労災保険審査請求と個人情報開示請求について

 労働者が過労自殺(自死)で亡くなった場合、遺族が取りうる法的手続きとして、国に対する労災の請求と、企業などに対する損害賠償の請求があることは、「遺族が自死遺族が直面する法律問題-過労自殺(自死)-」で述べているとおりです。

 労災請求の結果、労働者に生じた死亡が業務に関係ない「業務外」のものと判断(「業務上の事由によるものとは認められません」という理由で不支給決定通知)を労働基準監督署長がした場合、遺族としては、労災保険による補償を受けられません。
 仕事のストレスなど業務上の心理的負荷が原因で自死したとしか考えられないにもかかわらず、このような判断が出された場合、遺族としては当然、納得できませんので、この決定に不服があるとして、その決定を行った労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求をすることができます。
 この審査請求は、労災保険給付の決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行う必要があります。
 審査請求書は、厚労省ホームページからダウンロードできます。

労災保険審査請求制度 (mhlw.go.jp)

 審査請求と併行して、遺族は、どうして労働基準監督署長が不支給決定をおこなったのかについて確認するため、保有個人情報開示請求(各労働局ホームページから保有個人情報開示請求書をダウンロード可)を、その決定を行った労働基準監督署長を管轄する都道府労働局総務部総務課に郵送します(あて先は、「○○労働局長」とします)。

 同請求書の「開示を請求する保有個人情報」欄には、例えば

「開示請求者(※遺族)が〇〇(〇年〇月〇日生)の自殺に関して〇〇労働基準監督署長に対してなした遺族補償給付等の請求(令和〇年〇月〇日不支給決定)に関して作成された業務上外の判断にかかる調査復命書並びにその添付書類一式
所轄労働基準監督署 〇〇労働基準監督署」

 この保有個人情報請求の結果、労働局から、調査復命書(精神障害の業務起因性判断のための調査復命書)や添付書類が開示されたら、そこに記載されている調査結果、専門医の意見、聴取書などが事実と食い違わないかを分析し、次の再審査請求や企業などに対する損害賠償の請求訴訟の証拠として戦う準備をします。
 保有個人情報請求手続きにより入手した開示書類のうち、聴取書及び聴取事項記録書は、請求人(遺族)のものを除き、墨塗りの状態で開示されることになりますが、労災請求の際、故人と親しかった同僚など遺族からの聞き取りに応じてくれた方について、遺族による開示請求について同意を得られるのであれば、労働者災害補償保険審査官に対し、労働保険審査会法第16条の3第1項に基づいて、聴取書及び聴取事項記録書についての閲覧及び写しの交付等を請求できます。審査官は、第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき、その他正当な理由があるときでなければ、その閲覧又は交付を拒むことができないと法律で定められています。

>>遺族が自死遺族が直面する法律問題「過労自殺(自死)」

いじめ自死の裁判の難しさそれでも戦う

 学校でのいじめにより自死した児童・生徒の報道は枚挙にいとまがありませんが、現在の裁判は、いじめ被害者に対して厳しい判断枠組みを採用しており、「教員が当該児童・生徒が自死することを具体的に予見することが可能であった」という事情を要求する裁判例がほとんどです。

