に上り、親友(約50%)や母親(約45%)を大きく上回ったという調査結果もあります(株式会社Awarefy「対話型生成AIの使用に関するアンケート調査」参照)。

 一方で、「AIとのやり取りが自死につながったのではないか」ということが、海外では現実の問題として提起されています。

1 米国での動き

 2025年8月、米カリフォルニア州で16歳の少年が自死した事件をめぐり、両親がOpenAIを提訴しました。訴状では、ChatGPTが自殺方法の助言や遺書作成を支援し、死を肯定するような応答をしたと主張されています(2025年8月26日付 Reuters報道参照)。

 また、フロリダ州で14歳の少年が自死した事件については、母親が対話型AI「Character.AI」の運営企業を提訴しました。報道によれば、少年は特定のAIキャラクターとのやり取りに強く依存し、現実との境界が曖昧になり、自死の決断を後押しされたと原告は主張しています。原告は、運営企業が未成年者の利用リスクを軽視し、安全設計や注意義務を怠ったと訴えています(2025年2月7日付 AP News報道参照)。

 こうした事例を受け、米国ではAI規制の動きがあります。カリフォルニア州では、AIが自らをAIであると明示することを義務づける法案が可決されたという報道がありました(The Verge,2024年10月報道参照)。

 また、未成年者による利用に関しては、自殺リスクを検知し専門機関につなぐ仕組みが必要との議論が進んでおり、企業側もペアレンタルコントロールや危機応答機能の導入を発表しています(Washington Post,2025年9月2日報道)。

 さらに、全米44州の検事総長が連名で「AIが子どもに害を与えた場合には法的責任を問う」とAI企業に警告しました(New York Post,2025年8月報道)。

2 日本への示唆

 日本でも、生成AIが急速に普及する中で、若年者がAIを相談相手としたり、強く依存したりする事例が増える可能性があります。しかし現時点では、AIの応答内容に関する安全基準や責任の所在は明確ではなく、万一、AIとの対話が自死など人の生命身体にかかわる重大な結果に結びついた可能性があるケースの場合、法的観点からは、企業側の注意義務違反の内容や、サービスと結果との間の因果関係など様々な課題があります。

 日本でも子どもの自死が深刻化している現状を踏まえると、未成年者が安心して生成AIを利用できるよう、危険検知機能や自殺予防機能といった事前の対策に関する議論が求められます。他方で、ご遺族支援における法的観点からは、これまでと同様に、自死の背景にあった人間関係、労働問題、金銭問題といった事実関係を深く調査、検討することが求められることに変わりないものと考えています。

相続人が行方不明の場合の遺産の分割

 相続人の一人が行方不明で困っている、とご相談を受けることがあります。警察庁によると、令和6年の行方不明者数(警察に行方不明者届がだされた者の延べ人数)は、8万2563人もいます。

 ご親族が亡くなり、法律で決められた相続人が複数いて遺言がなかった場合、遺産分割をしますが、遺産分割は、法定相続人の全員の話し合いによって行います。法定相続人の内のどなたかが行方不明の場合、どうしたらいいでしょうか。

1 まずは、戸籍の附票をたどって、行方不明の方の今の住所を調べます。戸籍の附票は、新しく戸籍を作った時以降の住民票の移り変わりを記録したもので、本籍地の市区町村で取ることができます。

住民票上の住所に住んでいればよいのですが、住民票上の住所にいなくて行方不明のことがあります。住民票上の住所に実際に住んでいないと、市区町村長によって、住民票が職権で消除されることもあります。

2 次に、不在者財産管理人(民法25条1項)を選任するという方法があります。裁判所に申立をして選任してもらうと、不在者財産管理人が、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の許可をもらった上で、不在者に代わって遺産分割をすることができます。

 ただ、不在者に十分な財産がない場合は、家庭裁判所から申立時に予納金を納めるよう求められ、数十万円かかります。また、申立資料の準備、選任には時間がかかります。

3 行方不明の方の最後の住所を住所地とした上で、家庭裁判所に遺産分割審判の申し立てをし、公示送達をしてもらう、という方法もあります。

 公示送達とは、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に提示する方法で行われます(民事訴訟法111条1項本文)。裁判所に行くと、裁判所の入口付近にガラス張りの掲示ケースがありますが、その中の掲示板に掲示されています。