 しかし、そうではない裁判例もあります。高校3年生の生徒がいじめ自死した事案で、福岡地方裁判所令和3年1月22日判決(平成28年(ワ)第3250号)は、「特に、遅くともいじめ防止対策推進法が成立・公布された平成25年6月28日頃において、学校内における生徒間のいじめによって、被害生徒が自殺するに至る事案が存在することは、各種報道等によって世間一般に相当程度周知されていたといえるところ、現に学校教育に携わる専門家である被告及び本高校教員らとしては、同法成立以前においても、生徒間におけるいじめが自殺という重大な結果に結びつき得ることを、当然に認識していたはずである。そして、被告及び本高校教員らには、生徒の生命・身体を保護するための具体的な義務として、特定の生徒に対するいじめの兆候を発見し、又はいじめの存在を予見し得た時には、教員同士や保護者と連携しながら、関係生徒への事情聴取、観察等を行って事案の全体像を把握した上、いじめの増長を予防すべく、本生徒に対する心理的なケアや加害生徒らに対する指導等の適切な措置を取る義務があるものと解される。なお、このような義務に違反する作為ないし不作為は、在学契約に基づく付随的義務としての安全配慮義務違反として債務不履行を構成するのみならず、生徒の生命、身体に対する侵害として不法行為をも構成するというべきである。」と判示した後、教員らの義務違反を認定した上で、「被告は、本高校教員らが、本生徒に対するいじめと評価するに足りる具体的な事実関係を把握しておらず、その契機もなかったから、いじめないし本件自死の予見可能性やそれを前提とする義務違反は認め得ない旨主張するが、甲教諭及び乙教諭において、いじめの端緒を認識していたと認められることは前記とおりであるから、被告の主張は採用できない。」と判示しています。

 この福岡地裁の判断は、従来の自死の具体的予見可能性が必要とする裁判例とは見解を異にする判断枠組みです。いじめを認識したのであれば、対応すべき義務があり、自死の具体的な予見可能性まで要求しないという内容です。 このように、心ある裁判官が従来からの被害児童・生徒への厳しすぎる判断枠組みに異を唱えて画期的な判決理由を記載してくれることがありますから、我々は諦めずに何度も戦いを挑んで、現状の裁判所のおかしな考えを改めてもらいたいと思っています。

>>遺族が直面する法律問題 -学校でのいじめ-

「不適切指導」について

令和4年12月に生徒指導提要が改訂されました。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1404008_00001.htm

生徒指導提要とは、小学校段階から高等学校段階までの生徒指導の理論・考え方や実際の指導方法等について、時代の変化に即して網羅的にまとめ、生徒指導の実践に際し教職員間や学校間で共通理解を図り、組織的・体系的な取組を進めることができるよう、生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書として作成されたものです(文科省のHPより)。

改訂された生徒指導提要では、いじめや「自殺」について各々1章割かれていることも気になるのですが、私が一番気になっているのは、第3章「チーム学校による生徒指導体制」の中の3.6.2「懲戒と体罰、不適切な指導」です。

懲戒や体罰の内容は以前から比較的明らかでしたが、この改訂された生徒指導提要では、部活動における不適切な指導について論じられています。そして、不適切指導の例として、

  • 大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で指導する。
  • 児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。
  • 組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。
  • 殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。
  • 児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。
  • 他の児童生徒に連帯責任を負わせることで、本人に必要以上の負担感や罪悪感を与える指導を行う。
  • 指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。

が挙げられています。

この不適切指導に関しては、生徒指導提要の中で「教職員による不適切な指導等が不登校や自殺のきっかけになる場合もあることから、体罰や不適切な言動等が、部活動を含めた学校生活全体において、いかなる児童生徒に対しても決して許されないことに留意する必要があります」とあります。

実際に私が担当した事案でも、部活に関するものではありませんが、教職員による不適切な指導等が自死のきっかけと思われるものもありました。不適切指導は、学校生活全体で配慮されるべきものでしょう。

ところで、高校生以上の自死の場合、生徒・学生が、いじめ、体罰その他の生徒・学生の責めに帰することができない事由により生じた強い心理的な負担により死亡したときは、スポーツ振興センターから死亡見舞金が給付されることになっています(スポーツ振興センター法施行令3条7号)。

そして、生徒・学生の責めに帰することができない事由の内容については、スポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程で、教員による暴言等「不適切な指導」又はハラスメント行為等教育上必要な配慮を欠いた行為を含むものとされています。

生徒指導提要の「不適切指導」とスポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程の「不適切指導」。両者の関係がどのようになるのか、なんらかの形で判断が出されることが望まれます。

労災認定と民事上の損害賠償

私が当弁護団で担当している自死事件について、先日無事労災認定がなされました。

もっとも、我々弁護団の仕事は労災認定により終了するわけではありません。

多くの方々は、労災認定がなされるとそれにより遺族補償給付等として十分な補償が得られたものと考えてしまいます。

しかし、2022年8月1日付の当弁護団ブログ(作成者:松森美穂弁護士)にも記載のあるとおり、本来、遺族補償給付等の金額は、現実に既に支払われている賃金だけではなく実際に支払われていない未払いの残業代金等を含めた給付基礎日額より算出すべきであるところ、実際には、現実に既に支払われている賃金しか考慮されずに給付基礎日額が決定されていることも少なくありません。

また、労災は、あくまでも国の基準に基づき支払われる保険給付であり、いわば最低限の補償にすぎないため、しっかりと損害を賠償してもらう場合には、会社に対して民事上の損害賠償請求を行う必要があります。

遺族補償給付等と民事上の損害賠償のもっとも大きな違いは、死亡慰謝料が支払われるか否かという点にあります。

遺族補償給付等の場合、死亡慰謝料は含まれておりません。もっとも、民事上の損害賠償請求を行った場合、死亡慰謝料が支払われることが通常であり、その金額の相場は、一家の支柱の方であれば2800万円、それ以外の方々であっても2000万円〜2500万円にものぼります(但し、過失相殺等がなされる可能性もありますので、必ず当該金額が支払われるというわけではありません。)。

民事上の損害賠償請求をご自身で行うことは難しいと思います。

民事上の損害賠償請求をしたいがどうしたら良いか分からない等お困りの方がいらっしゃれば、お気軽に当弁護団にご相談ください。

>>自死遺族が直面する法律問題 -過労自殺(自死)-
>>解決までの流れ 過労自殺(自死)の場合 -損害賠償-

精神医療に関する最高裁判決

 2023年1月27日、最高裁判所は、精神科病院に入院中の患者が無断離院して自死した事案につき、遺族の損害賠償請求を棄却する旨の判断を示しました。
 この事案の原審(高松高等裁判所)は、病院側に説明義務違反があったとする遺族の主張を認め、損害賠償請求を一部認容する旨の判断をしていました。
 判断が分かれたのは、この事案において「無断離院の防止策を講じている他の病院と比較した上で入院する病院を選択する機会を保障する必要性」があったか否かという点です。最高裁判所はこれを否定し、高松高等裁判所はこれを肯定しました。

 また、2019年3月12日、最高裁判所は、精神科に通院中の患者が自死した事案につき、遺族の損害賠償請求を一部認容した東京高等裁判所の判決を破棄して、遺族の損害賠償請求を全て棄却する旨の判断をしています。
 判断が分かれたのは、この事案において「本件患者が自死することについての予見可能性」があったか否かという点です。最高裁判所はこれを否定し、東京高等裁判所はこれを肯定しました。

 ところで、令和3年度の司法統計によれば、医療行為による損害賠償請求訴訟の認容率(訴訟提起後、判決に至った事案のうち患者側の請求が認められる割合)は約20.1%とのことです。これは、医療行為による損害賠償請求訴訟を含む金銭を目的とする訴え全体の認容率が約77.1%であることと比較して著しく低い数字であることは一目瞭然です。

 そのため、精神科医療に関連する事案については、これら最高裁判例で示されたような考え方も念頭に置きながら、慎重に検討する必要があると考えています。

>>遺族が直面する法律問題「医療過誤」

裁量労働制の濫用に要注意です

厚生労働省は、2022年7月15日に、「これからの労働時間制度に関する検討会」での議論をとりまとめた報告書を公表し、裁量労働制の適用対象を拡大に向けて現在、労働政策審議会において議論が続いています。

本来、労働時間は1週間40時間、1日8時間が原則であり(労働基準法32条)、例外的に一定の要件を満たすとその労働時間の枠を超えて働くことが許されますが、割増賃金(残業代)の支払が義務づけられています(労基法37条)。

これに対して、裁量労働制とは、業務遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、実際に労働した時間数ではなく、労使協定または労使委員会の決議で定めた時間数だけ労働したものとみなす労働時間の算定制度であり、割増賃金も支払われません。