 提示を始めた日から2週間が経過すると、相手に対して送達したものとみなす公示送達の効力が生じます(民事訴訟法112条1項本文)。

 公示送達で送達した場合の審判は、行方不明の相続人の法定相続分は、行方不明の相続人に遺す審判結果となります。

4 行方不明の相続人について、失踪宣告(民法30条)を家庭裁判所に申し立てるという手段も考えられます。震災など、死亡原因となりえる危難に遭った人は、危難が去ってから1年間経過しても生死が明らかでない場合(2項)、特別失踪として危難が去った時(民法31条)、生死不明が7年間明らかでない場合(1項)は、7年間経過した時(民法31条)、死亡したものとみなされます。行方不明の相続人は死亡したものとみなされるので、法定相続分を遺しておく必要はありません。

 ただ、実際上失踪宣告が認められるのは、亡くなったことをある程度証拠で示す必要があるようです。

 このように、法定相続人の内のどなたかが行方不明の場合も遺産分割をする方法はあります。迷ったらご相談ください。

最初に何から考えたらいいのか

「どうしたらいいの?」という疑問に対する回答が載せられていますが、ここでは、亡くなられた直後の大まかな流れを説明いたします。

ステップ0:ご自身の心と体を守る

手続きの話の前に、ご自身の心と体の健康が何よりも一番大切なことです。

  • 一人で抱え込まないでください。
     信頼できる親族や友人、あるいは専門の支援団体に、今のお気持ちを話してください。言葉にするだけで、少し楽になるかもしれません。
  • ご自身を責めすぎないでください。
     「あの時こうしていれば」という後悔の念に苛まれるかもしれません。
  • 無理せず、休息をとってください。
    しんどくなったときは、無理に動こうとせず、少しでも心と体を休ませることを優先してください。

ステップ1:直後の手続き

警察の検視・事情聴取

 自死の場合、警察がご遺体を引き取って、検視が行われます。また、警察から自死された方の生活状況などを聞かれる場合があります辛い時間だとは思いますが、聞かれた事実にのみ、落ち着いて答えるように心がけましょう。

 警察から鉄道会社にご遺族の連絡先を伝えてよいかと確認を求められることがあります。鉄道会社から損害賠償請求を受ける可能性があり、ご遺族の情報を鉄道会社に伝えることは控えた方がよいでしょう。少なくともその場で決断せず、弁護士にご相談ください。

死体検案書(死亡診断書)の受け取り

 警察から死体検案書を受け取ります。今後のあらゆる手続きで必要になるため、5通ほどコピーを取っておきましょう。

死亡届の届け出

 死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡者の死亡地、死亡者の本籍地または届出人の住所地の市区町村役場に提出します。このとき、死体検案書が必要です。死亡届を届出することにより「火葬許可証」を受領できます。

ステップ2:プラスの財産とマイナスの財産を把握する

プラスの財産:預金通帳、不動産の権利証、有価証券、生命保険証書などを探します。

 自死された方のスマホが開けられる場合には、メールなどをチェックして、インターネット口座やデジタル資産(暗号通貨)などがないかお調べください。

 現在所有している財産だけでなく、過労や職場のパワーハラスメントにより精神疾患を発病してしまった可能性、いじめの加害者に対する損害賠償請求の可能性などこれから請求する権利についても考慮する必要があります。

マイナスの財産:消費者金融のカードや契約書、住宅ローン残高の通知書、そして「損害賠償請求される可能性」がないかを調べます。

 自宅に届いている請求書などから債務がわかることがあります。信用情報機関であるCICやJICCに自死された方の信用情報の開示を求めることで消費者金融での借り入れやクレジットカードの滞納などが判明する場合もあります。

 住宅ローンについては、団体信用生命保険(団信)に加入していれば、返済が免除される可能性がありますので確認しましょう。

損害賠償請求を受ける可能性について

  • 鉄道自死の場合
    鉄道会社から、損害賠償を請求される可能性があります。請求内容は、振替輸送費、人件費、車両の修理費などであり、高額になる場合もあります。自死された方が精神的な理由で責任能力がなかったと判断され、損害賠償義務を負わない場合やご遺族の状況なども考慮された結果、減額できる場合もあります。そのため、請求書が届いても、すぐに支払いに応じず、弁護士に相談してください。
  • 賃貸物件で亡くなられた場合
    大家さんや管理会社から、原状回復の費用と「次の借り手が見つからない期間の家賃(逸失利益)を請求される可能性があります。その内容によっては、ご遺族が負担すべきでない費用も含まれている可能性があります。大家さん側の請求があってもすぐに支払いに応じず、弁護士に相談してください。