①システムエンジニア、デザイナー、記者、建築士など一定の専門業務を対象とする場合は「専門業務型裁量労働制」、②「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」につき「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」を対象とする場合である「企画業務型裁量労働制」があります。

厚生労働省は、2021年6月25日に「裁量労働制実態調査結果」を公表しましたが、特に注目すべきは、過労死ラインを確実に上回るといえる労働者の割合が、裁量労働制の非適用労働者が4.6%であるのに対して、適用労働者は8.4%ということです。裁量労働制の適用労働者の約1割が過労死ラインを超える長時間労働を行っていることが分かりました。

また、裁量労働制の適用労働者に対する調査において、専門業務型の40.1%、企画業務型の27.4%の労働者がみなし労働時間が何時間に設定されているのか「分からない」と回答しています。

そして「みなし労働時間」は1日平均7時間38分でしたが、実労働時間は平均9時間であったことも分かりました。つまり、実際の労働時間よりも短い「みなし労働時間」が定められ、それを認識していない労働者が少なくない実態が明らかとされました。

労働時間規制は、労働者の生命と健康を確保するために不可欠です。

労働時間規制の例外である裁量労働制の対象業務が安易に拡大され、裁量労働制が違法に悪用・濫用されれば、労働者はますます危険にさらされてしまいます。

今後も、労働者が違法な裁量労働制のもとで働かされていないかどうかを厳しく確認していく必要があります。

パパの育休取得とハラスメント

 出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにすることを目指して、2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年から段階的に施行されています。改正内容の一つとして、2022年10月1日から、産後パパ育休(出生時育児休業)が創設されました。

 産後パパ育休制度とは、現行の育児休業制度とは別に、子の出生後8週間以内に4週間まで取得が可能となる制度です。育児休業では、原則として1か月前までに労働者が申し出を行う必要がありますが、今回新設された産後パパ育休では、一部例外を除き、2週間前までの申し出が認められます。また、産後パパ育休は、2回に分割して取得することができます。さらに、産後パパ育休では、労使協定を締結しており、労働者側から育児休業期間にも就労する旨の申し出が事業主側に対してなされた場合に限って、労働者と事業主の合意した範囲内で、事前に調整した上で休業中に就業することが可能となります。

 今回の育児介護休業法改正の背景には、男性の育児休暇取得率の低さがありました。

 厚生労働省の報告によると、女性の育児休暇取得率は、過去10年以上8割台で推移しているのに対し、男性の育児休暇取得率は、上昇傾向にあるものの1割前後にとどまっていました。

 また、過去5年間に勤務先で育児に関わる制度を利用しようとした男性労働者の中で、企業における育児休業等に関するハラスメントを受けたと回答した者の割合は26.2%に上りました。

 このように、主に男性労働者が、育児のために育児休業、時短勤務などの制度利用を希望したこと、これらの制度を利用したことを理由として、同僚や上司等から嫌がらせなどを受け就業環境を害されることは、「パタニティハラスメント」ないし「パタハラ」という用語で社会的に注目されています。パタニティハラスメントは、女性に対するマタニティハラスメントと並んで、職場における育児介護休業等に関するハラスメントとされており、育児休業の取得を希望して解雇その他の不利益な取り扱いを示唆されたり、制度の利用を阻害されたり、制度を利用したことによる嫌がらせを受けるような場合には、これに該当し得るものといえます。

そして、決して無視することができないのが、パタニティハラスメントの心身への影響です。厚生労働省の報告によると、男性労働者がパタニティハラスメントを受けて心身にどのような影響があったかという問いに対し、「怒りや不満、不安などを感じた」が65.6%と最も多く、次いで「仕事に対する意欲が減退した」が53.4%と高かったのに加えて、「職場でのコミュニケーションが減った」(34.4%)、「会社を休むことが増えた」(16.0%)、「眠れなくなった」(15.3%)、「通院したり服薬をした」(6.9%)といったメンタルヘルスの不調も見逃すことができないものとなっています。