ステップ3:プラスとマイナス、どちらが多いか

①:(損害賠償請求できる可能性を考慮しても)明らかにマイナスの財産が多い場合

 相続放棄を検討します。相続放棄をすれば、プラスの財産もマイナスの財産も相続しません。被相続人の死亡(相続開始)を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。

 ここで注意すべき点は、自死された方の財産を一切処分しないことです。相続放棄ができなくなる可能性のある行為(例)故人の預貯金を引き出して使う。故人の借金や損害賠償金を、故人の財産から支払う。故人の車や家などを売却したり、自分の名義に変更したりする。ただし、葬儀費用として使った場合には単純承認にはならず、相続放棄できますので領収書は必ず取っておきましょう。

 これらの行為をしてしまったけれども、相続放棄したいという場合にも、ご事情を弁護士に相談してください。

②:3ヶ月で判断できない場合

 ご遺族が死亡した事実を知ってから3ヶ月で相続放棄の判断ができないことは少なくありません。そのような場合には、「相続の熟慮期間の伸長」という手続きがあります。これは、3ヶ月の期限が来る前に家庭裁判所に申立てをすることで、相続をどうするか考える期間を延ばしてもらう制度です。

 財産状況を整理してから、相続するか放棄するかを判断しましょう。

③:(損害賠償請求される可能性を考慮しても)明らかにプラスの財産が多い場合

 単純承認を検討します。何か特別な手続きは必要なく、遺産分割協議など相続手続き行います。

まとめ

 上記の判断をご遺族だけで行うのは、難しいと思います。特に損害賠償請求の妥当性の判断や、相続放棄すべきか、あるいは期間伸長の申立てをするべきかの決断は、法的知識でのアドバイスが必要です。

 あなた一人ですべてを背負う必要はありません。迷われたらぜひご相談ください。

「給付基礎日額」~おかしい、怪しいと思ったら・・・

 過労死、過労自死が認定された際、労災補償額のベースとなるのが、被災者の被災前の賃金額に基づき計算される「給付基礎日額」です。

 この、被災前の賃金額には未払の残業代も含まれます。 そうであるにもかかわらず、労基署は未払の残業代の存在を無視した過少な給付基礎日額認定を行いがちなことは、当ブログの松森弁護士の記事「労災が認定されたら、給付基礎日額が正しいか要確認です」においても取り上げている通りです。

 そもそも、長時間残業による過労死・過労自死を出すような使用者が、事実の通りの労働時間に基づいて、適法に残業代を支払っているケースの方が稀です。莫大な残業代を支払わなければならなくなるからです。

 残業代をごまかす手法は大きく分けて

①本当の労働時間記録を残さない

②違法な賃金体系で残業代をごまかす

の2つです。この①、②を組み合わせている場合もあります。

①本当の労働時間記録を残さない

 この方法につき、ただ単に記録をつけず、労基署の労働時間聴取に対し使用者が口だけで過少な労働時間を述べる、という古典的なパターンもあります。

 しかし、近年の労働時間規制の厳格化に伴い、使用者があらかじめ計画的に虚偽の過少な労働時間記録を用意する、事実に基づく労働時間の証明を妨げる、との悪質な事案に接する機会が増えました。

 日々の労働時間記録(タイムカード、日報など)につき、事実に反する過少な労働時間、存在しない長時間の休憩を記録するよう命じて作成させておく、労働者の監視のために労働時間記録は行なうが労働時間記録の持ち出しや謄写をしたら罰金であるとして労働者の利用を妨げる等の手法です。

②違法な賃金体系

 代表的なものは、

(1)管理監督者だから残業代払わなくてよい

(2)固定残業給だから払った給料に残業代が含まれている

(3)歩合給だから残業代はほとんど発生しない、

というものです。

 しかし、これらの賃金体系はいずれも、労基法上の通常の残業代支払方法の例外として、厳格な要件を満たさなければ許容されません。

 長時間労働による過労死や過労自死が発生するような働かせ方で、例外的な支払い方法が適法とされる場合の方が稀です。

 長時間働いていたのに、残業代の支払いがなかったり、少なすぎておかしいと感じるような実態にあった場合、労働時間のごまかしや、違法な賃金体系が隠れていることが多いです。

 労災が認定された場合でも労基署計算の給付基礎日額は鵜呑みにせず、専門家と共に検討することをお勧めします。