 産後パパ育休制度の創設もあって、パパの育児休暇取得に対する理解は深まりつつあるといえますが、子を持つママだけでなく、パパの仕事と育児にまつわるメンタルヘルスにも十分の配慮していく必要があるといえます。

学校でのネットいじめへの対応

1 学校でのネットいじめとのかかわり

 私は、インターネット上の誹謗中傷事案を取り扱っていますが、近年、学校でのネットいじめ事案の相談を受けることが多くなりました。

 学校でのネットいじめ事案においては、一般的なインターネット上の誹謗中傷事案で求められる手法(プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求等)だけでは十分な解決には至らないこともあり、特殊な領域としての対応が求められることになります。

2 学校でのネットいじめの具体例

⑴ 使用されるアプリ

 かつてはネット掲示板(学校裏サイトなど)がネットいじめの温床とされていましたが、今日はSNSが利用される可能性が圧倒的に高くなっています。SNSの中でこどもの利用頻度が高いのはTwitter、LINE、高校生はInstagramやTicTokなどを使っていることもあります。また、オンラインゲーム(フォートナイト、荒野行動など)のボイスチャット機能などを用いていじめが行われることがあります。 

⑵ ネットいじめ行為の類型

 ネットいじめ行為の類型は、使用するアプリの機能に応じて多様に変化しています。典型的なパターンとしては、①SNSでなりすましアカウントを作られた②SNSで虚偽の情報やプライバシー情報を拡散された、③自分の写真、動画を勝手に加工され、SNSで拡散された、④LINEなどのグループトークを外された、⑤いじめられているところを動画撮影され、動画投稿サイト等に拡散された、⑥SNSで過去の交際時の画像を拡散された(リベンジポルノ)、⑦オンラインゲームで、グループから外された特定のこどもへの集中攻撃が繰り返されたなどが考えられますが、今後も新しいアプリが開発されるたびに新しいパターンのいじめ行為が現れると予想されます。

3 学校でのネットいじめの現状

⑴ 統計上も過去最多

 文部科学省は、全国のいじめ事件の統計を取っており、毎年、調査結果の公表を行っています。2021年10月13日に公表された、「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、ネットいじめの件数は1万8870件で過去最多(平成29年度1万2632件、平成30年度1万6334件、令和元年度1万7924件。)となっています。学校が把握していないネットいじめも多数あると思われ、潜在的な件数はもっと多いことが予想されます。

 また、小中学校における不登校の件数も過去最多(19万6127件。)、小中高等学校におけるこどもの自殺も過去最多(415件。なお前年度は317件。)となっています。学校現場が現在非常に危険な状態となっていることが統計上も明らかとなっています。

⑵ 近時の学校でのネットいじめの特徴

 小学生でもスマホを持ちSNSを使うことが珍しくなくなった現在では、ネットいじめの特徴も変化が見られます。SNSを利用する場合、コミュニケーションの相手はクラスや友人などであり、多くの場合、現実に存在する人間関係を補完するツールとしてSNSが用いられています。その意味で、現在のネットいじめは掲示板などで見知らぬ人から攻撃されるようなパターンよりも、現実に存在する人間関係を前提に、ネット上でいじめ行為が行われるパターンの割合が増えています。つまり、ネットいじめの存在が確認できた場合、いじめ行為はネット上にとどまらず、クラスや部活動などリアルな人間関係の中にも広がっている可能性を疑う必要があります。

4 学校でのネットいじめへの対処法

 ネットいじめの多くがリアルな人間関係を前提としている以上、2つのアプローチを併用する必要があります。具体的には、第三者委員会の設置など学校や教育委員会を通じていじめの実態解明を行うアプローチと、発信者情報開示請求等のネット上のいじめの痕跡をもとに証拠収集を行うアプローチです(なお、小学生が当事者となっている事案では、刑事責任能力との関係で刑事事件として解決することが困難なものが多いです)。

5 プロバイダ責任制限法改正

 SNSなどで匿名の者から誹謗中傷を受けた際、被害回復を図るため、加害者を特定することを「発信者情報開示」といいます。

 発信者情報開示は、プロバイダ責任制限法という法律を根拠として行われますが、同法が改正されたことに伴い、令和4年10月1日から、新たな開示手続の運用がスタートしました。

 従前、①ウェブサイトと②プロバイダ(携帯電話会社等)に対して、それぞれ別の裁判手続を行う必要がありましたが、新たな開示手続では、①と②を1つの手続でできるようになり、開示の費用や時間が短縮されることが期待されています。

 もっとも、ツイッターなどは同制度での開示手続に強い抵抗を示しており、必ずしも従前の制度に比して円滑に開示できているわけではない印象です。

 また、従前、海外法人(ツイッター、メタ、グーグル等)を相手方とする場合、海外へ裁判所類を送付したりや英訳したりするなどの手間から裁判がはじまるまで6ヶ月ほどの期間を要することがありましたが、令和4年度中に、主要なIT大手企業については、法務省と総務省の要請に従い国内での登記が完了したことから、上記手間はかからなくなりました。

 インターネット関係の事件は、数ヶ月で運用等が変更される非常に流動性のある分野であり、例えば、イーロン・マスクがツイッターを買収しましたが、このことが今後の開示手続でどのような影響を与えるのかも注目されています。

2023年3月11日(土)~12日(日)電話・LINE24時間無料法律相談を実施します。

自死遺族支援弁護団では、昨年度に引き続き、2023年3月11日(土)昼12時~翌12日(日)昼12時までの24時間にわたり、自死遺族の方々を対象に、電話とLINEによる無料法律相談を実施します。

自死遺族の方々は、取り巻く環境や心理的な問題などにより、なかなか相談できないという状況の中にいます。

そこで、自死遺族支援弁護団では、24時間いつでも相談に応じることで、自死遺族の方々に「安心して」「昼でも夜でも」「24時間相談したくなったら電話でもLINEでも相談できる」と考えております。今回の無料法律相談においては、自死遺族支援弁護団に所属する弁護士約10名が24時間電話とLINEで相談に応じることになっております。

できるだけ多くの自死遺族の方々にご利用いただき、自死遺族の方々が背負っている問題を整理し解決していきたいと考えております。どうぞお気軽にご相談くださいませ。

日時
2023年3月11日(土)昼12:00~12日昼12:00

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公務員の過労自殺(自死)について

 公務員が過労自殺(自死)した場合、法的手続として公務災害が考えられます。しかし、具体的にどのように手続が進んで行くのか一般的には労災の手続ほど知られていません。そこで、公務員の過労自殺(自死)における手続について簡単に解説をしたいと思います。

第1 国家公務員の場合

1 職権主義による場合

 1つ目の手続は故人が所属していた各庁や各省等が、自主的に公務災害に該当するかどうか調査をして、公務災害を認定するという流れです。このように国が自主的に公務災害を認定する手続を職権主義といいます。職権主義は、ご遺族からの災害が公務上のものである旨の申出がなくとも補償を実施することで速やかに公務災害を認定し、ご遺族を早期に救済することが本来の目的となっています。

 このような目的を踏まえると、多くのご遺族は「職権主義はすばらしいな。」と思われるかも知れません。

 しかし、残念ながら職権主義は公務災害認定の障害として機能していると言わざるを得ません。例えば、当弁護団が過去に受任した事案では、実際には不十分な証拠に基づいて職権主義で公務災害ではないと認定し、その旨をご遺族に伝えていました。

 その結果、ご遺族は「公務災害はもう無理だ。」と思い込まれていました。もし当弁護団にご相談を頂けなければ、そのまま諦めてしまわれたかも知れません。

 しかしこの事案では、当弁護団の弁護士らが証拠保全を行って証拠を収集し、公務上認定の申出を行った結果、公務上であると認定されました。

 ですので、職権主義によって故人が所属していた各庁や各省等から「公務災害ではない。」と知らされても、公務上であると認定される可能性があることを是非知って頂きたいと思います。

2 ご遺族による申出の場合

 2つ目の手続はご遺族から故人が所属していた各庁や各省等に対して公務上認定の申出を行うという流れです。

 ご遺族から申出が行われると、故人が所属していた各庁や各省等の職員の中から公務災害の調査や認定を担当する補償事務主任者が指名されます。

 通常の労働者の場合は労働基準監督署が労災になるか否かを調査して認定するのですが、国家公務員の場合はいわば身内の人間がそのような調査や認定を行うことになるのです。

 常識的に考えると身内が調査や認定をするのですから、その調査の正確性や認定の公平性などが担保されているとは言い難いでしょう。

 そのため、ご遺族は補償事務主任者の調査や認定について厳しくチェックする必要がありますし、できるだけ独自に証拠を集めて提出することが必要になります。

第2  地方公務員の場合

 地方公務員が過労自殺(自死)した場合、常時勤務の場合と非常勤の場合で手続が異なります。

1 常時勤務に服することを要する地方公務員

 常時勤務に服することを要する地方公務員の公務災害手続は、各都道府県ごとに置かれている地方公務員災害補償基金(以下「地公災」といいます。)支部長に対し、任命権者を経由して、公務災害認定請求書を提出して行います。

 過労自殺(自死)の場合、認定請求書の「災害発生状況」には、長時間労働、パワーハラスメント、住民に対するクレーム対応など、心理的負荷の原因となった事情を詳しく書くことになります。

 また、認定請求書の内容について所属部局の長の証明が必要になります。

 ここで問題となるのは所属部局の長の証明です。例えば公立学校の教員の過労自殺(自死)の事案であれば、所属部局の長は故人が所属していた校長となりますが、殆どの事例において、校長は、長時間労働、パワーハラスメント、父兄からのクレーム対応など、心理的負荷の原因となった事情を証明しないか、一部の心理的負荷が弱い事情(例えば自己申告の労働時間など)しか証明しません。つまり、校長が過労自殺(自死)の原因を事実として認めてくれないのが一般的なのです。

 地方公務員の過労自殺(自死)事案ではここが最大のポイントとなります。認定請求を受けた地公災支部長は、任命権者に対して様々な調査を指示しますが、最終的に調査を行うのは過労自殺(自死)の原因を事実として認めていない所属部局の長(先ほどの例だと校長)となるのです。常識的に考えると、このような所属部局の長が調査をするのですから、その調査の正確性が担保されているとは言い難いでしょう。

 そのため、ご遺族は公務災害認定請求書を提出する前に、所属部局の長が過労自殺(自死)の原因を事実として認めてくれないことを前提に、できるだけ証拠を集める必要があるのです。

2 地方公務員(非常勤)の公務災害の手続

 非常勤の地方公務員の公務災害手続は、地公災ではなく、故人が勤務していた地方自治体に対して行います。具体的な手続は各地方自治体の条例によって定められていますが、法律によって、常時勤務に服することを要する地方公務員の場合や、一般の労働者の場合と比べて均衡を失したものであってはならないとされています。

 ところで、非常勤の地方公務員の場合、従前は多くの地方自治体において、ご遺族は公務災害の認定を求めることすらできず、公務災害ではないと判断されてもその理由も知ることができませんでした。

 しかし、当弁護団で受任したある事件をきっかけとして、「議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例施行規則(案)」(総行安第27号平成30年7月20日)という通達が出され、ご遺族からの公務災害の申出が認められると共に、公務災害でないと判断された場合はその理由などを記載した通知を受けることができるようになりました。

 非常勤の地方公務員の過労自殺(自死)事案の救済が少しでも広がることを願っています。

第3 おわりに

 このように、国家公務員の過労自殺(自死)や地方公務員の過労自殺(自死)の事案は、調査や認定の主体が第三者ではなく身内によって行われるため、早期に証拠を収集した上で、申出や認定請求を行う必要があるといえます。